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世界樹の下でぼくらは戰う理由を知る  作者: 長崎ポテチ
ユリウス=グラッデン
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討つべき対象

「舐めるなァアアアアアアアッ!」

「やってやる…いくら装甲が厚くたって!」


ーーギィイイン


 激しい鍔迫り合いから戦いが始まった。

 時間はない。僕は、みんなが作り出してくれているこの短時間でサッチモを止め、ミツバを救出しなければならない。よって……


「手加減をしている……余裕はないッ!」


ーーーーーーーーーーーーーーーーーー


 ユリウスは幼少より、剣術の才能に恵まれていた。というより、人や物から発するマナの知覚に優れていた。

 人は何か行動を起こす際、少なからず先の未来を予測する。その予測の残像はマナとなってユリウスに直感としてこれを教える。


 例えば、相手が腕を振り上げたとする。その後、頭上に拳を打ち下ろすのか、顔面に拳を打ち込んでくるかは、相手次第であるが、相手の行動より先に発せられたマナがユリウスに到達するのが速いということになる。

 自身はこれを「違和感」という言葉で丸め込んでいたが、その感覚というのは常人では到達出来ない領域である。

 よって、ユリウスにはこと近接対戦において、読み合いというのは発生しない。更に両親共にグラッデン剣術の師範代であり、その指導を間近で受けていた事がユリウスの才能を大きく伸ばしていた。


 しかし、弊害はある。幼少期から無意識にユリウスはこの「違和感」を排除しているため、マナによる干渉を一切受け付けなくなっていた。

 今回の一件では体内に入った「違和感」を排除すると言う「干渉しない才能」がユリウス自身を助けていた結果でもあるが……


 例え高性能の新型であろうと、剣術の差というのは読み合いの上手さにも比例してくる。

 その化物地味た才能を、今この瞬間サッチモは体感する事となる。


ーーーーーーーーーーーーーーーーー



「何故だ! 何故だ何故だ何故だ! 何故当たらんッ!」


 袈裟斬り、胴切り、突き、フェイント、その全てが虚しく空を切り、一撃毎に数撃反撃を受けている。

 サッチモとて、解放軍随一の猛者である。しかし、才能の差というのを超える事は出来ず。いかなる攻撃もユリウスに弾かれ、避けられている。


「俺がッ! 俺こそがヱラウルフに相応しいのだァアアッ!」


 サッチモはもはや人質をとっている事などとうに忘れ、怒りに任せ剣を振り回している。


「あと少し……やれる!」


 いくら自動修復機能が優れていても、幾度も斬りつけられれば流石に回復は追い付かない。実際ヱラウルフは既にボロボロになりかけていた。

 切り飛ばしたパーツが人家に被害を与えぬよう、上空15m付近で一方的な切り合いが続いているが、終わりは既に近づいている。


「お、俺は……負けるのか。俺は……何も手に入れることが出来ない。何も……ヱラウルフも……ミザリー様も」


 ミザリー? とは思ったが、サッチモの台詞に応える気はない、僕は留めとばかりに数度斬りつける。


 そして、、

 その次の台詞を言ってしまった事を、僕は生涯の後悔を抱える事になる。


 決して時間は戻らない。どんな才能であれ、去った時間は戻らない。。誰でも……分かる話だ。


「諦めろ……サッチモ!ミツバを返せ!」

「ミツ……バ?」


 途端距離を取ったサッチモはコックピットを開く、感情をむき出した彼の顔は。。既に壊れているのか?


「ハハ! こんな女ァ! 欲しけりゃくれてやるッ!」


ーードン


 サッチモは、ミツバを蹴り落とした……


「ミツバァアアッ!!!」


 間にあえ! 間にあえ! 間にあえ!

 必死で加速し手を伸ばす。間にあえ! 間にあえ! 間にあえ間にあえ!


