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任せたわよ

ーーーークリス=ジャル


「腕を、前から上にあげて〜! 惑星体操の始まりなのよ〜!」


 上位等星では必ず誰しもが知っている、あの軽快な音楽と共に惑星体操が始まった。 

 朝の気だるい空気を一変させるかの如く、皆レジャーの指示に合わせ真剣に体操を踊りだした。


『想像と違いすぎるわ』


 悪意が無いように見えるのが逆に恐怖だった。レジャーは本当に、ただ一生懸命に従業員のためを思っての惑星体操をしているようにしか見えないからだ。


「はい、皆お疲れ様なのよ。じゃあ朝の朝礼を始めるのよ!」


 レジャーは鞭で床を叩きつつ今日のノルマや、班編成と各作業工程の割振り、前日の作業進捗の反省点と改善点などを事細かく伝える。


 格好と口調がおかしいだけで、やっている事は非常に真面目な現場監督と差異はなかった。

 更に、辺りを見渡すて分かった事がある。昨日のレオーネとの会話の矛盾点に気付いたのだ。


『ここに居る全員、傷が無いわね』


 確か昨日、ここでの仕事中にヘマをすると鞭があると言っていた。

 しかし、見たところあの鞭で傷を負っている人間は1人も見当たらなかった。


 私はこの男への警戒心が薄れていくのを感じる。

 何か、このレジャーと言う男は裏がある。

 そして、恐らくこれは私達の切り札になるはずだわ。


「ん? あなた達見ない顔なのよ?」


「サンド=ラシールです。レジャー様、今日からよろしくお願いします」

「クリスです。よろしくお願いします」


「ふーん。どうせここに財宝があるとかの嘘に乗せられた口の賊なのかしら。可哀想に……ウノ、ちょっと来るのよ!」

「お呼びでしょうかレジャー様?」


「お前をこいつ等の教育係に任命するのよ! 若そうだし、加工班にするのよ」

「かしこまりました」


 あら、てっきりレオーネだと思ったけど違うみたいね。

 レオーネにはもっと聞きたい事もあったけど、『ウノ』ね、まぁいいわ。


「教育係のウノです。私も出戻りで新人見たいなものよ。よろしくね」


「クリスです。よろしく」

「サンドだ。よろしくな」


 お互いに握手をする。はぁ、やっぱり感染してるわね。


「んーと? ウノってさ、フェル……」


ーードスッ!  ホグぅ!


「な、なにす……」

「ウノさん。私達は早く仕事がしたいわ。色々と教えてくれないかしら?」


「え、ええ。それよりもサンド君大丈夫?」


「あ、大丈夫よ。彼、結構打たれ強いから」

「なんでお前が答えるんだよ!」


 余計な事を言いかけるサンドを肘打ちで止める。今、その名前を出してウノがどんなリアクションをするかは分からない。

 ただ、せめて解毒してから教えてあげたいわ。


「とりあえず、案内しながら説明していくわ、その後、あなた達が働く場所に行きましょうか」


 ウノの話ではこの工場は

 各種材料を計測し運ぶ調合部隊、

 その材料でアンブレラを作成する加工部隊、

 製品として瓶詰めなど納品に関わる組立部隊

 以上の3隊に分かれており、それぞれの隊は班編成を敷いて、生産に取り掛かっている事が分かった。


 特に優秀な者は隊長となり、それぞれの部隊を纏めている。

 そして、私達はまず調合部隊の顔合わせに向かった。そこで、隊長と呼ばれているサバサバとした女性と知り合う。


「こちらが調合部隊、隊長のブローノよ」

「ブローノだ。よろしく頼むよ」


 ブローノね……

 軽く自己紹介を済ませた。もちろんサンドが余計な事を言わないように、肘を尖らせてだけど。

 サンドも何故言っちゃいけないのか分からないと言う顔をしているが、察してくれたみたいで助かるわ。


 それよりも、私はここにある調合材料に目を光らす。

 そこから見える景色は、正に馬鹿薬の総合デパートと言える有様だった。


『コケン、ヘイロ、タリンリ、それにブランカと高純度ユグドラシルにあれは……』


 解毒剤に必要な物質もあり、ほっと胸をなでおろす。

 毒と薬は紙一重、問題はユグドラシルをどう使うかですべてが決まるので、読みどおりと行ったところね。


ーードクンッ!  「ウッ!」


「大丈夫か? クリス?」

「ええ、なんでもないわ」


 来たわね。

 恐らく私は今日はもう持たない。アンブレラの症状が如実にでてきているのが分かった。


 ただ、1つだけ私は見たこともないある物質に目を奪われる。

 それはピンク色をした液体のような物で、天井まで届かんとする巨大な筒状のガラス容器に入れられている。


「これは何かしら?」


 聞かずにはいられなかった。私のユグドラシル技術者としての挟持がそうさせた。


「うーん、赤丸か。それは私もよく分からないんだよね」

「レジャー……様も分からないのかしら?」


「うん、定期便で来る物資には赤い『○』しか書かれていなくてね。レジャー様もこれだけは分からないはずだよ」


「何故、分からないと分かるのかしら?」

「私も同じ質問をしたからよ。そうしたら教えて貰ってないと言っていたのよ」


 なるほどね。齧った人間ほどこれが何なのか気になるはずだわ。

 そして、ブローノは赤丸はアンブレラに欠かせないという事も教えてくれた。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーー


 組立隊長はレオーネだった。彼はサンドを組立部隊として狙っていたらしいが、レジャー直々の指名というのを聞いて納得していた。


 そして、私達が働く加工部隊の隊長はウノであった。

 出戻りなのに? と思ったが、前任が突然消えてしまったらしい。レジャーもこれには参ったらしく、過去の優秀者だったウノを配置したと言っていた。


『優秀ね……』


 レジャーがどういう思惑なのか、ほんの少し見えてきた気がするわね。

 そして、この砂漠地帯で失踪者というのも不思議な話よね。


 早速初日から私は動くことにした。


 加工部隊はレジャーから出されたノルマのに従い、先ずは必要な材料を調合部隊へ依頼する。

 そこから加工作業に入り、組立作業へと移行していくシステムである。


 私は誰にもバレないように、ほんの少しずつ、数ミリの単位で材料をケチっていく。


『とりあえず1人分! それさえあれば一気に状況はひっくり返るわ。ただ、もう……』


ーードクンッ!  『落ち着け! まだよ!』


 私は時折来るアンブレラの症状を怒りのパワーで必死に抑える。

 自分がこんな馬鹿薬を作っている事が許せないし、何よりユグドラシルをこんな使い方をする奴が許せない!

 まぁ、全部壊すけどね。


ーーーーー17時30分


「ほら定時になったのよ! 働き方改革よ! さっさと帰るのよ」


 ……何とか、何とか1人分出来た。

 レジャー……さ……まの言うとおり帰らないと。


 私は瓦解しかける意識の中で、必死でメモ書きを済ます。

 きっとこれで、大丈夫なはず…


ーードクンッ!ドクンッ! 『間に合え!まに……』


 ゾンビのように帰宅する者たち、ある者は教会へ、ある者は食事へ。

 そこから私は


「話があるわ」

「どうしたクリス? と言うか大丈夫か? ……むぐ!」


 有無を言わさず、解毒剤を飲ます。

 メモ紙を手渡し、抱きつくような姿勢で最後の1言を告げる。


「もう限界なの……任せたわよ」

「…………」


 もう何を言ったのかも覚えていないわ。


 ただ1つだけ確かなことがあるわ。

 私はレジャー様のため、巫女様のために明日も働かなきゃ!

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