B.K.B 4 life 2
「「サーガ!!!」」
俺も含め、ホーミー達から言葉が飛ぶ。
「クレイ、引きずってでも行け! 俺が抑えてやる! ソイツが大将なんだろ!?」
パァン!
マイルズが果敢に応戦し、敵を一人撃ち倒した。
まさか、ここまで味方してくれるとは驚きだ。自分の身を犠牲にしてでも、こっちを逃がそうとしてくれているのだから。
「お前たち、頼む!」
だが、俺自身ではなく、残っているホーミー達にサーガの離脱を託した。
俺は、撃たれて倒れている他の仲間の安否を確認する。
「クソッ、逃がすな! ガゼル! 何をボケっとしてんだ、お前!」
リッキーの怒号。
ガゼルだけはその場にいるのに攻撃をしてこなかった。こちらの攻撃も、奴だけは無害だと無意識的に判断したのか、誰からも向いてはいなかった。
葛藤と戦っているガゼルを横目に、俺は反撃をしながら倒れている二人の仲間を揺すった。
さすがに即死するほどの威力は無く、息はある。だが、早くここから離脱したいところだ。
サーガはここでリッキーを討つと言ったし、俺もそれには乗りたいところだが、だからと言って彼らを見捨てて戦うのは無理だ。サーガ本人だって危ない。
「おい、動けるか!? 離脱するぞ!」
「厳しいな……いけ、クレイ」
肩を貸して立ち上がらせようとするも、二人ともそれほどの力は残っていないようだった。
担架でも欲しいところだ。まぁ、仮にあっても俺一人では担げないが。
パァン!
「うっ!!」
俺の肩に激痛。こんなにもたもたしていたら俺だって銃弾を貰って当然だ。
「クレイ! 下がるぞ!」
マイルズが俺の手を引く。
「下がるなぁぁぁぁぁぁっ!!!」
「!?」
ビリビリと、その場を切り裂くような大音声。ホーミーに囲まれて無理やり退却させられようとしていたサーガだ。
「負けるな!! ぶち殺せぇっ!!」
それに対抗し、リッキーも吠える。だが、その迫力の差はサーガが虎ならリッキーは子猫だ。
パァン! パァン!
サーガの拳銃が火をまき散らし、敵を一人沈めた。
敵も必死に応戦してくるが、身体を隠す場所がないのは同じなので、双方にじわじわと被害が広がっている。
慎重派だったリッキーにしては大胆なやり口だ。それだけ頭に血が上っているということか。
「くっ……! 引きずってでも、サーガをさっさと下がらせろ! ここはマズい!」
サーガの命令に真っ向から歯向かう形になるが、それでも俺はホーミーたちにサーガを退かせるように指示を出した。
「ぐっ!?」
それを止めようとしていたリッキーが転ぶ。誰かの弾が脚に当たったようだ。
沈黙を貫いていたガゼルが、リッキーの被弾でようやく動き出した。だが、彼は俺たちへの反撃ではなく、リッキーを下がらせるという判断を下す。
つまり、俺たちがサーガを逃がすように、ガゼルもリッキーを逃がそうとしたわけだ。痛み分けって奴だな。
「ガゼル!? やめろ、アイツを仕留めねぇと……!」
「アンタが死んだら元も子もないだろ!」
「脚を撃たれて死ぬわけねぇだろ! まだやれる!」
だが、ガゼル以外のC.O.Cのメンバーたちもどこか逃げ腰だ。
「クレイ! リッキーを殺せ!」
「クレイ! 退くぞ!」
「クレイ! もう手を出すな!」
後方にいるサーガ、近くにいるマイルズ、正面にいるガゼルからバラバラな要求が飛んできた。
敵方であるはずのガゼルの指示を飲むのはおかしな話だが、俺はサーガの意志だけを無視し、撤退を開始した。
「クレイ! 何してんだ、てめぇ!」
「うるせぇ! アンタが死にかけてんのに敵のタマなんか取れるか!」
「クソがっ!!!」
ホーミーたちに両脇を抑えられていたが、サーガは信じられないような怪力でそれを抜け出す。
腹からはボタボタと大量の血が溢れ出ている。一刻の猶予もない状況だ。
「サーガ!」
振りほどかれた手を再度、掴もうとするホーミーに俺も加勢する。マイルズも同様だ。数人がかりで彼を引っ張っていこうとするも、びくともしなかった。
パァン! パァン!
