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B.K.B 4 life 2 ~B-Sidaz Handbook~  作者: 石丸優一
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Back Again! CPT

 ついに、コンプトンへとたどり着いた俺たちは、まずB.K.Bのウォーリアーたちとの合流を目指した。

 彼らとは直接連絡もできるので、土地勘がない場所でも苦労なく集まることができるはずだ。

 C.O.Cの邪魔が入らなければ……だが。


 サウスセントラルで頻発していた喧嘩、あれも奴らの主導だとしたら、こちらの動きは逐一感づかれていることになる。喉元に攻め込まれる事は予測しているはずだ。

 ということは、俺たちガーディアンの別動隊より脅威になり得るウォーリアー本隊にも何かしらのトラブルが起きている可能性は低くない。


 ただ、連絡がないということは、全滅しそうなほどのことは起きていないだろう。同盟セットにも声がけをしているので、簡単にやられはしない。


「よう! ぶっ飛ばしていい相手さんはまだかよ!」


「もう少しだ! まずは味方と合流して、それから敵と大喧嘩になると思う! 楽しみにしておけ!」


 ビッグ・カンは今か今かと待ち遠しいようだが、どうにか抑えてくれている。


「クレイ、ウォーリアーとの連絡は?」


「まだだ。さすがにそろそろ電話の一本でも入れておくか。予定通りの地点に待っているなら、一時間くらいで合流できるだろう」


 携帯電話を取り出し、ウォーリアーのリーダーであるビリーの名前を選択してコールする。

 三回、コール音が鳴り、ドスの効いた声が入ってきた。


「よう、ヒーロー。ようやくのお出ましかよ?」


「待たせたな。サウスセントラルで厄介ごとに巻き込まれてた。そっちは順調か?」


「いや、ウチもサウスセントラルでは妙なことがあったが……それはいい。今はこっちでまた喧嘩の最中だ」


 やはり、ビッグ・カンたちと絡みがあったのは本当のようだな。


「だったら、感動のご対面があるかもしれねぇぞ」


「はぁ? そりゃ何の話だ、クレイ」


「お楽しみは取っておくものだろ。で、場所は? 俺たちは北からコンプトンに入ったところだ」


「だったら目と鼻の先だ。そのまま南下してこい。すぐに会えるさ、ホーミー」


 ここで、ビリーの後ろからパン、パン、と乾いた銃声が聞こえた。

 電話の声は面白いくらいに落ち着いているが、本当に喧嘩の真っ最中らしい。よくそんな状況で電話に出たな。


「お楽しみ中か。俺が行くまでくたばるなよ」


「はは、誰に言ってるんだよ。そっちこそ、たったこれだけの距離を進んでくる間につまづいて死なねぇようにな。それじゃ」


 ビリーが死ぬより、俺たちがやられる方が心配とは、どの口が言ってるんだか。

 ただ、喧嘩の最中ならば丁度いい。こっちが抱えてる爆弾をさっそくぶつけてやることができそうだ。


……


 ビリーとの会話通り、ものの十分程度でその現場に到着する。

 B.K.Bのウォーリアーをはじめ、味方をしてくれているブラッズがいくつか。


 空き地を挟み、南北に分かれてそれと対面するのはどこのセットともわからないクリップスだ。ただ、ブラッズも少し混じっているように見えるので、あちらはあちらで一時的に手を結んでいるという事だろう。


