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B.K.B 4 life 2 ~B-Sidaz Handbook~  作者: 石丸優一
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Learn! C.O.C

「リッキーに会う、だと? 何のメリットがある? こちらにも、お前らにもだが」


 鎧袖一触されるかと思ったが、意外にもガゼルはマイルズや俺に向けて質問をしてきた。返答次第ではいけるんじゃないかという期待がホーミーたちにも走る。


 それにしても、マイルズのアシスト力の高さには脱帽だな。

 フットボールで言えば、敵陣のワイドレシーバーに絶妙なパスを出せるクオーターバックってところか。


「メリットねぇ……俺はただ単純にどんな奴か気になるだけだぜ? ブラッズのトップとクリップスのトップがその場にいるってだけで面白そうだしな!」


「面白いとかそんな話で会わせられるはずがねぇな。却下だ、マイルズ」


「あー、お前の懐が温まるっていうメリットはあるかもしれねぇな?」


「クレイ、またそれか。俺だってボスは売れねぇぞ。ただのしがないドラッグディーラー風情によ。それこそ行き場を失っちまう」


 さすがにそこだけは金の力でも揺らぎはしないか。


「リッキーってのは、他のギャングに対しては寛容なのか? その、俺やマイルズみたいなブラッズに対してって意味だが」


「どうだろうな。どこぞと仲良くしてるって話は聞かない。ただ、俺がこうやって敵地で商売していることは特にお咎めなしだからよ。ガチガチの石頭ってほどでもねぇ」


「マイルズはクリップスに対して何もねぇのか? 恨みとか敵対心とか」


「いんや、基本はぶっ殺してるぜ。でもリッキーってのはガゼルのボスなんだろ? だったら俺とも兄弟だ。それだけのことだぜ」


 ガゼルにはクスリをさばいてもらい、今はこうやって同じ卓で飯を食っている。仲がいい奴がいれば、その身内も兄弟分。実に分かりやすく簡単な理由だ。


 だが、俺たちはそれを壊して、ガゼルともどもコンプトン・オリジナル・クリップを潰さなきゃいけないんだけどな。

 その時、マイルズはどっちにつくんだろうか。


 ただ、これは杞憂に終わるだろう。この先、コンプトン・オリジナル・クリップとB.K.Bが戦争になったとして、マイルズの……ノース・コンプトン・パイルだったか。そこが喧嘩に関わるとは考えづらい。


「ま、話くらいはしておいてやるさ。だが、俺がリッキーと会うなんてのは滅多にない。奴はいつもどこにいるのかよく分からないからな」


「妙なギャングだな。ボスの行方が分からないなんてよ。もしかして、シマやアジトもないから話せないってクチか?」


「それはもちろんあるが、わざわざお前らをそこに案内してどうするってんだ。確かに俺はマイルズの家の場所を知っちまったが、だからって何も仕掛けるつもりなんかねぇよ。不公平だなんて言われても却下だぜ」


 すぐには厳しいか。

 しかし、リッキーへの足掛かりは手に入れた。あとはガゼルがソイツに連絡を取ってくれるのを待つべきじゃないだろうか。


「んだよー、リッキーってのはコソコソ動くタイプかよ!」


「それは俺も知らねぇよ。どこにいるかは不明でも、派手に何かをやってるかもしれねぇだろ」


 派手に何かを、か。B.K.Bに対してヒットマンを送り込んできたくらいだ。何かやってるってのは明白だ。


「ガゼル、お前と会いたいときはさっきの場所が確実か?」


「あぁ。大抵はあそこにいるな」


「分かった。リッキーについては、近々会えるのを楽しみにしておくぜ」


 やはり退くべきだろう。マイルズはつまらなそうな顔をしているが、さすがにここらが限界だ。


「だから俺にはどうしようもねぇって。話をしてやるだけだ」


「ガゼルの口約束だけかよー? 信頼度が全くないな! まぁ、いいけどさ」


 マイルズは話を切り上げ、料理に集中し始めた。


「ガゼルのところはどのくらいの歴史があるんだ?」


 C.O.Cについてこの程度、多少の話を聞くぐらいは問題ないはずだ。


「数カ月だな。本当に若いギャングセットだ。期待の新星って覚えとけ」


「できたばっかりのセットだから、古臭いルールはないってわけか。それならお前がこうして自由に動いているのも、ボスがいつもいないっていうのも納得だな」


「何かデカい仕事でも企んでそうだなぁ!」


 マイルズの言葉でハッとする。

 やはり、コンプトン・オリジナル・クリップがここ最近、B.K.Bを執拗に狙ってきている黒幕そのものなのか?


