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「先輩……」



扶是(ふぜ)斑鳩(いかるが)は赤い傘をさしてそこに立っていた。


 ビルの谷間からふりそそぐ細い雨が鮮やかな真紅の傘の上ではじかれ、柄から小さな水滴がぽつぽつとこぼれている。


 竜を見る斑鳩の目は学校で会ったときと変わらず冷たく、人の姿をしているにもかかわらず人間の気配はまるでしなかった。



「何で……ここに――」



「私は屋上で待てと云ったはずだ」



 斑鳩は竜の言葉を最後まで聞かず、さえぎるように口を開いた。

 他人の意見の一切を排除する強い口調。竜は思わず押し黙った。



 静まり返った空間にも雨音は間断なくふりそそぐ。

 ぐっしょりと濡れた服がひどく重たくて冷たかった。ひんやりとした風によって、それはさらに顕著なものになる。


 竜はぶるぶると震えながら、斑鳩をにらみすえた。



「あんた……誰なんだよ」



「私は――」



 斑鳩は口をひらきかけ、しかし何かに気がついたのかすぐにつぐんだ。傘をちょっと傾け、天上をみやる。



「来たか……」



 ぽつりとつぶやく斑鳩の声に竜も彼女と同じほうを向いた。ビルの谷間の細い空から雨が降りそそぐ。わずかにうかがえるその空は、ビルの屋上に見える何かの影でさらに見えなくなっていた。



 何だ?



 目を細めた竜は、その黒い物体がすべて『それ』だということに気がついた。


 先程とは比べ物にならないくらい多くの『それ』がビルの上から集まっている。



 竜が見ているその間にも数は増えていき、空は『それ』らでほとんど見えないという有様だった。


 あまりの数の多さに竜は思わずしり込みした。



「――、計画変更だ。目標がリングを使ったせいでガーディアンどもにばれた。は? 知らないよ。こっちが訊きたいくらいだ。大体何だってリングが使えるんだ。ここは隔絶された場所だから危険はないって話してたのは――だぞ? ――に変わってくれ。状況を説明して欲しい。は? いない? 何で――ああ! もういい! そうじゃなくて! 今から当初の座標に向かうから維持しておいてくれ!」



 斑鳩が何かをつぶやいている。


 竜にはその言葉の意味がまるでわからなかった。


 目をしばたたかせる竜の腕を斑鳩はつかんだ。



「来い!」



 それは一瞬の出来事だった。


 竜が抗おうとするその前に斑鳩は持っていた傘をたたみ、目の前の何もない空間に刺すようにして突き出した。斑鳩が何をしているのか竜にはやはり理解できなかった。


 ただ自分が『それ』の親玉かもしれない得体の知れない女に拘束されているのは紛れない事実だ。



 逃げなくてはならない。



 竜は斑鳩の手を振り払おうとしたが、彼女が突き刺した傘がその手を離れても空中に刺さったままになっているということに、逃げるということも一瞬忘れて見入った。

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