Gangstaz! In CPT
次の戦場は、2ブロック進んだ先だった。たったの2ブロック。犬の散歩でももう少し歩くというのに、さっさと止められてしまった。
しかも、今回は敵方が車を並べて派手に道路を封鎖しており、先ほどの広場より狭い。
自ずとこちらは一列での進行を余儀なくされるので、先頭がふん詰まって背後に蓋をされたら、両サイドから挟撃されておしまいだ。
道の両側は一軒家。ドンパチが始まれば、通報を受けてサツが介入してくる恐れもある。
俺たちは車のバリケードにいち早く気づき、かなりの距離を取って作戦会議中だ。
「一点突破だろ! 俺らに任せろって! あれを全部、弾き飛ばしてやるからよ!」
なぜか発言権が強くなってしまい、がなり立てているのはビッグ・カンだ。
そんな単純にいくかと皆が反対する。
「そこでお前たちが止まったら、後ろの人間は手出しができなくなる! 犬死だ!」
「縦に伸びるせいで、さっきみたいに援護もできないんだぞ。ビッグ・カン、考え直した方がいい」
だが、このくらいで折れるビッグ・カンではない。
「手出しも援護も必要ねぇよっ! 縦に伸びてるのは敵も同じ! つまりあのバリケードは一点さえ抜けば総崩れってわけだ! ちげぇか!?」
一点抜けば、という話は間違っていない。だがその一点が厚いので防御が固くなっているのだ。むしろ突破のしやすさでいえばさっきの戦いの方が簡単だった。
「両脇の家からも撃たれるぞ!」
「そんなことが心配なら、お前らがさらに脇から挟んでくれよ! 棒立ちじゃ暇だろぅ!」
なかなか難しい話だが、確かにそれが成功すれば勝てる。
「中央を一点突破しつつ、別働で両脇から挟撃か。単純に人数が足りねぇんじゃねぇか?」
ビリーがビッグ・カンの進言を噛み砕いて俺に質問する。
言い直したことで、他の仲間にも考えが伝わったことだろう。
「カン、ちょっといいか」
俺たちは降車し、地面に座って絵図を描きながら話し始める。
メインの出席者は俺とビリー、ビッグ・カン。その周りに他のホーミーらが立ち見をしている状態だ。
真っすぐな線はこの細道、その先に敵車両を表すバツ印が縦にいくつか並ぶ。それにぶつかる丸印がビッグ・カンの車両だ。
「まず、ここに一番負担がかかる。正直、ここがタダで突破できて一件落着というのは考えづらい。しかも、こうなると予想される。ここまではいいな?」
丸印の左右に新たなバツ印を記入。ひっそりと展開されているであろう、敵の伏兵だ。
ただ、これに関しては数の予想がつかない。ばれないように隠している分、大人数でないことを祈るばかりだ。そもそも、一人もいなければそれが一番良い。
「ビリーのところの奴らを何人か、さらにこの外側、左右に広げる」
「ウチかよ。どのくらい必要だ?」
「片翼で十人ずつくらいは欲しいな」
「少なくないか?」
合計二十人。これは隠れている敵を挟み込むための助力であり、すりつぶして殺すほどの威力は必要ない。中央の細道に向かわせなければいいだけだ。
むしろたくさんの人間を動かすと、この策が察知されて失敗する。
そして結局は、ビッグ・カンの中央の突破力を頼りにすることになる。ここが抜ければ、左右の敵は仕事を失うし、この場から動かさない俺らの本隊に突っ込むわけにもいかず、後ろへと退くだろう。
「いや、その位で十分だ。バレるからな」
二つの丸印を最も外側に書き込む。
「で、仕事は皆殺しか?」
「いや、左右はここで道を挟もうとしてる敵の動きを止めるだけでいい。その間にビッグ・カンが中央突破する。多少はここに残るやつから後詰も出せるが、できれば単独で抜いてくれ」
