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B.K.B 4 life 2 ~B-Sidaz Handbook~  作者: 石丸優一
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Approach! O.G.N

 ただ、今度はそう簡単には行かなかった。呼び出せて当然、という俺の考えが甘かった。


「呼び出す? 別にそれ自体はどうでもいいが、一体どうやってだよ?」


「は? 何を言ってるんだ? O.G.Nの連中と繋がってるんだろう、お前は」


 思いのほか協力的なのは有り難いが、連絡先を知らなかったのだ。つまり、奴らとは直接会って話しただけに過ぎないという事か。


「え? お、おい! だったら何のためにここまでの苦労を……! 仮に俺たちがB.K.Bに勝ってたとしても、一等賞はもらえなかったんじゃねぇか!」


 ミッション・クリップのリーダーがこうして吠えるのも頷ける。仕事の話を振っておいて、クライアントに連絡ができないなんてあり得ない話だ。


「あぁん? また奴らが来た時にでも話せばよくねぇか?」


「何だコイツ。呆れたお気楽者だな。俺らに負けてよかったじゃねぇか」


 隣から皮肉を放つビリーに、クリップスは何も返せない。

 実際、負けた場合は関係ないが、勝っていたらタダ働きの可能性もあった。


「さて、ちと面倒なことになったな。だが……接触自体は可能なんだよな? どこで話を聞いた?」


「あん? ウチのシマだが?」


 そりゃそうだよな。聞いておいてなんだが、また奴らがそこに来る、なんてのは楽観的過ぎる。


「ウチがコイツらにやられたって噂でも流すか、クレイ」


「いや、時間がかかりすぎるだろう。それに方々で喧嘩してる味方も混乱する」


 大将首が落ちたとあれば、撤退する連中も出てくる。C.O.Cが力を伸ばすだけだ。


「おい、それはひとまず置いておいて、俺らにスパイしてた奴らを見つけ出して倒そうぜ?」


 マイルズの進言。やはり原点回帰してそっちから探すしかなさそうか。飛び級は高望みが過ぎるってことだ。


「そうだな、わかった」


「スパイ? あー、知ってるぜそれ!」


 まさかの展開。呼び出されたこの二人が、マイルズのところにちょっかいをかけていた連中を知ってるという。

 しかし、それを話すメリットが分からない。ただ、マイルズ本人は大はしゃぎだ。


「マジかよ! 教えてくれ! そいつらぶっ飛ばさなきゃならねぇんだ!」


「あぁ? どっちも知りたいってのか? タダってわけにはいかねぇな」


「お前、銃を向けて囲まれてる状況が分かってるのかよ。死にたいだけの馬鹿にしか見えねぇぞ」


「分かってるが、お前らだって喉から手が出るほどに欲しい情報なんだろ? 協力してやるんだから、交渉しようぜ! なんか憧れんだよ、そういうの!」


 何だその返答は……ガキみたいなやつだぜ。

 ただ、ここで上手く立ち回って恨みよりは感謝を買うべきか?


「お前らがウチの指名手配から来る、ご褒美狙いを降りるってんなら乗ってやる」


「それはそちらさん次第だろう。交渉なんだから、俺らを喜ばせるような何かを提示してくれや」


「てめぇ……本当に死ぬかもしれねぇ立場が分かってんのか? 第一、O.G.Nから何を貰えるかも分かってなかったんだろ」


 イラつかせてくれるな。マイルズはスンとしているが、ビッグ・カンはどうやって殺してやろうかと吟味しているように見える。


「そりゃな。だから、とりあえず言うだけなら何だっていいって話でもあるぜ?」


「俺らは遠征してきてる立場だ。金なんかねぇし、お前らのシマの安堵も約束はできねぇ。とりあえずって話が欲しいなら、今撃たないでおいてやるくらいの約束が関の山だ」


「んだよ、けちくせぇな。だったら何も教えねー」


 パァンッ! パァンッ!


