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カノン  作者: しき
第8話
203/206

聖蝶 47


 メジーノ捜査官たちがベースにしている星。アイオーン。


ランザ「ふぅ・・・」


 今回の仕事はいろいろとイレギュラーな事が起こった。

 今後はやり方も変えて行かないといけない。頭の痛い話だ。


 ランザの仕事部屋を、コンコンとノックする音が。


ランザ「入れ」


 ランザが入るように促すと、ドアが開き体躯の良い男が入室する。


ニュクス「なんだ? 何か用か?」


 ランザに呼び出されたニュクスが、ランザが座る机の前まで移動する。


ランザ「ああ、いくつかな。まずはお前にとっては悲報だ。 ロロンが帰って来ないらしい」


ニュクス「そうか・・・それは残念だ」


 妖精は死ぬと自分の星で生まれ変わる。そのあと記憶を戻して戻ってくるかどうかは、妖精次第。

 生前の記憶が復活して戻ってくる場合もあれば、生前の記憶は失って新しい人生を歩もうとする場合もある。


ランザ「ふぅ・・・」


 憂鬱な表情をしているランザを見て、疑問を抱くニュクス。


ニュクス「どうした? 何か問題でも? ロロンが帰って来ないと、そんなに支障があるのか? それにまだ悩むような段階か? 結果がどうなるかは分からんが、俺がロロンと再契約の交渉をしに行ってみてから悩む事じゃないのか?」


ランザ「いやロロンの事じゃないよ。 ・・・ふぅ。何から話していいやら」


 頭を抱えるランザ。


ランザ「考えれば考えるほど、辻褄が合わなかった。 その答えがようやく出たよ」


ニュクス「何の話だ?」


ランザ「私だったんだな。 お前たちの足枷は」


ニュクス「だから。 何の話をしている?」


 本当に何の話か全く分からない様子で、目を細めるニュクス。


ランザ「今回のニュクスたちの行動で尋ねたい事がある。 トラスが殺された父親の件を調べる為に脱走する事を、お前たちは事前に把握していた。 それをなぜ私に伝えなかった?」


ニュクス「俺達は共にメジーノを護衛する仲間ではあるが、ランザだけは明らかに所属が違うからだ。 トラスはこの仕事をするにあたり、シエロに対し譲れない部分を主張した。 それにシエロが折れる形で、トラスのプライバシーを尊重し、仕事以外の自室での監視はしないという契約をしたのは知っているだろう?」


 まるで予め言う事が決まっていたかのように、スラスラと答えるニュクス。


ランザ「実際は違ったようだがな」


 不快そうに言うランザ。


ニュクス「それだ。その反応を避ける為だ。 正規軍の清廉潔白な職員がその事実を知ると、そういった不快そうな態度になる。 その後の連携にも支障が出てしまうだろう。 しかしその態度を俺達に向けられても困る。俺達にトラスの私生活の監視もしろと命じたのはシエロ本部だ」


ランザ「私と本部との板挟みにあい、本部の命令を聞きながら私には隠す事にした。 ・・・ふぅ。そこまでは理解できる。 私が理解できなかったのは、その後のお前たちの行動だ。まずなぜフォトマットに行き、トラスを始末しようとした?」


ニュクス「それが本部からの命令だったからだ。以前からトラスがシエロに不信感を持ち、反逆するような態度を見せれば始末しろと言われていた。 正式にシエロからトラス排除の要請があった訳じゃないが、そこは現場判断でいいと言われていたからな。 俺たちの判断で始末する事にした」


ランザ「普通は事前にそういった指示があっても、報告はするものだがな。特に現場に居る私に報告をしない理由が無い。 が・・・まぁいい、それよりなぜ核まで使用した? 核の使用は明確に使用理由が存在しても、懲罰の対象になるのは理解しているな?」


ニュクス「もちろんだ。理由なく使用した場合は極刑だが、組織からの指示に沿っている場合などは二年以下の懲役または350万クインの罰金。そして減給や降格や免職などの仕事に関わる罰は課せられない」


ランザ「そこまで理解していて、なぜ使用した?」


ニュクス「俺達は全ての可能性を考えて行動している。 仮に何らかの手を使い見た目がそっくりな囮を用意していた場合、あとで本物が来る可能性がある。ならばその可能性を潰す選択肢を取る。 その土地を核汚染状態にしておけば、本物が来る事が出来なくなる。それに核を使う事で、確実にトラスに協力した者を排除できる」


 ランザがふぅ・・・と息をつく。


ランザ「それだ。それが理解できなかった。なぜトラスに過去を調べられると困るんだ? トラスが脱走計画を実行した時点で、お前たちはトラスを排除すると決めたのだろう? じゃあトラスが過去の事を知ろうが知るまいが、関係無いんじゃないか? どうせ始末するのだからな。 核兵器まで使って、トラスに調べられたくない理由がどこにある?」


ニュクス「俺達が出し抜かれ過去を知った状態で、逃走を許してしまったらどうなる? シエロが星全体を実験道具にして、自在に操っていた事を口外される可能性がある」


ランザ「それで? それはお前たちにとって、何か痛手なのか?」


ニュクス「俺達ではなくシエロにとって・・・」


ランザ「痛手じゃあないよ。トラスが中央に逃げる事は予想できる。そこに網を張れば簡単に捕まえる事が出来る。 ではもしそれをトラスが予想し、中央以外に逃げたらどうなるか? あらゆる場所に根を張った組織は、個人など容易に潰せる。トラスが逃走中に仮にシエロの悪評を吹聴するような行動をとろうとすれば、言えば言うほど自分の位置がシエロにバレる。 そんな噂が広まる前に、シエロに見つかって終わりだ。お前たちに計画が露見したその時点で、トラスはもう詰んでいた。どう考えても痛手じゃあない。 そのくらいお前たちは理解している。なのになぜそこまで過去を見られる事を嫌がった? それをずっと考えていた」


 それが不思議でならなかった。

 トラスがフォトマットで過去を見ると、職場に不信感を持ち離脱してしまうかもしれない。これが痛手というなら、それは理解できる。

 そりゃあ痛手だろう。あの能力を持つ者が、組織から抜けてしまうのだから。


 でも殺すと決めたのだろう?

