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嗤う男

ーー発表会より少し前


 発表会場内の自席に着席するやいなや、ミツバの携帯電話が鳴った。

 内容はとても会話とは言えなかったが、ミツバの表情から察するにネルソンは抜き差しならない状況であることは伺う事が出来た。


 通話が終了した後、ミツバはネルソン特務に通常の考えではあり得ない願いを申し出た。

 その内容とは、

 自身の「式典への参加の辞退」である。

 その後の自身の待遇は勿論、国際問題に発展しかねない願いであり、通常は無言にて叱りつけるべきであるが、ネルソンはそれを許した。


「ワシの事は構わん。必要なんじゃろ? 行ってきなさい」

「申し訳ございません! すぐお迎えにあがります!」


 ミツバは本当に申し訳ない気持ちからか、深く深くお辞儀をし、その場を去っていった。


『さて、ワシも仕事をせんとのぉ』


 ネルソンは自身の右手首に仕込み針を装着し、コリコリと回転させる。


 当然ながらこのネルソンの心の声と企みは、誰も知るよしはなかった。


 すぐさま、自席を立ったネルソンは、アール軍関係者が座るテントへと向かう。と、道すがら青年のアール軍兵士に声をかけられる。


「ネルソン特務殿! そちらはアール軍のテントにございます!」

「おおっと、それはすまんのぉ。物覚えがわるぅなってわるぅなって、どっちがワシのテントかのぉ?」


 青年の軍関係者は、迷うことなどあり得ないとは思いつつも、ネルソンの年齢を察し優しく案内する。


「あちらの左側のテントにございます」

「おお、ありがとうお若いの」


 ネルソンは握手を持って礼を尽くそうと右手を差し出す。青年は、快くその手を握った。

 

「つッ」


 直後、青年はネルソンに最大級の尊敬の念をもった。しかし、そんな彼の情熱はずっと続くはずはない。

 何故ならその後、正確には数時間後に青年はこの世にいないからである。


「アール軍トップの『ニューイ=グレイス』に用があるんじゃ、連れて来い若いの。それが終わったら自害せよ」

「……わかりました」


 青年は足取り軽やかにアール軍のテントへ赴く。そこそこにネルソンはその場に待っていると青年に連れられたニューイが姿を表した。


「これはこれはネルソン殿、よくいらっしゃった。私はニューイ=グレイス、このアールで総軍司令官をしております」


 どんな曲者が出るかとネルソンは待ち構えていたが、割と話の分かりそうな人間性であったためネルソンは安堵した。


 ニューイは友好の証と右手を差し出す。こうまで都合の良い展開が続くとは思っていなかったネルソンは嘲笑う。しかしそれを悟られぬよう必死に役者を演じる。


「これはご丁寧に」


 ネルソンはニューイの右手を掴み、腕を引き寄せ顔を真横に置く。


「新型について知ってる事を教えろ」

「はい……」


 ネルソンは笑顔の裏にドス黒い覇気を纏って情報を聞き出す。ニューイの精神はネルソンに支配され、洗いざらい話してしまう。


『くっ! エディめ……やはり1枚噛んでおったか』


 ネルソンは歯噛みする。かつての仲間…と言っても今は袂を分かっているが、今この場で姿を見られるのはよろしくない。


 その他ニューイの話では『グレン=ボルタ』なる人物が新型ジャルールのパイロット最有力候補であり、今日もその者が搭乗する予定だということ。次点の候補はまだ高校生と言うことなので、これ以上は聞かなかった。


 色々と踏まえた上、ネルソンはニューイにいくつかの命令する。


 1、発表式典終了後、グレンとジャルールの引き渡し


 2、ホテル『ブルーオリコン703号室』にネルソンの手足となる動きやすい奴を5-6人派遣すること


 3,アンブレラ等級『ドライ』を2本渡す。指示があれば使用し、作戦遂行後はニューイ諸共自害すること

 

 ネルソンは以上の3点を伝え、指示用の小型通信機をニューイへ手渡した。

 この場にいれば、恐らく襲撃されるであろう事を知っていたネルソンは最後に一言伝え会場を去った。


「じゃ、ワシはホテルへ戻る。式典には参加せんのでそっちの準備が出来次第始めてよいぞ」

「了解しましたネルソン様」


 ここでの仕事を終えたネルソンはホテルへ戻る。703号室前には黒服の男達が6人ほど集められていた。ネルソンはニューイの仕事の速さに感心をしつつ、雑に全員と握手を交わし、仕込みを済ませる。


「ネルソン様、護衛と聞き仰せつかりました」

「ほいほい、ありがとう」


 アンブレラは6等級あり、下から

「アイン」「ツヴァイ」「ドライ」「フィーア」「フンフ」「ゼクス」とある。

 ネルソンが仕込んでいるのはアンブレラ等級「フィーア」であり、効果もさることながら速効性もサッチモ達に使われたそれとは比べ物にならない。


 無論、それを知っているのは、ネルソンだけである。

 

「楽しみじゃのぉ」


 仮にジャルールとやらと交戦し、ジャルールが大破すれば所詮それまでのこと。

 そして、ジャルールが想像以上の機体だった場合はネルソン自身の目的達成に大いに近付くこと。


「さて、高みの見物といくかの」


 ネルソンはヱラウルフに仕込んでいた通信機とチャンネルを合わす。


 彼はどちらに転んでも良いこの状態に、1人嗤っていた。

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