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B.K.B 4 life 2 ~B-Sidaz Handbook~  作者: 石丸優一
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C.O.C n N.C.P

「今日、深夜に会えるか? 場所はコンプトンの……」


 そんな連絡がガゼルから入ったのは三日後の夜だった。

 内容こそ電話先では教えてくれなかったが、あちらから連絡が来た時点で何かリッキーとマイルズの情報を掴んだのは間違いない。


「分かった。いや、それは勘弁してくれ。会う時に二人きりなのは問題ないが、仲間も無しにコンプトンには入れない。あぁ、それじゃ」


 一人で来いとのご指名だったが、さすがにそれは無理だ。せめて待ち合わせ場所の近くに仲間が待機している状態じゃないと、コンプトンには近寄りたくない。


「なんだい? 真剣そうな顔をして。コンプトンって?」


 この日、俺はメイソンさんの整備工場でバイクの整備を受けていたところだった。


「聞こえちまったか」


「そりゃあね。例のクリップス絡みだろ。出る前に、ガイには連絡入れときなよ」


 サーガに連絡か。普段であればもうコンプトンに出向く程度では連絡など入れないのだが、確かに今回は重要な情報が得られそうな気がする。

 メイソンの兄ちゃんの言う通り、知らせておいた方がよさそうだ。


「……分かった。そこまで気が回ってなかった」


「はは、俺はおせっかいで通ってるからね。みんなに愛されてる理由が分かるだろ」


「分かるけど、自分で言うと気持ち悪いぞ?」


 言いながら、スパナを手渡す。

 メイソンさんはそれを受け取り、俺のバイクのボルトを締めあげた。


「はい、これでおしまい。次はまた半年後くらいに見せに来なよ」


「ありがとう。お代だ、受け取ってくれ」


 20ドル札をゴムで束ねたものを渡す。色を付けておいた。


「さっすがギャングのお偉いさんは羽振りがいいねぇ」


 お偉いさん、か。俺は新入りの気持ちが抜けないが、仮にもウォーリアーとハスラーに次ぐ、ガーディアンの頭目だもんな。そう見えても仕方ない。


「おだててるのか茶化してるのかよく分からないが、俺なんかよりもお偉いさんだった人間に言われてもなぁ」


「はは、俺らの頃は全く羽振りは悪かったからな。E.T.だろうがなんだろうが貧乏してたよ」


「派手なローライダーに乗ってたと思ったんだが」


「車くらいは盗んできてたのさ。金の話で言えば全然だよ。仮にドカンと入っても宴会で使っておしまいだしね」


 盗んで……か。当時の人間からすると、稼いで車を買う俺たちの世代はお行儀がよい不良なんだな。


「サーガが当時のままじゃなくて良かったよ。連日どんちゃん騒ぎじゃ、俺の身が持たない」


「下戸だからって? ジャックはそんなの関係なしに毎回顔出してたけどね。なんだかんだ、飲まずともみんなといるのが好きだったんだと思うよ。悪態は常についてたけどさ」


 俺だってパーティーやバーベキューは嫌いではないが、何事にも限度ってものがあるだろう。

 当時のB.K.Bは、そんなラインなんか軽々と超えていたとしか思えない。


「ジャックは……胆力が俺の何倍もあったんだろうさ」


「はははっ! 胆力も腕力も、彼はB.K.B随一だったから! あんなに立派な身体をしてるのに酒もクスリもダメだなんて、嘘みたいだよね」


「俺は受け継いでるんだから、嘘でも何でもないってことは分かってるんだけどな。とにかく、サーガに連絡は入れておくよ。ありがとう」


「気をつけてね」


 バイクにまたがり、俺はメイソンさんの整備工場を後にする。


……


 二時間程度でガーディアンの仲間たちに連絡を回し、今夜は五人ほどでコンプトンに向かうことが決定した。

 出発前に、バンを走らせてアジトの教会へと向かう。


「調子はどうだ、ホーミー。ここにサーガは居るか?」


 見張りのウォーリアーが扉の前に立っていたので声をかける。

 ちなみにこの見張りだが、中にサーガが居ようが居まいが必ず一人か二人は扉の前に立っているので、彼らの有無ではサーガの所在は掴めない。


「居るが、来客中だ。中で話してるから、ちょっとそこで待ってろ」


「長くかかりそうなら言伝を頼みたいんだが、どのくらい待てばいいのか分かるか?」


「いや、すぐに終わると聞いてるぜ」


 サーガが来客を教会の中に入れるのはかなり珍しい。

 議員みたいなお偉いさんでもギャング関係者でも、必ず別の場所で会うからだ。


……


「あら、あなたは……?」


 数分後、アジトの中からサーガと一緒に出てきたのは一人の女だった。

 パンツスーツに身を包んだ黒人の女だ。ケリーのような議員だろうか。だったらなぜここに? まさか、サーガの女か?


