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「安藤……?」
斑鳩は何事もなかったように武器をおろし、再び階段をのぼりはじめた。
「待てよ、あんた!」竜は斑鳩の肩をつかんだ。「どうして攻撃したんだよ!」
斑鳩は竜をうるさそうに一瞥すると、再び歩き始めた。
軽蔑にも似たまなざしに、竜は助けてもらったことも忘れて憤った。
「聞けよ、話!!」
怒鳴りながら階段を駆けあがり、斑鳩の隣にならぶ。
さらに続けようと口を開きかけた竜の言葉を制すように、静かな声音が耳に響いた。
「飲み込まれた時点ですでに救出不可能だ」
竜は目をしばたたかせた。怒りはいまだくすぶっている。
普段ならばこんなことくらいでは怒らないはずなのに、先程からずっと感情が昂ぶっている。
それが理解を超えた出来事が相次ぎ、追いつめられているせいだと竜は知っていたが、抑制することはできなかった。
それに正体不明の少女相手に、にこやかに話すことなど出来はしない。
彼女は気絶した頼を置いていった張本人でもあるのだ。
「……さっきの……消えたとき、中に遺体とかなかった。安藤は死んだ……のか?」
混乱して上手く言葉が出てこない。
それでも斑鳩は理解出来たらしい。いや、と小さくつぶやいた。
「記憶を失っているだけだ。リセットされたあとには平常どおりに自宅で目が覚めるはず」
言葉を切り、斑鳩は竜を一瞥した。
「貴様がいたという記憶をすべて失ってな」
その言葉の意味が竜にはわからなかった。
何がわからないのかすらわからない状態の竜を見て、斑鳩は口角をあげると、さらに上の階にあがるために足をかけた。
斑鳩は屋上に向かっているようだった。
教室がある階に辿りついてもその足はとどまることを知らない。
使用禁止の注意書きの看板のわきから、上階へ続くきざはしをのぼっていく。
「――あいつら、見えてない人間は襲わないんじゃないのかよ……」
「やつらの狙いは貴様だけだ。他の人間はただ記憶を消去するために襲っているに過ぎない」
ぽつりとこぼした疑問に、斑鳩は抑揚のない声で告げた。
「俺が狙われるのは、俺があいつらを見えてるから……なのか?」
斑鳩はその問いには答えなかった。
その間も階段をのぼる足は止まらない。
すらりと長い足が短いスカートの裾から見え隠れしている。
ぎりぎりの角度に、竜は彼女が『それ』であることを知りつつもどぎまぎした。
意識をそらそうと、別の話題を持ちかける。




