Rapid! Progress
「逃がすな、皆殺しだ!」
「おうよ、お頭!」
ビッグ・カンと愉快な仲間たち。
押し込められた敵の中には、一度体勢を立て直そうと退く者もいる。
しかしその頭蓋をビッグ・カンの大きな手がわしづかみにして身体を持ち上げ、もう一方の手で往復ビンタを食らわせている。化け物の戦い方じゃねぇか。
バスケットボールを手づかみするNBA選手とはわけが違うんだぞ。
マイルズ達の喧嘩にそれほどのインパクトはないが、拳なり、武器なりで着実に敵を仕留めていっている。壁、床、石、ナイフ……つまり発砲以外は何でもありのストリートファイトだ。
両翼の俺とビリー率いるB.K.Bは敵を押し込めるだけでほとんど手を出していない。損害が出ないのはありがたいが、少々手持ち無沙汰だな。
俺が余裕綽々でそんなことを考えていると、途絶えていたはずの銃声が何発か戻り始めた。
いよいよ追い詰められた敵が、接近して乱戦状態となっていてもなりふり構わず撃ち始めたという事だ。味方に当たっても敵に当たっても、自分の身が助かればいいってのかよ。
「まずいな。かと言ってこっちから撃たせるわけにもいかない」
俺やビリーは敵の側面をついているので一見、撃てそうな配置ではある。だが、敵を挟んで正面にはお互いのチームがいるのだ。銃弾がどの敵にも当たらずに反対側に抜けた場合、同士討ちになってしまう。
パァン! パァン!
銃声がさらに増え始めた。もうどうにでもなれってか。
ただ、それに吸い寄せられるようにこちらの味方は殺到している。
当然だ。撃てば目立つ。優先して駆除されちまうだろうな。
……
死屍累々。もちろんほとんどが気絶だとは思うが、死んでいる奴も少なくない。
その倒れた敵の中から、ビッグ・カンが一人のクリップスメンバーを拾って俺のもとへ連れてきた。
腕が折られ、苦痛の表情を浮かべている。
「クレイ、コイツがリーダーだってよ。話、するんだろ」
「知らねぇ面だ」
俺が答える前に、マイルズがそう言った。C.O.C本体でないことは明らかだったが、N.C.Pにスパイを送っていた連中でもないという事だ。
「お前らはどこのもんだ? B.K.Bに指名手配かけたのは誰だ? O.G.Nか?」
「……話すことはねぇよ。さっさと殺せ」
「カン、よせ。話の途中だ」
言われるがまま、首の骨をへし折ろうとしたビッグ・カンを手で制する。
「あん? でもコイツぁ何もな話す気がねぇんだろ? 死んだっていいじゃねぇか。他に話ができるやつを探そうぜ」
「そこをどうにかするのが俺の仕事なんだよ。ちょっと見てろ」
尋問相手は下っ端よりリーダーの方が都合がいい。情報量が段違いだ。
辺りを見渡し、俺は適当に息のある数人のクリップスをここに連れてくるよう命じた。
「……脅しでもかけるつもりか」
「お前が話さないからな。無能なプレジデントを持って可哀想によ。質問を繰り返す。お前らはどこのもんだ? B.K.Bに指名手配かけたのは誰だ? O.G.Nか?」
「外道が……!」
唇を噛み締め、銃口を向けられている味方を気にする。奴にとって自らの返答如何で撃ち抜かれる状況だ。下手は打てない。
文句が飛んできたので、俺は引き金を引くのを我慢するのに必死だ。こんなつまらない理由で撃たせてくれるなよ。
「それが返答ってことでいいのか?」
「クソッ! 俺らはミッション・クリップだ!」
ようやく返答が訊けたが、一つ目の質問に対してだけだな。ただ、これで撃たなくても良さそうだ。
「あぁん? 聞かねぇセット名だな。この辺の連中か?」
俺に代わって、マイルズがそいつに言った。
B.K.Bと同じような遠征組ということか。C.O.Cも各地から味方をこっちに引っ張ってきているのは分かっている。
