表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
B.K.B 4 life 2 ~B-Sidaz Handbook~  作者: 石丸優一
135/164

Succession! O.G.N

「この辺りでいいか?」


「あぁ、ビリー。人は……いないな。問題ない」


 人質を抱える車列が入ってきたのは、そこらに大量にある倉庫の内、明らかに潰れている様子であったボロボロの建物だ。

 廃業しているのであれば良からぬ連中が住み着いている可能性もあったが、ギャングやホームレスはいないようだ。


 特に、ここがC.O.Cの拠点だったりしたら、探している場所を奇跡的に見つけたという笑い話になったんだがな。


 クリップスを乱暴に投げおろし、それを全員で囲む。手足も縛られているし、絶対に逃げられない。


「起こしてやれ」


 気絶しているソイツの顔に、メンバーの一人が持っていた飲み水をかけた。

 できればバケツくらいの水量が欲しかったが、贅沢は言うまい。


 ただ、それだけでは起きなかったので、頬を軽くぺちぺちと叩いてやった。


「ん……? なんだ、ブラッズ……クソッ!」


「お目覚めみたいだ、ボス」


 そこでメンバーから俺に交代する。しかし、それを押しのけてマイルズがずいっと前に出てきた。

 まぁ、こいつらの活動で仲間が騙し討ちされてるんだから当然だ。


「お前……ウチにスパイしてたよな」


「は?? してねぇよ! お前は誰だ!?」


 回答の通り、この男がピンポイントでN.C.Pにスパイ活動をしていたわけではないだろう。厳密にはコイツの仲間が、という話だ。

 それも個人的に知らなければ答えようがない。誰がどこに潜んでいるかなんて話は、上の人間しか知らないだろうからな。


「マイルズ、コイツじゃ話にならない。話が分かるやつのところに案内させよう」


「あぁ? 分かるやつがいるのか、クレイ?」


「そりゃいるだろうさ。おい、てめえらの拠点にしてる建物はどれだ? ヴィクトリア・ストリート周辺だってのは割れてんだよ」


「クレイ……? あっ! お前ら、B.K.Bだな!? そうなんだろ!」


 有名で何よりだ。まぁ、敵方からすれば俺が大将首なんだから、仮にC.O.C相手じゃなくとも知れ渡っていて当然だが。


「ちげぇよ。名前が一緒だってだけだ。それより、早く答えろ。拠点はどれだ? 話さねぇとこの辺一帯全てを火の海にするぞ」


 もちろんそんなことはしないし、出来もしない。爆弾や燃料を持っているわけではないからな。


「外道が! 関係ねぇ奴らも殺すつもりかよ!」


「外道にさせたくなければ協力してくれよ。喧嘩はギャングスタだけで完結させたいだろ」


「はっ! 残念だったな! ここらは俺らの地元じゃないんでね。その脅しは効かないぜ」


 非難しておきながら、ギャングメンバーの家族なんかがいるエリアではないから好きにしろと言っているようなものだ。

 それでも、ここで活動している仲間くらいは巻き込まれるわけだがそこまで気が回らないらしい。


「そう言われるとお前は今すぐ死ぬ以外にないんだが、いいのか? ついでに、代わりに他のメンバーがこうして新たな人質になるしな」


「何でだよ!?」


「何でも何も、それしかねぇだろ……考え直せ。拠点を教えるだけの簡単なお仕事だ。断ると仲間に多大な迷惑がかかるぞ」


 情報を教えるのも多大な迷惑なわけだが、そっちの方がマシだと思い込ませることに意味がある。


「クソが。教えたところで、てめぇらなんざ返り打ちだぞ」


「だったら構わねぇよな? そこでご自慢のお仲間が俺らを全員始末すればいいだけだ」


「チッ……それもそうか。同行するから先頭車両に乗せろ」