「おうよ! 真ん中はてめぇらの加勢なんて要らねぇからよ! 俺たちの力をここで見とけぇ!」
その自信は結構だ。引き連れている仲間たちも、お頭の自信が高いおかげで士気が下がらない。
「ではすぐに始めよう。まずはビッグ・カンが突っ込んでくれ。ただ、始めの当たりは強すぎないようにな。そっちに目が向いている間にビリーが仕事を。それがうまくいって、混乱が始まったらきっと突破できる」
初手で深く食い込み過ぎたら、ビッグ・カンのところが食われる危険性がある。それで力任せに突破できればいいが、あまり期待しないでおこう。
「まぁ、いけそうだったらそのまま行くけどな! じゃあ、お先に! 行くぞ、野郎どもぉ!」
ぞろぞろと兵隊がオデッセイに詰め込まれる。トラックに比べると、あまり強襲には向かない車体だが果たして。
「ビリー。もし左右に敵がいなかった場合はさらに前進して、真ん中の敵を挟み込んでくれ」
「ビッグ・カンの援護だな。俺もそう思ってたところだ。敵さんにそこまでの知恵がない可能性を見落とすところだった」
最大級の侮辱を吐きながら、ビリーが左右の二十名を指名していく。
そして、彼自身も右側のチームに参加するようだ。彼らしい判断だな。
俺はここで大多数の人間と待機だ。同盟セットもB.K.Bのホーミーも、ここにいる人間が一番多い。
だが、この大人数にも前線で暴れるビッグ・カンと同じく、ビリーたちの動きを隠すという仕事があるので、ただ喧嘩をサボっているわけではない。
キキキッ、ガァンッ!!
強く当たるなという俺の指示に従ってくれたのか、ブレーキの音が響いた後にビッグ・カンの車が敵方の車両バリケードと衝突した。
喧嘩の熱気がここまでも伝わってくる。
「出るぞ、クレイ」
「あぁ。任せたぜ、ホーミー」
それを確認すると、俺たちの後ろからひっそりと左右に分かれたビリーたちが隠密行動を開始した。
「おー、ようやく始まったか!」
「いけいけ! ぶっ殺せ!」
参加していない面々も、手に汗握りながら味方を鼓舞する。
パァン! パァン!
敵の銃声。未だに銃を持たないビッグ・カンの仲間たちが仕留められなければよいが。ただ、狭い道では狙われやすく、さっきよりも大きな被害が出ることは覚悟しておかなければならない。
「うぉぉぉぉぉっ!!!」
ビッグ・カンの大音声だ。
巨体を支える脚も痛いだろうに、よくあそこまで頑張ってくれるものだ。バーサーカーとは彼のような人間のことを指すんだろうな。
パパパンッ! パパパンッ!
これは、ビリーたちが持つサブマシンガンの音か。敵かもしれないが、味方の可能性が高い。
ということは、やはり敵の伏兵がいたのかもしれないな。
ただ、中央は拮抗しており、敵に混乱や動揺が広まっている様子は見えない。まだ、周りで何が起こっているのか伝わっていないからだ。
しかし、それも時間の問題だ。
なぜ左右が動いて挟撃しないんだと、道でビッグ・カンたちとぶつかっている敵は焦り始めるだろう。
じりじりと押され、そしていつの間にか、逆にこちらのビリーたちから挟まれてジ・エンドというわけだ。
「どうなってるんだ、クレイ?」
「今に分かる。おそらく上手くいってるぞ」
ほとんど何も見えない喧嘩。焦れた一人のホーミーが俺に訊いてきたが、俺の返答通り、三分もすればかなりの状況が見えてきた。
左右の内、右手から二人の敵ギャングスタが飛び出してきたのだ。
ただ、こいつらはあっちの本来の作戦通りにビッグ・カンを挟むために飛び出してきたのではない。
ビリーたちに追い立てられて逃げているのだ。しかし、その目の前にはビッグ・カンたちがいる。逃げ場はない。
パァン! パァン!
