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 痛みを感じてからようやく斬られたのだと思えた。目の上の傷口から血が流れ落ちてくる。


 だが指の先すら動かすことが出来ない状況では血を拭うことすら出来ない。


 頬を伝い、首筋から鎖骨へと流れ込んでくる血液の流れに気持ち悪さを感じたが、エンセライの荒い呼吸を耳にしたとたん恐怖も疑念もすべて消え去った。



「のちほど再生譜を読んでさしあげますわ」



「治療など後で構いません。そんなことよりお願いです! 弟に調律を! 発作が長引けば命にもかかわります。お願いします!!」



 ロスワイセは口の端をゆがめると、エンセライに向けて優美な所作で手を差し伸べた。



「さ、まいりましょう、エンセライさま。その発作はのちほど我が南天の楽師が治してさしあげますわ。それとも東天王をお呼びいたしましょうか」



「それでは間に合いません。お願いです、どうか弟に調律を! エンセが死んでしまいますっ」



「抜刀しかけた方の申し出を受け入れるとでも? 弟を苦しめているのは自らの短慮が招いた結果。そこで自戒なさるのね」



「今の状態で転送譜を使っても理子(りし)が乱れすぎて必ず失敗する。それよりは簡易的にでも調律を行って、それから移動してくれ! エンセを助けてくれ!!」


 ロスワイセは黙殺した。

 取り付く島もない。



 どうすれば。



 混乱する頭の中に先刻のエンセライの言葉がよみがえる。



 ―――あとで兄さまに見せたいものがあるから、あとで階段の下に行って欲しいんだけど



 目の端に映る欄干に眉根を寄せた。



 見せたかったものは理譜のことか。



 掌の下に一瞬現れた譜の形状を思い浮かべた。



 理子の集積具合と光の軌跡から考えて中身は遅効の罠系統だ。


 どんな内容のものなのかはわからなかったが、帯刀していないエンセライは理子の凝集が出来ない。


 発現しても大したものではないだろうが、今の状態を抜け出すためには隙を作らなければならない。


 目くらましくらいにはならないだろうかと譜の形状を必死で思い出そうとした。



「調べれば……すぐにわかると思いますけど……その譜は兄さまのものじゃ、ありません……」



 息も絶え絶えなその声にぎくりとした。



「エンセ……?」



 理子(りし)の激しい乱れを感じる。


 エンセライが何をしているのか神経を張り巡らせようとしたそのとき、自らの手が光っているのに気がついた。


 手だけではない。足も腕も、全身から光がほとばしっている。

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