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おれは医者だ

ーーーーーーーバン=モチコシ


 車を覗くと、二人の女性が後部座席で寝かされていた。


『あれ? 確かラシールさんとこの……』


 確か……そうだリュカちゃんだ。

 けどどうしてこんなところで寝てるんだ?

 

 そして、俺はもう一人の女性を見て思わず声をあげてしまう。


「ひでえな……」


 一刻も早くの処置が必要だ。パッと見ただけでいくつの骨折があるか分からない…さらに頭部からの出血痕がこの女性に降り掛かった悲劇の激しさを物語っている。


「飛び降りか?」

「まぁ、そんなところだ」


 スッと瞳孔を確認する。呼吸は、かろうじてしているように感じる。まだ息があるな。


「俺たちも諦めてたんだが、さっき少し動いたんだ! 確かにこの目で見たんだよ!」


 メンディが懇願の目で俺に伝えてくる。

 全く、誰に言ってるんだ? 俺は医者で、助けると言ったはずだ!


「おいッ! 担架もってこい、運ぶぞ!」

「ええ! 今解放軍を運んだら暴動がおきますよ!?」


「馬鹿野郎! てめぇはそれでも医者かッ! 俺が助けると言ってるんだ! とっとと準備しやがれ!」

「は、はいぃ〜」


 客観した意見にサッチモとメンディは黙り込んでしまうが、今はそんなもの必要ない。

 俺はさっきのお返しとばかりに名無し君を叱りつける。根性見せやがれ!


 その時、住宅街とこの道の間にある林から1台の黒いドローンのようなものが上空へ浮かび上がりこちらに顔を向けていた。


『ん? マスコミのやつか?』


 だが、今はそれどころではない。リュカちゃんを含む4人を救急車に乗り入れ、俺達は病院へと向かった。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーー


「なぜそんな奴等を連れて来た! お前はこの病院を潰す気かッ!」

「俺は医者だ! そこに関係ない話を持ってくるんじゃねぇッ!!」


 病院に到着し、患者を降ろそうとした瞬間に、血相を変えた所長が寄ってきて俺に食って掛かってきた。野次馬のオプション付きだ。

 俺はクソ所長とクソなやり取りをする。と言うかもう飽きたんだよ、こういう会話…

 話は15分前に遡る


 道中、ミツバさんに応急処置を施す。うん、怪我は酷いがちゃんと治療すれば大丈夫そうだ。

 その旨をサッチモ達に伝えると、メンディとサッチモは泣き崩れた。ちなみにリュカちゃんは目立った外傷はないので寝かしてある。


 特にサッチモは自分の怪我も忘れていたように感じた。その後、何か思い出したようにポケットを弄り、通信機のようなものを取り出し何やら物騒な会話をしていた。


 通信を終えたサッチモは、通信機をグシャッと握りつぶし、


「1つはまもれた……か」


 と呟き、死んだように横たわった。

 ちょっと焦って確認したら、ただ気を失ってるだけのようだ。ビックリさせやがって!


「絶対マズイっすよ〜所長カンカンっすよ〜」


 この最中、運転しかしてない上に、名前すら知らない奴がずっと何か言ってる。いい加減うっとうしいな。無視しておこう。


 とやってる間に、病院へ到着したところでこのやり取りになる。あの名無し馬鹿、車中で報告しやがったな!


 いい加減『仏のバンさん』の異名を持つ俺でもキレそうだ。


「申し訳無い。だが頼むッなんでもする!! ミツバ伍長を中に入れてくれッ!」


 メンディが土下座に近い姿勢で所長に懇願する。

 その時所長が取った行動で、俺の運命は大きく変わった。


「フン! じゃあ靴でも舐めてもらおうか!」

「おい、いい加減に……」


 ホレ! と言わんばかりに足を向ける所長。

 バチバチと俺の俺の正義のスイッチが連打されていく……

 コイツ!性根が腐ってやがる!と思うと同時に、メンディは一切の迷いなく所長の靴を舐めた。


「フンッ! 薄汚れた解放軍の分際で! お前等なぞこの俺の病院に入れる訳ねえだろうが!」


ーーガツン!


 言うや否や、所長はメンディを蹴り上げた。頭から血を流したメンディは悔しさと情けなさで震えていた。そんな彼に野次馬が追い討ちを仕掛ける。


「そうだ! そんな奴等、全員死んじまえばいいんだ!」

「そうよ! 私の娘を返しなさいよ!」


 1人言うと、こういうのは伝染するものだ。

 騒ぎを見た住人達も一斉に、「帰れ」のシュプレヒコールでメンディ達を襲う。


 それを見た時、俺の中で何かが切れたーー


「この! クソ野郎がぁあ」


 とりあえず、俺は必殺の一撃を所長の顎に一発入れ込んだ。


ーープギャ! ……バタン


 クリーンヒットしたのか、潰れたヒキガエルのような声をあげ所長は失神してしまった。

 あー、、やっちった。こりゃクビだな。ただ、なんつーか、、スッキリしたな!


 そして、住人達に向かい直し俺は叫ぶ!


「それでも俺は医者だッ! 俺の誇りにかけてコイツ等を治す! 文句あるかッ!」


 病院前は静まり返る。俺はメンディを救急車に乗せ、救急搬送出入り口ではなく、地下駐車場へ向け車を発進させた。


「その、すまない……しかし、いいのか?」


 立ち直ったメンディが問いかける。俺はメンディの肩を叩き、このやり取りを終わらせた。

 地下駐車場で車を止めた俺は1人呟く。


「ただ、もう院内ではオペ出来ねえかな」


 あの場は一瞬静まったとは言え、あの感じでは、やはり暴動は起きてしまうだろう。言ってる事とやってる事は違うと思う人もいるだろうが、1人救うために100人ピンチにしてしまうのは本望ではない。


 そうさせないように出来るのであればそうするべきだと思っている。

 今から言うことはとても危険だが、もうやるしかなかった。


「ここでオペをする」

「は?」


 メンディが大きな「?」の顔をするが、それを無視して話を続ける。そして、この会話に参加しないよう、忍び足でその場から去ろうとする、名無しの馬鹿の首根っこを掴み指令をだす。


「おい、お前。今すぐオペの道具一式もってこい」

「言うと思ったんスよね〜」


 うん、よく分かってるじゃないか!偉いぞ!名前知らないけど。

 と、その前に俺はポケットからミツバさんの血液型判別キットの結果を確認する。

 俺は自分の顔が、酷く歪んだのを感じた。


「ABのrh(-)かよ…」

「ええ!珍しいですね〜」

「な、何かだめなのか?」


 呑気な馬鹿と深刻なメンディの声が漏れる。


 実際これはやばい、かなり珍しい血液型だ。この病院にはそもそも無いかもしれないレベルである。

 オペに当たり輸血が出来ないというのは致命的だ。何か、何か策は……と


 俺は車内を見渡す。そこにはまるで天使に見える女の子がいた。


「いたーーー!」

「うわ! ちょ! うるさ!」


 思わず俺は叫ぶ!

 奇跡! ビバ奇跡!

 つーか名前わかんないけどそこで突っ立ってる同僚よ! とっととお前は用具もってこい!


 そして、俺はその天使を覚醒させた。

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