八十二
「成瀬クンが犯罪に関わったと言うのかい? いったいどういうことなんだ? キミたちは何の話をしてるんだ?」
棚田豊国彦の張り裂けそうな声が、辺りに響いた。
「し……心外だな」と、成瀬は否認したが、言葉を詰まらせ、顔を引きつらせていた。
「言いがかりだよ。棚田くん、真に受けちゃいけないよ」
パンナの口元がキュッと締まった。
「何を根拠にボクを犯罪者呼ばわりするのかな、新生徒会長さん」
成瀬は顎を上げ、勝ち誇ったように嘲笑した。
「強気ですね。ご自身が直接手を下していなくとも、行為が犯罪とされることもあるんですよ」
「ボクがした行為?」と、成瀬の目が大きめに開いた。
「ボクが何をしたって言うんだ?」
「先日、当校の四人の女子生徒たちが覚醒剤による中毒症状に似た状態で保護されました。四人ともオカダイとの性行為があったことを認めています。中毒の原因は、オカダイが流通させている『FA』と呼ばれる特殊なカードによるものであることもわかっています。そして、オカダイとの取引により、『北高』で『FA』の流通を許したのは成瀬先輩です。カードを流通させることによって、相当な利益を得ていましたね。先輩が雇っていた二名のブローカーたちを検挙して、全部聞き出したんです。女子を提供して、利益が得られるアイテムと交換した。それは、つまり」
パンナは、さらに成瀬に詰め寄った。
成瀬は、すでに壁に背中を密着させるくらいまで追い詰められていた。
パンナの右手が成瀬の左頬をかすめ、背後の壁にドンと重低音を響かせた。
魅惑的にキラキラ輝く黒い瞳が、成瀬の面前まで迫っていた。
「売春の斡旋行為と言えます。逮捕用件に匹敵する犯罪行為です」
「ち……違う……」
成瀬は、首を何度も横に振って、容疑否認をアピールした。
「『FA』を仕込んだのはアイツらだ。ボクは、アイツらに強要されて、仕方なく……」
「仕方なく流通させて、大きな利益を得ていたと」
「……アイツらは、買取りを要求してきたんだ。ボクは、そのお金を作るために……」
「利幅は、先輩の方が大きかったことが判明しています。『FA』の流通で、利益を上げていたのは、主に先輩の方です」
「……」
「逮捕したブローカーたちが、全て自供しました」
「そんな連中が言ってることなんか……」
「もう、たくさんだ!」
甲高いアクセントとハスキーがかった悲鳴に近い叫び声が響いた。
パンナと成瀬は、声の主の方を見た。
棚田が、両肩を激しく上下させていた。
パンナは成瀬から離れ、棚田の様子を見つめた。
「成瀬クン」と、棚田は呼んだ。
成瀬は返事をしようと唇を動かしたが、声にならなかった。
「キミが、さっき報告していた防ぎきれなかった犯罪件数四件と、その四名の女子被害者は、数字が一致するじゃないか」
「はあ?」と、成瀬は甲高い声を上げた。
「棚田クン、それは確かに数字の一致はあるけど、さっきの犯罪の内訳が繋がってるわけじゃ……」
「四件だ!」と、棚田が怒鳴った。
成瀬は、口を噤んだ。
「その四人は、変なカードを校内に流通させたことで発生した被害者たちだよ。それ以外にもカードによる大勢の中毒者が存在しているんだろう。キミは、『平和』をどう考えていたんだ? 生徒会長に立候補する前に、あれだけ熱く『平和』について語り、意見を出し合い、意気投合した上で、活動に挑んだんじゃなかったのかな?」
「もちろん、それは今も変わってないよ」と、成瀬は言った。
「そのために『南北平和協定』を締結させたんだ」
「あの協定はスタートだ」と、棚田は言って、大きく深呼吸した。
「ゴールじゃない。維持させなきゃ、意味がない」
「……」
「キミの行為による被害の発生は、ボクの責任だ」
「……仕方がなかったんだ。『南高』のヤツらに、高額な現金支払いを要求されてて……ボクは、それに対処しようと……」
「ボクに、何の相談も無かった」と言って、棚田は鼻をすすった。
「ボクなら、どんなことをしても、そんなカードの流通を許さなかった。でも、キミがボクに相談を持ちかけなかったのは、ボクには問題解決能力が無いと、信用されてなかったからだ」
棚田は視線を天に向け、右手の平を自らの胸に当てた。
「ボクは、哀れな『はりぼて』の生徒会長だったんだよ」
そこへ、数名の警察官が入り込んできて、成瀬を取り押さえた。
「罪状は予定通り」と、パンナが伝えると、警察官の一人が頷き、成瀬を連行していった。
「棚田先輩」と、パンナが棚田に声を掛けた。
棚田は返事もせず、放心したように、ただ天を見つめていた。
「どうか、私を助けて下さい」
「え?」と、棚田は驚いて、パンナに視線を向けた。
「今、助けてって、言ったのかな?」
「言いました」と、パンナは、はっきり伝えた。
「私がかかえる困難は、私一人では解決できません。もし、生徒会長経験のある棚田先輩が力を貸してくれたら、どんなにか心強いか……私を助けて下さい」
棚田は、頭を掻きながら、パンナに近づいてきた。
「今、見ての通り、相方に好き勝手にやられて、その管理もできないような、だらしない男だけど……良いの?」
パンナは、両手をお腹の辺りで組んで、形の良いお辞儀をした。
「棚田先輩だからこそ、お願いするんです」
「本気?」
「本気です」
「やりますとも!」
突然、大声を上げて喜ぶ棚田に、パンナは驚いた。
「この棚田豊国彦、不肖ながら、矢吹会長のために全力投球させていただきますよ」
「よろしくお願いします」
パンナと棚田は、熱い握手を交わして、協力関係を結んだ。




