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B.K.B 4 life 2 ~B-Sidaz Handbook~  作者: 石丸優一
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3 Handlers 2

 結論から言うと、ウォーリアー、ハスラー、ガーディアンを含む、B.K.Bメンバー全員による投票という形でウォーリアーのリーダーを決めることになった。

 当然、それまでの活躍を加味してだ。


 アジト前、チャーチの建物前に並んでいるのはその候補者たち、俺、ジャスティンだ。

 メイソンさんやサーガはこの場にはいない。特に知らせてもいないので、出てくることもないはずだ。

 つまり、俺たちだけで俺たちのB.K.Bの未来を決めるということになる。


 しかし、候補者の姿は二人だけだった。

 腕自慢で仲間思いのビリー、支援や画策が得意なローランド、この二名だけである。

 もう一人の候補者だった粗暴な若者は、数日前のクリップスとの喧嘩、つまり抗争中に命を落としていた。自分がウォーリアーを引っ張る、と踏ん張りすぎたのか、突出して前に出てしまったところを撃たれたらしい。

 これからだというのに非常に残念だ。


「みんな、良く集まってくれたな! 今夜は知らせていた通り、ウォーリアーのリーダーを決める会合だ!」


 皆から「おぉぉっ!」っと、歓声が上がる。ただし、必ず来いと言っていたのはウォーリアーのメンバーだけで、ハスラーやガーディアンのメンバーたちは自由参加だ。


 それにも関わらず、少なくない人数の仲間たちが駆けつけてくれている。というより、欠席者などほとんどいないのではないだろうか。それだけウォーリアーのリーダーが誰になるかというのは重要視されているということだ。

 ウォーリアーはB.K.Bの主力だ。ガーディアンとの連携はもちろん、金庫番のハスラーたちもその動向を無視するわけにはいくまい。


「ここにいるビリーとローランドは、ウォーリアーの中でも群を抜いて活躍してくれている男たちだ! 彼らには一言ずつ話してもらい、お前らにはどちらがウォーリアーのトップにふさわしいかを考えてもらいたい!」


 最初のものと変わらないくらいの歓声が再び巻き起こる。


「ではまずビリーから。いけるか?」


「もちろんだぜ、ホーミー」


 筋骨隆々のビリーが太い腕でガッツポーズをし、ニカッと笑って一歩前に出た。


「よう、みんな。今日は俺のリサイタルに集まってくれてありがとう。まずはヒット曲からいこうか」


 ドッ、という笑いと、そんなのには期待してない、話が違うぞといったヤジも飛ぶ。皆との関係も悪くないようだ。


「あー、おふざけはいいとして、俺はまだB.K.Bに入って日は浅いんだが、そんなことは関係ないくらい、すでに多くの場面で身を粉にして戦ってきた。時に敵を倒し、時に仲間を救い、求められる仕事はこの両手が届く範囲で最大限励んできたつもりだ。だから、みんな俺を選んでくれ! 一緒にB.K.Bを盛り上げていこうぜ! 以上だ!」


 みんなからは拍手や指笛、様々な反応がある。ビリーは手を挙げてそれに応えると、一歩下がって元の位置に戻った。


「ありがとう、ビリー。なかなかの演説だったぜ。次期大統領候補になれそうなほどにな」


「おー、俺の次のキャリアが決まったな。だったらB.K.Bと、その同盟ギャング以外はすべて死刑、っていう法律を制定してやろうじゃねぇか。敵がいないってのも退屈かもしれないけどよ」


 ユーモアのセンスもあるようだ。ビリーとの絡みはこのくらいにして次に移る。


「違いないな。それでは次は、ローランドの番だ! 奴もビリーと同じく、数々の仲間を救い、的確な行動と指示で敵を倒してきた男だぜ。ローランド、準備はいいか?」


「あぁ、任せてくれ。待ちわびたぜ」


 ローランドは細身で、腰ほどまで伸ばした黒髪を編み込んだ男だ。そのスラリとした身体が一歩前に出る。


「あー、ローランドだ。みんなも知っての通り、俺は今、ビリーとしのぎを削って争ってる。奴は本当にいいやつで、腕っぷしも強い。こいつに負けるんなら悔いはないってもんだが、俺にだって意地がある」


