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B.K.B 4 life 2 ~B-Sidaz Handbook~  作者: 石丸優一
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Information! N.C.P

 ガゼルが自分のラングラーに背中で寄りかかり、腕を組む。

 それに対面するのが俺で、そのやや斜め後ろにサーガがいる形だ。


 ホーミーたちが乗るバンは、駐車スペースで言うと10台分ほど離れた場所に移動してもらった。

 見えはするが、声は届かないといった距離感だ。


「マイルズとリッキーに動きがあったのか?」


「あぁ。マイルズがぽろっとこぼしやがった。何でも、どこぞのブラッズのトップとリッキーが会う機会を求めてるって事だ」


 その話をリッキーに持って行ったのは褒めるべきだが、簡単にガゼルに漏らすんじゃねぇよ……

 マイルズに対する信頼度がガタ落ちだぜ。ただの阿呆なのかもしれないが。


「そりゃ面白い。何を目的としてるんだ?」


 俺が噛んでる話だが、知らないふりをして話の先を促す。


「マイルズ自身は仲良しこよしをご希望らしい。だが、どうやらその相手っていうのがリッキーがご立腹のセットらしくてな。リッキーの方はその会合を利用して相手の大将のタマを取る気でいる」


 全くもって想定通りの状況だな。ただ、マイルズに二心がないのは朗報か。


「じゃあ、リッキー自身もそれ自体には賛成って事か。その、誰かに会うってのは」


「だろうな。ただ、マイルズの手引きだからって単身で行くほどリッキーは馬鹿じゃねぇ。そこを二人は詰めてるみたいだ」


「リッキーは護衛や防具、武装を欲しがり、マイルズはそんなことするなって言ってるわけか」


 その状態で来られても、B.K.B側だって完全武装でドンパチすることになり、それだとただ戦争するのと変わりない。正面衝突を避けてきたリッキーが望むところではないので、話が流れてしまいそうな気もする。


「おそらくな。しかしがっかりだぜ。銀行強盗なんかの話とは全く違う。こりゃぁ、噛んだところで何の儲けにもなりゃしねぇな」


 ガゼルに二人を探らせたのは、儲け話で釣るような形だった。敵対ギャングとの会合なんて、銀行強盗に比べれば金の匂いはしない。


「……そうでもないぜ、ガゼル。俺はその情報がとても気になる。もう少し詳しい話は分かってないのか?」


 まず、20ドルのゴム束を一つ握らせた。


「はぁ? こんな話が面白いってのか? 変わった野郎だな。とはいえ、そう言うのが分かってたから呼んだんだけどな。金になるんなら何だっていい。毎度あり」


「どこまで出せるかはお前の話次第だな。ただし、盛った話やガセネタは勘弁だぞ」


「他には……とりあえずエスコート役のマイルズ、ゲストのリッキー。護衛を二人の合計四人体制でって話してたかな。車一台に乗れるだろ」


 そのくらいは当然だろう。先行してサーガに会いに来たマイルズもそうだった。リッキーがそれ以下の手薄な状態で来るはずがない。


「リッキーはもう一台って言ってそうだが」


「かもな。だが、それがいるとしてもマイルズにすら伏せるだろう」


 厄介だ。しかし、どれだけ伏せても会合場所に近づく車両が二台であることはこちら側に隠しきれない。その瞬間二台ともハチの巣になるだけだ。


 どちらにせよ、マイルズにすら伏せる話をガゼルが手に入れるのは不可能だ。


「いつくらいになるとか、そんな話はないか?」


「それは聞いてないな。だが、そう遠くないんじゃないか。もしかして、その現場に行きたいのか?」


「どうだろうな。状況による。お前はその護衛の中に含まれることは無いのか?」


「あるわけないだろ。俺はドラッグディーラーだぞ。脳足りんの戦闘員共と一緒にしないで欲しいね」


 この場にC.O.Cのウォーリアーがいたら怒り狂いそうなセリフだが、幸い奴らは居ない。

 しかし、同じセットの仲間を見下すなんて、B.K.B内ではありえない考え方だな。軽い冗談だと信じたいところだ。


「まぁ……俺とマイルズをリッキーに引き合わせてくれた時には、架け橋になってくれたからな」


「今回の敵対セットは俺とは全く関係ねぇんだから、俺が行くわけねぇだろ。もしかして……クレイ、お前のセットだったりするのか?」


「そうなら否が応でも俺はその現場に出張るしかないな。セット名は聞いたか?」


 我ながら肯定も否定もしない、上手い返しだ。少なくとも嘘はついていない。


「いや、ブラッズとだけだな」


「そうか、聞けたらまた探りを入れといてくれよ」


「おい、俺からも少し良いか?」


 出たな大将。このまま黙って終わるとは思ってなかったものの、この場にいるだけでも十分凄いと思うんだがな。


「あぁ?」


 あからさまにガゼルが不機嫌になるも、拒否はしなかった。


「今、リッキーに会って話せたりしないか? クレイ……というかこっちからも面白い話題があってな。会えるんならすぐに提供したい。おそらくそのブラッズとも無関係じゃない情報だ」


 サーガの言葉は想像の斜め上を行くものだった。まさか、リッキーを先に討ち取ろうってのか。それともリッキーを見たいだけか?

