ある一人の社会人編 1
死んだと思ったら生きていた。
俺も何を言ってるが分からない。
赤信号を無視するトラックに轢かれそうになっていた少女を助けるために身代わりになったら、
いつの間にか森の中の芝生に寝転がっていた。
どこだよここ…。
体は痛くないし、外傷もひとつもない。
とりあえず歩き回ることにしよう。
どんどん歩いて行っても見えるのは草原と木だけで東京のコンクリートジャングルは見えそうにもない。
ここもしかしてあの世ってやつじゃあないのか!?
だとしたら合点がいく。
いやぁ、会社に入社してまだ2年目。
彼女も居ず、たいした人間関係もなく。
誰かに慕われることなんて一度もなかった。
それでも最後にあの少女を助けることができただけで俺は満足だ。
何の価値もないと思っていた俺の人生。
500円ぐらいの価値にはなったかな?
はぁ…。
悔いはないといってもさすがに暇だな…。
天国にしては娯楽もないし、なんか腹も減ってきたぞ。
そういえば天国?天国だよなここ?地獄だったら萎えるぞ。
誰か天使でも神様でも人でも誰かいないかなぁ…。
「きゃあああああああああああああああ!!!!!」
おっと早速人がいたようだ。でも明らかに悲鳴だな。
どこにいるかは分からないけど、助けに行かなければ!!
「おーい!!どこだぁああ!!!」
「おーい!!おーい!!」
取り合えず声のする方へ全力で走る。
この声の高さは女の子か?
とにかく無事でいてくれよなぁ…。
!?。
確かに少女はいた。
だが同時に、なんかでっかい化け物がいた。
「君!!大丈夫か!?」
「あ…あ…。う…。」
少女の顔はまるで西洋人で金髪だった。
少女は地面に仰向けになって倒れている。
なにがあったんだ?
よく見ると少女の下半身はなかった。
代わりに夥しい程の血と肉片があった。
そして化け物の口元にはべっとりと血がついている。
「こいつ…。少女の下半身を食いちぎったな!!」
「グルル…。」
鋭いまなざしで俺を見つめる。
やばい。あの目は明らかに俺も狙っている。
まるで食事中にもう一皿料理が来たって感じの目!!
逃げるか?少女を置いて逃げちまうか?
多分そうしたら俺は助かるだろう。
しかも少女の下半身はもうないのだ。
もう助かるわけがない。
助からない命に命を懸けるなんてことしたくない。
せっかくトラックから助かったんだ俺は。
やっぱ逃げるか…。
俺は足を後ろに向けて逃げようとする。
でも脳裏にあの子の顔が焼き付いちまってる。
あの子は助からないから逃げようとか考えてたけど
結局は怖いんだあの化け物が。
助けようと思っても足が前に動かねぇ。
一度頭で逃げ口を作ってしまったらもう逃げることだけに能が縛られちまうんだ。
幸運かどうかは分からないが、化け物は後ずさりしている俺を襲おうとはしない。
このままゆっくり後ずさりすればきっと逃げれるだろう。
「グルル…、グラァァォオ…。」
化け物は俺にそっぽを向いて少女にもう一噛みしようとしている。
助かるんだ俺は…。
「お…、おかあ…お母さん…。」
少女から微かにそう聴こえた。
その瞬間俺は前に思いっきり走り出した。
なんで前に踏み出せたのかは分からない。
どうせあの子は死ぬだろう。
だとしても俺は…、
人を見捨ててのうのうと逃げようとする自分が恥ずかしくなった。
「うおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!!!!!!!!」
化け物の体に思いきりタックルする。
だが化け物は怯むことなく、俺を強靭な前足で弾き飛ばした。
まるででっかい狼のようなその化け物は、思いきり鳴いた。
「ガオオオオォォォォォォオオオウウウウウゥ!!!!!!!!」
俺は木に叩付けられ、なんとか立ち上がるもすかさず鋭い爪で斬りつけられた。
俺の右手は吹き飛ぶ、血しぶきがあがった。
「痛ッテェエエエエエエエエエエッェエエエエエ!!!!!!」
激痛が走る。
俺は勇気という名の魔法から目が覚めた。
目の前にはあるのは、絶望と恐怖と、化け物のでっかく開いた口だった。
グシャァァァァアアアッ!!!!!
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