 相手を褒めつつも、自らの主張を通すというスピーチか。あまりやりすぎると卑屈に聞こえるが、結果はどう出るか見ものだ。


「俺がウォーリアーのトップになったら、力押しで勝てそうにない相手にも、あの手この手で勝つための作戦を考える。つまり、数では到底かなわないデカいセットや、猛者揃いの有名なセットまで、俺たちの前に跪かせることができるって事だ」


 おおっ、とどよめきが起こる。


「ウォーリアーが何も考えられない、バカの集まりだってイメージは今日でお終いだ。これからはハスラーやガーディアンからも馬鹿にされない、力も知恵もあるチームにしていこうじゃないか。以上だ」


「ありがとう、ローランド。下がっていいぞ」


 これは非常に難しい判断となりそうだ。ビリーとローランド、どちらが勝ってもおかしくない。

 投票は紙などで集計するわけではなく、良いと思う方に拍手をするというものなので、仮に僅差であれば判断できそうもない。


「以上で二人からのアピールは終了だ! お前ら、どっちを選ぶか決めたかぁ!?」


 俺に代わり、ジャスティンが司会進行を始めた。何か俺と打ち合わせをしていたわけでもないが、ここからしばらくは奴に任せるか。


「クレイ、もう投票させていいか?」


「そうだな。一人ずつ名前を呼んでやれ」


「では、今から呼ぶ二人の内、自分が選んだ一方の名前が呼ばれた時にだけ拍手をしてくれ!」


 直前までの騒ぎは静まり、名前が呼ばれるまで、一瞬の静寂が訪れた。


「まずは……ローランド! 奴がウォーリアーの頭にふさわしいと思う奴は盛大な拍手を!」


 何の趣向か、ジャスティンはビリーからでなくローランドの名前を呼んだ。先にビリーのために拍手を準備していた連中が、危うく手を叩きそうだったのを止める。


 打たれた手はおよそ半数。ビリーの結果を聞くまでもなく、これは引き分けになりそうな気配だ。


「では次にビリー! こいつにウォーリアーを引っ張ってもらいたいと思う奴は拍手を!」


 結果はやはりほぼ同数。完全にカウントを数えたわけではないが、同じ量の拍手が鳴った。


「同点だな! ボス、どうする!」


 ウォーリアーらしい取り決めならタイマンにでもするところだが、ローランドはそういうタイプじゃないからな。これは非常に困った。


「クレイ。困っているようなら、こちらから提案してもいいか?」


 助け舟を出したのは、選考される立場のローランドだった。自分に有利な方法を提示されでもしたら撥ね退けるが、まずは聞く以外に選択肢はない。


「何かあるのか?」


「あぁ、俺たちはウォーリアーだからな。頂上決戦はステゴロでのタイマン以外にないだろうぜ」


「……待て、お前何を言って」


 ローランドの提案はどう考えてもビリーに有利だ。それとも、皆が知らないだけでローランドは喧嘩も強いってのか?


「お断りだ!」


 歯をむき出しにし、そう叫んだのはライバルのビリーだった。


「なぜだ? お前には有利だぜ、ニガー」


「なら訊くが、おつむを使う勝負を俺が提案したら、お前は飲むのかよ? ローランド?」


「それは飲めないな。地味で盛り上がりに欠ける」


 ローランドの意図が見えない。負けを覚悟しているとでもいうのだろうか。


「クレイ、どうする?」


 これはジャスティンだ。ビリー、そしてローランドも同じ視線を向けてくる。やはり最終決定権は俺の一声になってしまうか。


「それでもいいが、一つ訊きたい。ローランド、タイマン勝負となったらお前が不利なように感じる。なのにそれを提案するのはなぜだ?」


「話した通りだぜ、ボス。俺たちはウォーリアーだ。引き分けとなった以上、腕っぷしで決めるのが一番だろ。俺みたいな男の十八番は、さっきのスピーチだったはずだ。そこで引き分けだったなら、次はビリーの得意な土俵でやるのがフェアだとも考えられるだろ?」


 なるほどな。そう言われると反論は思い浮かばない。


「その言い分だと、スピーチで勝っててもこの提案をしてきそうだな、お前は」


 ビリーが苦い顔でそう言った。それに対してローランドはにやりと笑う。


「よく分かってるじゃねぇか。俺だってウォーリアーだ。力も知恵もあるチームにしたいって言っただろ。だから、そのどちらかだけじゃリーダーにふさわしくないと思ったのさ」


