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世界樹の下でぼくらは戰う理由を知る  作者: 長崎ポテチ
4章 轗軻不遇の輪舞曲
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袋の中身

 マルセロの暴走により、サッチモが携帯していたフェタークがぼんやりと光り輝くが数分の後、再度ただの木片へと変わっていった。


「なんだこれは……」


 サッチモの気をよそに、バンの治療を終えたカンバは助けて貰った礼にペコリと頭を下げた。

 サッチモ達は良かれと思って行動したが、タブーに触れてしまった事実と光るフェタークをカンバに伝えると「問題ないでチュ」との返事を貰った。


「何かトラブルを主張する時は、フェタークが光ってる間に証人が3人以上必要なんでチュ。ニロイさんには、勝手に転んだと話しておきまチュ」

「そう言うものなのか?」


「はいでチュ。元々血の気が多い星でチュから、こういったトラブルはいちいち違反には実際ならないでチュ。

 ただ、それでも厄介事があった時の為に、この星の人は大体ジュドニーで暮らしてるでチュ。」


 なるほどとサッチモ達はこの星の人口密度の違和感に納得がいった。

 そして、サッチモはついでとばかりに核心をついた質問をカンバへぶつけた。


「俺たちは『ファラク=ナカガワ』と言う人物を探しているんだが、心当たりはあるか?」


 その名前を口にした瞬間、カンバの全身が緊張で震え上がる。


「あの、その、分からない……でチュ」


 その歯切れの悪さから何かしらあるのだろうと察したが、サッチモ達は結論は出せないでいた。


「本当に、申し訳ないでチュ」


 体を震わせ全身で謝罪をするカンバに、これ以上の追求は難しいと判断したが、メンディが切り口を変えてきた。


「そういえばカンバ、なぜ君はクライドンが好きなのかな?」

「え、あ、そりゃあ僕の命の恩人でチュから!」


 急に好きなものの話に変わり、テンションを取り戻したカンバは自身のクライドン愛について語りだした。


「僕は数年前に内乱に巻き込まれたのでチュが、両親が死に、僕も殺されかけたその時、あの『綺麗なドレスを着た』クライドンに助けて貰ったんでチュ」

「綺麗なドレスを? クライドンがか?」


「はいでチュ。完全に一目惚れしまチュた。あんな綺麗なクライドンは見た事ないでチュねー。最近はもう2体ほど増えてまチュが」

「それは、ユング式だったのか?」


「いえいえ、僕はあの日からクライドン研究に夢中でチュが、あれはユング式と言うより、さしずめファーー」


 その時、カンバのポケットに入っているフェタークが薄っすらと反応しかけた。


「チュウウッッ! な、なんでもないでチュ。忘れて下さいでチュ」


 ほんの少しだけ答えに近付いたサッチモ達は、最後に、カンバを傷付けないよう慎重に質問を重ねる。


「ありがとうカンバ。処で、俺たちは『ドレス』を探したいんだが、この星に詳しく無くてね。どこに行けばいい?」


 その質問の意図を察してか、カンバは緊張の面持ちで一行を見据える。

 意を決したカンバは、サッチモ達に告げる。


「人探しでしたら人が1番多い所でチュね。この港を右に海沿いに進むとあるジュドニーがありまチュ。それでーー」


 カンバはくるりと体を捻り、島の中央部を指差した。

 目の前には職員達の簡易施設や、入港者のカウンターなどの建物がある。

 その間にある獣道と見えなくもない森の入口には、『危険地域のため立入禁止』の看板が掲げられている。


「ドレスならこの先でチュ。が、絶対に行っては行けないでチュ。何があっても責任が取れないでチュ」

「ありがとうカンバ。参考になった」


ーーーーーーーーーーーーー


 ブロロロローーーー

 漆黒にような暗闇をヘッドライトで照らしながら、ゆっくりと走る2台の車がある。


「隊長ォ、本当に何かあるんですかね? さっきから木しかないですよ」

「社長と呼べマルセロ。だが確かに不安にはなるな」


 流石に真昼間にカンバが指差した立入禁止区域に向かう訳にはいかないため、夜を待ってサッチモ達はその区域に侵入した。


 エニグマに格納されていた車2台で獣道を進んでいるが、道中の障害物を退かす作業も相まってあまり工程は芳しくない。

 先頭車両にはサッチモ、ミツバ、マルセロ

 後続車両にはメンディ、リュカ、バンが搭乗している。


「あそこ、何かあります」


 もういい加減、島の中央部に差し掛かろうとした時にリュカから通信が入る。

 リュカが窓から手を伸ばし指差す方角を一同は凝視すると、そこにはポツンと木でできた小屋らしきものが見えた。


「さて、鬼が出るか蛇が出るか」


 小屋に近付くにつれ、ほんの少しではあるが道が開けて来たように見えるが、街灯1つない暗闇ゆえサッチモ達は知る由もなかった。

 キキっと小屋の前で車を止めた一行は小屋の前に立つ。


 ーーコンコン

「………………」


 サッチモはノックをするが、小屋から反応は無かった。

 万が一を考え、マルセロとメンディが扉の左右を位置取り、メンディが扉を開け、即座にマルセロが小屋の中に突入する。

 マルセロは手に持った懐中電灯で中を照らすと、指をクイっと曲げメンディを招待する。


「誰かいるか?」

「いや、誰も居ねえっす。ただ、リュカちゃんとミツバは来ない方がいいっすね」


 サッチモの問いに、数秒置いてマルセロから返事があった。