サーガの銃だけがソロで唸る。
リッキーの方もこちらと全く同じような状態で、ガゼルや仲間たちによって、この場から強制退場されようとしていた。
「うっ!」
その弾丸は、不運にも事態を収束させようとしていたガゼルの背中に命中する。敵方にはいるが、彼は敵ではない。
「ガゼル!」
「クソ……! 俺はいい! 行け、クレイ!」
だが、俺はここで信じられないような光景を目にする。
パァン!
次の銃声と共に光ったのは、リッキーが持っていた銃。それは、ガゼルの頭へと向けられていたのだ。
たとえ自身の無事を考えてくれての行動であっても、自身の意志を邪魔するのであれば、同じセットの仲間であっても撃ち殺す。それが、リッキーという男のやり方か。
もし、俺たちが抑えているのがサーガではなくリッキーだったとしたら、立場が真逆だったとしたら、撃たれていたのは俺やマイルズだったわけだ。
ガゼルはゆっくりと膝から崩れ落ちた。
「ああああああああああああああああああああああああああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!!」
それは誰が発している声だと思うも、自分の口から出ているものだと直後に気づいた。
「クレイ……!? 突っ込むな、馬鹿がっ!」
はっ、何が馬鹿だよ。アンタも同じ事やってただろ。
「あぁぁぁぁぁぁっ!!」
多くの仲間の意志に反して、守るべきサーガを差し置いて、あろうことか俺は己の身一つで突撃する。狙うはリッキーの首ただ一つ。
パァン!
リッキーが俺に向けて引き金を弾く。大外れだ、馬鹿野郎。
「殺す!!」
「ガゼルを撃っただけなのに、何でてめぇがキレてんだよ、クレイ!?」
リッキーの引きつった顔が眼前に迫った。
「てめぇを守ろうしてくれた奴を、てめぇが殺すとはどういうつもりだ!?」
カチッ、カチッ。
弾切れか、故障か、奴の拳銃が俺の額に向けられたまま沈黙している。
こりゃぁ、俺には神がついてるぜ。
「あぁ!? 俺の部下を俺が……あぐっ!?」
リッキーの返答の途中。横っ面をひっぱたかれたかのような反応で、奴はガクンと首を横に倒した。
こめかみの辺りから脳髄をぶちまけながら。
「おしゃべりは不要だ、ボケナスが」
サーガだ。いつの間にか俺たちの真横にまで来て、有無を言わさずリッキーを殺しやがった。
「チッ……まぁ、いいか……」
ダッ、と残っていたC.O.Cメンバー最後の一人が走って逃げだした。ボスがやられてまで、ここにいる理由などあるまい。
俺の視界もぐらりとゆがんだ。
なぜだ? 肩に食らっただけで、大したケガは……そう思って視線を下にやる。服に大きな赤黒いシミ。
そうか。大外れだなんてのは、興奮状態にあって気が付かなかっただけか。リッキーの弾はしっかりと俺の腹に命中してたわけだな。
サーガとおそろいで嬉しい限りだぜ。
「クレイ!」
マイルズの声。
そして、俺の目の前にいるサーガも、どさりとその巨体を仰向けに倒した。俺よりも先に腹に食らってたんだ。相当無理してたんだな。
「おい、お前ら! サーガとクレイと、それから他の仲間もさっさと運ぶぞ! 車を持ってこい!」
マイルズが指示を出している。ふざけんな。それは俺か、サーガの仕事だろうが。
残ったホーミーたちも、聞き分け良くそれに従っていて、なんだか……腹が……立つぜ……
……
じわりじわりと、何かが自分の背中を這いあがってくる。
「やめろ」
俺は無意識のうちにそう言葉を吐いた。
視界は真っ暗。音もない。当然ながら自分の発した声すらも聞こえなかったが、発声した時の振動は感じたので、声は出ているはずだ。
背中の感触が首まで這いあがってくる。
ねっとりしていて、そのうえ生温かい。例えるならば、どろりとしたチーズやミートソースがズルズルと自分の身体を這っている感じか。非常に不快だ。
