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B.K.B 4 life 2 ~B-Sidaz Handbook~  作者: 石丸優一
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Learn! Friend

「少し質問を変えさせてくれ。お前の身に何があったんだ? そこまでB.K.Bに対して強い執念があるってのも、尋常じゃねぇ気がするんだが」


「……別に、俺自身に何かあったわけじゃねぇ。そっちも詳しく話してやるつもりはねぇよ。とりあえず、お前らも気をつけろよ。敵対、同盟、どっちにしろ自分らのギャングセットの体制が大きく崩されることになる。悪いことは言わねぇから、B.K.Bには絶対に関わるな」


 心配してくれるのはありがたいが、B.K.Bに所属する身としては、リッキーは誰かの口伝で何か大きな勘違いをしているとしか思えないな。

 敵対は確かに手ひどく被害を受けるだろうが、味方になったセットはどこもピンピンしている。


 仮にB.K.Bの勢力が必要以上に大きくなったとして、サーガが周りのギャングを片っ端から潰して回るような暴走をするはずもない。

 というか、昔のB.K.Bもそんなことはしてないんじゃないのか?


「小難しい話はやめとこうぜ。ポリの事情聴取じゃねぇんだからよ」


 マイルズは俺から奪った二本目を開け、お次はガゼルの飲みかけのビール缶をぶん取った。


「あっ、おい! この野郎!」


「へへーん! 油断する方が悪いんだぜ!」


「一番油断してる奴が何言ってやがる!」


 しかし、マイルズの言った通り、B.K.B絡みの話はここまでとなりそうだ。他に、持って帰るべき情報はないだろうかと思案する。


「あー……コンプトン・オリジナル・クリップのシマはどの辺りにあるんだ?」


「ここから西にちょっと行ったエリアだが、俺らにとって、シマなんかあんまり意味はねぇぞ」


「どういうことだ?」


「確かに俺らはギャングだが、地元を守るっていうよりはあちこちに散ってる形だからな」


 リッキーだけではなく、他のメンバーもか。ガゼルも余所で売りをやってるのはそこから来ているらしい。

 ただ、リッキーはその中でも居場所が掴みにくいらしいので、方々に散っているメンバーに会ったり、何かと飛び回っているのだろう。


「今回、ガゼルの手引きでこうやって会えたわけだが、リッキーはここで何をやってたんだ?」


「俺にはわかるぜ! 殺しだろ! そんな物騒な道具なんか持ってよ!」


 俺の質問になぜかマイルズが自信満々で答える。

 そして、リッキーもそれは否定せず小さくうなずいた。


「大体そんな感じだ。だが、俺も私怨で動いてるばかりじゃない。こういった雑用も必要なんだよ」


「殺しを雑用とは大きく出たな。ボス自ら出張ってきてやる仕事でもないと思うが」


「誰かに任せて、イモ引いてもらっちゃ困るからな。俺は仕事に関しちゃ真面目なんだぜ?」


 他のギャングが殺しを依頼するというのは考えづらい。自前の構成員を使うだろう。となると表の人間か、汚れ仕事を嫌う小綺麗なマフィアあたりの依頼だろうか。


「そう考える奴が、俺らを速攻で脅すってのもおかしな話だな」


「関係ねぇだろ。何せ俺はお前らの事が分からないんだ。脅してでも相手の腹の内を探ろうってのが人情ってもんだろ」


「それは人情って言わねぇんだよ……しかし、これから殺しの仕事とは恐れ入ったな。成功しそうなのか? ミスってパクられたりしないでくれよ、兄弟」


 これは俺の本心だ。リッキーが捕まってしまったら直接手出しできなくなり、少々厄介なことになる。

 中にいるホーミーに連絡して、塀の中で殺してもらうことになってしまうからだ。


 いや、そもそも殺すのか? 殺すとしてもすぐなのか?