ただ、その俺の予想は次の言葉で否定される事となった。
「そうだよ! 立ち上げ直後で名は知られてねぇだけだ!」
「へー。そんで俺らの兄弟、B.K.Bを名指しで叩くように伝えたのは?」
一瞬だけマイルズが尋問する形になったが、別に問題ない。
「それはお前らもお察しの通りだろう? O.G.Nって言われてる連中だよ。急激に力をつけてきて、ここらではデカいツラしてやがる。気に食わねぇが、長いものには巻かれとかねぇと俺らみたいな弱小の新参は食われて終いさ」
いいぞ。これはデカい収穫だ。
再び、マイルズから俺が会話の主導権を握る。
「奴らとはどこで接触した? ボスは分かってるのか?」
「いいや、人づてだ。友好関係にあるセットから、お前らもどうだと誘いを受けた。その時だな。B.K.Bを叩いた奴が一等賞って話を聞いたのも。何が貰えるのかまでは知らねぇ。多分デカい金だろ」
よくもまぁ、大した内容も知らないままでそんな話に乗ろうと思ったもんだな。
「一等賞、ね。笑わせてくれるぜ」
「ふん……好きなだけ笑えよ、ブラッズめ」
「おい、勘違いするなよ。てめぇが舐めた口をきくたびに仲間が一人ずつ死ぬ状況は変わってねぇんだぞ」
「チッ……わかったよ! しおらしくしとっけってんだろ! だが、これ以上はマジで俺も知らねぇぞ」
これは信じてよさそうだ。ついたところで意味のない嘘だ。となると……
「なら、最後にもうひと仕事だな。その、お前に声をかけてきたったいうセットの居場所だ。何ならここにソイツを呼び出せ」
「いくらなんでも呼び出すのは無理だろうよ! お前らに情報を与えるためにのこのこと出て来てくれってか!?」
「そこは一工夫しろよ。B.K.Bとやり合って倒し終わったんだが、賞金を得るための事後処理のやり方が分からない。分け前はやるから直接話がしたい、とかな。喜んで飛んで来るぞ」
「騙し討ちする気満々だろう!」
パァンッ!
「ぎゃっ!」
俺は最も近くにいたクリップスの右脚を撃ち抜いた。
こっちは情けで撃ちたくない撃ちたくないと考えてたってのに。ふざけやがって。
「てめぇ! やりやがったな!」
「騙し討ちがなんだ。てめぇの味方を助けるために、そのセットを売るくらいのことはして見せろよ。てめぇは負けてんだ。そして仲間は見ての通り人質同然。その命を握ってるのに、いつまでそんな頭の悪い応対をするつもりだ? こっちは撃つぞと言ったよな。優しくしてやりゃ図に乗りやがって。次は殺す」
「分かった……分かった! 言う通りにする! もう撃つんじゃねぇ!」
「それは俺次第じゃねぇだろうが。さっさと電話しろ。携帯はあるのか」
ポケットの中をまさぐる許可を出した。
俺たちの監視下、クリップスが相手に電話をかける。
妙な真似をしたら……例えば助けを求めたりしたら殺すしかないが、もうその心配は薄い。
「あっ、俺だが。こないだの話覚えてるか? そう、B.K.Bがどうってネタだがよ」
そこまでは話せたが、一瞬、折れた腕が痛んだのか「うっ」という声を漏らした。
「い、いや、大丈夫だ。何でもねぇ。ちょっと怪我してるもんでよ。どうしてかって? そのB.K.Bの連中をとっちめてやったからだよ。いや、マジだって!」
相手もそう簡単に信じてくれるわけないか。
「嘘だと思うならそれでもいいさ。で、これは誰に報告したらいいんだ? 一等賞はウチが貰いたいんでな。あ? てめぇも噛みたいなら手ぇ貸せよ」
食いついたのだろうか。半分疑っているままではあるようだが、なんとか呼び出せそうだ。
「あぁ。出来るだけ早くな。いや、喧嘩自体は終わってるから頭数は要らねぇ。事後処理ってやつよ。おう、待ってるぜ。場所は……」
通話が終わり、クリップスが力なく携帯電話を地面に落とした。