「はぁ!? おい、やりやがったな! 何が今撃たないだ!? 大丈夫か、兄弟!? クソッ! クソがっ! 死んでるじゃねぇかよ!」


 二人の内、俺と喋っていないほうの男を撃ち抜いたのは、意外にもビッグ・カンではなくマイルズだった。

 それも頭に二発。即死させている。


「おい、マイルズ! どうした!?」


「え? なんか、おせぇからよ。スパイ探すんだろ? 早く教えてもらおうぜ」


 そうだった。ビッグ・カンのせいで霞んでいたが、この男も元々は直情的で計算を好まない傾向があった。

 吉と出るか凶と出るか。どう考えても後者だな。


「うぉぉぉっ!!!」


 片割れを殺され、鬼の形相になったクリップスが突如、銃を抜きつつマイルズに飛びかかった。


 だがそれは、既に周りを囲んだこちらの味方に完封される。

 銃は取り上げられ、身体を地面に倒されて簡単に取り押さえられた。


「スパイの話、聞かせてもらえるか?」


「……くたばれ」


 一応訊いてみたが、まぁそうなるな。

 こりゃもう無理だ。別のプランを考えるしかない。


「こいつも殺して恩を売るか」


 悪魔のささやきはビリーから出る。

 つまりこの二人の死体を手土産に、別の誰かに殺されたことにして、セットの別の連中から情報を引き出す、という事か。ひどい話だ。


 ただ、それならば既に死んだ男の死体だけでも事足りる。


「おい、こいつらのシマは分かるか?」


 俺は先に利用していたミッション・クリップのリーダーに話を振った。


「……はぁ、まだ俺に働かせようってのか。仕事は果たしたと言っただろう」


「そう言うな。こうなっちまったら他にやりようがねぇだろうが」


「断る! さっさと開放しろよ! 死んでるやつ、怪我してるやつも多いんだ」


「ついて来いなんて言わねぇよ。場所だけ教えろ。それと……こいつはどうしたもんか」


 片割れのクリップスも、できれば殺したくないんだが……しかし、このまま帰らせたらスパイ探しの情報は得られない。

 最低でも、ほとぼりが冷めるまではどこかに捕えておくか。


……


 ミッション・クリップから敵地のシマを聞き出し、俺たちは死体を抱えて移動を開始した。

 攻撃を受ける可能性はゼロではないので慎重に進む。そのため一部の人間ではなく、全員でだ。


 場所はコンプトン市とロサンゼルス市の境目、ウィローブルックと呼ばれる辺りだった。


 厳密にはロサンゼルスに含まれているとはいえ、端の端ではあるため、ほとんど見栄えはコンプトンと変わらない。

 古びれた民家や個人商店が立ち並んでおり、道にはごみが散乱し、ギャングタグやグラフィティが描かれた看板や壁がそこらじゅうにある。正真正銘のゲットーだ。


「この辺だって話だ。ちょいと聞き込みが必要か。ビリー、あそこにいる連中に声かけてくれ」


 隣のビリーが車の窓を開ける。その先には、地元住民らしき十代の若者たち。おそらくギャングスタではないが、知り合いや家族は関係者である確率が高い。


「おい、ニガー! コイツのシマはここか? 埋葬させてやらなきゃなと思って、運んできてやったぞ」


 後部座席の死体を指さすも、それを見る前に若者たちはてんやわんやだ。


「ブラッズだ!」


「おい、そんな簡単に敵地に入ってくるなよ!?」


「待て待て、落ち着けって! 俺らは喧嘩しに来たんじゃねぇんだよ! これ、お前らの仲間だろ? いや、お前ら自身はギャングじゃねぇかもだけどさ! コイツを運んできてやったんだよ!」


