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マルメンの男気

ーーーーーーメンディ

 毒のような解毒剤で正気を取り戻した自分は、車から降り、小雨避けに大きな木の下を天然の傘とし、ここまでの経緯をマルセロとミツバと共有した。

 なぜ車外かって? 臭いが充満するからである。


「ユリウスは大丈夫なのでしょうか?」


 ミツバ伍長の心配はもっともだ。そして、これからまだ1つ残っているという解毒剤を自分等と共に基地に出向きサッチモ隊長へ服用させる気でいる。

 ミツバ伍長には悪いがそれには同意しかねる。

 これは自分等の失態だ。ミツバ伍長の気持ちは分かるが、これ以上は自分とマルセロで解決すべきである。


「すまないミツバ伍長、ここからは私とマルセロは解決するつもりだ」

「そんな! 私も同行します!」


 強い口調で否定するミツバ伍長。その意志が硬い程、私達のプライドは削られていく。

 マルセロも私に同意なのだろうか、私に助け舟を出す


「ミツバ伍長、わりぃけどよぉ、男にはやらなきゃいけない時ってのがあるもんなんだぜ!」

「あ、マルセロさんは黙ってて下さい」


 マルセロは嘘でしょ? という顔をしている。

 マルセロよ、お前の好感度は谷底だな。ただ、私もこの件に関しては引く訳にはいかないのである。


「ミツバ伍長、申し訳ないがミツバ伍長が自身の任務を遂行することをユリウス殿も望んでいます」

「そうかもしれないですけど……」

「では、プライベート電話の番号を教えて下さい、こちらが無事に済んだら必ず連絡します」


 そこまで言うならと、ミツバ伍長の番号を聞き出す。

 俺も俺も! とマルセロが食いついてくるが、舌打ちという対応で拒否されていた。仕方ない、後で私から教えておくか。


「ではミツバ伍長はこの車でお戻り下さい、私達はこの距離であれば歩きで大丈夫です」

「わかりました」


 了解と、ミツバ伍長は運転席席に乗り込み、エンジンをかける


ーーーブロロロロロ


 車が走り出す直前、ミツバ伍長は窓を開け顔を出す


「絶対! 連絡してくださいね!」


 彼女の願いに、私は無言の敬礼で応えた。


ーーーーーーーーーーーーーーーーー

解放軍特設基地前


 この特設基地は住宅街より少し西側に離れた空き地を利用している。広さはおよそ5ヘクタールあり、「コ」の字型をしている。北側にはクライドンが並べられており、反対の西側には6つのキャンプが建てられておいる。

 その中央にある一際大きいキャンプは「本部」と名付けており、この作戦隊長のユリウスは基本そこにいる形となる。そして、サッチモがいるキャンプは特設基地入り口に一番近いテントである。


 奥には木造の宿舎があるが、隊員は寝る時と風呂以外は空き地に建てたキャンプを利用している。


 私とマルセロは、特設基地入り口において、作戦を練っている。


「さーて、ミツバ伍長にかっこつけて戻ってきたはいいものをよぉ」

「うむ、どう飲ませるか……」


 私とマルセロ頭を抱えていた。あの「嵐神」の異名を持つ隊長にどうやってあのカプセルを飲ませるか? これはとてもヘヴィなミッションである。

 正面から「飲んで下さい!」と言うのも考えたが、あの凶悪な味のカプセルを黙って飲む人間などきっとこの世にいないだろう…


「とりあえずロープは持ってきたけどよぉ、やっぱ隙をついて縛り上げるしかねぇんじゃねぇか?」

「うーむ」


 どうにも、あの屈強な隊長を縛るヴィジョンが思い浮かばない。が、考えていても仕方が無いので、マルセロの意見に乗っかる事にする。


「分かった、私が隊長をこの入り口まで引きつける、マルセロは後ろ側から周り込んで隊長を捕獲してくれ」

「おう、やってやるぜ」


 作戦は決まった。後は腹を決めるだけだ。そう思っていた矢先、背後より声をかけられた

 今、ここに居るはずのないと思っていた隊長の声だった。


「お前等、遅かったな」


 私とマルセロは心臓が飛び出る感覚に陥った。抜かった! キャンプに居るという先入観にとらわれ過ぎていた!


 恐る恐る私とマルセロは振り返る。そこにはサッチモ隊長が仁王立ちでこちらを凝視していた。

 ど、どうする! チラリとマルセロを見ると彼も予想外の事態に目を泳がせている


「ミツバ伍長はどうした?」


 対象人物が見えない事への苛立ちを隠していない、低くドスの聞いた声で私達に質問をぶつけている。

 再度マルセロを伺う、マルセロもこちらを見ていたようで、お互いに目が合った。マルセロは気づかれないよう拳を「ぐっ」と握る。これは腹を決めろのサインだ。昔からそうだ、コイツはどんな絶望の状況でも決して諦めはしないんだった。

よし、私も腹を決めるか!


「隊長ぉ! 聞いてください!」

「なんだ」


 マルセロが仕掛けた。腹は決まったようだが、大丈夫だろうか? だが、今はあいつの言い訳に期待するしかないッ! 頼むマルセロ!


「ミツバ伍長なんですがね、そのぉ、足が早くてですね」

「取り逃したのか?」


 言い終える前にサッチモが事実のみを確認してくる。


「いや、取り逃したというよりですね、あのー、そう、そうです。良い、、ビンタだったんすよ!」

「どういう意味だ」


 ちょっと待って下さい! と前置きし、マルセロは呼吸をただす、その後キリっと睨み返すような眼差しを向けサッチモに言い放った。


「すげー、良いビンタだったんすよ……」


 ーーー「ホグぅッ!」


 馬鹿かコイツ。なぜ2回言った? やはり駄目だった。マルセロは良くも悪くも嘘をつけない人間である。

 サッチモの渾身の一撃を鳩尾に食らったマルセロは、地面に伏し意識を刈り取られた。


「どういう事だメンディ。答えろ」


 既に、言い訳でどうこうなる範疇ではない。そして、腹は決まっている。


「隊長! すみません!」


 右ストレートを隊長の下顎目掛けて放つ。しかし、それを予測していたサッチモは右足にほんの少し力を入れ体を捻りそれを交わした。

 と同時に即座に左手メンディの胸ぐらを掴み上げた。


「う、ぐぅう!」

「どういう了見だ?」


 キリキリと締めあげつつ重く、ひたすら重い質問をぶつける


「隊長! 目を覚ましてくだ……」


 ガチッ!


 サッチモの拳は鈍い音を奏で、メンディの顎を打ち抜いた。意識を刈るには充分な威力だった。


「このバカ者がッ!」


 馬鹿な部下を戒めたサッチモは、2人を掴み自キャンプへと戻っていく。それでもまだ、矯正の余地があると思っているのは彼なりの優しさでもあった。


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