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 非常灯だけがついた闇間に靴音がしみるように溶けていった。


 (とおる)斑鳩(いかるが)のあとについて階段をのぼりながら、押し殺した声でつぶやいた。



「――何者なんだよ、あんた……」



「何者は貴様のほうだ。どうしてここにいるのに、リングが使えるんだ? ゴテンの特権なのか? ――は何を……」



 てっきり返事などこないものと考えていた竜は、斑鳩の言葉にびっくりして顔をあげた。


 だが彼女の視線は前方にそそがれていて、こちらには向けられていない。



「リング?」



「先程の『力』のことだ。だが愚問だったな、忘れろ」



 かつんかつんと音が響きわたる。


 静寂の中に響くその音はいやに大きくて、竜はその音を聞きつけて『それ』らがやってきてしまうのではないかと気が気ではなかった。



「さっきの光のこと、何か知ってんのかよ。だったら何だか教えてくれよ」



 ひそめるような声で斑鳩に話しかけたが、返答はなかった。



「なあ」



 斑鳩は黙って歩き続ける。



「何で無視すんだよ!」



 思わず叫んでしまい、竜はあわてて口をつぐんだ。


 しんと静まりかえった廊下に声の余韻が残り、それが気まずさを増す。



「聞いても今の貴様には理解できない。だから話す必要もない。おのずとわかることだ」



「今……?」



「私の名は――」



 突然、少女は名を名乗った。だが肝心の名前の部分だけが聞こえない。



「え? 今、何て云ったんだよ」



「ここでは私の名を口にしても、貴様には聞き取れない。何度聞いても無駄なこと。リングのことも同じだ。名前と違い、発音することはできるが、貴様がそれを理解することはできない」



「それってどういう――」



「おい、お前ら、何やってる」



 ふいに懐中電灯の光に照らされ、まぶしさに竜は顔をしかめた。


 その光は竜と斑鳩の顔をなめるように照らしていった。



佐那戸(さなと)と、……三年の扶昰(ふぜ)か? 今、八時だぞ。一体何をやってる」



 声に連動するようにして廊下の電気がはじから順々にともった。



「安藤?」



 声の主は数学教諭にして剣道部顧問でもある安藤だった。


 安藤ははじめ、怒鳴りつけんばかりの形相を向けていたが、竜の姿を見て、顔を一変させた。



「お前、どうした? その恰好」



「これは……」



 どう言い訳すれば良いかわからず、竜はこれまでのいきさつを頭の中で反芻した。


 どう説明すればいいのかまるでわからなかった。



 安藤が云うように、竜の姿は確かに異様だ。


 制服は全身が切り裂かれたようになっていて、シャツには血がべったりとついている。


 これをやったのは安藤が見ることのできない『それ』というもので、今はその『それ』らの大群に追われているので逃げている最中なのだ、とは口が裂けても云えなかった。


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