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B.K.B 4 life 2 ~B-Sidaz Handbook~  作者: 石丸優一
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Answer! N.C.P

「兄弟……すまねぇ、怪我させちまったって聞いた」


 第一声は深い謝罪。まずまずのスタートだ。

 とはいえ、謝罪以外の言葉だったとしても俺は彼を責めたりするつもりはない。当然、俺を刺したマイルズの仲間に対しても同じ気持ちだ。


「いいさ。何かわけがあるのは聞いてたんだ。勝手にそれに首を突っ込もうとする俺たちへの、最大限の譲歩だったんだろうさ。ちと痛かったのはマジだけどな」


「いろいろと話せねぇこっちも悪いんだけどな。とにかく、しばらくは放っておいて欲しいってのは言ったとおりだ。別にお前らを邪険にしてるんじゃねぇ。ただ、今やってる仕事は俺たちだけで完結させたいってだけの話でよ」


「現実的にB.K.Bの介入の余地はないか? ただの意地なら知らねぇって突っぱねるぞ、こっちは。水くせぇことするんじゃねぇよ」


「……意地ではあるが、通させてくれよ。頼む」


 そんなしおらしい態度を取ったって無駄だ。


 N.C.Pに執着し過ぎなのは認めるが、俺たちには彼らの力が今すぐに必要だ。そのために、彼らが抱えている問題はさっさと取っ払ってやる必要がある。


「ダメだ。知っての通り、コンプトンやサウスセントラルは大戦争になってるんだぞ。かといってお前らの話を後回しにしようとは思わない。だから手伝わせてくれ。終わったら改めて一緒に戦おう」


「んだよぉ! 全然こっちの意思を尊重しねぇな、兄弟! 意識がしばらく戻らねぇくらいに痛めつけとくべきだったか!?」


「今ばかりはな。早く元C.O.Cの連中を仕留めねぇと、敵味方関わらず多くの人間が死んじまうだろ。一秒でも早く、さっさと奴らを叩き潰すんだよ」


 聞き捨てならないジョークがあったが、気合でスルーだ。


「もう切るぞ!」


「待て。お前らの考えが分からない以上、俺たちもまとわりつくぞ。だいたい、あのクリップスの格好をしたお前の仲間は何なんだ? それくらい聞かせてくれたっていいだろう」