 ガゼルにサーガの正体がバレている気配はないが……どうなる。


「そんな話、飲めるわけねぇだろ。そもそも、こんな時間にクレイと俺が会ってる時点で不自然なんだよ。あっちがマイルズと二人でコソコソやってるのをこっちが怪しむのと、立場を入れ替えて全く同じ状況ってわけだ」


 それはその通りだ。

 仮にリッキーとアポイントが取れたとして、ガゼルはここで何をやっていたという話になる。下手すれば粛清だ。リッキーがガゼルの所属するセットのボスなんだからな。


「なら、お前は来なくてもいい。俺たちとリッキーだけだ」


「尚更無理だろ! リッキーがブラッズ相手にノコノコと一人で出てくるかっての!」


 さすがに厳しそうだな。


「なるほどな。予想を上回る腰抜けだったらしい。そんなんで敵の大将首が取れるのか? 大事な場面でイモ引いてたんじゃ世話ねぇぞ。結局はマイルズの話は断るのかもな」


「てめぇ、あまりウチのボスをコケにするとただじゃおかねぇぞ。それより、情報ってのは何なんだよ」


「気になるか? 奴にもお目通りが適うなら触りくらいは話してやってもいいが……」


 話の内容は俺にも想像がつかないが、ガゼルに話せる内容なのだろうか。


「続けろ」


「例えば、奴さんの構成員数、テリトリー、味方や敵対関係図、アジト、武装、主要人物の名簿、そんな話だ。欲しい情報だと思うが」


「どこのセットか目星がついてるような言い草だな?」


「俺に分からねぇブラッズなんかほとんどないからな。答えがどこでも問題ない」


 本気でそんな話をくれてやるつもりはないと思うが……リッキーの立場からしたら欲しい情報だろうな。ガゼルは正直、興味なんてなさそうだが。


「ふん、そりゃ頼もしい限りだな。クレイ、コイツはいったい何者なんだ? さっきからしゃしゃり出てきやがって。いつものお友達ご一行の中では、お前がリーダーなんじゃないのかよ」


「それは間違ってないが、彼には知識面で助けてもらっているんだよ。なに、悪い奴じゃないし、相当な切れ者なのは俺が保証する。リッキーにとって悪い話じゃないのも間違ってない。どうにか機会を作ってやれないか? 頼むぜ、相棒」


「マイルズみたいな気色悪い呼び方をするなよ……ったく、分かったよ。ただ、今すぐってのは絶対に無理だ。いつもの会合みたく、マイルズとつるんで会いに来るときに、リッキーをねじ込んでやる」


 マジかよ。言ってみるもんだな。

 しかし、マイルズにはサーガの面は割れてるがどうするつもりだ。赤バンダナでミイラ男ばりの覆面でもさせるか。


「助かるぜ」


 俺とガゼルのやり取りにサーガも満足そうに頷く。


「最速で数日後ってところだ。クレイ、この貸しはデカいぞ」


「分かってるさ。たんまり持ってくるからその時を楽しみにしてな。それから、マイルズやリッキーには特に何も言わないでおいてほしい。ただ、いつものように会いに来た。それだけだ」