 落下するミツバと目があった。

 知っているんだ……僕は。

 彼女は、時折見せるんだ

 彼女は……ごめんなさいと言う顔で、、

 笑っていた。


 伸ばしたクライドンの手には当たったかもしれない。しかし、その指の間を通り抜けるように……ミツバは地面へ落下した


ーーグシャァ


 地面に叩きつられたミツバは、この戦闘で生じた地面というに……真っ赤な化粧を施した。


「うあああああああああああッッ!!」

「ヒャーッハッハッハ! トドメだぁ! 小僧!」


 頭上からサッチモがブレードを振り上げ襲いかかる。早くミツバの元へ行かなければ……


「……邪魔だ!!」


 振り向きざまに、ヱラウルフのブレードを下から斬り上げる。弾かれたブレードは空中高くへと舞っていった。


「グガっ! チィッー!」


 体制を崩されたヱラウルフは右手でクライドンを殴りつける。僕はそれをあえて受けた。

 受けつつその右腕を掴み、ヱラウルフと共に空中へと飛翔した。


「なんのつもりだ! 小僧!」

「うるさい……もう喋るな」


 先程飛ばしたブレードを左手で掴む。


「ま、まさか! この為に!」

「黙れと……言ったろう」


ーーズグシャアッ


 そのまま僕は、ブレードをヱラウルフのコックピットを貫いた。


「うぎゃああああああ!!!」


 刺したブレードを抜き、地面へ投げ捨てる。

 全てが終わった……ミツバの元へ行かねば。


ーーーーーーーーーーーーーーーーー


 貫かれたヱラウルフはその起動を停止し、ゆっくりと地面を降下し、膝立ちで蹲るような姿勢を取ってその活動を停止した。

 降り立ったと同時に、ドシャァとサッチモが地面へ落下する。彼の左腕はもうこの世に無かった。


「うぅぅ……俺は、一体何を?」


 神様というのがいれば残酷であると言える。

 辺りを見渡したサッチモは今までの記憶を辿る。そして、辿れば辿るほど、自身の行いの狂気ぶりに青ざめた。


「ああ、俺は……罪のない人々を、仲間を……俺は………」


 彼は、片腕がなくなったショックなのか? 出血のためか? それは分からないが、最悪のタイミングで正気を取り戻してしまった。


 両膝を地面につき、残った右手で土を掴む。横たわるミツバ伍長を見つけ、吐き気を抑える事が出来なかった。


「俺は……俺は! 何ということを!」


 誰もそれに応えない。その原因を作ったのが自分自身であるのを再認識し、地面に伏した。


ーーーーーーーーーーーーーーーーー


 僕はクライドンを適当に降り、ミツバの元へと駆け寄る。一部始終を見ていたのか?一般人を抱えた隊員が既にミツバの元に居た。


「ミツバ伍長! 頼みます、起きて下さい! ミツバ伍長!」


 必死に声をかける彼は確か、メンディとか言ったか。僕は倒れたミツバの側にたち、報告する。


「ミツバ……終わったぞ。目を……覚ましてくれ!」


 彼女は応えない…


「ミツバ! 終わったんだ……全て」


 手を取り言うが、彼女は応えない。


「何故……誰か! 理由を教えてくれ! 何故ミツバが殺されなきゃならなかったんだ!」


 やり場のない怒りに地面を殴りつける。何をすれば良かったのか? どうすれば……全てが終わってしまったように感じた。

 ふと見るとサッチモがまだ生きているように見えた。


「殺さなきゃ……」


 よろよろと、サッチモの元へと向かう。その時、メンディが僕の前に立ち片膝を付け懇願してきた。


「お待ち下さいユリウス殿! サッチモを殺すのであれば、先に私を殺してください!」

「どういう……意味だ?」


 そこでメンディは語りだした。

 自身とマルセロ、サッチモはミザリーに薬を盛られ操られていたこと。

 ミツバのおかげで、自身とマルセロは正気に戻れたこと。

 ミツバをこの基地に戻す予定では無かったが、自身の不覚により戻してしまったこと。


「サッチモをこうまでにしてしまった原因は私にあります! ユリウス殿、どうか! 殺すのであれば……私を……どうか」


 嗚咽を漏らし、泣きながらメンディは僕に訴える。僕は……ただじっとその話を聞いていた。

 そうか、それでもサッチモを許す事は出来ないだろう。ただ、この惨劇の原因を作った元凶がいる。

 この多くの「何故」の首謀者がまだ生きている。ただ、それが許せなかった。


「メンディさん……頼みがあります」

「ハッ!なんでしょうか」


 僕は溢れる涙を抑えられず、今度は逆にメンディへ懇願する。


「僕は……今を持って軍を抜けます。そして……僕は、ミザリーを討ちます!」