「やめろ!」
首から、頭の上へと這いあがってくる。
そこから頭上を通り越し、顔の前へ。視界は暗いが、分かる。今、「それ」は俺と目を合わせているのだと。
そう思うと、不意に視力が生まれた。
目の前には、火あぶりにでもあったのか、硫酸で溶かされたのか、ドロドロに溶けたような人間の顔。ゾンビのご登場だ。
その人物はどことなく、リッキーのようで、ガゼルのようで、サーガのようで、俺のようで、そして……お袋のようだった。
「やめろぉぉぉぉぉぉぉぉっ!!!」
大声と共にガバッ、と上体を起こす。
クリーム色の壁紙に、真っ白いシーツが目に入ってくる。室内の照明はチカチカと煩わしく点滅を繰り返す蛍光灯だけだった。
なるほど。病室に一人で寝せられていたのか。
アジトや自宅じゃないのは、俺もなかなかのケガだったからに違いない。
「クレイ!」
バンッ、と扉が開いて誰かが入室してきた。聞き覚えのある声。メイソンさんだ。
足音が近づき、俺の視界に彼の顔が入って覗き込んでくる。
「お目覚めかい! はぁ……良かったよ」
「ここは病院、だよな?」
「そうだよ、腹撃たれてたろ? よく頑張ったなぁ。ちょっと待ってて、B.K.Bの連中も呼んでくるから」
言われてみれば、ホーミーじゃなく、なぜメイソンさんが一番に飛び込んでくるのかとは思ったが。別の病室にでもいるのか。
数分後、またメイソンさんが顔を出し、ガーディアンの面々が入ってきた。
「クレイ!」
「やっと起きやがったか、この野郎!」
一安心、と言った様子で彼らは俺のベッドを取り囲んだ。
「あぁ、心配かけちまったな。他の仲間は? 撃たれたのは俺だけじゃないだろう」
「助かってるよ。ただ……サーガだけ、まだ起きねぇんだ」
驚いた。誰か一人くらいは死んでもおかしくないと思っていたんだが、全員無事だったか。サーガが起きていないとの事なので、コイツらもそっちの様子を見に行っていたところだったか。
大将を抱えて同行したのはガーディアンだけなのだから、ウォーリアーやハスラーのメンバーらに詰められていたのかもしれないな。
俺が起きていたら一手にそれを受けてやれたが、もしそうなら悪いことをした。
「リッキーや、ガゼルは……?」
「死んでたよ。言うまでもないだろ」
「起きてすぐに、何を敵の心配なんかしてんだよ」
それもそうだなと言われて気付く。二人とも頭に銃弾を食らってたんだ。生きているはずがない。
そして、敵方の心配なんか今は不要だ。リッキーだけは心配というよりは事実確認、ちゃんと殺せていたかが知りたかっただけだが。
「サーガの所へ行く」
立ち上がろうとして、ぐらりと身体が倒れた。メイソンさんやホーミーたちが慌てて支えてくれる。
「おいおい、クレイ! あぶねぇな!」
「サーガの部屋は近いか? 同じ病院なんだよな、メイソンの兄ちゃん?」
「そうだよ。ただ、フロアが違うから階段を上がらないといけない。足元に注意してね」
……
サーガの病室は、ちょうど俺がいた病室の真上に当たる部屋だった。
廊下などで分かったが、ここは以前、サーガがヒットマンに襲われたのと同じ病院らしい。
病室の前には当たり前のようにウォーリアーが見張りに立っている。
「入るよ」
メイソンさんが言い、見張りがドアを開けた。
病室内には、眠るサーガとその近くにいるOG達。
俺に対して厳しい視線や言葉が飛んできそうだと思ったが、意外にもそれは無かった。
「クレイ、目が覚めたんだな。良かったぜ。撃たれて痛かったろ」
「ははは、サーガや俺達より若いだけのことはあるな。回復が段違いだ」
それどころか、温かい言葉が飛んでくるのだから驚きだ。
俺はボスを危険な目に合わせたんだぞ?
「何……笑ってんだよ……」
俺は、ぼそりとそう言うのが精一杯だった。