 廃車となったスクラップがいくつかあるだけで、他には何にもないこんな原っぱを戦地に選んだのはさすがだ。住宅地でぶつかるよりも何倍も警察の到着は遅れる。


 こんなところでドンパチ聞こえたところで通報すらいかず、そもそも遅れるどころかこちらに向かいもしない可能性すらある。


「クレイ! ……と、何だそいつら?」


「言ったろ。感動の再会だ」


「そうか、お前もB.K.Bだったか! ははっ! 世話になるぜ!」


 ビッグ・カンは、ビリーの人となりはそこまで詳しく覚えてない様子だ。


 ただ、ビリーも決して鳥頭ではないはずだが、本人の中ではサウスセントラルでのトラブルの相手の顔までは覚えていなかったというわけか。


 長く首を傾げ、唸り、そしてようやく思い出した。ビッグ・カンの巨体はこの肥満大国でもインパクトがある方だからな。


「あぁ! お前らだったか! ギャングが自分らのシマに出入りするのを嫌ってた連中! そのデカいやつがボスか!」


「おうよ! 名乗ってなかったかもしれねぇが、俺が頭のビッグ・カンだ!」


「そのおかげで俺たちも縁が持てたわけだが……とにかく暑苦しい連中でな。クリップスを殴らせろと言ってきかないから連れてきた」


 目の前で暑苦しいなどと言われているのに、ビッグ・カンは上機嫌だ。誉め言葉とでも思ったのかもしれない。


「ま、まぁ……力になってくれるってんなら、俺としても有り難いがな。あれが見えるか? 今は膠着状態だが、あそこに数人の敵が待ち構えてる」


 数だけでいえばこちらは三、四十はいる。対面で守りに入っている敵ギャングは十数名といったところか。強行突破も可能ではあるが、こんな序の口で味方を失いたくはない。

 そのせいで陣頭指揮を執っていたビリーも慎重になっているというわけだ。


「ははーん? だったら俺らの最初の仕事はあれをぶっ飛ばして味方を通すことってわけだな?」


「そうだが、そんな棒っきれを持って突っ込んだところで撃たれまくるだけだぞ」


「ははっ! 関係ねぇ! 車ごと突っ込めばな!」


 言うが早い。ビッグ・カンと愉快な仲間たちを満載にしたピックアップトラックがブンブンとアクセルをふかす。


「おい! マジか、こいつら!?」


「諦めろ、ビリー。見ての通り、ビッグ・カンとその仲間はこういう奴らなんだよ」


 俺の言葉が終わるより先に、ビッグ・カンがハンドルを握るピックアップトラックが急発進した。

 例によって、荷台に乗る仲間のことなど完全無視の突撃だ。


「ひゃっほう!」


「いっけぇ! お頭ぁ!」


 そして、当の本人たちもノリノリである。ぶつかった衝撃で投げ出されなければよいが。


 パァン! パァン!


 呆気にとられるビリーたちだが、対する敵方はそうもいかない。慌てて銃弾で迎え撃つ。


「おらぁぁぁっ! くたばれぇぇぇっ!」


 ガシャァァン!!


