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「……あんたはどうして俺を助けてくれるんだよ」



「助ける?」



 斑鳩は嗤笑(ししょう)した。


 侮蔑感に溢れたその微笑に、竜は背筋が寒くなるのを感じた。

 自然と歩みが遅くなり、斑鳩との間隔が広がる。



「……違うのか?」



「それは貴様が自分の目で見て判断しろ。私の役目は貴様を生きたままこの場所から連れ出すことだけ」



「どういう――」



 云い終わらぬうちに斑鳩はすばやくふりかえり、武器を持つ腕を目にもとまらぬ速さでふるった。

 やや間を置いて、竜の背後で断末魔の叫びのような重低音が響きわたる。



「行くぞ」



 後顧すると、『それ』に斑鳩の手にしていた武器が突き刺さっていた。

『それ』は激しく痙攣すると、凝固して霧散した。斑鳩の武器ががらんと重そうな音を立てて床に落ちた。



 背後から狙われていた。



 そのことに気づき、遅れて寒気がはしる。



「戻れ」



 斑鳩は背を向けると同時に右腕を伸ばした。


 訳も分からず目をしばたたかせる竜の背後で音がする。


 振り返った竜は廊下に落ちていた斑鳩の武器がどろりと溶けるのを見た。

 てらてらと光るその液体は意思を持っているかのように動き出し、階段をのぼってくる。


 ホラー映画のような光景に、竜は全身に鳥肌が立つのを感じた。


 大仰な動作でその場から退くと、液体は先程まで竜がいた場所を通過して斑鳩の足元まで辿り着き、彼女が伸ばした右腕に吸い込まれるようにして巻きついた。

 何事もなかったように硬化し、斑鳩が投げる前と同じ状態の武器に戻る。



 斑鳩はその様子を確認すると、再び歩き出し、また何事をつぶやき始めた。



「――、ガーディアンが集まってきている。こっちはすでにゲートのそばだ。今すぐ結界を張れ。何? リンケ? そんなこと云ってる場合じゃないだろ。それにガーディアンに襲われている時点ですでに手遅れだ。ここまで来たら強行する他ない。脳障害とかそんなこと心配しなくていいいからとっとと張ってくれ」



 つぶやいているその間にも階段の影から『それ』が襲ってくる。


 斑鳩は腕の武器をふるい、『それ』の体を切り裂いた。だが『それ』は何体殺そうとも、次々と現れる。


 屋上へと続く踊り場にいた最後の『それ』を裂くころには、竜の背後には『それ』らの遺骸があふれていた。闇が凝縮したように黒く染まり、一瞬ののちに砕け散る。



 斑鳩は今しがた自分が斬った『それ』をふみつけ、ドアノブをつかんだ。



 まわして押すと、とたんに冷たい風が勢いよく流れこんできた。


 竜の足元で『それ』の遺骸がまた砕け散った。

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