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09

 学校へ向かうまでの道で危惧していたようなことは起こらなかった。

 いつものように『それ』はいて、いつものように覗きこんでは自分たちの存在に気付いているかどうかを確認しているだけだった。



 もしかしたら、目は合っていなかったのかもしれない。



 一瞬そんなことを思ったがその可能性はない。

 何故なら敷地内に入ってきた『それ』に見つけたと云われたからだ。



 見つけたということは探していたということだろうか。



 そう思うと、身の毛もよだつような恐怖に襲われた。



 恐怖を忘れるように朝練に打ち込んだ。部活は何事もなく終わった。



 シャワーをさっと浴びて教室に向かっていると、のろのろと階段をあがっている(らい)の後姿が目に入った。



 今日もぎりぎりに来たようだが、遅刻常習犯の彼にとってはそれでも早いほうだ。


 (とおる)はくっと笑って階段を駆けあがった。すれちがいざまに頼の背中を叩き、そのまま全速力で上にのぼる。



「ちょ……っ、てめー竜!!」



 むきになって追いかけてくる頼から竜は逃げた。


 普段の何気ない行動が、今は信じられないくらいうれしい。


 竜はこみあげる感情をおさえきれずに笑うと、手すりをつかんで体をひねらせ、そのままの速度で廊下を走った。


 だが教室へと向かう連絡通路で、その喜びは一瞬にして消え去った。



「竜!」



 連絡通路の途中で立ち止まる竜に、頼はすぐさま追いついた。



「痛えよ!」



 竜にされたようにその後頭部を叩き返す。

 後頭部の痛みをじんわりと感じたが、竜は何の反応も返せなかった。


 何も答えずにその場に立ちつくしている竜を見るなり、頼は眉根を寄せて顔を覗き込んできた。



「おい、竜」



 頼が目の前で手をふってきたが、竜はそれに返せるだけの気力などなかった。

 目の裏に先程の光景がよぎる。


 竜がいる場所とはすこしばかり離れた四階の連絡通路。そこに昨日自宅で見たばかりの『それ』がいたのだ。



「何…で…だよ……」



 すべての希望が失われた気がした。



「竜?」



 頼がしつこく話しかけてきたが、竜は一切応えることが出来なかった。


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