 こいつの言質が本当なら俺たちは全滅なわけだが、そんなに簡単にやられはしない。それくらいの戦力と面子は揃えたつもりだ。特に、奇襲ならば十分に勝てる。


「よっしゃ、ようやくデカい喧嘩か? だったらソイツは俺らの車に積んでくれ」


「カンの車に? そうだな……マイルズ、構わねぇか?」


 ぶつかるのが分かっているなら、先頭にビッグ・カンの仲間たちを置いておくのは悪くない手だ。


「んー、まあいいぜ。張り切りすぎるなよ、デカブツ」


「バーカ、むしろここが俺らの張り切りどころだぜ!」


「コイツ、話が通じねぇ!」


 マイルズが言うのは、張り切りすぎて怪我や死亡を心配しているのではなく、敵が全滅させられることへの危惧だろう。

 そのくらい頼りになる連中だということだ。


……


 クリップスによる案内でたどり着いたのは、意外にも「生きている」物流倉庫だった。

 生きているというのは文字通り、廃墟になっているわけでもなく、普通にトラックやトレーラーの往来があり、従業員があくせくと仕事をしているという意味だ。


 フォークリフトや人力で荷物の移動が行われ、それを車両に積み込んだりしているのが見える。

 当然、その人員は一般人で、ギャングメンバーではない。


 俺たちは敷地内の従業員用駐車場に車を止め、その様子を見ていた。


「おい、ここであってるのか?」


 俺の疑問に、ビッグ・カンは頷く。そして、連れて来ていたクリップスの首根っこを捕まえてズイッと前に出した。


「こいつが言うにはここだって話だぜ? なぁ?」


「そ、そうだよ。ここが俺らの拠点だ」


「はぁ? コイツ、嘘ついてんじゃねぇのか」


 マイルズがそう言いながら困惑している。


「あの従業員らは関係者ってことか? フロント企業でも立ててマフィアの真似事でもしてんのかよ?」


 ギャングは丁寧に組織化されたマフィアとは違い、地元で生活し、クスリや強盗、恐喝など、言ってしまえば単純なシノギでしか金を稼げない。


 それが運送会社や物流倉庫を所有しているとなれば別次元の話だ。

 地元という概念を捨てたC.O.Cならではの生存戦略なのだろうか。


「いや、アイツらは大半が関係ねぇ。俺らの存在くらいはみんな知ってるだろうが、ほとんど絡まねぇよ」


 俺の発した疑問への解答。


「は? そういうお前もトレーラーで突っ込んで来ただろ。車両くらい提供されてんじゃねぇのか」


「あぁ、あれは逆だ。俺らがライバル会社からくすねて、ここに卸してる」


「なるほどな。むしろこの会社は顧客なわけだ。ただ、それを拠点と呼ぶには肩身が狭いんじゃねぇのか。事実、クリップスはどこにも見えないぞ」


「そりゃ、俺らがここを使うのはもう少し暗くなってだからな。昼は会社、夜はアジト。これならお前らやサツも足をつかみにくいだろ?」


 なんと、そんな使い方をしているのか。それでギャングタグも見つからないわけだ。

 昼間はさっきのように大型車両を盗んでいるのか。白昼堂々、よくやるもんだな。


「なら、ここで夜を待てってのか?」


「まぁそうなるな。見てろよ。夜になった瞬間、仲間がお前らをコテンパンにしてやるからよ」


 物流倉庫の割に、夜に早く閉めるって部分はホワイトなんだな。盗難車を買い取っているような怪しい企業とは思えない。


 俺達は敷地の隅の従業員用駐車場にいるので、いまのところ注目されてはいない。このまま待てば問題ないだろう。

 というか、見つかっても暗黙の了解のような形で見過ごされる可能性が高い。


 夜まで時間があるのであれば策の練りようもある。

 ここで固まって待っているだけでは、集まってきたクリップスに囲まれて危険だ。今のうちに各所に人員を配置できる場所を探し、会社が営業を終了すると同時にメンバーを展開させておきたい。


