Assault! K.B.K
「見つけたぜ。あれか」
先頭を歩いていたジェイクが左手を水平に伸ばして皆を制止した。俺達は民家の物陰から顔だけを出す。
シザースが言っていた通り、コンビニの前にはワンクスタ共がたむろしており、ドリンクの缶を片手に話している。人数は四人。昨日より少ないが、常に全員でいるはずもない。むしろ、襲撃するには好都合だ。
「クレイ、行くか?」
「いや、少し待て。あそこだと目立って、誰かが通報しちまうかもしれないからな」
「分かった」
息を殺し、ワンクスタが移動するのを待った。奴らも今のところは何もしていない。悪さを働くつもりなら人気のない場所に向かうだろう。
およそ三十分と、長らく待たされたところで、ようやくワンクスタは移動を開始した。
「よし、後をつけるぞ」
K.B.Kメンバーが忍び足で俺に続く。
たどりついたのはちょっとした広さのある廃材処理場だった。詰め所のような小屋がある以外はスクラップの山ばかりだ。なるほど、人の気配もなく隠れ家にはちょうどいい。
「何しようってんだ、アイツら?」
ジェイクが首を傾げている。
「ここがたまり場なんだろ」
「いや、何か盗むつもりかもしれねぇぜ」
俺の回答にリカルドが別の意見を言った。確かにその可能性もあるが、ここから何か盗みたくなるような物が見つかるだろうか。俺にはゴミが積まれているようにしか見えないが。
四人のワンクスタ共はそれぞれが適当な場所に腰掛け、また話し込んでいる。コンビニの前でも話していただろうに、何をそんなに話すことがあるのやら。これでは噂好きの近所の婆さん達と何も変わらない。叩きのめすのがばかばかしくなってくるほどだ。
「ま、ここで待ってる理由もねぇよな? やろうぜ」
待ちきれない様子のジェイクに俺は頷き返した。
「見ろ! なんだ、アイツら!」
四人のワンクスタのうち、最も貧相な体つきの男が最初に俺達の事を見つけて叫んだ。
だが、その声をかき消す程の大音声。ジェイクを筆頭に、K.B.Kのメンバーたちが気合十分に突撃していく。
「やべぇ、逃げろ!」
「あ! お前、昨日の奴じゃねぇか! 仕返しに来やがったか!」
昨日ボコられたばかりなのだ。俺の顔を覚えている奴がいてもおかしくはない。
「残りはどこだ! 全員ぶちのめしてやるぜ!」
ソイツの首根っこを掴み、顔面に数発お見舞いする。他の三人もそれぞれ、こちらの味方がやっつけている。まさに瞬殺とはこのことだ。逃走者は出さなかった。
「クソ、離しやがれ……ぐはっ!」
「まだ仲間がいるだろう! 呼べよ、おらぁ!」
相手の鼻血が勢いよく噴き出し、俺の服を汚す。やり返してもこねぇ。昨日みたいなシチュエーションじゃないと粋がれないわけか。
「クレイ! ソイツはそのくらいにしとけ! 残りも呼ばせるんだろう?」
ジェイクがゴキゴキと太い首を鳴らしながら訊いてきた。ボロ雑巾のようになった他の三人のワンクスタ。意識は完全に無いらしく、グレッグやリカルドがちょんちょんと足蹴にしているが倒れたまま動かない。
どうやら俺の手の内にあるコイツだけが口をきける状態らしい。俺は舌打ちを一つして、手を放した。
「ぐっ……」
「よう。さっさと他の奴もよべ。昨日はまだいただろう」
「誰がそんな事……するかよ」
簡単に従わないのは予想の範疇だ。ではどうするか。拳を腹に叩き込んでやるだけだ。
「……ぉ……ふぅ……」
「おい、まだいくか?」
「……ぐぅ」
奴はついに立っていられなくなり、仰向けに倒れた。
「なんだよ、ちゃんと喋ってくれねぇと伝わらねぇぞ。それとも指の一本ぐらい折って欲しいのか?」
「や……め……」
奴の手の上に俺は足をそっと置く。このまま体重をかければ、奴の指は曲がってはいけない方向に曲がるだろう。よほど怖いのか、ボロボロと涙をこぼしている。
「なら呼べ」
「くっ……」