 その後もしばらくわぁわぁと騒いでいたが、ようやく死体に視線をやった一人が一際大きな声で叫ぶ。


「マックだ! マックが死んでる!」


 一言もしゃべらないまま死んだ男だが、マックというらしい。


「そうだよ、マックか? 彼が死んでるんだ! 道端で犬やカラスに食われちゃ可哀想だろうがよ! だから、彼の仲間のギャングを呼んできちゃくれねぇか?」


「このブラッズ……いいやつらなのか?」


「分かんねぇけど、誰か連れてこようぜ! 無視はできねぇだろ!」


 若者たちがどこかへ駆けていく。まずは成功だ。


……


 数分後、十人程度のクリップスが若者たちと入れ替わりでやってきた。

 大勢のブラッズが来ていると聞いているはずだが、武器を構えている様子はない。とりあえず話くらいはできそうだ。


「よう、マックの死体を運んできてくれたって? 何のつもりか知らんが、礼は言わねぇぞ」


 代表して一人がそう言った。

 応対は継続してビリーが担当する。マイルズやビッグ・カンにやらせるわけにもいくまい。


「そんなもんは期待しちゃいねぇ。別に俺らと争って死んだわけでもなし。道端で死んでたら敵も味方もねぇだろうよ」


「……犯人は分からねぇのか」


「無茶言うな。礼はいらねぇが、代わりに一つ教えちゃくれねぇか? ふざけたことをやってる奴がいてよ」


「あん? なんだ?」


 いまのところ問題なく話ができている。やはり仲間を運んでやったという恩はデカいな。


「どこぞのクリップスがブラッズにスパイ活動を働いてるらしくてな。ウチの同盟セットが出し抜かれた。正面からやり合いもしねぇ、女々しい連中だぜ」


「あー……知っちゃいるが、それを売れば、俺らだって女々しいって話になるんじゃねぇのか。諦めろ」


「そうか? 脅されたわけでもない。仲間の死体を運んでくれた恩返しをする、男気のある判断だと思うがな」


 ビリーも中々に口が回るじゃねぇか。脳筋ってイメージは払拭されたな。


「都合のいいこと言いやがって。まぁいいさ。話がデカすぎてすぐに知れる」


 来た、とガッツポーズを出しそうになったのは俺だけじゃないだろう。マイルズなんておもちゃを与えられたガキみたいに顔がキラキラと輝いてやがる。


「ここ、コンプトンとサウスセントラル。ところどころでいろんな喧嘩が頻発してるのは知ってるよな?」


「あぁ」


「それを主導してるのがオリジナル・ギャングスタ・ニガズっていう、元々はコンプトン・オリジナル・クリップって名乗ってた奴らだ。そこがお前らブラッズの親玉みたいなセットとぶつかってるって話だ」


 ここまでのあらすじ、みたいな話だ。俺らが固まって動いているのもそれが理由だと踏んで話してくれている。


「で、諜報活動みたいなことやってんのはそのO.G.Nだ。ただ、中で細かく仕事は分けてると思うから、どこの誰とまでは知らねぇ。奴らはコンプトン最南端のヴィクトリア・ストリート辺りにいることが多い。拠点があるのかもな」


「!!!」


 これは……大金星だ。ついに尻尾を掴んだぞ。マイルズの目的とも完全一致するので、一石二鳥の情報だ。


「助かるぜ。お前らはその戦争に参加してねぇのか?」


「してるさ。ただ、そこまで本腰入れてるわけではないな。今回ばかりは見逃してやるが、次に会ったら容赦なく弾くからこの辺りをうろつくときは注意しろよ」


 ビリーの肩をポンと叩き、彼らは踵を返した。一人が、マックの亡骸を大事そうに抱えて去っていく。


「っしゃぁ! スパイが分かったな、クレイ!」


「よかったな、マイルズ。それに、俺らの目標は結局一つになったみたいだ」


「そうか? O.G.Nの中でもいろいろと別れてるって話だったんじゃ?」


「そうらしいが、同じセットなんだから良いだろ」


 仮に、ヴィクトリアストリート辺りにいるのがその別動隊のような奴らだったとしても、本隊に近づくのは今までよりも簡単だろうさ。


「まぁ、何でもいいや。とりあえずそいつらはぶっ殺す!」


「その意気だ。すぐに移動しよう。コンプトンを一気に突っ切って南下するからな。覚悟してくれよ」


 出来るだけ幹線道路のような大きな道を利用したいが、そう都合のよいルートはない。

 というか、大通りでもギャングスタは見かける。目を付けられなければそのままスルーしたいところだ。


 もう対話は必要ない。

 ヴィクトリア・ストリートでクリップスを見かければそれはC.O.Cの残党だとみなし、問答無用で仕掛けるだけだ。


 奴らも味方セットこそ多いが、本隊は一大ギャングというほどの規模ではない。

 囲まれるような状況でなければ十分に戦えるだろう。

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