表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
マジック・アイ  作者: 守山みかん


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

31/89

三十一

「つまり、私が倒せたのは丸野一人だけ、というわけなのだわねよ」

と、言って、有利香は小さく舌を鳴らした。

「丸野クンには気の毒なことをしました」

沼田のゾンビ姿となったオカショーは言った。

「きっと何もわからないまま、天に召されたのでしょう。まぁ、彼は、ちょっと自信過剰でしたね」

「その性質を、キミが利用したのだわよ」と、有利香が鋭く指摘した。

「まぁ、結果的には、そういうことになりますがね」と、オカショーは否定しなかった。

「で、私とどんな話がしたいのかしらよ?」と、尋ねて、有利香はオカショーのあまりにおぞましい姿から目を逸らした。

「良い流れですね。私にも話をする機会を与えてくれるんですね」

オカショーは、いかにも楽しそうな笑顔を作ったつもりだが、崩れかけた顔では、それが伝えられたかどうかは疑問である。

「つまり、まぁ、私がお願いしたいのは、たった一つなんですけどね」

オカショーは咳払いをしようとしたが、ゴボゴボと口の奥から血の混じったゼリー状の塊がこみ上げてきて、しばし会話が中断された。

「ず……ずいません……」

オカショーは息を切らせながらも、会話を続けようとした。

「わ……わたじと、てをぐみまぜんか。ずまり、わたしなら、あなだの『けんげん』をぼっといがすこどがでぎばずよ。どうが、わだじど……」

オカショーは、言葉を言い切れないまま、路上に突っ伏した。

最後の力を振り絞って、制服の胸ポケットにしまっていたスマホを掴み、それを有利香に向かって放り投げた。

小さなスマホは、有利香の足元まで転がると同時に、着信メロディーが鳴り出した。

有利香は、おずおずとそれを拾い上げ、耳に当てた。

《すいません。体が持ちませんでした》

オカショーの快活な声が聞こえてきた。

「ずいぶん変わったことが、お出来になられるのねよ」と、有利香は皮肉を言った。

《さすがは有利香さん。この状況を見ても、うろたえませんね。やっぱり、ボクの……》

「電話さんは、どこにいるのかしらよ?」

有利香は、意図的にオカショーの言葉を遮った。

そばにいる玲人がクスクス笑った。

《電話さんって、私のことですよね……近くに来ています。まもなく、そちらに到着できますよ》

「私は会いたくないから、手身近に用件を話すのだわよ。電話さん」

玲人は、今度は声を立てて笑った。

《私に協力していただけませんか? 『マジック・アイ』に関する画期的な研究を進めているんです。その完成には、ぜひとも有利香さんの協力が必要です》

「協力すると、私に何か良いことがあるのかしらよ?」

《もちろん、お礼はします》

「お金なら、いらないのだわよ」

有利香は、オカショーの提案を容赦なく却下した。

「私が誰だか、わかってるのだわねよ」

《それは、もちろん……》

スマホのスピーカーの向こう側で、オカショーが歯軋りする様子が伝わってきた。

《有利香さんがお望みのモノを用意しますよ。どんなものだって……岡産業グループが全力で用意いたします》

「私に何をしてほしいのかしらよ?」

《情報提供です。『伝承(トラディション)』に関する……おわかりでしょう?》

電話越しでも、オカショーが有利香の機嫌を窺っているのは明白である。

玲人は、ニヤニヤ笑いながら、二人のやり取りを窺っていた。

「やっぱり、そう来たのねよ」

《わかってくれますか》

「電話さんの目的は見えたのだわよ。もし断ったら、私をどうする気か、それも聞かせてほしいのだわよ」

スマホから、フウとため息を漏らす音が聞こえた。

《そこに兄がいます……》

いかにも不本意な展開になると言いたげである。

《先ほども伝えましたが、兄はあなたを性的な対象にしか見ていません。それでも、私は兄に任せます。兄は、目的達成のためなら、手段を選びません。例え、僅かでも、あなたに関する情報を手に入れてくれるでしょう》

「それが電話さんの本性なのだわよ」

有利香は、スマートホンを持つ指に力をこめた。

《私としても不本意な判断です。どうか私に協力して下さい。これが最後のお願いです》

「断るのだわよ」

有利香は、スマホを炎上したミニバンの方角へ、思い切り投げつけた。

「あたっ」と、男の悲鳴が耳に入った。

「アナタ、狙ったわね」と、聞き覚えのある声がした。

有利香は、玲人を呼び寄せた。

「投げたスマホの方向に一発撃ちこむのだわよ」

「承知」

玲人は『アーム砲』を構え、先ほどミニバンを破壊したよりも小さな『光弾(バレット)』を練り出し、発射させた。

『光弾』は夜の影に吸い込まれるが、すぐにボムと音を立て、人型の火柱を浮かび上がらせた。

「きゃー」

男の甲高い叫び声が響いた。

「もう一発」と、有利香の指示が飛んだ。

玲人は、すぐに次の『光弾』を練り出し、人型に向けて発射した。

さらに激しく、人型の火柱が燃え上がった。

「アナタ、容赦ないわね」

男の声は、まるで人ごとのように、先ほどとは幾分か落ち着いた口調で言った。

人型の火柱は、段々と二人に近づいてきた。

「もう一発」と、有利香。

「ちょっと、もういい加減にしてよ」

男の文句も受け入れられず、玲人はすぐに反応して、『光弾』を撃ちこんだ。

またもや炎上。人型の動きが鈍くなった。

「撃たれたくなかったら、そこで止まりなさい」と、有利香は男に向かって言った。

男はフンと鼻を鳴らして、足を止めた。

「そんな攻撃したって、私に通用しないわよ。でも、面倒だから止まってあげる」

男を包む炎は、にわかに消え去り、その人影が徐々にオカダイの姿を形成していった。

有利香は、右腕に着けている小さな腕時計を気に掛けた。

オカダイは、一糸纏わぬ全裸で、二人の前に立ちはだかった。

その間隔は五メートル程度。

有利香は、男の姿が完全に再現されるまでの時間が、およそ約三十秒であることを確認した。

「姉貴、コイツの存在を、どのタイミングで把握してたんだ?」と、玲人が尋ねた。

「ゾンビさんと知り合ったあたりからなのだわよ」

有利香は、この事態がそれほど深刻ではないような落ち着きぶりを見せた。

「コイツ、変態か」と、玲人は露骨に嫌悪感を表した。

「アナタね」と、オカダイは玲人を指さした。

「二回もコイツって呼んだわね。タダで済まないわよ」

「やってみろよ」と、玲人は構えた。

オカダイの目が輝いた。

玲人は、たちまち(おう)()(かん)に襲われた。

さらに、玲人の脇腹に激痛が走った。

痛みと引き換えに嘔吐感は消えていった。

「あのオカマさんの『才能(アプリ)』を甘くみてはダメなのだわよ」

有利香が玲人の耳元で囁いた。

玲人の脇腹には、有利香が右手に構えていた『(カラム)』の銃口が突きつけられていた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