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軽間(かるま)には悪いが、ありゃすぐ別れるな」



 頼の声に重なるようにして始業のチャイムが鳴った。


 廊下の喧騒が一層濃くなったが、(とおる)はまだその場から動けなかった。

 額には冷や汗が浮かんでいる。心臓の鼓動はいまだおさまらず、痛いくらいに高鳴っていた。



「竜? お前体調悪いの?」



 廊下にしゃがむ竜の眼前で手がひらひらと動く。見上げた頼の顔は曇っていた。



「何だよ、その呆然とした顔。つーか、顔色めちゃくちゃ悪いけど。保健室行っとく?」



 竜は頼から顔を隠すように口元に手をあてた。



 何故、頼や軽間には『それ』の姿が見えるのだろう。

 人型になった『それ』は目視可能なのだろうか。

 それともただ単に『それ』に似ているだけの人間なのだろうか。



 いや。



 竜は心中でそれを打ち消した。見間違いだとは思えない。


 昨夜の『それ』は、見つけたと云ったのだ。

 そして扶昰(ふぜ)斑鳩(いかるが)は、明らかに初対面の自分に対し、必ず来いと云った。


 偶然とは思えない。


 けれどそれだけではなく、第六感とでもいうのだろうか。

 言葉では説明できない感覚が、彼女の存在を人ではないと云っているのだ。



「……見えるのか?」



「はあ?」



 薄笑いのような表情を浮かべる頼に竜はひどく苛立った。



「あれが見えたのかよ」



「何云ってる――」



「見えるのかって聞いてるんだよ!」



 怒鳴ってしまってから、竜は居心地が悪くなり、ごめんと謝った。

 いくら焦っているからといっても、頼には関係がない。

 当り散らしているということは明白だった。



「どうしたんだよ、お前。大体何のこと云ってんだよ」



 頼はいよいよ困惑気味に顔を曇らせた。

 竜は怒鳴ってしまった手前、何となく気がひけた。しかし浮かびあがった疑念はそれすらも払拭した。



「さっきの……、軽間の彼女の……」



「斑鳩ちゃん? 見えるに決まってんだろ。どうしたんだよ、竜。どっかに頭、打ったのか?」



 やはり見えている。



 少女が去っていった方向を見ながら、竜はうつむいた。



「そっか……」



「そっかって何だよ、何ひとりで勝手に納得してんだよ」



「ああ、うん。悪い……」



 気まずい空気が流れる。

 今、頼の方を向けば、情けない顔を見られることうけあいだった。


 それだけは避けたくて、うつむいたままでいると、名前を呼ばれた。



佐那戸(さなと)行賀(ぎょうが)、さっさと教室に入れ。授業始まるぞ」



 去年入ってきたばかりの若い英語教師に注意され、ふたりは教室に入った。

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