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B.K.B 4 life 2 ~B-Sidaz Handbook~  作者: 石丸優一
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B.K.B 4 life

「話が進んだ。ガゼルの案を採用となりそうだぜ」


「ほう?」


 アジト内。サーガが聖書からの視線を上げ、こちらを見る。

 俺が報告し、サーガが返答する。何度となく繰り返してきたやり取りだ。


 今あげた報告の通り、マイルズがリッキーを俺たちの地元に連れて来るよりも先に、ガゼルがコンプトンでリッキーと俺たちを会わせてくれる機会の方が早かったということだ。

 まぁ、当然そうなるだろうな。今までも何度かあっちでは会っているわけなので、マイルズの案に比べればハードルは低い。


 先日、マイルズの方も尻は叩いたわけだが、残念ながらその成果はこの時点では上がらなかった。


「殺るのか?」


「あぁ」


「ガゼルやマイルズは?」


「今のところは何もする気はねぇが、奴らの出方次第だ」


 リッキーと同セットのガゼルよりも、ブラッズであるはずのマイルズの方が冷静さを失って歯向かってきそうな気がする。


 ガゼルは何だかんだ、我関せずと言った姿勢を貫くのではないだろうか。

 ただ、目の前で起きる惨劇なので、この俺の予測は完全には信頼出来ない。


 マイルズは……少なくとも責めてくるだろうな。頼むから銃は抜くなよ。こっちだって関係のない二人まで殺したくはねぇんだ。


「アンタが直接弾くのか? わざわざ敵の目の前に姿をさらしてまで」


「当たり前だ。俺はその場で見学し、実行はお前らガーディアンに頼めと言いたいんだろうが、俺にも譲れないプライドがあるんでな。リッキーは俺がやる」


「分かった。言い出したら聞かないのは分かってる。アンタがやられないように全力で守る」


「こっちが撃った後、他の連中から反撃のそぶりがあれば殺せ。それがお前らの仕事だ。不安なら今回だけはウォーリアーを二、三人、チーム内に組み込んでもいい」


 なかなか魅力的な提案だが、俺にだってプライドはある。これはガーディアンの仕事として請け負いたい。

 仮にガゼルやマイルズからのリアクションがある場合、もっとも反撃を受けやすいのは実行犯、つまりサーガだ。殺される可能性も一番高い。


「いや、ガーディアンだけでやる。ただ、メイソンさんは? ついてきてもらうのか?」


「今回は関係ねぇから、アイツの事は気にするな。ただ、伝えちまうと出てくるだろうから内緒だな」


 前回もサーガに危ない橋を渡らせたとき、彼が近くにいたことを思い出す。


「分かった」


「日取りはどうなってる? 場所はお前らがいつもだべってるっていう空き地か」


「場所はその通りだ。日付は明日か明後日の昼。マイルズにバレないように、アンタの顔は隠した方が良いんじゃないか?」


 サーガが頷く。


「白昼堂々、外で殺しをやるんだ。俺だけじゃなく、お前らだって口元はバンダナで覆っておけ。マイルズというよりは、外野の目撃者に身元が割れないようにしておかないとな」


