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医者はどこだ

ーーーバン=モチコシ

ーー9時20分


「おい! 全然進まねえじゃねえか!」

「俺に言わないで下さいよ!」


 俺は苛立ちがピークに達し、名前も知らない同僚に当たり散らしてしまう。


 この街に産まれて20数年、ここまでの大パニックは初めてであった。

 危険を承知で飛び交う、マスコミと救急のヘリコプター、近隣から逃げ回る人々、馬鹿な野次馬などが重なり現場周辺の交通インフラは『ほぼ』と言っていいほど機能を停止していた。


 普段の救急では10分以内の到達が約6割を占める。しかし、今回は発生要因が特殊なのか、俺の乗る大型救急車はその行き先を強烈な人並みに阻まれていた。あの馬鹿解放軍の虐殺から、もう既に15分は経過している…


「この際さぁ、この野次馬共轢いて行かね?」

「あんた医者でしょ! 何言ってるんすか!」


 冗談だっツーの……

 確かに、もし俺が有名人だったら大炎上では済まされない発言だが、名も知らぬ同僚君にはソレは通じないようだ。


「現場、見えてきましたね」

「ああ、こりゃぁ、ひでえな……」


 先程までは黒煙しか見えなかった現場だが、近付いてきた証拠に、先に到着していた救急ヘリ、消防隊などが懸命の救助活動をしている声が聞こえてきた。

 あと少しで何とか到着出来そうだ…俺は『正義感』のスイッチを入れ、来るべき救助活動に備える。

 その時、前方より大音量のクラクションを鳴らした車が1台近づいてきた。

 その車は今にもぶつかりそうな距離で止まる。


 中から『軍服を着た男』が血相を変え俺の乗る救急車に走り寄ってきた。


ーーガン! ガン!


 その男は今にも泣きそうな顔でこちらの窓を叩く。いや、殴りつけるような感じだった。


「バンさん……ちょっとやばくないすか?」


 横にいる名前を知らない奴に俺は無言の肯定を返す。その状況にも驚いたが、違うんだ。実際は、もっと目ん玉がひっくり返った事実がある。


 その男には、「片腕」が無かった。


「頼む! 頼むッ! 開けくてくれ! 助けてくれッ!」


 そりゃそうだ、片腕ないんだから…

 この職業について以来、俺は怪我人を前に、恐らく人生初の塩っぱい感情を抱いた。何故なら、その男の着ている軍服は、間違いなく解放軍のものだったからである。


ーーガチャ


『我が身恋しさで……どの面下げて来やがるんだ』


 舌打ちとも溜息とも取れない態度で車を降りる。パッと見たところ、その男の腕は結構な重症だ。

 まるで切断された後に焼き付けられて無理矢理止血されているかのような印象を受ける。

 

 その男は俺の前で跪き、再度懇願する


「俺は解放……いや、サッチモと言うものだ。頼む、無茶を承知で言うッ! 仲間を……仲間を助けてくれッ!」


 言い終わるやいなや、男の車からもう一人の男がやってきて、同じ様な姿勢で言う


「私はメンディと言う。お願いだッ! ミツバ伍長を……彼女を助けて欲しいッ!」


 正直、俺は呆けに取られた。俺はてっきり、この「片腕の男」サッチモと言ったか。


 サッチモが『自分を助けて欲しい』と言うものだと思っていた。そして、後からやってきたメンディという男も『彼女』と言った。


 すなわち、重症の自分を差し置いてでも助けたいと願う人物がいるということになる。


 だが俺は、1つだけ絶対に確認しなくちゃいけない事があった。

 これは「医者」としてではない!人として聞くべき質問だと自負している。


「あの学校を撃ったのは、お前らか?」


 コイツ等が来た方向から、俺なりに推理する。


 正直、心の中では『違う』と言って欲しかった。そうすれば医者として最大限の努力を行使するつもりでいた。だが、サッチモは悩む事なく言い切った。


「学校を撃ったのは……俺だ」


 その言葉を聞いた瞬間、俺は全ての怒りの感情をサッチモに向けた。


「てめぇ! てめぇのせいで何人死んだと思ってやがる! しかもその『現場』の目の前で、事もあろうに仲間を助けろだと! 巫山戯るのもいい加減にしやがれ!」


 サッチモは目を俯き、震える声で、いや、実際泣いていたと思う。


「そうだ……全て俺の責任だ! 俺を殺してもらって一向に構わないッ! 喜んでこの命を差し出す。俺はもう、全てに顔向け出来る存在ではない。だが、それでも頼む! ……頼むッ! 彼女を助けてくれッ!」


 泣き崩れたサッチモは、それでもという思いなのか俺の足首を掴む。

 天下の往来で、大の男が二人でここまでするのは、普通じゃねぇな…それにしても


 ちくしょう! 胸糞悪い! 

 命を差し出すとか、そんな事言うんじゃねえッ! 俺は、俺は……!


 拳を強く握り目を瞑る……深呼吸だ。

 吸ってー! 吐いてー! ………フゥ


「医者として……か」


 誰にも聞こえないよう呟く。かつて自分が決めた正義を優先させることにした。


「見せろ」


 俺は降参の意を表し、患者を見せろと催促する。二人は顔をあげ、短く礼を言うと、車の中にいると言う旨を伝えてきた。

 

 だがちょっとまて。サッチモはなんか変だ。


「サッチモ、ちょっと面見せろ」

「俺の事はいい! 早く車の中へッ!」


 はいはい、そういうのいいから。俺はサッチモの返答を待たず両手で頬ほ押さえつけ目を観察する。その後、さっと結膜を見る。

 ウ~ン、これは…


「サッチモ、お前ヤク中か?」

「後で必ず説明する! 今はミツバを見てくれ!」


 なーんか嫌な予感がするな。なんだろ、もう此処で上手いタバコは吸えない気がして来た。

 だが、医者の俺に2言はね無ぇッ!

 俺は、、覚悟を決めたッ!


短いですが今回はここまで

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