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世界樹の下でぼくらは戰う理由を知る  作者: 長崎ポテチ
4章 轗軻不遇の輪舞曲
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割と長いコースとお披露目

 正月が過ぎ、カタリナは子供達の訓練をより高等なものへとしようと模索していた。

 夜中、子供達の寝顔をしばらく眺めると、1つの結論を出す。


『ふむ、『地獄のフルコース』をしても我が子なら耐えられるかもしれんな』


 『地獄のフルコース』

 それはかつて自分の師より「最終試験」の名目で与えられた地獄の鍛錬である

 ここ数日、アリサは元より、ビッキーとレオの戦闘能力の高さにカタリナは驚いていた。

 先日、カタリナは今までの訓練の成果を確かめるべく、1人ずつではなく3人を同時に組手をしたところ、もう少しで負けてしまう程追い詰められてしまった。


「あーあ、姉さまとレオがいれば勝てると思ったのに残念ニャ」

「ふむ、まぁいい線だ。私は嬉しいぞ」


 カタリナの発言は嘘である。少し大人気ない形で何とか師としての面目は保ったが『もう少し若ければ嫉妬していた』とカタリナは考える程に、アリサ達は著しい成長をしていたのである。


 カタリナは『地獄のフルコース』に今思い出しても身震いする程の嫌な記憶が残っているが、今後を考えれば自分より才能ある者たちに何もしないことのほうが1つの虐待であるとの結論に至っていた。