「それは肝心のリッキーに警戒されるだけだと思うが」


 口元をバンダナで覆っている状態は、犯罪行為をする前兆、あるいはやった直後であると見なされる。

 殺しだろうが、車ドロだろうが、顔を隠すのは当然だ。


 そんな状態で俺たちが現れたとして、リッキーのような人間が何も感じないとは思えない。


「だったら俺だけ常時隠しておいても良いが、とんずらの時はお前らもだぞ。せめてバンダナは首元に下げておけ」


「そのくらいなら問題ない。了解した」


 サーガが視線を再び聖書に落とす。話は終わりだ。


……


……


「よう、クレイ! 今日も大所帯だなー!」


 いつものようにマイルズの家の前に車を停め、表で待っていた彼と合流する。もちろん率いているガーディアン数人の中には、口元をバンダナで隠したサーガもいた。


 俺たち全員は腰に二丁ずつの銃を忍ばせ、完全武装の状態だ。

 いつもは護身用の一丁を持っているだけだが、故障なども考えて、予備まで準備している徹底っぷりである。


「お前は相変わらずのラフさだな。初めて会った時以来、お前が仲間を引き連れてるところなんて見たことがないぜ」


 ノース・コンプトン・パイルのメンバー自体は街のあちこちで見かけるが、彼らの方もマイルズと同じく俺たちに対しては全く警戒を示さなくなっている。  

 マイルズがそう指示を出したのかは知らないが、気楽なもんだ。


「地元のど真ん中で警戒してる方がおかしくねぇか? さ、行くぜー」


 サーガの存在には気が付いていないようで良かった。

 まぁ、ここまで気が抜けていたら分からないはずだがな。


 数人の集団が徒歩でいつもの空き地へと向かう。


 到着時、ガゼルもリッキーもその場にはおらず、ガーディアンは散開して周囲の警戒をし始めた。

 可能性は薄いが、今日の計画がリッキーに感づかれている可能性がある。ガゼルが、何だか今日のクレイたちは怪しい、と伝えてしまっていた場合もそうだ。


「何をきょろきょろしてんだ、お前ら?」


 中心に残っているのは俺とサーガ、マイルズだけ。

 他メンバーたちの警戒の理由を知らないマイルズが首をかしげる。


「あのな、仲が深まったとはいえ、一応相手はクリップスなんだからよ。姿を現すまでは不意打ちとかに注意しないと」


「はぁ? いつもはここまでやらねぇだろー。いまさら警戒心を戻したのか? 変な奴だな」


 サーガの存在は見逃しても、ホーミーたちの警戒度合いはさすがに不信感を持たれた。

 ただ、それを理由にマイルズが何かできるわけでは無い。


「ん? ソイツは……あ、分かった。新入りだな? だからソイツがビビらないように配慮してやってるってか! 恐れ入ったぜ、お人よしギャングさん」


「仲間思い、とでも言ってもらいてぇがな」


 口元をバンダナで隠したサーガに意識が行ってもこの通り。何も分からない様子だ。

 否定するのも面倒なので、警戒の理由はそういうことにしておこう。


 数分後、まずはガゼルがその場に現れた。特に普段と変わった様子はない。


「よう、待たせたな」


「おっす、兄弟!」


「ガゼル、お呼びいただき光栄だぜ」


 ガゼル、マイルズ、俺の順で口を開く。サーガは無言、ホーミー達も散開してそのままだ。


「……なんだ、仰々しいな。やめさせた方が身のためだぞ」


「リッキーは間違いなく一人か?」


 ホーミーたちの警戒は、リッキーをピリピリとさせる要因となり得る。

 もちろんそれは分かっているが、サーガを守る以上はリッキーが仲間を引き連れたり伏せさせていない確証が欲しい。


「一人だ。さっき話したからな。一件、用事を済ませてくると話していたが、三十分以内には間違いなくここに来る」


「分かった、おーい」


 散開させていたガーディアンの内、三人を呼び戻してサーガや俺のそばに置いた。警戒要員として二人だけはまだ空き地の隅に立たせている。


「……ふん、まぁ、あれくらいなら大丈夫だろう。で、金は?」


「前払いで要求とは珍しいな。リッキーとの話が終わってからだ」


 なんだ、ガゼルはこの先の展開を知って、焦ってでもいるのか。嫌な予感がする。


……


 二十分後。リッキーがやってきた。黒いパーカーのフードを被り、ステテコのような短パンをはいている。一応はガゼルが言っていた通り、一人のようだ。


「あれがリッキーだ」


 口を動かさないよう、隣にいるサーガに小声で伝えた。唸り声だけが返って来た。


「……?」


 二人だけではあるが、警戒させているガーディアンのホーミーから違和感を察知しないはずもないので、リッキーはこちらへ寄ってくる前に首を傾げて足を止めた。


「なんだ、ひり付いてやがる。サツでも近くにいるのか?」


