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決着 VSミザリー

ーーズシャアアアアアアアアン

 

 直撃音が両機へ木霊する。サンドは機体が動かないと思うやいなや、力珠を1つ残し集結させ即座にシールドを張った。そのおかげで機体の動きは悪いが何とか致命傷にはならずに済んでいる。


「ユリウス!」

「ユリウスさん!」


 振り向くと、左肩と右足を貫かれたヱラウルフが両肩をダランと垂らし佇んでいた。武器を手放さなかったのはユリウスの武士としての矜持である。


「大丈夫か!」

「なんとか……大丈夫だ」


 ヱラウルフには現在飛び道具はない、両腰のブレードのみが装備であり、この機体自体にシールドというのもない。


 クリスの機転でジャルールの力珠を1つシールドとして使用したが、ブレード2本では致命傷を避けるので精一杯であった。


「すまない……助かったよ」


 ユリウスは吸収を利用したが、それでも大きなダメージを受けていた。と、同時に何故機体が鈍くなったのかを考察する。


「あら、大分吸ったと思ったのだけれど……死ななかったの? 悪い子ねぇ」


 ミザリーは嘲笑う。『吸った?』ユリウスはその言葉から必死に推測する。答えを出したのはチャムであった。


「敵機周辺ニ、『マナキャンセラー』ガ、散布サレテイマス」

「チャム!? 無効化出来そう?」

「アト、スコシ……! 予想時間5分デス!」

「そんな余裕はないだろ!」


 ユリウスとサンドは歯噛みする。死合での5分は相当な長時間である。そして、ユリウスはジャルールに比べ長時間アイリスの近くにいた事で、相当な影響を貰っていた。


「ユリウス! 動けるか!」

「こちらも……まだかかる」

「分かった! お前は俺が守るッ!」


 頼もしい仲間を持ったことにユリウスは破顔する。回復にリソースを割いている為、ヱラウルフのエネルギー残量を考えると、あと一回の攻撃のチャンスしかない。

 そして、それはサンドも同じであった。


「クソ! 初撃でエネルギーを使いすぎた!」

「だからー、私は少し抑えなさいって言ったでしょう!」

「言ってないだろうがッ!」


「フフフ、逃さないわよッ!」


 チャンスとばかりに猛スピードでアイリスは突進してくる。ミザリーとしてはあと一回、対ユリウスの秘策であるマナキャンセラーを浴びせれば勝てると踏んでいた。奇しくもマナへの影響力を持つサンドにも有効であったことはミザリーにとっては僥倖であった。


「オラオラオラァッ!」


 近づけさせまいと、サンドは剣状のエネルギーを連続でミザリーに投げつける。しかし、ミザリーに届く直前に失速し弾かれていく。


「無駄よ。無駄無駄。あなた達にはね……もう愛はないのよッ!」


「厄介だな」

「アノ花弁ガ、発生源デス。ドウニカ出来レバ……」


 ハッとサンドは目を見開く。とても重要な事をチャムがいったからに他ならない。


「あの気持ち悪い花弁を壊せば良いんだな?」

「出来るって言うの!?」


 クリスが問いかける。彼女もこの状況には正直参っていた。ジャルールの力珠はマナそのものであり、一撃で直撃すればある程度の威力は保証出来るが、相手が上手過ぎると感じていたからだ。


「俺に考えがある」

「聞こう……サンド」


 ある程度動けるまでに回復したユリウスが応える。そして、サンドは自身の作戦を伝えた


「分かった……僕はサンドを信じる!」

「そんな事出来るの? サンドって意外に器用なのねー」

「私モ、全力デサポートシマス!」


 作戦は決まった!後はミザリーに気付かれず遂行するだけだ。


「ちょこまかと逃げ回って! 鬱陶しいのよッ!」


 アイリスの花弁ビームとジャルールの剣投げの牽制が続く。その時、ヱラウルフが高速で接近してきた。少し待ちジャルールも距離を詰める。


「フフフ、ありがとう。愛してるわ……ユリウス!」


 あと少しで間合いに入る。その刹那ジャルールから再度、剣投げの攻撃を放った。


「効かないと言っているでしょうッ!」


 アイリスはいつものように鉤爪で弾く…はずであった!


「散れ!」

「なッ!!」


 弾かれる直前でジャルールの力珠は分散する。

 ミザリーは一瞬何が起きたのか分からず硬直する。その隙をサンドは逃さなかった


「回り込んで巻き付け! 鞭だッ!」


 力珠は命令通り回り込み、アイリスの背後にある花弁と機体の接合部に巻き付く。

 そして、鞭状となりジャルールの手元へと繋がった。


「何を……まさかッ!」


 ミザリーは状況把握にほんの数秒時間を有した。舌打ちと同時に鉤爪で鞭を切り刻もうとする。


「させ……るか!」


 アイリスの鉤爪をヱラウルフは掴む。そのままアイリスへ抱きつき、鞭への攻撃を必死で防いだ。


「「「かーらーのー!!」」」


 息ピッタリのサンドとクリスとチャムの掛け声が戦場を木霊する。

 ジャルールはマナキャンセラーの範囲ぎりぎりのところで、アイリスの背後を周回し、鞭をぐるぐる巻きつける。


 それはもうぐるぐると巻きつける。


「サンド……今だッ!」

「やめなさいッ!」


 ミザリーの願いを待つほど、彼等は優しくなかった。

 サンドは極限まで集中力を高め、鞭状になったマナへ命令を下す!


