Gift
息も絶え絶えになっていた。まる1日以上の激痛に耐え、カーペットにその跡が刻まれている。
「どうしよう......」
違和感を感じた時にはすでに遅かった。もう前に進むしかなかった。だがゴールへ着いた時、彼女に突きつけられた選択肢はもはや、人間を辞め、畜生へと成り下がるものしか残っていない。
小さな首にゆっくりと手を乗せる。ここから少しでも力を強めれば、すぐにか弱い命の灯火は消え去るだろう。
全てを捨てる覚悟を決め、力を込めようとした時、背後で、何かがぶつかる音がした。
思わず手を離し背後を見ると、真っ白で大きい、藁のような素材で作られた箱が無造作に転がっていた。
彼女が思うように動かない体で近づき箱をみると、中には小さな毛布と、その上に1枚の紙が載せられていた。
「最も大事なものを10年間だけ、あなたの代わりに預かります。あなたの祈りによってこの中の物は生かされます」
信じられるはずがない。が、かといって、選択肢も他にはない。どうせ地獄に落ちるのなら、せめてやれることをやろう。彼女は小さな命をそっと両手で抱き、真っ白な箱へ近づきゆっくりと横たえた。
それから彼女は一生懸命日々を生きた。今自分に出来ることを精一杯やった。そして毎日祈りを欠かさなかった。どれほど辛く、厳しい状況に自分が追い込まれようとも、いつの日かまた償える時が来ることを信じて。
大地が色づき、生命の息吹が躍動を始める頃。
彼女は、待っていた。これからを共に生きて行くパートナーを。
花びらがわずかに大地を染めるほどの時間が経った頃、後ろから声がかかった。
振り向くと、長身で細身の体つきの男性が立っていた。
私が選んだ相手だ。
そしてその横で手を握り小動物のような大きい目をした少女が、彼女を見ていた。
同じ目線まで腰をおろし、声をかける。
「初めまして」
すると少女は、つぼみから咲き誇る花のように笑顔になり、こう言った。
「初めてじゃないよ。久しぶり、お母さん」