「名演技じゃねぇか。出来ねぇなんてどの口が言ってたんだか」
「さぁ、やることはやったぞ。これでもう、仲間に手出しは無用だからな」
「そうだな。これは言うまでもないと思うが、二度と俺らに歯向かうなよ。O.G.Nと思わしき勢力に加担……今から呼び出す奴も含めて、俺らの敵に協力するのをやめろ」
「分かってる。俺らは手を引く。だからと言って、てめぇらに有利な立ち回りもするつもりはないぞ。もう放っておいてくれ」
あわよくばこっちに情報を流してもらいたいものだが、コイツからはこれ以上何も出てこないだろう。
この辺りが落としどころだ。
「そいつは約束できねぇ。お前らが何もしない間だけは放っておいてやるがな」
「何もしねぇさ」
「ほら、最後の仕事は残ってるんだぜ。呼び寄せたやつをここまで誘導するんだろ。いつまでうずくまってやがる」
「もう呼び出したんだから勝手に来るだろ……後はお前らがやれよ。奴の目の前に俺を出そうとするな。さすがにボロが出る」
一理ある。が、念には念をだ。
「いいや、近くで待ち構えてお前がここまで徒歩で連れて来い。車で直接乗り込まれたら逃げられる可能性がある。俺らは隠れておく」
倒したクリップスも隠したいところだが、そんな作業は御免だ。それに、間に合うかどうかも怪しい。
……
「来たな。あれだろう」
廃ビルの陰から覗き込み、ビリーが報告する。
先ほどのクリップスのリーダーが、二人の別のギャングスタを伴ってこちらへ歩いてくる。上手く徒歩でおびき寄せてくれたようだ。
「おい、いつまで歩かせるってんだ!」
追従するギャングスタの一人が不満そうに叫んだ。俺らに聞こえるほどの大声だ。
それに対して先導するクリップスのリーダーが何か言っているが、これは聞こえない。
「おい! 転がってるのはお前のところの兵隊ばっかりじゃねぇか! 敵はどこに積んでるんだよ!」
これも丸聞こえだ。心情が汲み取りやすくて助かるが、馬鹿なのか?
既に距離はそう遠くない。俺が右手を上げ、お客様を囲む形で全方位にいる味方が、一斉に姿を見せた。
「なっ!? 嵌めやがったのか!?」
向けられる数多の銃口。奴らは反撃しようと腰の拳銃に手を伸ばすも、早々に諦めて両手を挙げた。
「おい、仕事は果たしたぞ!」
「おう、よくやった。こっちに来い」
懐柔していたクリップスのリーダーがその場を離れて俺の目の前に来る。中央に残された二人が、指名手配の情報を流した連中だ。
「死にたくなかったら手を挙げたままでいろ」
「てめぇらは……まさか、B.K.Bとかいう連中か!?」
「ご名答。残念だがお友達のギャングは俺らが壊滅させた。ここにいるのは、その生き残りの命を握られた哀れなリーダー様だ。無理やり従っているだけだから、悪く思わないでやってくれ」
特に意味のないフォローだが、仕事をした軽い礼のようなものだ。
「俺らを呼び出してどうするつもりだよ!?」
殺されていないという事は用事があるという事。馬鹿だと思っていたが、その位は理解できる頭がついていて助かった。
「素直に答えてくれりゃ、何もする気はねぇ。俺らが知りたいのは、お前らがどうやってB.K.Bの指名手配を受け取ったのかってことだ」
「あぁ? そりゃ……何だっけ。何とかギャングっていう奴らに聞いたぜ。報酬が出るとかなんとか」
「おい。誤魔化すな。オリジナル・ギャングスタ・ニガズだろ」
「あぁ!! そうそう、そんな名前のギャングだったような気がするぜ!」
ただの物忘れかよ。だいたい、ミッション・クリップの報酬受け取りに加担するっていう呼び出しなんだから、そこを分かってねぇでどうするつもりだったんだ。
「よし。ソイツを呼び出せ。O.G.Nのメンバーだ」
ここからさらに繋ぐ。