表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
28/46

27

「安藤……?」



 斑鳩(いかるが)は何事もなかったように武器をおろし、再び階段をのぼりはじめた。



「待てよ、あんた!」(とおる)は斑鳩の肩をつかんだ。「どうして攻撃したんだよ!」



 斑鳩は竜をうるさそうに一瞥すると、再び歩き始めた。


 軽蔑にも似たまなざしに、竜は助けてもらったことも忘れて憤った。



「聞けよ、話!!」



 怒鳴りながら階段を駆けあがり、斑鳩の隣にならぶ。


 さらに続けようと口を開きかけた竜の言葉を制すように、静かな声音が耳に響いた。



「飲み込まれた時点ですでに救出不可能だ」



 竜は目をしばたたかせた。怒りはいまだくすぶっている。


 普段ならばこんなことくらいでは怒らないはずなのに、先程からずっと感情が昂ぶっている。


 それが理解を超えた出来事が相次ぎ、追いつめられているせいだと竜は知っていたが、抑制することはできなかった。


 それに正体不明の少女相手に、にこやかに話すことなど出来はしない。

 彼女は気絶した頼を置いていった張本人でもあるのだ。



「……さっきの……消えたとき、中に遺体とかなかった。安藤は死んだ……のか?」



 混乱して上手く言葉が出てこない。


 それでも斑鳩は理解出来たらしい。いや、と小さくつぶやいた。



「記憶を失っているだけだ。リセットされたあとには平常どおりに自宅で目が覚めるはず」



 言葉を切り、斑鳩は竜を一瞥した。



「貴様がいたという記憶をすべて失ってな」



 その言葉の意味が竜にはわからなかった。


 何がわからないのかすらわからない状態の竜を見て、斑鳩は口角をあげると、さらに上の階にあがるために足をかけた。


 斑鳩は屋上に向かっているようだった。


 教室がある階に辿りついてもその足はとどまることを知らない。


 使用禁止の注意書きの看板のわきから、上階へ続くきざはしをのぼっていく。



「――あいつら、見えてない人間は襲わないんじゃないのかよ……」



「やつらの狙いは貴様だけだ。他の人間はただ記憶を消去するために襲っているに過ぎない」



 ぽつりとこぼした疑問に、斑鳩は抑揚のない声で告げた。



「俺が狙われるのは、俺があいつらを見えてるから……なのか?」



 斑鳩はその問いには答えなかった。


 その間も階段をのぼる足は止まらない。


 すらりと長い足が短いスカートの裾から見え隠れしている。

 ぎりぎりの角度に、竜は彼女が『それ』であることを知りつつもどぎまぎした。


意識をそらそうと、別の話題を持ちかける。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