「いや、大丈夫だ。おい、お前らもういいぞ!」


 リッキーが一人だというのは確定したのだから、これ以上警戒させる意味はない。


 しかし、リッキーはそこから一歩も近づいてこなかった。

 空き地に入る寸前の道路で立ち止まり、俺たちの様子をうかがっている。


「おーい、リッキー! そんな離れてんなよ!」


 マイルズがリッキーを手招きする。これは思いがけず俺たちの策の手助けになるが、本人はそんな事を考えてはいないだろう。


 サーガがどのタイミングでリッキーを弾くのかは聞かされていないが、接近した時であるのは理解できる。

 話している最中か、会話が終わった後か、近づいた瞬間か。


 いずれにしても、今の状況、この距離では無理だ。仮に当たっても拳銃程度の威力では致命傷にはならず、そのまま逃げられる可能性がある。


「あー、ちょっと待て! 客から連絡が入った!」


 リッキーが右手のひらを前に出してマイルズにそう答え、左手でポケットから携帯電話を取り出す。


「あぁ、あぁ。そうだ。頼む」


 それだけ伝え、リッキーは携帯電話を下ろす。そして、数歩だけ後ずさりをした。


「……クレイ、仕掛けてくるかもしれねぇ。あるいは逃げるか。油断するな」


「あぁ、俺もそう思う……」


「おい! リッキー! 電話は終わったんだろ!? 何やってんだ!?」


 警戒を増すB.K.B。能天気なマイルズ。

 ガゼルもその場から離れようと思ったのか、そろりそろりとリッキーがいる道路の方へとゆっくり移動していた。リッキーが「来い」と目配せでもしたのかもしれない。


 ガゼルにはめられた?

 いや、これはリッキーのとっさの判断である可能性が高い。


「仕事が入って、すぐに戻るからよ! 今日は顔見せに来ただけなんだ! 悪いな、マイルズ!」


「はぁー? 何を言って……!」


 近寄るマイルズ。すると、ついにリッキーがベルトから得物を抜いた。


「おっと! ハグならまた今度な!」


「てめぇ!? 何やってんのか分かってんのか、兄弟!?」


 いきなり向けられたピストルに、さすがのマイルズも青筋を浮かべてご立腹だ。

 リッキーの横へと合流したガゼルも拳銃を抜いたが、マイルズや俺たちには銃口を向けず、それは下を向いている。

 どうすべきか迷っていると言ったところか。


「逃げられそうだが、どうする」


「逃がさねぇ。振り向いたら一斉に撃つ」


「了解した。だが、アンタ以外の弾で殺しても文句は無しだぜ」


 しかし、まさかの先制攻撃はC.O.C側からだった。

 リッキーが電話で連絡を入れた連中だろう。四、五人のギャングスタが現れたのだ。近くに味方を置いていたか……


「やれ!」


 パァン! パァン! パァン!


 リッキーの号令で、奴らの銃が火を噴く。


「サーガ!」


 言ってからしまった、と俺は口を閉じる。

 とっさに彼を守ろうという意識と、撃ち返そうという進言のつもりだった。


 言いながら俺も銃を抜き、地面に伏せながら応戦する。遮蔽物は無いので絶体絶命のピンチだ。


 俺の失言をリッキーが聞き逃すはずもなかった。牽制して適当なところで切り上げて離脱する、という逃げ腰だったはずの意識から、完全に俺たちをここで殲滅する強気の意識へと切り替わる。


「アイツだ! クレイの横にいる奴を殺せ! あれがボスだ!」


 リッキーの号令が飛ぶ。

 サーガもそうだが、一番狙われる彼の近くにいる、俺やマイルズも危険だ。


「マイルズ! 撃ち返せ!」


「あぁ! こうなったら仕方ねぇ! 手ぇ貸すから、さっさと退くぞ!」


 距離があることもあり、ホーミーたちの被弾は皆無、あるいはかすり傷程度だ。だがそれは敵も同じ。隠れながら戦えるよう、場所を変えなければ。


 パァン! パァン!


 味方の銃も応戦を始め、その場から離脱するべく移動を開始する。

 サーガの正体は俺のせいでバレている。彼を守るように固まって動く。


「ウチの大将を守れ!」


 だが、これがいけなかった。くっついてしまってはこちらの的が大きくなる。ホーミーが一人、二人と撃ち倒された。


「ニガー! 畜生め!」


 サーガが吠える。


 彼も愛銃を構えて、何発も撃ち返した。

 リッキーの横にいたクリップスのメンバーが二人、吹き飛ぶ。


「サーガ! いいから早く逃げろ! 俺たちが抑える!」


「ダメだ! ここで奴を仕留め……がはっ!」


 腹を抑えた状態で、口から血を吐くサーガ。言うまでもなく、一発貰ったというわけだ。最悪の事態が起こってしまった。

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