 その名が判明したのは例の男女を殺した時だが、それ以前から妙な連合を組んだギャング共が波のように、引っ切り無しに俺たちの地元へ押し寄せていた。


 元からそれをするために立ち上げたギャングセットだった、という風には考えられないだろうか。

 だが、B.K.Bに何の恨みがあっての事だ?


 コンプトンには俺たち以上に影響力のあるブラッズだって、いくらでもいるだろうに。


「立ち上げ当初から息巻いてるのは事実らしいからな。何をするなんて話は知らねぇが、企んでるっていうマイルズの予想はあながち間違っちゃいねぇさ。むしろ、俺も何かやらかしちゃくれねぇかと期待してる」


「派手で面白そうだもんな! 何か分かったら教えろよ!」


「馬鹿言え! 口が滑っても言えねぇだろ。クレイ、これも金次第だなんて思うなよ?」


 俺にというよりは、自戒のつもりだろう。金に目が眩まないよう、自分に言い聞かせているだけだ。


「つれねぇこと言うなよ。仮に何かを知ったところで、俺たちは邪魔立てする理由なんかない。面白そうな話があったら教えろ。別に、お前から流れた、だなんて誰も気づきゃしねぇだろ」


「そうだぜ! 祭りは大人数が楽しいんだからよ!」


 別に、マイルズにまでガゼルから買った情報を教えてやる義理もないんだがな。


「これをガゼルにお願いするのも変な話かもしれねぇが、イングルウッドに手出しなんかしねぇでくれよ? というか、そういう話はいち早く伝えてくれ」


「約束は出来ねぇ。だが、善処してやるよ」


 本当のところは、イングルウッドに何か被害が及ぶようなことがあったとしても、俺たちB.K.Bには何の関わりもない。


 だがイングルウッドのブラッズギャングだと名乗っている以上、一応は地元を気にかけているフリだけでもしておく。


「おっと! ウチのシマにも手ぇ出すなよ!」


「それも俺に裁量権なんかねぇんだよ。だが、マイルズのところはほぼ俺の売り場みてぇなもんだからな。悪いようにはしねぇさ」


「へっ! そうならないためにリッキーと話すんだろ!」


「あぁ? それは……たしかにお前の言う通りなのかもしれないな」


 またマイルズのアシストが上手く決まった形だ。これならガゼルもある程度はリッキーと俺たちを引き合わせるのに注力してくれるかもしれない。

 最悪の場合、俺たちがいなくともマイルズだけがリッキーと会うのも悪くない。


 その時の場所やリッキーのナリ、その辺りの話を聞ければ良いからだ。

 写真は難しいかもしれないが、マイルズならその明るい人柄でごり押して、自身とリッキーのツーショットを撮ってくる可能性もあるな。


……


 食事が終わり、シェリルに別れを告げた。

 マイルズやガゼルとも、マイルズの家の前で一旦お別れとなる。


「じゃあ、俺たちは地元に戻るとするぜ。数日内にまた来ると思う。マイルズ、ガゼル、その時にまた会えるか?」


「もちろんだぜ、兄弟!」


「リッキーの件はひとまず保留だが、俺はいつでもあの辺でクスリを捌いてるぜ」


 悪くないリアクションだ。関係を持てず、あるいは仲違いするほどの関係値の低さではないだけでも良しとする。


「クレイ、乗れ。そろそろ戻るぞ」


 バンの運転席から、ハンドルを握るホーミーの声がかかる。他の仲間はすでに乗車済みだ。


「あぁ、それじゃあな」


 マイルズにはbのハンドサインを送る。奴はpのハンドサインでそれに応じた。ノース・コンプトン・パイルの「パイル」から取った頭文字だろう。


 ちなみに、最初期の「パイル」というギャングはブラッズを結成した際に中心となった伝説のギャングだ。パイル、ビショップ、バウンティー・ハンターなどが集まって、クリップスに対抗するために連合したのがブラッズの発祥である。

