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マジック・アイ  作者: 守山みかん


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50/89

五十

芝生の上に横たわっているパンナを見て、黒い男子の一人が歓喜の雄叫びを上げた。

その男子は、さらにピンクに近づき、歯並びの悪い前歯を剥き出しにし、鼻の穴を大きく広げ、ノドに残留した痰をこじ開けて出てきた空気にのせて、「約束だ!」と言い放った。

ピンクは、細い目をして男子を見た。

「矢吹嬢を仕止めたら好きにできる、という話だった」

「何、このバカ丸出しは?」と、仄香がピンクに尋ねた。

「男子を招集するのに、ちょっと良い話を出してやったのね。みんな、矢吹さんにはとっちめられているから全員来たのね」

「ちょっと良い話って……男子が好きな話よね」

「約束は守ってあげなきゃ、コイツら暴走するのね」

「仕止めたのは、私なんだけど」と、仄香は口を尖らせた。

「そんな理屈で納得させられるほど賢くないのね、コイツらは」

「さっきの優しい桃ちゃんは、どこに行っちゃったの?」

「交渉の見込みの無くなった相手に、気づかいは無いのね」

「まぁ、バカの相手するのが私でないなら、どうでもいいんだけどね。時間が無いから早めに終わらせて」

仄香の許しが出たので、ピンクは黒い男子の方を向いた。

「おい、やっちゃっていいのね。でも、早く撤収したいし、十分くらいで麻痺が治っちゃうから、次の『光弾(バレット)』撃ち込むまでだぞ」

「おう!」と、歯並びの悪い男子(以後、この男子のことを、歯並びの悪さに敬意を表して『ワルオ』と呼ぶことにする)が真っ先に返事し、パンナのそばに近寄った。

「ああ」と、仄香が目を伏せた。

「かわいそうな梨菜ちゃん。こんなゲスい男子の相手しなくちゃならないなんて……でも、この子は精神面(メンタル)がタフみたいだから大丈夫よね。これも人生の通過点ってことで」

ワルオは、パンナを仰向けになるように動かし、強引に紺色のブレザーの前を左右に開いた。

止まっていた金ボタンがあっけなく弾き飛び、白いブラウスに包まれた胸の膨らみが(あらわ)になった。続いて、ブラウスの首元に指をかけ、同じように前を力任せに開いた。

「そろそろ意識が戻る頃ね」と、仄香が言った。

「でも、麻痺はしばらく治らないわ。この『(カラム)』による攻撃は、脳内の運動に係る命令系統を一時的に遮断させているだけ。この子は何も身動きが取れないまま、女子として最低の仕打ちを受ける様を記憶に刻むことになるのよ」