 マイルズは逃げようとするが、ここで会話を打ち切ってもまた同じことになるだけだ。


「あれは……仕事してんだよ」


 やはり、マイルズの指示か。であれば真意が知りたい。

 切られなかっただけでも上々。慎重にいきたいが、チャンスなのでストレートに切り込むしかない。


「C.O.Cをだまし討ちでもするつもりか? N.C.Pが割れてるんじゃなきゃ良いが」


「……さてな」


「前にガゼルと取引してた広場に、お前の仲間の死体が二つあったぞ。とりあえず家に置いてある」


「はぁ!? 誰だよ!? 誰がやられた!?」


 知らなかったのかよ。

 ただ、これで確信できたな。一部のメンバーが本当にN.C.Pを裏切ってそれを粛正した、という話ではなさそうだ。


「名前までは知らねぇよ。もっと言えば面も知らないやつだった。ただ、身体にお前のところのセット名が彫ってあった。身内以外でそんなことする奴いないだろ?」


「あん? 知らねぇ顔だと? 他の敵を殺して、それにうちのタトゥーを入れたって線はないか?」


「そんな面倒なことやってんのか、お前らは? 何のために? 手柄の誇示か?」


「いや、やってねぇけど……」


 だったらその意見はなんなんだよ。それに、あれは彫ったばかりのものではなかった。


「気になるなら家に戻って来い。どちらにせよ、お前らとは合流したいんだ」


「それは無理なんだって! 別に、家に戻るのが無理なんじゃねぇぞ。お前らと一緒に動くのが無理なんだよ」


「いつまで隠し事してんだよ。俺らはお前らの邪魔がしたいんじゃなくて、手を貸したいと思ってるんだぜ」


 この分からず屋め。マイルズも俺にそう思っているだろうがな。


「それが迷惑なんだっての! これは俺たちだけでどうしてもやらなきゃならねぇんだよ!」


「分かった分かった! じゃあ、どうしてクリップスの真似なんかしてるのかだけでも教えろよ。メンバーはお前も含めて全員があんなふざけた真似をしてんのか」


「ふざけてねぇよ! 誰もこんな服着たくはねぇの!」


 ということはマイルズ本人も変装中か。まずます意味不明だな。


「まさか……C.O.Cの側についたのかよ」


「アホか! もしそうならお前はさっき、ナイフで殺されてただろうがよ!」


「それもそうだな。敵ではないと思っていいのか? 俺たちはC.O.Cを倒すためにここまで来てるんだ。その邪魔はしないってことでいいんだよな」


「なんで敵対するんだよ!」


 最悪の事態、つまり彼らと事を構える、というのだけは避けられそうだ。


「じゃあ刺すなよ……それよりもほら、早く答えてくれ。なんなんだ、そのクリップスの物真似作戦は」


「この格好してねーと警戒される仕事をしてんだよ!」


「はぁ? どこぞのクリップスのセットの中に潜入でもしようってのか? そんな大人数だと服を変えたところでバレバレだろ」


「は!? そうなの!?」


 いや、馬鹿なのか。そういえば馬鹿だったな。


 だが、また少し見えてきた。


 俺の言葉通り、彼らはクリップスに対して何らかの接触を図ろうとしている。直接攻撃以外で敵に、それも全員で近づこうというのだ。

 そんな陳腐な策になるのも頷ける。慣れてないだろうからな。


「で、お前らが近づこうとしてるのはどこだよ? まさか、C.O.C本体か? O.G.Nって呼んだ方が伝わりやすいかもしれないが」


「んー、あー、違う。というか、よくわかってねぇ! とにかく、そいつらの仲間のフリして接近するんだよ!」


「なんだそりゃ。闇雲に動いてもどのセットかわからねぇだろうが。あと、さっきも言ったがバレバレだ。なんで直接叩かねぇ?」


 これは、自身で解決するのを待つのは得策じゃないな。永遠に待たされる。

 マイルズに嫌がられても、こちらが介入する方が早そうだ。


「何でって、同じことを先にやられたからだよ。だから、まったく同じ手で一泡吹かせてやんのさ!」


「はーん、なるほどな」


 かなり見えてきたぞ。どこぞのクリップスが先にN.C.Pにスパイ要員を紛れ込ませていたわけだ。

 N.C.Pはウチの協力セットとしては名も売れてる。C.O.C主導で他の同盟セットにも同じようなことを仕掛けてるかもしれないな。


「かなりの情報を抜かれてたっぽいんだよ! 今回の大喧嘩も、奴らは万全の態勢で各所の対応をしてるだろ。そしてこれはウチのヘマだ。俺らだけで挽回する必要がある。違うか?」


「そうだとしても、そんな手を使ってきてた情報は早く欲しかったな。N.C.P以外の味方やB.K.B内部にもその影が忍び寄ってきていないか警戒できる」


「は? ウチだけだろ! 多分!」


 そこまで頭が回らなかったか。だが、これ以上マイルズを責めるのはお門違いだな。


「多分、ね。正直分からないってところだな。しかしマイルズ、話してくれてありがとうな。俺たちはお前らがおかしくなっちまったんじゃないかと冷や冷やしたんだぜ?」


「はははっ! 心配しなくても、俺らはハナからクレイジーだぜ!」


「何で誉め言葉みたいに捉えてんだか。で、もう話しちまったんだ。否が応でも俺らに噛ませてくれ。もちろんトドメはそっちに任せるとして、そんなふざけた手を使ってくる連中、ウチにも調べさせてくれないか?」


 花は持たせてやる。


 言い方は悪いが、大人数での潜入なんてこの連中には無理だ。敵さえ把握してしまえば、その地点にN.C.Pを誘導してぶつければいい。


 どうせ正面切っての喧嘩しか出来ない脳筋の集まりだからな。

 彼らも結果としてそいつらをとっちめれば納得するだろう。


「あー? 仕方ねぇなぁ……」


「だったら集まろうじゃねぇか。俺はてめぇのとこの若い衆のせいで病院だが、明後日には出れる。その時にお前の家でいいか? とりあえず、仲間の仏さんは置いてあるから早めに埋葬してやれよ」