「それはこっちのセリフだぜ、お姉ちゃん」


 様々な憶測が俺の頭の中を駆け巡るが、整理が終わる前にサーガが回答を寄こした。


「彼女はリリーだ。初めてじゃないはずだがな。サムのガールフレンドだ」


「リリー? いつもの、俺が赤ん坊の頃に会ってたってパターンか。すまないな、リリーさん。俺の記憶には無い」


「えぇ。気にしないで、クレイ。またね」


 リリーは柔らかく微笑み、サーガのエスコートで、傍にあった自車に乗り込んだ。

 B.K.Bのプレジデントだった、サムのガールフレンド、か。

 いったいサーガに何の用があったのか気になるな。


 彼女を見送ったサーガが戻ってくる。

 だが、今はその話題ではなく、コンプトン行きの連絡が最優先だ。


「サーガ、今からコンプトンに向かう。ガゼルが何やら特ダネを掴んだみたいだ。おそらくリッキーとマイルズの話だろう」


「何? それは気になるな。分かった、今回は俺も同道する。ただし、あくまでもガーディアンの一員と偽ってだ。ガゼルとの対面時は、俺だけでも横につけてくれ」


 これはまた思い切ったことを言い始めたな。ただし、ガゼルが突然、妙な事をやってくるとは思えないので、サーガの身の危険はあまり考えられない。


「言ったろ。俺はアンタに従うだけだ。そう言い出したんなら許可するしかないだろうぜ」


「俺が絡むときはそれでいいが、何でもかんでも人に決めさせるなよ?」


「そのくらい分かってる、アンタとメイソンさんは別格だからな。じゃあ、乗ってくれ。すぐに出すぞ」


 サーガを加えたガーディアン部隊がコンプトンに向けて出発する。


……


「こうしてアンタと移動するのも懐かしいな」


「あぁ? そんなに間は開いてないだろ。まぁ、また買い物にでも連れてってやるよ」


 バンの運転はホーミーに任せて、俺とサーガは最後部の座席に横並びで座っていた。

 プレジデントが直々に乗車しているせいで、俺以外のガーディアンたちはすっかり緊張してしまい、車内には俺たち二人の声以外にはエンジン音が響いているだけだ。


「そりゃ楽しみだな。Xboxでも買って貰うか。頼むぜ、パパ」


「ゲーム機なんかねだるな、ガキが」


「傑作だよな。泣く子も黙るB.K.Bのプレジデント様が、おもちゃをプレゼントしてくれるなんて話」


「おもちゃならもうあげたはずだ。火遊びのしすぎには注意しろよ」


 腰の銃がおもちゃか。洒落が利いてるな。


「そういえば、ガゼルからは一人で来るようにとの連絡だった。アンタが横にいるのを許さないかもしれないぞ」


「知ったことか。そんなもんは俺が丸め込むから無視しろ」


 そう言われると不思議と信頼できる。サーガとガゼルが舌戦になったとして、サーガが負ける未来は見えないな。

 ただ、それでへそを曲げたガゼルが情報を売ってくれないという危険性はあるだろうが……それすらも超越してこちらの意見を通してしまうそうだから恐ろしい。


「急な呼び出し、一人での指名、さすがにきな臭いと思ってな。報告しておいてよかった」


「その情報を売って自分のところの大将が落ちた場合は、こっちに寝返るなんて言い出すかもな。ソイツに取っちゃ、自分の進退が懸かった一世一代の大仕事ってわけだ」


「そこまでの話か? 奴は金以外の事は何も考えてないと思うが」


「金は大事だが、自分の命よりは軽いだろ。他人の命はさらに軽いんだろうがな」


 ただ、そうだな。サーガの言う通り、ガゼルが自身の与えた情報のせいでコンプトン・オリジナル・クリップが壊滅なんてことになったら、奴の進退は否が応でも懸かる。


 こちらから情報提供者を漏らすつもりはないが、この辺りでお尋ね者になる可能性も充分にあるわけだ。


「B.K.Bもそうなら、俺はがっかりだぜ」


「何を拗ねてやがる。なんで俺が出張ってるのかくらい、お前は理解しているんだと考えてたが……思い過ごしだったみてぇだな」


「拗ねてんのはどっちだよ、まったく……愛してるぜ、ビッグ・パパ」


  俺たちの会話を聞いているだけのホーミー達からも、いくつか笑い声が上がった。