「……なぜだ? 今ソイツから聞いたみたいに、デカい情報があるって話した方がリッキーも食いつくと思うが」


 ガゼルの目線では、この情報がないとリッキーを炙り出すのに多少の苦労が生じる。


「変に肩ひじ張ってほしくないんだよ。サプライズで上手い話が転がり込んできた方が嬉しいだろ?」


「知らねぇよ。ま、他でもない、太いお客さんのご要望だ。それは言われた通りにしといてやるよ」


 サーガが再度、口を開く。


「ガゼル、お前にとってコンプトン・オリジナル・クリップってのはどんな存在だ? こうやって外部に情報を漏らしてるから、忠誠心みたいなもんは薄そうだが」


「あぁ? お説教なら他を当たれよオッサン」


「質問だ。説教じゃねぇ。いざとなったらセットを裏切れるくらいにしか考えてないのかどうかが知りたいんだよ」


 まぁ、サーガはガゼルをどこまで利用できるのかが計りたいだけだろうな。


「裏切らねぇよ。これは金の分、働いてるだけだ」


 別個で考えてるわけか。そういう感覚はB.K.Bメンバーにはないものだ。

 いくら積まれても、セットの情報や仲間は売れねぇ。


「仮に、リッキーが命を落とすような情報を売っても、それは裏切りじゃないってか」


「あぁ。俺は俺の仕事をしたまでだ。誰かが俺の情報をもとにリッキーを殺したって、そっちは俺がやった仕事じゃねぇだろ」


「まぁ、確かにその通りだな。お前から漏れた情報だとバレなければいいだけの事だ。バレてしまったら、『そっちは自分の仕事じゃねぇ』じゃ済まされないぞ。他の連中からお前はつけ狙われることになるだろうな」


「んなこた分かってる。それとも、お前たちは俺を脅そうとでも思ってるのか? それなら俺が先にリッキーの方にこの話をバラすしかなくなるが」


 ここは非常に難しい場面だ。サーガとしても、リッキーのとの距離は詰めたいわけだからな。

 ガゼルを用済みだと見なせば脅しもしただろうが、あまり強気に出るわけにもいかない。


「なぜだ? そんなことをするメリットは俺たちにはないと思うが」


「はぁ? 俺を利用したいというか、値切りたいとか色々あるだろ! って……なんでこっちがそれを考えてんだよ、オッサン!」


「面白れぇ。値切るようなケチに見えたか。数日後に必ずリッキーとの面会を組み込めよ。報酬はいつもの五倍払ってやる。なぁ、クレイ?」


「……どうして俺が貧乏くじを引くかね」


 結局俺の手出しなんだろうな。大金となれば、サーガにも手伝ってほしいんだが。その辺りは要相談だ。


「五倍か。いいねぇ。分かった、仕事はきっちりこなすぜ」


 そんな俺の気持ちなんて露知らず、ガゼルは少しだけ上機嫌だ。


「出来なきゃ使えねぇ野郎だって顔に彫ってやるからよ」


「はっ、うるせぇよ! とりあえず、今日はもう帰れ。連絡はまた、クレイの携帯電話に入れる。できればそのオッサンには来てもらいたくねぇけどな。リッキーにも舐めた態度取りそうだしよ」


「年寄りをイジメるのは良くねぇんだぞ、小僧。リッキーと話すなら、クレイに言伝るよりも俺が出張るのが効率的だ」


 これはどっちの意見も間違ってないんだが、一応はサーガの意思を尊重すべきだろうな。


「それじゃあな、ガゼル。情報ありがとよ」


「またな、クレイ」


……


「どういうつもりだよ、アンタ」


 帰り道で、サーガに真意を尋ねる。

 ガゼルと話すだけのつもりが、いきなりリッキーとの距離を詰めようとするなんて思ってもみなかった。


「何をぬるい事言ってんだ。このくだらねぇ遊びを終わらせるチャンスだろ。俺はとっとと奴の首をとってのんびりしたいんだよ」


「何がチャンスだよ。もうさっさと奴を殺したいって話なら、俺たちに任せてもらえばいいだけだろ。直接対決がしたいならマイルズの仕事を待っても良かったし、敵地に飛び込もうなんてのは急ぎ過ぎだ」


「誰もがそう思うなら、誰もそれを予測できねぇって話だ。マイルズの案で俺に会うかどうかをリッキーが悩んでいるところに、俺が先に乗り込んできたとしたら、不意打ちとしては十分な成果が上がる。それに……面白いじゃねぇか」


「面白いかどうかで決めるんじゃねぇよ……アンタは大事なウチの大将首なんだから自重してくれ」


 言うには言うが、結局はサーガの話す通りになるんだろうな。

 俺の経験上、俺がどう考えたところで、結果はすべて彼の手のひらの上だ。


「次は……マイルズの尻でも叩きに行くか。クレイ、奴に連絡しろ」


「話聞いてたか!?」


「聞いてる。だが、わざわざコンプトンまで来てるんだから、アイツの仕事の手助けもしてやろうじゃねぇか」


 何が手助けだ。サーガがマイルズと会ったら、マイルズは焦るだけだろうに。

 狙いとしてはそのまま焦らせて、急がせたいんだろうがな。


 リッキーとの邂逅を急かしているのは明らかなので、ガゼルの策とマイルズの策で競争でもさせようってか。


 いずれにせよ、リッキーの命は長くなさそうだ……

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