「グ……ウゥゥ」


 僕もメンディも涙でぐしゃぐしゃだ。そして、もう一つあると告げる。僕はメンディの両肩に手を置き言う。


「どうか……どうか丁重に、ミツバを弔い……葬って上げて貰えませんか?」

「い、命に……代えても!」


 膝をつき、手を胸の前へ掲げメンディは応える。解放軍の最上級の敬礼を持って僕の頼みを聞いてくれた。


「ユリウス殿、これを」


 そう言って、メンディは写真付のペンダント僕に渡した。どうやら、作戦が成功したらメンディから僕に渡す予定だったもののようだ。

 蓋を開ける。そこには僕とミツバが並んだ写真があり、更にメモ紙が添えられている。中身を見ると、そこにはミツバの字で「待ってて」と書かれていた。


「じゃあ……行くよ」

「ご武運を!」


 メンディはミツバを抱え、サッチモのキャンプ前にある車に乗り込む。

 僕は、ペンダントを首にかけつつ、ヱラウルフの元へと歩いた。その前まで行くと、呆然とこちらを伺っているサッチモと目があった。


「ユリウス殿……俺を……殺してくれ」


 無視することも考えたが、その無責任な発言に怒りに任せサッチモを殴りつけた!


「いいか……よく聞けッ! お前を殺したところで、もうミツバは帰ってこない! お前が殺した人達は帰ってこない!」

「俺は……もう、人間ではなない……」


 僕はサッチモに掴みかかり、その目を見つめ直し言い放つ


「ああ……確かに! だから今を持ってお前は死んだ! これからお前は、今日お前が殺した人数分……人を救え! これは命令だ!」

「ウ……グウウ」


 サッチモは泣き腫らし、それでも僕から目を背ける事をしなかった。操られていたとしても、やはり人間としての矜持はあるようだ。


「それが出来たら……僕が、お前を殺してやる」


 彼もまた、腕は無いが最上級の敬礼を持ってユリウスを見送る。


「命に代えてもッ!」


ーーーーーーーーーーーーーーーーー


 ヱラウルフへ乗り込んだ僕は、再度この機体に驚愕していた。


「コックピットを……貫いたのに」


 もう既に起動可能状態まで自己修復が進んでいた。流石に、貫いたコックピットはまだ密閉されてはいないが、細かい傷などは何事も無かったかのように綺麗になっている。

 すると、足止めが尽きたのだろう。猛スピードであの純白の機体がこちらに移動してきた。


 メンディの車は、今サッチモを乗せたばかりだ。もしここで下手に出迎えて戦闘が開始すればあの車では爆風でひとたまりもないだろう。


「ギリギリまで……引きつけるんだ」


 どんどんと迫る純白の機体。せめてこちらの視界から消えるまでは我慢だ……

 行け! 早く! あと300mは距離が欲しい!


 純白の機体はヱラウルフ上空で回動する珠のようなものを集束させ真っ白な剣へと変貌させた。


「なんという……エネルギーの塊だ」


 少なからず恐怖を覚えた。あんな膨大なエネルギーは想定外だ。その巨大なエネルギーの塊は高速で自身に降りかかろうとしている。

 そっとばれないように、貫通跡を片手で覆う。あのエネルギーを受け止めたとしてもコックピット内部にまで入ってきたら即死は免れないだろう。


 今はだめだ。もっと……もっと、限界まで引きつけないと!

 激突まであと10m、5m……今だッ!



ギィイイイイイイイイイイイイ!!!!




ーーーーーーーーーーーーーーーーー




 時刻は9時20分を超えたところだろうかー




「ユリウス、あいつが元凶なんだな」

「ああ……あそこにミザリーはいる…」


「もう少しね。ところでサンド、りんごジュース飲む?」

「いや、さっき飲んだから」


 アール宙域でサンドとクリスと会話しながら僕はメンディ達の無事を祈っていた。

 サンドと交戦中、学校へ向かう車があったので、きっと救助に向かったのだろう……


 彼等は面白い……僕は自分の復習が終わったら彼等に付いていこうかなと思っていた。


「行く宛もないしな…」

「ん? ユリウスさんなんか言った?」


「いや……何でもない」


 クリスは「さん」付けをやめる気はないようだ。まぁ……強制することでもないしな。


 その時、ソキンシップより複数のクライドンが出撃してきた。やはり気づかれていたか。


「解放軍め! 壊滅させてやるッ!」

「行くぞ……サンド」


 僕は……いや、僕らはミザリー討伐へ向け走り出した。

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