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医者と狐は男と女

ーーーーーーーーバン=モチコシ

「なんじゃありゃ」


 俺ことバン=モチコシは、いつものように始業30分前に到着し、いつものように仕事の準備をし、それが終わったらいつものようにコーヒーを入れ、街を一望出来るテラスでいつものようにタバコを吸っている。

 

 ここはカムエール郊外にある総合病院。東側には無機質丸だしの工場群が見え、目の前から西側には住宅街や、学校。更に西側は先日急遽作られた解放軍の特設基地が見える。


 この全ての生活圏を一望しながら吸うタバコがうまいことなんの。いつかは漫画で見たあの『ブラックジョーカー』みたいな名医になって、もっといい景色の丘の上で開業して、もっとうまいタバコを吸うという夢のため日々勤しんでいる。


 チラリと院内を見ると他の医者仲間が大慌てで仕事の準備をしている。うむ、これはこれとして肴として上出来である。


 ただ、今日は違っていた…

 日の指す角度でおおよその時間が分かる。まぁ時計も見えたんだが、あれは9時からほんの少し経ったころだ。


 ブゥオオオーー


 けたたましい音と共に解放軍の基地から見たこともない黒いクライドンがゆっくりと浮上してきた。それは右足の太腿を弄った仕草を見せると何かを取り出したように見えた。


「あれは、ライフルか!?」


 右足にくっついていた?そのライフルを真っ直ぐに対面にある工業地帯へ向ける。ん?待てよ!? 確かあの方向は新型クライドンの発表会のとこだ。

 とてもパフォーマンスとは思えない動作に、幾らかの恐怖感じた。


「おいおいおい、嘘だろ! 非戦闘地域だぞ!」


ーーガァアアン

ーーズガァアアアアアアン!


 2つの音が同時に鳴った


「撃ちやがった!」


 黒いクライドンに向かって別のクライドンが高速で体当たりをしていたのである。しかし、撃つべき者は外したが発射された事実にしばし呆然としている。そして、すぐに発射された方角を見て俺は、吸っていたタバコの火も消さずにポトリと落とした。


「あの方向は、、学校かッ!?」


 いまだに現実が受け入れられず、数秒魅入ってしまう。緑に囲まれた学校は建てられた痕跡を無くし、モクモクと黒煙を放っている。

 すると、テラスのドアが空き同僚が駆け込んできた。


「今の音なにッ!?」

「解放軍が学校にライフルぶっ放しやがった!」 


「は? どういうこと?」

「見てみろ! あそこだ!」


「う、うそだろ……」


 指差した方向を見る同僚は目をこれでもか開き学校だった場所を凝視している。


 俺は動揺した人間を目の当たりにしたことで、幾らか落ち着きを取り戻した。


「今すぐ向かうぞ! お前も来い、それと誰でもいい! 非番の奴に電話してここに来させるようにしろ!」

「わかりました!」


 俺と同僚は走る。一体何人の若者が亡くなったのだろうか? 俺にできる事は一人でも多くの命を救うことだけだ。


「絶対に許さねえ!」


 俺はやり場のない怒りを虚空へぶつけ、現場へ急行した。


ーーーーーーーーミザリー

「そろそろお祭りがはじまったかしら」


 私は上官室の椅子に座り、手元にある時計を見る。こんなに待ち遠しい感覚なんて、最後いつだったかしら。もう覚えていないわ。


 サッチモに与えた命令は2つ。

 1つ、ミツバの殺害

 2つ、アール市民の大量虐殺と即時撤退


 いずれにせよ、非戦闘地域での暴走行為により、世紀で大罪人としてユリウスは帰還してくる手筈。

 その上恋人まで死んでしまい、生きる希望すら無くなってしまうかも……

 それを私は「許す」

 すべての罪からユリウスを「許す」


「うるさい上層部にも口出しさせないわ。フフフ、これがあれば、ね」


 ミザリーは小型のアルミケースを開け、中に8本程入っている薬品の1つを取り出し、弄ぶようにくるくるとそれを回す。


「これがあれば、この宇宙全てだって私のもの……」


 そんな彼女にも、唯一手に入れられないものがあった。そう、ユリウスである。

 新進気鋭の天才エースパイロットとの鳴り物入りで解放軍に入隊したユリウス。当然、ミザリーはユリウスの美貌と才能を手中に収めようとした。

 

 1年前ーーー


「ユリウス曹長! 入ります!」

「ええ、どうぞ」


 上官室に入った緊張の面持ちでミザリーを見つめる。二人は初対面であり、ユリウスは一昨日まで別働隊で働いていたが、ミザリーたっての希望で引き抜かれた形である。


「そんなに緊張しなくたっていいのよ」


 ああ、なんて可愛い子かしら。

 やっぱりこの子、欲しいわ!

 武者震いににた震えを抑えた私は、そっと抱きしめる形を取り、首元に薬品を注入した。さぁ、あとはいつものように…


 突然の首の痛みに「ウッ」と声を出しユリウスは顔をしかめる。

 そんなミザリーはお構いなしに話を続けた


「あなたはね、私のものなのよ」

「? 仰る意味が分かりかねます……」


 あら? どうしたのかしら?

 私はもう一度、ゆっくりと諭すように語りかける。


「ユリウス、私のこと『好き』でしょう?私はあなたが欲しくて堪らないわ……もう一度言うわ、あなたはね、私のものなのよ」

「申し訳ありません……自分には婚約者がいますので、ご期待には添えられません」


 な!? まさか!?

 この子もしや……! 

 「効かない!?」って言うの!

 ありえない、ありえない? 

 ありえないッ! 『これ』を作る為に私がどれだけ体を張ったと思っているのッ!


 フゥー、と深呼吸しミザリーは落ち着く努力をする。


 耐性? 才能? 

 いや、最後にもう一度探ってみましょう。


「ユリウス、あなたにとって私は何?」

「……上官です」


 目が変わらない…か。確定ね。効いてないわ。


「変な事を聞いて悪かったわね。もういいわ。この作戦、よろしくね」

「ハ! 失礼します」


 ユリウスが出ていき、私は深く椅子に腰を掛け、手で顔を少し覆う。こんな顔、誰にも見せられないもの。


 フフフ……フフフフフフ


 ミザリーは腹の底から湧き上がる笑いを堪えることが出来なかった。彼女は自分の美貌、実力、地位を駆使し、欲しいと思ったもの全てを自分の「もの」として扱ってきたし、奪ってきた。今もこれからもそうであろう。


 ただ、今この時、自分の「力」では手に入らなかったものが目の前にあり、現状万策尽きているこの現状が愉しくて堪らなかった。

 

 いいわ……! とってもいいわこの子!

 ああ、欲しい欲しい欲しい欲しい欲しい欲しくて堪らないわ!ただ……


『準備が必要ね』

 

 必ず手に入れる……そう決意した私は、そこから1年準備に費やした。

 


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