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マジック・アイ  作者: 守山みかん


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「さて、新しい『才能(アプリ)』の話をする前に、これまでに教えた『マジック・アイ』の持つ性質をおさらいしてみようか」

佳人は、部屋の壁から壁へ、間口いっぱいいっぱいを余さず折り返しながら、話を始めた。

梨菜は、部屋のほぼ中心に置いた椅子に座り、目だけで佳人の動きを捉えていた。

「ちょっと、キミが答えてごらんよ」

「『マジック・アイ』は、私たちの身の回りに無数にあって、それぞれが何らかの情報を持つ粒子だってことでしたね」

佳人は親指を突き出し、「『マジック・アイ』の持つ情報の種類は?」と、尋ねた。

梨菜は「周囲四十九メートル以内の状況に関わること」と、答えた。

「その数値はキミの場合だね」と、佳人が補足した。

「他の『マジック・アイ』の持つ情報に関わること」と、梨菜は続けて答えた。

「『連鎖(リンク)』の要素だね。他には?」

佳人は、催促するように尋ねた。

それに対して、梨菜は、「それだけです」と言い切った。

「『時系列』の要素を忘れてるよ。『マジック・アイ』の持つ情報は、現在の状況であるとは限らない」

佳人は、なおも壁から壁へ移動する足を止めなかった。

「そうでした。『マジック・アイ』は、時間の情報も持ってるから、並べ替えることによって、歴史を知ることができるんでしたね」

「そう。運が良ければ、人類創世記におよぶ太古の歴史にまで(さかのぼ)れるかもしれない」

「本当ですか?」と、梨菜は疑わしそうに尋ねた。

「理論上はね」

佳人が答え、梨菜はフフッと笑った。

「佳人さんの『理論』は信用できないです」

それを聞いて、佳人は腹を押さえて笑う。

「言ってくれるね。なかなか大昔の情報を持つ『マジック・アイ』には巡りあえないんだよ。多くは、『権限者(ギフター)』たちに消耗されるか、現在の情報に置き換えられてしまうか、でね」

「私と佳人さんでメッセージを送り合うときも、『マジック・アイ』の情報の書換えを行っていますしね」

「元の情報を確認すれば良いんだろうけど、つい、無作為にやってしまうからね」

「今からでも根気よく探していけば、歴史を見つけられるかもしれないですね」

「それと未来もね」

佳人から何気なく出たその言葉に、梨菜は、すぐにその奇妙さに気づけなかった。

「未来?」と、梨菜は首をかしげた。

「そうだよ」

佳人は、平然と答えた。

「『マジック・アイ』は、未来の情報も持ってるんですか?」

「断片的だけどね」

佳人は、窓の前で梨菜に背を向けて立ち止まった。

まぶしい陽光が、佳人のシルエットを黒く浮かび上がらせた。

「たとえば、これからボクが交通事故に遭遇する情報を手に入れたとする。時間は三時間十五分後。場所は、すぐそこのコンビニに行くまでの横断歩道のある所。ボクが横断中に急に軽自動車が現れ、ボクと接触する」

「それは本当の話?」

梨菜は立ち上がり、張り裂けるような声で佳人の背中に投げかけた。

佳人は、ゆっくり梨菜の方を振り返った。

彫りの深い容貌に、陽光が複雑な影を描いていた。

「例えばの話だよ」

梨菜はホッとため息を漏らし、再び着席した。

「軽自動車が急に現れるなんて事態は、ボクの感覚的なモノだよ。たぶん、ボクの不注意だろうね。わかってるのは軽自動車にはねられるって事実だけだとして、そうなる経緯を知ることで、回避できる可能性が出てくる。でも、その経緯を知るには工夫がいるんだ」

「工夫?」と、梨菜は佳人の言葉を復唱した。

「関連する情報を持つ『マジック・アイ』を、さらに捕獲する手もあるけど、全部は揃えられない。時間は、どんどん進行する。そうこうしてる内に、回避できる最後のタイミングを逃してしまうおそれもある。だから、早い段階で計算するんだよ。その結果に、なぜ至るのか。(すじ)(みち)を計算によって求めれば、これから起きることに対して干渉できる。ボクは、『予測(Prediction)=プレディク』って呼んでるよ」

「『予測』……」

梨菜は、佳人から教わった言葉をなぞってみた。


 * * *


「本当かそれは?」

森脇恭二は、頬に密着させたスマホに向かって、(かん)高い声を上げた。

《本当です》と、相手の小田が返答した。

《送信履歴が二回残っています。昨日、撮影した後、すぐに送っています。そして、今送ったモノと……》

「ボクのスマホは、今送ってもらったのしか受信してないよ。昨日のは、どこに行ったの?」

森脇が口を尖らせた。

《メールは、時々そういうことが起きます》

小田が言い訳した。

「もう三年くらいスマホ使ってるけど、今までにそんなことは起きたことが無いんだけどな」

森脇は、なおも不服そうに言った。

《メールサーバーの采配ミスか、通信経路の混雑の影響で、送ったメールが行方不明になってしまうことは、ごく(まれ)ですが、起きることがあります。ずいぶん遅れてから届くこともあります》

電話の相手は見えないが、小田がたじろぎながら理屈をこねている姿は、容易に想像できた。

「遅れるって、どのくらい?」

森脇は強い口調で尋ねた。

《場合によっては、一ヶ月ほどかかる時もあります》

「じゃあ、このまま一ヶ月待っていれば、もう一通のメールが届いてくれる、って言うのかな?」

森脇の問いかけに、小田からの返答は無かった。

「キミが言う、機械的なトラブルだったらあきらめるけど、たとえば、誰かに(ぼう)(じゅ)されてたら、ちょっと面白くない話だよね」

《……そうですね》

小田の観念した弱弱しい声が戻ってきた。

「もし、そういうことができるとしたら、()(ぶき)(じょう)以外に思い当たるヤツいるかな? たぶん『生徒会警察』の動きじゃないと思うよ。もし、彼女の仕業だとしたら、ボクに気づかれるような、ずさんなやり方はしないだろうからね」

森脇の問いに、《……一人います》と、小田は静かに返答した。

《スマホ・タブレット同好会を立ち上げた嶋田幸次がいます。彼は、通信プロトコルを熟知してます》

「西藤有利香の情報を欲しがっていた丸野クンが、そいつに頼んだかな?」

《おそらく》

「丸野クンに、してやられたわけだ。だとしたら、一度、痛い目にあわせてやらなきゃね」

森脇は通話切断のボタンを押し、小田が送ってきた写真を眺めて、ニンマリと笑った。

「可愛いな。瞳が大きくて、白いヘアバンドが似合ってる。それに賢そうだ」


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