 車が、「ようこそ、コンプトンシティへ」と訴える看板を通り過ぎる。


……


 夜中だからといって、いつものようにマイルズの家の前に駐車するわけにはいかない。今回はあくまでもお忍びだからだ。


 ガゼルに電話をかける。


「すまない、いつもと場所が違うからよくわからねぇんだが。どの辺りだ?」


 指定の場所もいつもとは違い、どこぞのショッピングモールの駐車場との事だった。


「何? デカい店だから分かるはずだがな。地図を送ってやるから確認しろ」


 送られてきた地図を確認すると、ショッピングモールどころかコンビニすらもない空き地だった。

 しかし、そう言われてしまってはそこへ向かうしかない。


「サーガ、どう思う?」


「冗談のつもりか、情報が古いのか、ただの間抜けか。一度ここへ向かってみて、デカい店が実際には無かったら連絡した方が良いな。奴がその場にはいないって証拠になる」


 待ち合わせ場所をわかりづらくする意味はないので、ガゼル自身もその場所に行くのが初めてなのかもしれない。


 サーガの指示通りに地図の場所へと向かうと、確かにショッピングモールがあった。大きいかと聞かれたらスーパーマーケット程度の微妙なサイズだが。


 つまり、地図の情報が古いということだ。最近できた店なのかもしれないな。


 俺の携帯電話が鳴る。


「今、駐車場に入ってきたバンか? 俺は店の裏手にいるから回ってこい」


「分かった。遅くなって悪かったな」


「構わねぇよ。急に呼び出したのはこっちなんだからな」


 ガゼルからはこちらが見えていたようだ。ちゃんと時間前に来ていたんだな。

 ひっそりとした夜中の駐車場内をぐるりと回り、ガゼルがいるのであろう裏手、エアコンの室外機が立ち並ぶ場所へと車を進める。


「クレイ! こっちだ!」


 手を上げ、こちらに存在を知らせるガゼル。近くにジープのラングラーが停まっている。意外にいい車持ってんだな。あるいは盗難車か?


 ホーミーがバンをそこに横付けした。俺とサーガの二人だけが降りる。


「俺の車の中へ。おっと、そっちは誰だ? 話すのはクレイだけだ。大人しく自分たちの車の中で待ってろ」


「お断りだ。クレイだけ積んで、車を移動されちゃ困る。見ての通り、こっちの車はドン亀みたいな図体でな。追いかけっこ向きじゃねぇんだ。だから、俺は大将を連れ去られないための保険だな」


 大将はアンタなんだがな。ガゼルがどう返すか見ものだ。


「ふざけるな! 話すのはクレイだけだ! 犬は犬小屋に帰れ!」


「だったらその車のカギと、ダッシュボード、アームレストの中身を全部渡せ。ついでに腰にさしてる銃もだ。話が終わるまでこっちで預かる」


 つまり、俺と二人きりの間は、車内や手元で触れる範囲のものを全部没収するということだ。

 絶対に承諾しないからこそ、自分が居座るのを認めさせるわけか。


「そんなもん、許可できるわけなぇだろ! 頭おかしいんじゃねぇのか、てめぇ!」


「キャンキャンうるせぇガキだ。犬小屋に帰るのはてめぇの方じゃねぇのか? あんまり調子に乗ってると、この場で撃ち殺すぞ」


「なっ!? 上等だよ! 思い知らせてやる!」


「やめろ、二人とも!」


 俺が間に入らなければ、ガゼルは本当にぶっ放す気になっていたのではないだろうか。

 サーガもわざわざ焚きつけるような真似をして、この場に居合わせれなくなったらどうするってんだよ。


「クレイ、コイツは何なんだ? こんな野郎がいたんじゃ、大切な話ができやしねぇ。俺だって険悪なのは御免だぞ」


「……何なんだといわれてもな。ただ、俺は彼にもいてもらいたいと思ってる。せめて、車内じゃなくここで話せないか? 他のホーミーには離れてもらっておく。それなら必要以上の武装解除も無しで良い」


 ガゼルの車に乗り込まないのであれば、二対一であるだけで危険性は薄いと言えるはずだ。

 ガゼル、そしてサーガも頷いた。やれやれだぜ。

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