逃げ場がなければ作るしかない。眼前に陣取るビッグ・カンの一団に対し、その二人が発砲して退路をこじ開けようとした。
ほとんどゼロに近い至近距離なのでそれは命中し、一人が倒れるのが見えた。
だが、接触と同時にそれ以上の手痛い反撃を食らい、倒される。
その後方からビリーたちが顔を出すかと思ったが、出てこない。
まだ潜み、前進してビッグ・カンたちと道の敵を挟むようだ。それは左右の敵が不在だった場合に備えて最初に考えていたプランだが、左右の敵を蹴散らし、さらにその仕事すらも全うしようとするようだ。
我ながらB.K.Bのウォーリアーたちは有用だな。疲れ知らずもいいところだ。
俺たちはまだ動かない。いや、ビリーの挟撃ポイントを後ろに追いやるだけになるので動きたくても動けない。
歯がゆいが、これは一緒にいる味方も同じだ。ビリーたちの動きはまだ察知されていない。
わぁっ、と歓声が上がった。ビッグ・カンのところからだ。
ついに現れた左右からの味方が、正面の敵を挟み込み、混乱に陥ったそれをいとも簡単に粉砕する。
「よし、押し込めそうだ! 俺たちも動くぞ!」
「よっしゃ! 待ってたぜ!」
「ぶっ飛ばす!」
俺は車をゆっくりと前進させる。他の車両も動き出した。降りている者はわざわざ乗車せず、銃を構えたままそれに続いた。
ビッグ・カンの仲間の後ろにつける。
敵の、車で作られたバリケードは何と人力でひっくり返されている。
押せ押せムードの喧嘩は既に決していると言っても過言ではなく、面白いように道が開かれていった。
「よう! やっと来たかよぅ、兄弟!」
ここでの喧嘩も終盤戦。
じりじりと後退する敵を追い詰める仲間たちを、車の中から鼓舞しているビッグ・カンの横に俺も車をつけた。
「思った以上の勢いだな、カン。状況は?」
「仲間が三人ほどやられた! 後でちゃんと弔ってくれんだろうな!?」
「そうか……当然だ。丁重に送ってやろう」
その遺体を彼らの地元サウスセントラルへと送り届けるため、数人の離脱は覚悟しないといけない。
「畜生め、全部殺さねぇと気が済まねぇってんだよ!」
敵も倒れてはいるが、大多数は怪我を負いながら後退している。押しているからと言って、殺すのも簡単じゃない。
「仲間がやられて、そろそろ潮時だと思っていたりするか?」
「しねぇよ!」
ビッグ・カンの仲間すべての離脱も覚悟したが、思ったほど士気は落ちていないようで安心した。
むしろ、仲間が倒れたことで怒りが増大し、勢いはますます上がっている。
気分でこちらについてきた割には気持ちもタフな連中だ。
「よし、敵はもうビビッて立ち向かっても来やしないぞ! 押し込んで突破しろ!」
「てめぇに言われなくても! 野郎ども! 全員ぶっ殺せ!」
俺とビッグ・カンの号令で、仲間たちが最後の一押しを敢行する。
ビリーたちも俺たちに合わせて左右から前進し、横ではなく後ろにしか敵が移動できないように妨害した。
後方にいた敵は車で、こちらと接戦していた連中は自らの足で、どたばたと逃げ出していく。
こうなればあとは壊走を見送るだけだ。特にやることはない。
そして、いよいよ訪れる決着。
無駄に追撃しようとしていたビッグ・カンの仲間たちを呼び戻し、綺麗になった道に俺たちは集結した。
いや、血と銃弾で汚れてしまったというべきか。
倒れたのはビッグ・カンの仲間だけで、ビリーの方には被害が一切出ていなかった。
余程うまく強襲できたんだな。B.K.Bと同盟セットだけでいえば完全勝利だ。
ただ、頼りのビッグ・カンの仲間がすり減ったのは事実なので、あまり喜んでばかりもいられない。
「クレイ、この先はどこを目指すんだ?」
「ビリー、よくやってくれた。目標は変わらず、ノース・コンプトン・パイルのマイルズと合流だ。ここ、コンプトンで彼ほど頼りになる男もいないだろうからな」
同時にそれはおそらく、オリジナル・ギャングスタ・ニガズとも肉薄することになる。