 続けてサッチモとバンが中に入り、男衆が持つ懐中電灯が、部屋全体を照らすと、そこにはーー


「これは……」

「この匂いは、まぁそうだろうな」


 中には、大小合わせて7つの布にくるまれた何かがあった。

 バンなら医者としての経験が、またサッチモ達は軍人としての経験がその中身がなんであるかが分かっていた。


「バン、頼めるか?」

「オーケー。ちょっと手元を照らしといてくれ」


 バンは自分の持っていた懐中電灯をマルセロへ預け、比較的新しい布に包まれたそれを、慎重に開放した。

 すると、彼等の予想通り中には死後間もない獣人が顔を覗かせた。


「お前たちッ! そこで何をしているッ!」

「きゃあッ! ち、違うんです」

「リュカちゃん伏せて!」


 外から聞こえた物騒な声に、いち早く反応したマルセロとメンディは、事が起きるより早く携帯していた銃を取り出し、勢いよく外へ出る。


 そこには、くしゃくしゃになったタテガミが特徴の獣人が銃を手に一定の距離でリュカに銃口を向けていた。

 その獣人の背中には、彼にそっくりな子供の獣人が力無くおぶさっている。


「人数はこちらの方が多い、そしてこちらに危害を加える意思はない。銃を降ろせ!」

「信じられるか! お前ら何者だ!?」


 ミツバ、マルセロ、メンディの3人は、その引き金にかけた指に力を入れる。

 サッチモの説得に応じない場合はやむなしと言った空気が辺りに流れ始めるが、その時、力ない声が状況を変えた。


「ギラース兄ぃ……誰ぇ? 人間……?」

「安心しろロウブ、兄ちゃんが守ってやる」


「おい、その子。まだ生きてるのか?」

「お前らには関係ないッ!」


 そんな折、小屋からぬうとバンが出てきた。

 先程から漏れ聞こえた声と、サッチモ達の立ち位置で即座に状況を理解したが、今のバンには至極どうでもいい事のように、ギラースの元へスタスタと近寄っていった。


「その子は?」

「先程少し喋ったのでまだ生きている」


 その質問にはサッチモが答えた。

 それを聞くやいなや、バンはより早足でギラースへ詰め寄っていく。


「おい、止まれ! 撃つぞ!」

「オーケーうるさい。俺を撃ったらその子治せないぜ?」


 「は?」と言う表情で思わずギラースは銃口を下げる。

 その機を逃さず、バンはトドメの言葉でギラースにぶつけた。


「俺は医者だ。その子を見せろ」

「医者? いや、こんな所に医者なんて……」


「ほれ、これでいいか?」


 バンは白衣の胸ポケットに入っている医師資格証をギラースへ見せつける。

 実際にはその資格証はアールでの証明書であり、既にその効力はないがこの状況では信頼を証明するには充分であった。


「本当に、治せるのか?」

「いいから見せろ。話はそれからだ」


 ギラースは観念したかのように銃をしまい、それを見たマルセロ達もホッとしたようにそれを閉まった。

 バンが乗っていた車にロウブを乗せ、ルームランプをつけるが明かりが足りないため、外側からマルセロ達が懐中電灯でバンとロウブを照らしている。


「ヤバいヤバいヤバい」


 ロウブを見るや、バンは途端に焦り始めアタッシュケースからいくつかの薬を調合し、ロウブへ注射した。

 しばらくすると紫がかった顔にはツヤが戻り、パンパンに膨らんで黄疸があった手足も落ち着きを取り戻した。


「ロウブ、ロウブが……何をしてもダメだったのに」

「まだだ、こんなもん対処療法に過ぎねえ」


 ロウブは静かに眠っている。

 落ち着いて呼吸をしているロウブの姿を見たギラースは、もう治ることはないと思っていたためか、大粒の涙を流してその姿を見ていた。


「いくつか聞かせろ。症状は、咳と血痰と胸痛などだな?」

「……分かるのか?」


「急変すると1週間持たないだろ?」

「そうだ。ここ1週間で多くの仲間を……俺は……俺はなんともないのに」


「やっぱりな。何か対応したか?」

「協力者からいくつか薬を貰ったが、どれも効かずにーー」


 ギラースのポケットからいくつかの薬を見たバンは、あの遺体とロウブの症状で、何かしらの仮定が証明されたかのような顔をした。


「アクア結核だ」


 バン以外の全員がその聞き慣れない言葉にキョトンとしてしまう。

 バンが言うには、約100年前に絶滅した結核の症状に酷似しているという。

 幼少期にワクチン接種が義務化された現在では、この結核にかかることはないが、この星の環境がそうさせたのだろうと結論付けた。


「でかい医療機関のある図書館でも載ってるかどうかってぐらいのレアな病気だ。そして、厄介なのは下手な薬を使うと重症化しちまうって点だな」

「そんな、俺は、じゃあ俺はみんなを殺していたのか!?」


「それでも時間の問題だったさ。お前に罪はねえよ」

「う、うぅぅ……」


 ギラースが落ち着きを取り戻すまで時間がかかりそうと判断した一行は、その場で休憩を取る。

 バンは小屋の近くでタバコをふかしていると、そこにサッチモがやってきた。


「治せそうか?」

「エニグマの薬庫に戻る必要がある。あとな、俺1個だけ嘘ついたわ」


 その嘘と言うフレーズに、サッチモは無言で続きを待った。


「あそこまで発症したら、今の俺じゃ治せねえ」


 バンは力いっぱいにタバコを踏み消す、粉クズとなったタバコが彼の悔しさを物語っていた。

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