 車の陰で、主要メンバーと話す。

 人質のクリップスは車内に詰め込んである。この会議を聞かれても別に良いが、念のためだ。


「人員配置? そうは言っても囲まれる心配があるかね。奴らだってばらばらと集まってくるんだろ? 各個撃破で間に合うと思うが」


「ビリーの言う通りだぜ、来た順に全部ぶっ飛ばす!」


「カン! 俺の獲物だって言ってんだろ!」


 ビリー、ビッグ・カン、マイルズがそれぞれそう言った。


「ここに所属してる奴らは仮にも他のセットでスパイやってるような連中だぞ? 既にトレーラーが複数台潰されたことも、あの男が捕まってることも把握してるだろう」


「あー……となるとむしろ、ここにも集まらねぇんじゃねぇの? 別拠点に移るとか、あるいはC.O.Cの大元の方から応援を呼ぶとか」


 ビリーの返答はもっともだ。そして、俺が期待しているのは後者の方。


「その通り。それで、仲間を大勢つれて『わざと』ここに戻ってきてくれると思ってる」


 前者であれば結局接触できないだけなので、後者の場合にどうするかの対策が必要だ。

 俺らを餌にし、ここで全て終わらせる。


 その相手がB.K.Bだと完全に割れているかどうかはわからないが、ある程度そうなんじゃないかと予測してくれているはずではある。

 いや、それも含めてあの自信満々の男に伝えさせる連絡をすればいい。


「となるとこっちも味方がいるぞ。近くのセットでも呼んだらどうだ?」


 現状の戦力でも十分ではある。だが確かに保険は欲しい。


「そうだな……夜、奴らが集まってくるだろう時間を割り出して、その直後にここを囲むように指示を出そう」


 人質のおかげで、敵方のある程度の時間誘導は可能だ。

 敷地内では餌になる本隊と、戦いやすい場所にばらけさせる別動隊。さらに外縁をぐるりと囲む援軍。この三つの分散で叩き潰す。


「さて、マイルズ、カン、希望はあるか? 俺らB.K.Bはここで囮になる」


「あー。一番敵をぶっ殺せるところがいいな」


「俺も俺も! マイルズ、キル数で勝負しようぜ!」


 マイルズの意見も難しいが、ビッグ・カンはゲーム感覚の若干ずれた回答だ。


「おい、遊びじゃねぇんだぞ。得意なこととかあんだろ。たとえばステゴロのカン達を倉庫の屋上なんかに配置しても何もできねぇだろうが」


「いや、石を投げるとかできるぜ! まぁ、つまんねぇけどな!」


「となると、カンは俺らにつけるか。一番狙われる位置だ。マイルズたちは潜んでおいて、それを背後から挟む」


 単純だが、効果的に思う。全方位からの攻撃というのは無理だが、さらに外周には味方のセットを呼んでおく。討ち漏らしはほとんど防げる。


「おっしゃ、了解だ」


「こっちも了解した。全部撃ち殺してやるぜ」


「よし、もう少しあいつから話を聞いておきたい。二人きりにしてくれるか。他セットへの連絡はビリー、お前に頼んだ」


 特に、マイルズがいると私怨でいろいろと横やりが入る。

 クリップスの集合時間や、スパイ活動の話を集められるだけ集めておきたい。


……


「あん? 作戦は決まったのか? 何をやっても無駄だろうがよ」


「大した自信だが、そんなに強いのか?」


「当たり前だ! 俺らはO.G.Nのなかでも精鋭中の精鋭なんだよ!」


 精鋭がこんなに簡単に捕らえられるんだな。恐れ入った。


「開戦は何時くらいになると思う?」


「味方が集まってくる時間か? そうだな、日によるが八時か九時くらいじゃねぇか」


「それは楽しみだな。ここまで協力してくれたお前にも、特等席を準備するから楽しんでくれ。精鋭だって言ってたが、お前らは諜報……スパイをやる集団じゃねぇのか?」


「だからそれは知らねぇっての。やってる奴もいるんじゃねぇのか?」


 やはりこっちはダメか。本当に知らないようなので、リーダー的存在に聞くしかない。ただ、一瞬で戦いになればそんな暇はないかもしれない。


「お前の仲間ってのは、人質がこっちの手元にいても、いきなり仕掛けてくるような阿呆か?」


「し、知らねぇよ。俺を見捨てたりはしねぇ……はずだ。多分」


 自信ねぇのかよ。だがまぁ、せいぜいコイツの存在は利用させてもらおう。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