「やるか。ただ『地獄のフルコース』と言う名は少し教育に宜しくないな。少し変えるか」


 子供達の寝顔を確認したカタリナは、静かにドアを閉めると、準備に取り掛かった。



 翌朝、カタリナはアリサ達を裏庭に呼び出すと「大事な話がある」と姿勢をただした。

 その緊張感につられ、アリサ達は自然と正座でカタリナの次句を待っていた。


「ふむ、お前たちは強くなった。私はそれを誇りに思う」

「ありがとうございます」


 アリサは真っ先に答えた。それに追従する形でビッキーとレオもそれぞれカタリナに御礼の気持ちを伝えた。


「だが、より強くなくては私を超えられん。そこで、お前たちにスペシャルなコースを用意した」

「スペシャルなコース?」


「ああ、その名も──」


 カタリナはニヤりと笑い、自分に注目を集めた。

 アリサ達は生唾を飲み込み、カタリナのコースとやらの発表を待った。


「超ミラクルデラックスアンビリーバブルスーパースペシャルサウンドウルトラサイバーダイナミックコースだ!」


 ドヤァとカタリナは腰に力を入れ、決めのポーズを3人に向けて取った。

 この名前をつけるため、カタリナは少し寝不足である。


 『ニャ、長い』

 ビッキーは堪える。

 突如として主から告げられた意味不明な長文に腹筋に力を入れる。

 だが、この状況にレオがとんでもない暴言をボソッと呟いてしまう。


「な、長いの……覚えられないの……」


 的確なレオのツッコみに、ビッキーは「言うな!」とばかりに俯きながらレオをペシペシと叩いて噴き出すのを抑えた。


 一方アリサは、カタリナの独特な言葉のセンスにどハマリし、目を輝かせて「かっこいい」と尊敬の眼差しを浮かべていた。


「奥様、その超ミラクルデラックスアンビリーバブルスーパースペシャルサウンドウルトラサイバーダイナミックコースとは、具体的に何をするのでしょうか?」


「え、今の一回で覚えたの? 姉さまどうかしてるの……」

「ぶふォ……レオ、やめるニャ。これ以上喋るニャ」


 『覚えたんかーい! 姉さま、一発で覚えたんかーい』とビッキーは心で叫ぶ。

 それに対してツッコんでしまうレオに、『やめろ』と念を押すように、ビッキーはレオの太股をつねってお互いを落ち着かせた。


「ふむ、この超ミラクルデラックスアンビリーバブルスーパースペシャルサウンドウルトラサイバーダイナミックコースとはな──」


 名前のインパクトにやられ、ビッキーとレオはカタリナの説明が入って来なかった。

 ただ、訓練が少し辛くなったとビッキーは後に語ったと言う。


──────────


 1ヶ月後──


 ファラク邸の裏庭の奥にある、崖にしては低い地層は巨大な扉になっている。

 この日、その扉が妙な機械音を出して開いた。


 その扉の奥にはクライドンが横たわっており、その両目が淡い緑色に光ると、少しの間その場で沈黙した。


「ゼロージ、起動完了。ファラク様、ご指示を」


「了解。アリサ、そこから出れるか?」

「はい、少し狭いですけど出れます。というより、地下室って外に繋がってるんですね」


「天井が開くと思ったんだがな、まぁ面白い仕様だな」


 そう、今日はとうとうファラクの新型クライドン『ゼロージ』のお披露目である。

 サイズは従来型のクライドンよりは少し小さめだが、そこにはファラクの技術力の結晶が詰まっている。


「姉さま、早く庭に来て欲しいニャ! ウチもう我慢出来ないいニャ」

「レオも早く見たいの!」

「ふむ、少しワクワクするな」


「今行きまーす。少し飛びますねー」


 ゼロージは器用にその扉から出ると、そのまま一足飛びでファラク邸のみんなが待つ庭へ降り立った。


 その全容はまるで黒いドレスを着たような女性型のフォルムであり、特筆すべきはロングスカートを模したアーマーである。

 頭部も女性を意識してかツインテールのような形をしており、これに乗るパイロットが女性である事を示していた。


「ファラク様凄いです。動かし方もゲーム見たいで簡単です!」

「カタリナからあのゲームが得意と聞いてな。それならと思ってゲーム機のように操縦桿を変えて見たんだ」


 ファラクはドヤ顔をしながらチラッっとカタリナを見る。

 カタリナは笑顔のままウンウンと頷き、サプライズが成功した事を噛み締めた。


「ふむ、予想以上にかっこいいな。ただ、戦うには少し華奢ではないか?」

「ふふっ、カタリナ。私は技術者だぞ?」


 カタリナの質問に、待ってましたとファラクはアリサに命令する。


「アリサ、換装『ナックル』をやってくれ。コマンドは『623WP』だ」

「はい、『換装ナックル』起動」


 アリサがコマンドを入力すると、ゼロージのスカート下部分が一部パージした。

 空中に飛翔したパーツがメキメキとボクシンググローブのような形へ変形すると、強力な磁石でくっつくかのようにゼロージの拳へと装着された。


 この『換装』するスタイルこそ、このゼロージの最大の特徴である。


「ふむ、考えたな」

「だろ? 正直言うと換装が上手くいって私もホッとしているがな」


 ボクサースタイルとなったゼロージは、アリサの操縦によってシャドーボクシングを始める。

 その圧倒的存在感に、ビッキーとレオのテンションはマックスに跳ね上がっている。


「ふぉおおメッチャかっこいいニャ! ウチにも欲しいニャ」

「僕も欲しいの」


「すまんな、これでパーツを使い切っているから。また機会があったらビッキーとレオの分も作ってあげるよ」

「本当ニャ!? 約束してニャ」

「約束なの」


 ファラクはビッキー達の頭を撫でながら「分かった分かった」と諭す。

 しかし、本心ではファラクはもうクライドンを作る気は無かった。


 ファラクは最愛の妻カタリナが大怪我をしてから、このゼロージに全てをかけていた。

 この庭でゼロージを動かしているのも、必ずどこかで見ているであろうSAMPへの武力誇示である。

 新型クライドンがある事で、不毛な争いを避けたかったのだ。


「ふむ、見ていると心が踊るな。まぁ私は肉体で戦う方が好きだが」

「ハハ、カタリナらしいな。ま、使わないに越したことは無い。ゼロージを今後起動する事になった時点で私の負けだよ」


「大船に乗った気でいてくれファラク。家族は私が守るし、何より子供達は強いぞ」

「よしてくれ、子供達を戦いに巻き込むのはごめんだよ」


 ほんの些細な夫婦の食い違いであるが、この件に関してはお互いに譲る事はないと経験上察していたので、2人はこれ以上この会話をする事は無かった。


 割と長い時間ゼロージを動かしたのを確認したファラクは、アリサに命じて再度地下室へ格納した。

 と、同時にファラク邸付近から去っていく数人の人物を、ファラクとカタリナは知覚する事は無かった。


 もうすぐ、カタリナが怪我を負ってから2年の月日が経とうとしていた──

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