空いている左手でズボンのポケットから携帯を取り出すワンクスタ。ようやく俺の言うことを聞く気になったか。俺は足をどけてやった。
「おーおー。えげつねぇー。お前、完全にやってる事がギャングスタだぜ」
「うるせぇよ。俺はお前の指でもいいんだぜ?」
冗談を吐くリカルドを睨みつけると、奴は肩をすくめて舌を出した。
「クレイ、おっかねぇ顔すんなよ。リカルドの指折っても意味ねぇだろ。それより、残りもぶちのめしてハッピーエンドといこうぜ」
ジェイクが俺の肩に手を回してきた。一番の暴れん坊が何を言っているんだか。お前の方がよっぽどおっかねぇツラしてるっての。
それに、俺だって本気で骨なんて折ってやろうとは思っていない。仲間を呼び、痛い目に合わせるための方便だ。
「俺だ……いつもの……スクラップ置き場に、お前と、キースと、フリント兄弟とで来てくれないか……」
ワンクスタが俺達に見守られながら通話を開始した。無論、ハンズフリーにしてスピーカーから相手の声も聞こえる。
「あ? そりゃ構わねぇが、いきなりどうしたんだ? それよりもお前、何か様子が変じゃねぇか?」
「……いや、俺は平気だ。気をつけてな……」
「何か要る物はあるか?」
俺とワンクスタの目が合う。余計な事は言うなよ、という俺の考えが分からないほど愚かではあるまい。
「い、いや……特にない。じゃあな」
「おう」
通話が終わると、俺はワンクスタの携帯電話を取り上げた。もし奴の仲間が来なかった時のために、話していた相手の番号とコイツの番号を俺の携帯にも入れておく。
……
残りのワンクスタを待つ間、俺は目の前の敵に奴らの活動内容について尋ねた。返ってきたのは、タギングや窃盗、恐喝と、予想通りのものだった。俺にやったみたいな暴行は無いのか、と訊くと「滅多に暴力沙汰は起こさない」という回答だった。それでコイツらは喧嘩慣れしていないのか。
「なんつーか、期待外れだな」
「ワンクスタなんて所詮こんなもんだろ。なにを期待してたんだよ」
ジェイクとグレッグが話している。ジェイクの期待は犯罪の凶悪さではなく、単純に喧嘩の強さだ。このまま活動を続けていても、奴の好敵手は現れるだろうか。こうも腰抜けばかりでは期待できそうにない。
「来たぜ。お客さんだ」
K.B.Kメンバーの一人が言った。四人のワンクスタ。それが廃材処理場の隅で茫然と立ち尽くしている。近寄ってこないのは仲間がやられ、自分たちが呼び出されたことに気付いたからに他ならない。
「逃がすなよ」
「任せろ」
俺の指示に、真っ先に答えたのは長身のスポーツマン、グレッグだ。地面を蹴って飛び出す。
それに遅れまいと、他の奴らも続いた。
現れた四人は踵を返して逃げ始める。電話をかけさせたワンクスタによると、これで仲間は全員らしい。つまり、合わせて昨日の八人すべてだ。
グレッグの健脚が一人のワンクスタにめり込んだ。派手に地面を転がって、後続のジェイクに掴みかかられている。残り三人。
一人が勝手に躓いて転んだ。グレッグはソイツを飛び越えて先へ。追いついたK.B.Kメンバーが取り押さえた。残り二人。
高いフェンスをよじ登って民家へ逃げようとするワンクスタ達。一人は成功し、もう一人は腕力が足りなかったのか登り切れずに往生しているところをグレッグに引きずり降ろされた。残り一人。
だが残念なことに、他人の家の中までは追いかけたりできない。その一人の追跡は断念し、捕まえた三人を引きずって俺達は廃材処理場に戻った。
唯一、話せるワンクスタに、逃げたという最後の一人のアドレスを聞き出した。一か所に叩きのめした七人を集めて転がす。そして携帯で写真撮影し、それを送りつけてやった。件名はもちろん「さっさと戻って来い」だ。
待つこと五分。
やってきたのは赤い服を着たワンクスタではなく、赤と青の回転灯。あの野郎、やりやがったな……