 サーガが、コンプトン・オリジナル・クリップに対してどう攻撃をしたいのか、話し合っておく必要があるな。


「でもよ、そんな銃だ。どうせ狙撃するんだろ、兄弟! 俺ならバーッとやってガーッとぶっ放すぜ!」


 リッキーの道具はアサルトライフルだ。どうとでも使えるが、リッキーの性格上、確実に標的を殺すために狙撃だろうな。

 このマイルズの意見にも頷ける。


「当然だ。スカーフェイスみたいに派手にやりたいんだろうが、あんな真似はムービースター以外には出来ねぇよ」


「そうしてくれ。勝手に死んだりすんなよ。いつかてめぇを殺すのは俺だ」


「はっ! 楽しみにしておくぜ、クレイ」


 仕事の時間が近づいてきたのか、リッキーは銃をケースにしまい始めた。担いで狙撃ポイントまで移動するらしい。

 目出し帽まで被って、さながらスナイパーだ。とてもじゃないがギャングには見えない。これは始めからだったが。


「じゃあ、俺らも戻るとするぞ。ついて来い」


 ガゼルがそう言って椅子から立ち上がった。特に反対する理由も、リッキーの仕事を止める理由もないので俺たちはそれに従う。

 標的とされた人間は気の毒だが、誰の恨みを買ったことやら。


「リッキー、またな」


 去り際に声をかけると、奴は軽く手を挙げて返答してくれた。


……


 表で待たせていたホーミーとも合流し、ガゼルがクスリを捌いている空き地まで戻ってきた。


「しまったな。リッキーと連絡先を交換するのを忘れてた」


「馬鹿言え。教えてもらえるわけないだろ。用事があるなら俺が窓口になってやるから連絡しろ」


 リッキーが俺よりも格上だから聞けないという話ではなく、性格上の問題だ。あまり自分の情報を出したがらない男なのは分かっている。


「また会えると良いなー! 次は、もうちょっとフレンドリーになってると思うぜ!」


「俺もそれを望むよ。ガゼルはどうだった? 俺が撃たれると思ったか?」


「冷や冷やしたのは確かだな。俺だってリッキーの行動や感情は読めねぇよ。さっと殺すときもあれば、今日みたいに銃を引っ込めることもあるらしい。だから、次はフレンドリーになってるとか変な期待はするな。今日よりも次の方がキレてたりしても、何も不思議なことはねぇんだからよ」


「んだそれ? ひねくれ者かよ! 叩き直してやろうか!」


 一緒に過ごした時間の長さと親密度はイコールではないというわけだ。

 逆を言えば、新しい知り合いでも奴の懐に潜り込める可能性があるということだろうか。


「……リッキーはああいう奴なんだよ。諦めろ。じゃあ、俺はここまでだ。またな、お前ら」


 ガゼルは俺たちを送ってくれたというよりは、ここでいつものように仕事を始めるだけだ。


……


 最後にマイルズを奴の家まで送り届けて、俺たちは車に乗り込んで地元へと撤収だ。

 マイルズが退屈だからついてくると駄々をこねる可能性もあったが、疲れたからもう寝ると、案外聞き分け良く家の中へ引っ込んでいった。


「やっと家に帰れるぜ。リッキーはどうだったんだ、クレイ?」


 帰りの運転を引き受けてくれたホーミーが俺に訊いた。


「いかれてるのかいかれてないのか、掴みどころがない変な男だったな。あれは説明が難しいから、会うしかねぇよ。そもそも、味方であるはずのガゼルも大将の事を良く分かってねぇくらいだ」


「確かにガゼルもそんなこと言ってたか。サーガへの報告も中途半端になっちまうな」


「だが、会えたってのは大収穫だ。それに、B.K.Bへの攻撃の関与も認めた。前々からいろんなセットを先導してぶつけてきてた黒幕がアイツだったら、ぶち殺して一件落着なんだがな」