 少し前に見た、カローラでの突撃を彷彿とさせる大打撃だ。そう何度も事故を起こして、むち打ちになりはしないのか。

 ただ、今はむち打ちどころの騒ぎではなく、撃ち殺されないかが心配だ。


 ちなみに、荷台の連中は投げ出される前に飛び降り、手に持った鉄パイプやバットで我先にと敵へ襲い掛かる。


「援護してやれ」


「了解だ、クレイ。よっしゃ、撃ちまくれ! 一気に前進するぞ!」


 俺の指示を聞き、ビリーが全体に声をかけた。


 これには敵方もひとたまりもない。

 決死隊ともいうべき気の狂った連中を突撃させ、後ろから大火力の射撃。昔の戦争映画のようだな。


 互いに一歩も譲らず睨み合っていたのが嘘のように、一瞬にしてこの地の勝負は決した。


……



「はははっ! どうだ! 俺たちの力を見たかよ、B.K.B! 連れてきてよかっただろう!」


 弾痕が無数についたフロントガラスから、ビッグ・カンが満面の笑みで話しかけてくる。

 車は穴だらけなのに、自身の顔に風穴が空いていないのは奇跡としか言いようがない。


「そうだな……そっちの仲間に怪我人はいないか」


「二人、怪我してるみてぇだが問題ねぇってさ。手当てするから、ちぃとばかし待ってくれや」


 それだけか。しかしまぁ、猛烈に突進してくるトラック相手に、冷静な射撃ができないというのも分かる。

 むしろ、この場を捨てて後退せず、最後までよく戦ったと敵方にも賛辞を贈りたい気分だ。もうみんなくたばっているので、届きはしないのだが。


 ビッグ・カンの仲間が手当てを行う間、ビリーと並んで状況を再確認する。

 B.K.Bを含む、同盟セットの連中に死傷者はなし。怪我をしたという二人も軽傷。


 ビッグ・カンの乗っていたピックアップトラックは中破。動けるが、いつ止まってもおかしくない。

 彼らは思いのほか力になってくれた。この先も手助けをしてもらうために、新たな車両が必要だ。


「カン、トラックを変えよう。こっちで探してきてやるから、お前らは休んでてくれ」


「おぉ、マジかよ! プレジデント直々に! さすがは心の友だねぇ!」


「ビリー、ここは任せる。ガーディアン、誰かついてきてくれ!」


「あまり離れんなよ、ボス」


 車両の窃盗に武力は不要だ。ガーディアンを二人ほど引き連れて、俺が車を探すことにした。


……


 とはいえ、ここは敵地のど真ん中。

 コンプトンはクリップスとブラッズが点在する激戦区であるため、いつの間にかブラッズのブロックだったり、クリップスのブロックだったりという事は大いにあり得る。


 ブラッズであれば多少は融通が利く場合もあるが、それでも味方である保証はない。


「見ろ、タグだ。敵地だな。ご愁傷様」


 ホーミーの一人が壁に描かれたギャングタグを指さす。青色のスプレーでクリップスの主張がなされていた。


「長居は無用だな。あの車はどうだ」


 壊れたピックアップトラックほどの大きさはないが、フォードのエクスプローラーが停まっている。人気のSUVタイプで、こんなエリアには珍しくもきれいな車体だ。

 無理やり押し込めばあいつらも乗車できるだろう。


 ただ、これは施錠がきっちりされておりダメだった。おまけに盗難防止センサーまでスタンバイしている。ドアなんか空けたら警報が鳴り響くだろう。

 まぁ、こんな新車同然の上物をあけすけに放置しておく阿呆もいないか。


「ダメだな。隣のは?」


 フォルクスワーゲンのビートル。打って変わってスクラップのようなくたびれた車体だ。


「乗れねぇだろ、クレイ。こんな小さい車」


「ビッグ・カンだけで満載になるか」


「はは、そりゃ言いすぎだ!」


 さらに隣、ホンダのオデッセイ。ちなみに本国、日本で売られているオデッセイとは違うらしい。アメリカ版のオデッセイは日本仕様よりも遥かに巨体のボディを持つミニバンだ。


「お、これはいけそうだぜ。拝借しよう」


 拝借……ね。持ち主に戻る頃にはガラクタだろうな。


 堂々とその場でエンジンをかけ、何食わぬ顔でビリーたちの元へと戻る。


「おぉ! なんだ、そのだっせぇ車は! ママのお迎えかと思ったぜ!」


 ビッグ・カンが手を叩いて笑っている。言葉では馬鹿にはしているが、満面の笑みなので嬉しいはずだ。


「うるせぇ。贅沢言うなよ。要らねぇって言うなら俺たちのものにしちまうぞ?」


「悪い悪い! 気に入ったって言ってんのさ! ただ少し狭いな。野郎ども、車内でミチミチにくっつくのは我慢しろよ!」


 あちこちから諦めの声が上がっている。どうせトラックの荷台でも同じような状態だったのだ。今さら拒否する奴なんていない。


「じゃあいいか? 少し前線を押し上げるぜ」


 ビリーが俺に訊く。

 徐々に、C.O.Cの喉元に近づいている……はずだ。


 多少の移動は当然あるだろうが、奴らはそう大きく活動地域を変えていないと見ている。

 というより、そこは大きな問題ではない。


 重要なのは、奴らの戦力を今やっているようにそぎ落としていき、本体であるオリジナル・ギャングスタ・ニガズが直接出張らざるを得ないように仕向けることだ。


 丸裸にされ、他の同盟セットが全滅、あるいはこちらにつくなどという状況になっては、今後一切の動きを封じられたも同然だ。

 敵視点ではその手前の段階で手を打つ必要があるので、決戦の地はあまり重要ではない。


 そして、俺たちが以前のC.O.Cの活動地域の近く……

 つまりはこちらの味方であるノース・コンプトン・パイルのテリトリー付近に到達したとき、全線力を揃えてでも迎え撃つという選択肢しか与えない。


 あぁ、考えただけで……


 恐怖でしかないな。

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