 家の中で腐りでもしたら目も当てられない。しばらくは腐臭でそこに住むどころじゃなくなるだろう。


「それに関しての礼もまだだったな。本当にありがとな、兄弟。しかし、何でやられてんだ……もしかして、奴らの尻尾を掴んだのか」


「さぁな。撃たれてるみたいだった。お前らを騙してた連中なのかは不明だが、ギャングスタの仕業だろうぜ」


 警官による射殺なら死体は絶対に回収されている。十中八九、ギャングの犯行だ。


「じゃあ、二日後に」


「あぁ、二日後に」


 通話は切れた。


 ビリーが顎だけを動かして会話の内容を尋ねてくる。話せ、という意味だ。


「最後の一言が全てだよ。二日後、奴の家に向かうぞ。ようやく邂逅が叶いそうだ」


「邂逅? まぁ、感動の再会ではあるか。全員にハンカチを準備しておくように伝えておく」


「あぁ、それは名案だな」


 冗談はさておき、状況がかなりの変化を迎えるのは間違いない。

 病院の周囲にいるB.K.Bのメンバーたちは問題ないが、ビッグ・カンと仲間たちにも早めに伝えておくべきだろう。


「俺はちょっと出てくる。みんなに連絡だ。ビッグ・カンのほうは、クレイに任せていいか?」


「もちろんだ。電話しておく。行ってくれ」


「了解」


 ビリーが退室し、今度はビッグ・カンの携帯電話にコールした。


「クレイか! やっと起きやがったか、寝坊助め!」


 ビッグ・カンらしい、冗談じみた言葉が飛んでくる。


「あぁ、ここのところ疲れ気味でな。まったく、ボスは敬うものだって習わなかったのか、ウチの連中は」


「じじくせぇな。もう動けるのか? 俺らはとりあえず、よくわからねぇブラッズをぶっ飛ばしたところだ」


「何やってんだよ。味方かどうかぐらい確認しろっての」


 とはいえ、ビッグ・カンたちにはB.K.B以外のギャングセットなど、どこも同じようなものだろう。揉めればぶっ飛ばす。それだけだ。


 素人がギャング相手に立ち回れるのも、その上で勝ってるのも本来はおかしな話なはずなんだがな。奴らの破天荒さも、力の強さも、もう慣れてしまった。


「で、動くのは明後日だ。マイルズ達と合流する。紹介するからお前らも来てくれ。きっと気が合うぜ」


「そうか! まずは腕相撲で親交を深めないとな!」


 なんだ、その謎ルールは。しかも、どう考えても巨漢のビッグ・カンが有利な親睦会じゃねぇか。


「いや、てめぇを目の前にして腕相撲の誘いには乗ってこねぇと思うが……まぁいいさ、とにかく仲良くしてやってくれ。あいつらは味方となれば心強いぞ」


「んだよ。それならなおさら一回はやり合いたいところだがな。で、そいつらが来たらいよいよ大喧嘩の始まりか」


 現時点でも小競り合いは幾度も経験しているが、N.P.Cが同行する形となれば、敵のテリトリーも大手を振って通れるだろうな。もちろん、敵を蹴散らしながらだ。


「あぁ。C.O.Cも正面切って俺たちを止めるしかなくなるだろう。そこからが本番だ。お前らの力にも期待してるぜ、カン」


「ははっ! 全員ぶっ飛ばしてやるぜ!」


 それから少し雑談をし、二日後に合流の連絡を終えた。


 ビリーもB.K.Bのメンバーたち、そして地元に残っているハスラーにも連絡をしてくれ、病室に戻ってくる。


「さて、これからが大変だ。なんたって、二日間は動けずに暇なんだからな」


「それはお互い様だろ、ビリー」


 久しぶりに穏やかな気持ちで眠ることができそうだ。

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