 リッキーが関わっていたのは、あくまでもサーガの病室にヒットマンをけしかけた件だけだ。連絡役だった男女を殺したことで、計画が失敗していることは伝わっているだろう。


 ただ、引っかかるのはそこまでの大仕事を他人に依頼した点だ。今しがた受けていた殺しの仕事は、自分で行くと言っていた。


「……それくらい、危険で成功させるのが難しいと、最初から分かっていたということか?」


「あん? 何の話だよ?」


「リッキーだ。サーガの病室に、なぜ直接出向いてこなかったのかと思ってな」


「もし本人が来てたら、今頃はとっくに死んでて、それこそ話はおしまいだったのにな」


 サーガはそう簡単に殺されてくれない。リッキーは返り討ちにあって命を落とす。予想は俺と同じだな。


「腕っぷしは強そうだったか?」


「いや、そういうタイプには見えなかったな。闇討ちなんかで後ろから刺す、弾くって感じの男だ」


「陰湿な野郎だ。タマついてねぇんじゃねぇのか」


「言ってやるなよ。そういうやり方を得意とするギャングや悪党なんて、ごまんといる」


 割と打算的なようで直情的な行動も得意とするのがウチの大将、サーガだ。

 しかしリッキーの場合は、直情的に見えて仕事は丁寧にやる。だが、自身が出張って殺しも行うので、成功率や危険度を天秤にかけているのだろう。


 自分が死んでしまうような仕事は誰かに任せ、そうでない限りは自身の足で現場を飛び回る。


 ホーミーが言うように好き嫌いはあっても、俺の目から見て、奴は頭を張れるだけの人物だとは思った。ふんぞり返るだけのお山の大将ではない。


……


「本当か! それは思ってた以上の大手柄だぞ、クレイ!」


 サーガに報告を済ませると、手放しで喜んでくれた。いつものすかした感じ、冷めた感じで「ご苦労さん」とでも言われれば上々だと思っていたんだがな。

 むしろ、それほどに交流を持っておきながら、リッキーの顔写真がないのを叱責されてもいいくらいだ。


「奴がB.K.Bに恨みを持ってるのは間違いない。その理由までは話してくれなかったが、昔に何かあったんだろうぜ」


「理由なんざ二の次だ。ガーディアンに任せっきりだったが、本格的にコンプトン・オリジナル・クリップのために動き出さなきゃならねぇな」


「本格的に? まだ奴が黒幕だと決まったわけじゃないぞ?」


「いや、俺はビンゴだと踏んでる。他セットとも連携して探りを入れるぞ。さすがにイーストL.A.からコンプトンを監視し続けるのは無理があるからな。ただ、お前らも仕事がなくなってサボってる暇が出来るわけじゃないぞ」


 長年の勘ってやつか?

 しかし、これを拒否する理由は俺には無いので頷く。


「そうなると、ガーディアンの次の仕事は何になるんだ? コンプトンには向かわなくていいのか?」


「馬鹿言え。監視は余所にやらせても、リッキーと直接関われるのはガーディアンだろうが。頻繁に出入りして勘ぐられるのは避けたいが、一定期間ごとに会いに行くようにはしておけ。理由は何でもいい」


「分かった」


 多少はコンプトンに行く頻度は減りそうで、少しは肩の荷が下りた気分だ。

 だが、またリッキーに銃口を向けられるのかと思うと、そこだけは憂鬱だな。殺されるなんてのはさらに御免だ。


「どんな男だったのか、詳しく聞かせろ」


「そうだな。体型は小柄で、見た目も若い。ギャングスタっぽい印象は全くなくて、その辺にいる大学生にしか見えない奴だった」


「それは、狙ってそうしてるんだろうな。本来、娑婆僧がトップじゃ示しがつかねぇ」


 言われてみればそうかもしれない。リッキーはあんな感じだが、ガゼルはどこにでもいるようなドラッグディーラー、ハスラーを受け持つギャングスタといった印象だ。


 リッキーが下の人間に舐められないのは、見た目とは全く関係ないところであるのは理解できるが、もし仮に舐められる可能性があるとしても、それ以外のメリット、たとえばギャングに見られない方が活動しやすいという点を重視しているのが分かる。


「ただ、殺しの仕事も自身で出張って請け負っているようだった。あんたのとこには殺し屋を送ったのにな」


「全部自分でやるわけじゃねぇんだな。反対にあのヒットマンも、リッキーの探りを入れるのに使ってやろう」


「それは名案だ。で、奴を殺したら試合終了か?」


「さてな。次の頭に差し代わるだけかもしれん。敵は全部殺すだけだ。リッキーに関しては、殺す前にもう少し知っていることを吐かせたい」


 であれば殺す仕事はウチでは請け負いたくないものだな。リッキーをやっても、次々とターゲットを入れ替えて殺しの仕事が続くなんてのは地獄だ。


「ノース・コンプトン・パイルのマイルズもその場にいたが、今後何かに使うか?」


「要らねぇ。むしろ遠ざけろ。俺と関りのない奴はたとえブラッズサイドでも信用ならん」


「妙な奴ではあるが、何か出来るほどのタマだとは思わないぞ」


「裏を返せば、味方でも使えねぇってことだろうが。使えるならリッキーに向けた鉄砲玉にしてやっても良いが、こなせやしねぇよ」


 サーガの言葉は酷いものだが、確かにそれは否定できない。ムードメーカーとしては最強格なんだけどな。

 

「つかず離れずでいくよ。遠ざけるのは無理だ。アイツはそういうのを嫌う」


「あんまりベタベタしてっと、クレイはゲイだって言いふらすからな」


 ギャングスタが同性愛なんてタブー中のタブーだ。馬鹿にされるだけならまだしも、セット内の風紀を乱したからと殺されてもおかしくない。

 苦笑を残し、俺は教会から出たのだった。

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