 そのパイルにあやかってマイルズのセット名にはそれがつけられているというわけだ。実際に元祖パイルと縁がある可能性も高い。


「ようやく帰れるか」


「はぁ……コンプトンは居るだけで胸がつまりそうになるぜ」


「おっかねぇんだよな。今回は、話も通じねぇような危ない奴らと出くわさなくて良かった」


 発進した車の中で、ホーミーたちが口々にそんな意見を漏らす。

 俺もコンプトンは正直苦手な街だ。マイルズやガゼルが一緒にいたおかげで多少は気が紛れていたが、それでも俺たちの地元に比べると何倍も居心地が悪い。

 たとえ、ブラッズのテリトリー内であろうともだ。


「ガゼルの野郎、リッキーにつないでくれるかね?」


「また出てくるのも面倒だ。マイルズにやらせちまおうぜ」


「それが出来れば世話ねぇがな。結局また、俺たちの出番だろうぜ」


 その俺の言葉に、ホーミーたちから落胆と非難がましい感情が伝わる返答が返ってきた。


……


「そうか。よくやった」


 聖書に視線を落としたまま、教会内で俺の報告を受けたサーガは、短くそう言った。

 よくやったとは意外だな。もうちょっと情報を持ってこいと叱られるものだと思っていたが。


「ただ、リッキーとの接触の機会は確定じゃねぇ。アジトも割り出せなかった。その点は申し訳ないと思ってる」


「お前が既に一丁前の人間だなんて思ってねぇよ。ガキにしては期待以上だったから褒めてるんだ。こっちの正体も明かしていないようだしな」


「んだよ、それ」


「ほら見ろ、ガキはすぐに拗ねやがる。まぁ、そのC.O.Cのハスラーだったか? ソイツと繋がってるんなら、再度の調査はいつでも可能だ。いずれリッキーの尻尾は掴める。焦らず続けろ」


 ガゼルを信用しすぎるのもどうかと思うが、マイルズも交えて、上手く利用してやりたいところだ。


「ところで、ノース・コンプトン・パイルのボスとも知り合ったんだが、アンタは奴の事を知ってるか? マイルズって派手な男だ」


「知ってる。馬鹿だが、悪い奴じゃねぇはずだ」


 知ってるのか……世間は狭いとは言うが、サーガの場合は顔が広すぎるだけだろうな。


「確かに悪い奴ではなさそうだった。そっちには俺たちがB.K.Bだってのは話しちまったが、何となく知ってるくらいのリアクションだった」


「頭が悪いからな。物覚えも悪いんだろう」


「C.O.Cのドラッグディーラーにはイングルウッドのブラッズだと名乗ってるんだが、マイルズにも口裏を合わせてもらってる。ノース・コンプトン・パイルとウチとはどういう関係なんだ?」


「大した関係はねぇ。他の用事でコンプトンに出張った時、酒場かどこかで話したことがあるくらいだな」


 本当に大したことのない出会いだ。しかしそれなら忘れているマイルズよりも、覚えているサーガの方がおかしいのではないだろうか。


「酒場? そんな大層な場所にマイルズがいたのか」


「いくつかのギャングセットの頭が集まってる会合だった気がするな。誰かがラップの曲を出すとかで、その集客みたいなもんだ。デカいイベントだったから覚えてる」


 普段は連携したりすることのないギャングたちが集まるのは珍しい。だが、ギャング出身のアーティストがイベントを打つのはよくあることだ。それならば納得できる。


「酒場と言ってもクラブみたいなもんかよ」


「そうだな。デカい音楽と安い酒のせいで、終始、耳がキンキン鳴ってやがった」


 サーガも音楽は聞くが、基本的には静かに読書できる場所のほうが好きなはずだ。付き合いとはいえ、よく耐えたものだ。


「C.O.Cの件はそのマイルズのところと協力しようと思っててな。というのも、奴もリッキーに会いたがってたんだ」


「クリップスにか? 変わった野郎だ」


「ウチだってクリップスサイドで味方についてるところもあるだろう。B.K.Bほど変わったセットなんかねぇと思うぞ」


 自分事は棚に上げるとは正にこの事だな。


「まぁ、マイルズと連携ってのは好きにすると良い。リッキーまでたどり着け。その先は俺の仕事だ」


「戦争か?」


「俺にヒットマンを送るようなセットだぞ。そんな腰抜けが正面切って喧嘩してくれたら、これ以上ないほど嬉しいんだがなぁ」


 前面戦争が嬉しいと来たか。自身は策謀を張るわりに、敵方の小細工に付き合うのは嫌いらしい。

 ウチはわがままな大将を持ったもんだぜ。

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