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 どうして五字になど生まれてきたのだろう。


 二十八位の、三字までしか名乗れぬはずの楽師の両親の間に授けられた子供だというのに、どうして五字など許されてしまったのだろう。



 庭で遊ぶ弟を見守りながら物思いにふけっていると、ふいに()()の乱れを感じた。

 (しゃ)()(きゅう)に勤めていた父が地下の転送陣から帰還したのだろう。



 迎えに出なければ。



 庭で遊ぶ弟に声をかけて、家の中に戻る。

 それから数歩もいかないうちに背後で歓声があがった。ふりかえると、弟が目を輝かせて、駆け寄ってくるところだった。



「兄さま、見て」



 エンセライはマントの裾をつかんで、無邪気に微笑みながら空の一点を指差した。


 黄昏時の空は美しいグラデーションだった。燃えあがるように赤い東の空とは異なり、西は深く落ち着いた青だ。

 その藍色の空が真珠のように輝き、白き尾の星が駆けていく。


 その光ははるか眼下に広がる(こう)()の一点に吸い込まれるようにして消えた。



「あれ何だろう。流星かな。たくさん光が落ちてくる。綺麗だね、兄さま」



 その言葉の間も幾筋もの光が皇都に落ち、そして自分たちがいる浮島にも吸い込まれていった。


 あまりの数の多さに、血の気がひく。


 身をひるがえしかけたそのとき、浮島の中央にそびえる西天の居城、(しゃ)()(きゅう)に光が落ちるのを見た。



「エンセ、中に入っていろ!」



 思わず叫んだ。


 そしてびくりと身を震わせる弟を尻目に、地下にいるであろう父の元に駆けた。



 あれは、あの光は……



 嫌な予感が体の底からこみあげてくる。



「ちょっと! うるさいわよ!」



 同じく父を迎えに行こうとしていた母が驚いたように目を見張り、続けて眉根を寄せた。


 だが普段ならばすれ違いざまに送る軽口めいた謝辞も口にすることが出来なかった。無視するような形になってしまい、母は余計に声を荒げた。




 大広間に続く階段にやってきたとき、父はちょうど地下からあがってきたばかりだった。



「父さん!!」



 宮廷衣を解いていた父は階上のこちらの姿を認めるなり、気さくな笑顔を浮かべた。



「どうした、そんなに慌てて」



「天の火が……」



 階段を駆け下りながら、心中に絶望的な感情がこみあげてくる。



「制裁の光が(しゃ)()(きゅう)に!」



 言下に背後の母が息を飲む気配がした。


 父の顔がみるみるうちに蒼白になるのが、階段の上からでもわかった。


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