五十三
パンナは、犬飼の背中を押しながら芝生広場を離れ、人道公園の出口を目指していた。
時折、ミキミキの攻撃によるであろう爆音が轟き、後ろを振り返ることもあったが。
今のパンナはといえば、ショッキングピンクの丈の短いキャミソールに、サックスブルーのホットパンツという出で立ちである。
引き締まった腹部とヘソ、筋肉質の長い脚が見えていることに加えて、剥き出しになっている肩や背中の一部から、彼女の特徴的な彫り物が露出していた。
ミキミキの登場で、敵の注意が奪われた隙を見て、窮屈な男子服から解放されたいがために、すぐに着替えたという経緯であるが、露出の高い格好であることには、もう一つ別の理由があった。
「逃がさねえぞ」と、ドスを利かせた声が響いた。
『筆』を右手に構えたワルオと、その他二名の黒い男子がパンナに追いついてきた。
パンナは、段々近づいてくる男子たちを見た。
ここまで、すでに十数人の追手を討伐してきて、もはや食傷気味になっていた。
「あの爆発女に気を取られた隙に逃げたつもりだろうが、オレの目はごまかせんぞ」
「ウケるね。バカの考えることって面白いよ」と、パンナはクスッと笑った。
「何を!」
ワルオは、ギリギリと外に音が聞こえるくらいに奥歯を噛み締めた。
「だって、そうだろ? ミキミキに歯が立たなかったくせに、どうにかできると思って、私を追いかけてきてさ。そういう思考が生まれてくること事態が興味深いよね。なんで、そこまで自信満々になれるのか、理由を知りたいよ」
ワルオは、与えられた『筆』を得意気に構え、銃口をパンナに向けた。
すでに『光弾』は練られていた。他の二人もワルオに続いた。
「これで犬飼を眠らせたんだ」
「キミの『意志』程度では、私に届かないよ。犬飼クンを眠らせたのだって、ピンクか、仄香さんだったんじゃないのかな」
「フン」
ワルオは、意表を付いたつもりで、いきなり『光弾』をパンナに発射した。
あとの二人も続いた。
パンナは、造作もなく『爆発』で『光弾』を跳ね返した。
ワルオは、連続してパンナに『光弾』を撃ち込んだ。
他の二人も同じように。
「無理無理」
ワルオにしてみれば渾身の『意志』を込めた『光弾』のはずだが、パンナはハエや蚊でも退治するような手つきで、あっさりと払い除けた。
「あのね。さっき、私そっくりの『幻影』を置いてきただろ。キミらは、アレを相手にしてた方が良いと思うよ。ピンクが作ったのより私に近い構造になってるから、たぶん『使用感』も私と同じだと思うし」
「うるせえ。ナメやがって」
ワルオは、懲りずに『光弾』を撃ち続けた。
次第に、練り出せる『光弾』の量に翳りが見え始め、ついには枯渇に至ってしまった。
「やれやれだね」と、またもやパンナは首を横に振った。
「お遊びは、おしまいだよ。ナメられてると思ってるのなら、私の本気を少し見せてやるよ。いつもは、制服でキミたちの相手をしてたんだけど、今日のこの格好」
パンナは、ヘソ出しキャミソールとホットパンツの姿で、三百六十度クルリと回転して見せた。
「身軽だよね。この格好の威力を、キミたちに見せてあげる」
ワルオは、口を噤んだまま、パンナの動きを注視した。
にわかにパンナの手足が輝き始め、あっという間に輝きは全身へと広がっていった。
「今、私は体温を二度上げて、発汗を促したんだけど、見てのとおり『マジック・アイ』は、すでに『臨界状態』。犬飼クンの蓄積量は十分じゃなくても、攻撃力は十分に用意できてるよ。私の言いたいことわかる? 要するに、露出の高さと攻撃力は比例するんだよ。最強の状態は全裸なんだけど、以前にそれをやったら、佳人さんにメチャメチャ怒られてね。それ以来、この程度の軽装にしてるんだけど」
その時に、ワルオが振り絞って『光弾』を撃ち込んだ。
彼にとっては、精一杯の不意討ちだったのだろうが、パンナの輝く肌に弾かれ、まるで歯が立たなかった。
「それでも、キミたちは相当吹き飛ばされるからね。健闘を祈るよ」
パンナは、何事も気づかなったように話を続けると、全身に回った『マジック・アイ』を一気に『爆発』させた。
瞬間的に発生した爆風が、彼女を中心に球状に広がっていき、周辺の森林が台風にでも遭遇したかのように大きく揺らぎ、激しく木々がざわめいた。
ワルオたち男子の体が凧のように浮き上がり、彼らは悲鳴を上げる間も無く、数十メートル先の森林の方へ吹き飛んでいった。
「これで終わり」と、パンナは両手をパンパンと叩いた。
「加勢しようとしていた鬱陶しい男子たちも、今ので一緒に吹き飛んだみたいだね。棚田先輩とミキミキも、うまく逃げてると思うし。さぁ、犬飼クン、帰るよ」
と、その時に、パンナのスマホに着信があった。
発信元は『非通知』となっていた。
「はい」と、パンナは応じた。
《出口に向かってるね》
男子の声だった。
《公園から外に出たら、前の道路を最初に通行する車に向かって、右手の親指を出して》
「あなたは誰ですか?」と、パンナが尋ねたが、通信は切れてしまった。
パンナは、再び犬飼の背中を押しながら、出口に向かって前進した。
公園の外のすぐにあるロータリーを抜ければ、垂直に通う市道に出た。
右方向から、遠目にしているヘッドライトが向かってくるのが見えた。
最初に通行する車とは、アレのことであろう。
パンナは疑いもせず、右手の親指を突き出した。
車はライトを低くし、左ウインカーを出して、パンナと犬飼の前にピタリと止まった。
パンナはうろたえながら、車の中を覗こうとした。
彼女の『予測』では、現状の行先が全く見えていなかった。
この後の展開を企てているのは誰なのだろうか?
不安に包まれながらも相手の指示に従ってしまった自分の行動に対しては、なぜか悔いは無かった。
パンナがどうしようかとためらっている内に、運転席側のドアが開き、中から男が外に出てきた。
「パンナさん!」と、男は大声を上げた。
パンナは両目を大きく開き、男の顔をただ見つめていた。
「いやぁ、昨日に続いて、今日も会えるなんて、何だか運命を感じますねぇ。ほら、ボクですよ……マンションのセキュリティ・システムの件で、昨日会ったじゃないですか。システムサポートの柴田ですよ」
パンナは、唇を震わせ、ただただ、柴田の顔を見つめていた。