「じゃあ俺は頭が足りねぇって話になっちまうぞ。俺はリーダーにふさわしくないって、バカにしてるようにしか聞こえねぇ」


「それはお前の問題だ。お前がやりたいウォーリアーに、俺の案を無理に乗っけてくれなくていい。もしそっちが勝ったら、俺の話なんて全く関係のないことだ」


 さて、タイマンは避けられそうにない。それも日を跨いだりはせずに、今すぐこの場での勝負となりそうだ。


 その会場にいるホーミーたちにも、事の経緯はすべて聞こえている。

 ビリー派の人間たちは当然ながら、今か今かとその試合の開始を待っているし、意外にもローランド派の連中もそれを望んでいるように感じる。


「……わかった。ではローランドの希望により、今ここで一対一での勝負をしよう。それで最終決定とする。みんなも、どう転んだとしても後から文句は言うなよ!」


 今日一番の大歓声と拍手喝采が飛んだ。


 流れでこうなってしまったが、俺自身もローランドの自信のほどの理由が気になっている。まさか、それも奴は織り込み済みなのだろうか。

 もしそうなら恐ろしい奴だが、実際に勝ってしまったらもっと恐ろしい。


 二人のヒーローが躍り出て、それを円形に全員で囲む。

 特設リングの完成だ。


 両者は上半裸になり、持っていたピストルも俺が預かった。


 どちらの身体にも、「B.K.B 4 life」のタトゥーが刻まれている。


 ちなみに、俺は今だにまっさらな身体だ。あえて彫らない理由もないが、彫らなければという使命感も特にない。


 E.T.は一般のメンバーたちとは異なり、その背に「R.I.P.Kray」という文字を刻んでいる。これはこのギャングが立ち上がるきっかけとなったビッグ・クレイへの弔いの言葉だ。

 R.I.P.はRest in Peaceの略で、安らかに眠れと言う意味になる。


 さらに、サーガだけはこれに加えて「CK」という文字が背中に刻まれていた。これはCrip Killer、つまりクリップス殺しの事で、クリップスに対しての恨みがそれほどまでに強いことを表している。


 親父、つまりジャックは死んだ仲間の名前も入れていたらしいが、今となっては見れないので、その詳細は不明だ。


 ビリー、そしてローランドの顔が俺を向いた。

 そうか、開始の合図待ちか、と考え事でぼんやりしていた意識を戻す。


「準備はいいな! それじゃあ、開始だ!」


 ゴングなどないので、俺の掛け声とパンッ、と叩いた手がその合図となった。

 ビリーはじりじりと、そして意外にもローランドが大きく一歩を踏み出した。まずは先制でそのローランドが右ストレートを叩きこむ。


 しかし、これは素人目に見てもその狙いがバレバレだ。

 振りかぶったローランドの右手が突き出されると、ビリーはそれをクロスした両手でガードし、ガード体勢のまま間合いを詰める。


 二人の距離はゼロになり、ビリーはローランドを押し倒した。


「カハッ!」


「どうした! もう背中が地面についてるぜ!」


 馬乗りになったビリーは、ローランドの顔面に向けて容赦なく拳を振り下ろした。


 ゴッ!


 鈍い音が俺の耳まで届く。これは骨がいったんじゃないか?

 たった一発で終わっては盛り上がりに欠けるかもしれないが、ローランドに必要以上の大怪我を負わせる理由などない。


「ストップ! そこまででいい、ストップだ!」


「……っと、すまねぇ。熱くなりすぎた。大丈夫か、ローランド」


 ビリー自身の言う通り、アドレナリンが出ているせいで、俺の制止命令後もさらに一発だけ打撃を加えてしまう。


「……ふっ。大した怪我じゃねぇさ」


 ローランドは体を起こそうとした。ビリーが優しく背へと手をまわし、ハグするような形でそれを抱き起す。

 決着だ。


「勝者はビリー! 奴がウォーリアーのリーダーになる! みんな、異論はないな!」


 ビリー、ローランド、双方の支持者から大きな、本当に大きな拍手が鳴った。

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