ブラウスの下から、剥き出しの両肩と豊満なバストを包み込む白いスポーツブラが現れた。

周囲の男子たちのゴクリと唾を飲みこむ音が辺りに響いた。

「おかしいのね」と、急にピンクが声を上げた。

「どうしたの、桃ちゃん?」と、仄香が尋ねた。ピンクは、小刻みに肩を震わせていた。

「なぜか、無くなってるのね。その……矢吹さんの……」

「え?」

ピンクは、肩を露出した姿でいるパンナを指差した。

ワルオは、スポーツブラも剥ぎ取った。

張りのある形の整った大きめのバストが披露され、男子たちは「おお!」と、どよめきを上げた。

ピンクは、パンナのそばに駆け寄り、その身体をうつ伏せに裏返した。

「何しやがる。ジャマすんな!」

ワルオが怒鳴り声を上げた。

ピンクは、()(けん)にシワを寄せて、ワルオを睨みつけた。

「オマエ、これ見て何も気づかないのか?」

ピンクは、『発光(イルミン)』に照らされ、白く輝いているパンナの背中を指差した。

「何がって……」

ワルオは、頭の後ろを掻きながら思案するが、回答を導くことはできなかった。

彫り物(タトゥー)だよ! 見たことあるだろ! なぜ無くなってるのね」

ピンクは、声を張り上げた。

「桃ちゃん、それって、どういうこと?」

仄香が、ピンクに近づいてきた。

「……かなり、マズいのね……矢吹さんを見失った……」

ジャラ……

その時、金属同士が擦れ合う音が、ピンクの耳に入った。

その音が何を意味するのか、ピンクは、すぐに気が付いた。

「何で……」

ピンクの視線は、拘束されている犬飼武志がいる方角に向けられた。

「おい、そこのヤツ、何で鎖を解いたのね?」

ピンクは、犬飼の隣に立つ男子に問いかけた。

犬飼にかなり密着しているせいか、大きな影に覆われ、ピンクの位置からでは、顔がはっきり見えなかった。

犬飼のそばに立つ男子は、おもむろに『筆』を構え、『光弾』を練り始めた。

「仄香さん、危ない!」

とっさにピンクが仄香に飛びかかり、芝生の上に押さえつけた。

男子から発射された『光弾』は、仄香の頭があった位置に正確に到達し、爆竹のように弾け飛んだ。

「おい、周りに集まって! 仄香さんを守るのね」

ピンクが声を張り上げて、黒い男子たちに指示を出した。

さらに、仄香がいる辺りを狙って、数発の『光弾』が飛んできた。とっさに仄香は交わすが、身代わりになった男子たちがバタバタと倒れていった。

「正確な射撃だわ。昨日今日、身に付けたという腕じゃない」

「アナタ……」

ピンクが威嚇するように、犬飼のそばに立つ男子に向かって言った。

「いつから、そこにいたのね?」

男子は、影から『発光』に照らされている場所に歩み出た。

学帽を深くかぶっているので、顔はよくわからないが、男子は潔く学帽を頭から弾き、素顔を見せた。

それは、男子の制服を身に纏う、パンナの姿だった。

「梨菜ちゃん!」と、仄香が悲鳴に近い大声を上げた。

「いつからって……最初からいたよ」と、パンナは、平然と答えた。

「私たちが、ここに陣営を構えた時には、すでに紛れこんでいたということなのね」

ピンクが念を押すように尋ねた。

「うん」と、パンナは頷いた。

「つまり、私たちがこれまで相手していたのは、ずっとアナタにそっくりな『幻影(フィギュア)』だったわけね」

「まあね」と、パンナはピンクの問いかけよりも、盛んに自分の胸の辺りを気にしていた。

「ちょっと人の話、聞いてるのね?」

ピンクが右前足で強く地面を踏みにじった。

「男装してるとね、もうね、胸がキツくてね」と、パンナが嘆いた。

「『幻影』で見てもらったと思うけど、あのオッパイをペッタンコにしてるんだよ。サイズの小さいブラして、その上から棚田先輩にサラシでギュンギュンに巻いてもらってね。心臓とか、肺とか、もう吐きそうだよ」

「知るか!」

すかさず、ピンクが男子たちに一斉射撃の指示を出した。

爆発(エクスプローション)

パンナは、身の回りで『爆発』を起こし、その爆風で男子たちから向かってくる細い『光弾』を吹き飛ばした。

「続けて、次を撃ち込むのね。矢吹さんを休ませちゃダメ」

ピンクが矢継ぎ早に、発射指示を出した。

パンナも、負けずに防戦した。

パンナの左手は、ずっと犬飼の腕を握ったままだった。

「犬飼クンの回復も終わったし、このまま帰りたかったけど、そう簡単にはさせてくれないか……」

パンナは、次の弾幕に備えて、『爆発』用の『光弾』を次々と繰り出した。

「『蓄積型(アキュムレイティブ)』と繋がっているのね。あれではキリがないわ」と、仄香が言った。

「キリはあるのね」と、ピンクは指示を止めずに、仄香に反論した。

「犬飼を稼働させて、そんなに時間は立ってないと思うのね。蓄積量は知れてるだろうから、とにかく、これだけの人数で攻撃し続ければ、相手の方が先にバテるはずなのね」

パンナの右目にグリーンのターゲットスコープが写っていた。

芝生広場には、百人近くの男子がいることを確認した。

「さすがに、この状況では防戦に手一杯で、枯渇するのが見えてるね」

「桃ちゃん、すごい……」と、仄香がピンクの行動に感心した。

「油断大敵なのね。次に矢吹さんが何をしてくるか注意しないと……」

「じゃーん!」

ピンクの言葉を遮り、その声は、どこからともなく響き渡った。

仄香が練りだした『発光』よりも、さらに大きな『発光』が打ち上げ花火のように昇天し、前よりも一層、芝生広場が明るく照らし出された。

「きゃはあ、会長すわん。助けに来たのですわん」

独特の甘えたような声のする方向に、全員の注目が集まった。

「つ……ついに、出たのね」

ピンクが、激しく動揺した。

「何あれ?」と、状況を掴めていない仄香が尋ねた。

「あれは……どっちかと言うと、逃げた方が良い相手なのね」

ピンクは、少しずつ後ずさりながら答えた。

「電話のやり取りで、梨菜ちゃん一人で来るって話じゃなかったの?」

「そんな話……矢吹さんが守るはずがないのね」

「梨菜ちゃんって、まじめなヒロインで、一人で真正面から向かってくるイメージだと思ってた」

「そのイメージは有り得ないのね。どっちかというと、やり方がズルイというか、キタナイというか……」

「きゃはあ、ファンタスティック・ワールドからやって来た美少女イリュージョニスト、ミキミキの登場でーす」

大きな『発光』のもとに、両手を左右に広げ、両足を交差にして立つ、栗色のマッシュルームのような髪型に、分度器のような目と口の女子が一人。

そして、そのそばで、黒子役を務める男子が一人。

「矢吹クン、三木クンを連れてきたよ」と、男子の方が叫んだ。

ヨーデル棚田だった。

「棚田先輩、ありがとうございます」と、パンナは手を振った。

「何がどうなるの?」と、仄香。

「アレの攻撃がスゴいんで、一応は防戦するけど、逃げる方向で」と、ピンクが即答した。

「きゃっ、きゃっ!」と、ミキミキはハート型の『のどちんこ』を見せながら笑い、爪先立ちでクルリと右周りに一回転して、両手を前に差し出すポーズを決めた。

「みなさーん、ミキミキを楽しんで下さいね!」


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