「「「爆発ッ!」」」


ーーボッグォオオオオオン!!!


「きゃあああッ!」


 ヱラウルフは爆発の直前にアイリスのコックピットを蹴り、爆風から逃れる。この瞬間、勝負の大勢は決していた。


「マナキャンセラー消失ヲ確認!」

「マナ切れだッ! ユリウスあとは頼んだ!」

「ユリウスさん! やっちゃえええ!」


「ありがとう……みんな」


 ユリウスは礼を言い、二刀流でミザリーの元へと接近する。


「ユリウス! お前は私のものなのに! 私のものなのにぃいいいッ!!」


 カウンターで鉤爪をヱラウルフのコックピット目掛け突き刺そうとする。が、


「……遅い!」


ーーギャン!


 哀れを込めた一撃で、その鉤爪を切り落とす。更にもう片方の脚も切り落としていた。


 ミザリーは死を覚悟する。ただ、ユリウスだけは道連れにすると決め襲いかかろうとした。


ーードクンッ!


 その時、ミザリーの心臓が大きく膨れ上がり、耐えきれず瀉血する。モニターに反射した自分を見てミザリーは絶句する。

 その顔には緑色の青筋浮かび上がっていた…


「嘘……嘘よ! 私は……私は使ってない!!」


 呟く間に両脚はユリウスによって切り刻まれていた。その時、サッチモに預けていたプライベート通信が入る。


「雌狐、まだ生きてるのか?」

「フフ、サッチモ……言うじゃない。あなたにはお仕置きが必要ね…」


 ミザリーは精一杯の強がりで対抗する。「ハッ!」と一笑したサッチモが続ける。


「死ぬ前に1言言ってやる。てめぇの始末はユリウス殿に任せた」

「舐めた口を聞くじゃない……お前も……みんな! みんな殺してやるわ!」


「地獄で待ってろミザリー! 俺も後を追ったら、そこでお前を殺してやるぜ……」


 ふざけなるなッ!と操縦桿を叩きつける。そして眼前には剣先を突きつけるヱラウルフの姿があった。ユリウスは問いかける


「ミザリー……何か言い残す事はあるか?」

「うるさい! うるさいうるさいうるさい! 私の『もの』の分際で! 全て、全ては私の『もの』なのよ。これが『愛』なのよ!」


「救えない……な」


「知ったふうな口を聞くなッッ! お前らに、私の何が『分かる』って言うのよッッ!!」


 ミザリーは最後の一撃として鉤爪を仕向ける。せめて、せめて一太刀浴びせるという強い覚悟の一撃であった。が、それを許さない人物がまだいる事をミザリーは忘れていた。


「止まれッ!」

「な、動か……」


 ユリウスとサッチモは、奇しくも同じ台詞でミザリーの手向けとした。


「「分かるわけないだろ……そんなもの」」


 両手にブレードを持ち、天高く振り上げたヱラウルフ。それがミザリーの見た生涯最後の映像であった。


ーードグォオオオオン


ーーーーーーーーーーーーーーーーー


 時刻は9時30分をすぎたころだーー


 チャムより今後についての提案があった。


「廃星ニ、ムカイマショウ」


 『廃星』とは、様座な要因で人が住める星としての役割を終えた惑星、すなわちユグドラシルの恩恵を放棄した星である。

 廃星が決まり次第そこに住んでいる人々は、惑星樹の活動停止期間の間に上位惑星への移管が義務付けられている。

 

 普段はぎりぎりのスケジュールを組む事など無いので、移管完了後も幾月か惑星としての寿命を継続しているものもある。


「そんな都合のいい星あったっけ?」

「惑星『サングル』配下ニ、1ツアリマス。名前ハ『ミュール』トイイマス」


「うむ……今後の事を含め、まずはそこに行こうか」

「追手はどうする? すぐに探知されないか?」


 ユリウスはチャムのアイデアに賛成するが、サンドがもっともな意見を言う。


「心配ゴ無用デス。スデニ、『ジャルール』ト『ヱラウルフ』ニハ、ジャミング機能ヲインストールシテイマス」

「流石私のチャムね。抜かりないわ!」


 話はまとまったようだ。

 ジャルールとヱラウルフは、廃星『ミュール』へと旅立っていった。

 

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