 ならばもう、あの能力を手放していいと判断したわけだ。

 だったら過去を知られる事の、何が痛手なんだ?

 今の説明通り、痛手など何も無い。いずれ捕まえて終わりというだけの話じゃないか。あとは本部が反逆者として処分するか、説得し協力体制を結び直す方向で考えるか。

 捕まえた後の処遇なんて、もう我々が考える事でもないし。


ランザ「だから問うている。 改めて問おうか。 過去を知られ逃走される事は、お前たちにとって何か痛手なのか?」


ニュクス「ランザが思うほど、おかしな行動ではないと思うがな」


ランザ「そうか? まるでトラスを生かして捕らえる事が、お前たちにとって痛手かのように映ってな。どうしてもここで始末しておかなくてはならない理由があるかのようだった」


ニュクス「難しく考えすぎというだけの事じゃないか? シンプルにシエロからの命令に従ったという風にも考えられるはずだろう。そのシンプルな答えを一番最初に捨てているから、変な思考の深みにはまってしまっている様に見えるがな」


ランザ「ふぅ・・・。 私自身そう思いかけていた。意外にお前たちは組織の為に、愚直に行動するタイプだったのか?と。 しかし思わぬ所から答えが出た。 音羽風音の仲間である、鞍馬・フォクスという女性の口からな」


ニュクス「鞍馬・・・? 待てランザ。俺は状況を知らないんだが、フォトマットのアンドロイドが生きていたのか? なぜ? あいつらが乗っていた宇宙船に仕掛けられた核は、爆発したとニュースにもなっていたが?」


 ニュクスは今まで重傷で治療中だったため、現在の詳しい状況を知らない。

 だがニュースくらいは見る事が出来たので、現在フォトマットで核爆発騒ぎがある事くらいは知っている。


ランザ「フォトマットで核爆発があったというニュースはあったな。 でもそれと鞍馬さんが乗っていた船に仕掛けられた核は、違うものだ。そっちの方は発動直前にバリアで固められ、そのバリアが続く限り人がいる星から離れた位置に宇宙船を移動させてから爆発させたそうだ。 今頃は宇宙の塵となってるよ」


 ニュクスが全く理解できない表情で尋ねる。


ニュクス「おかしな事が多すぎて意味が分からない。 爆発したならなぜ鞍馬は生きている? そして俺達は核を一つしか仕掛けていない。 ならあのフォトマットのニュースはどういう事だ? 作り物のフェイクニュースか?」


ランザ「鞍馬さんが生きている理由は単純だ。アンドロイドだからだよ。人格と記憶をチップにして、小型宇宙船で地球に飛ばし体は放棄した。 小型船が一人乗り用でなかったなら、体も放棄せずに済んだのだろうけどな。一人用だったために琴千丸だけを乗せて、自分たちはデータだけを地球に飛ばしたようだ」


ニュクス「小型船・・・。そうか。バリアで固めたと言っていたか。 離陸後すぐに爆発する設定だったから、離脱される事は想定していなかったな。小型船を探して潰しておかなければならなかったか。いやその場合宇宙船内部に入らないとならないから、警報が鳴り異変に気付かれ逃走されていたか」


 離脱を想定していたところで、出来る事は無かったかもしれない。

 やはり核爆発を未然に防がれた事が想定外だったというだけの事だ。


ランザ「そしてお前たちの核が不発に終わったにもかかわらず、実際にフォトマットで核が爆発した理由はもっと単純だ。 現在ニュースになっている核は、私が仕掛けた物だからだ」


 最先端兵器の技術はまず、軍の上層部に伝わる。

 ミスルでは手に入らない技術で出来た超小型核だから、体型を不自然に変化させる事なく制服の内側に隠せる。

 と言ってもいくら小型化したとはいえ核兵器だ、さすがにある程度の体積はある。ランザが男なら制服の中に隠せば、過去を見に行ったトラスにバレた可能性はある。

 その点ランザが女性で胸が大きいのが利点の一つだったようだ。胸の下からお腹にかけて、服の内部に空間ができる。そこに隠してしまえたからだ。

 だからトラスが過去を調べてもランザが核を持ち込んだ事に気付かなかったようだ。トラスは過去のものに触れる事が出来ない。体内に完全に隠れていれば目視は不可能だし、触って確認する事はできない。


ニュクス「・・・ぁあ? ランザが核を?」


 混乱するニュクス。


ランザ「そんなに疑問に思う事は無いだろう。 私だったんだよ。組織の悲願達成の為に、トラスに過去を知られたくなかったのは。 お前たちの不審な動きに気付き調べた結果、トラスがフォトマットに行こうとしていると知って焦ったよ。 トラスの父がシエロに背き、結果掃除屋に殺された事は知っていた。 そして普段のトラスを見ていれば分かる。 おそらくトラスが過去を知ると、シエロへの協力を拒む事になるだろう。 それを阻止する為に取った手段はお前たちと同じだ。 遠隔解析で核反応が検知されれば数年は誰もそこに近寄れなくなる。とはいえ私が使った物は、汚染をほぼ残さないものだがな。しかしそれで十分だ。その場で核を使ったという事実があるだけでいい。他星の者が数年近付けなくなる事に変わりはない」


 ふぅ・・・と悩ましげな表情を見せるランザ。

 あの時はトラスが過去を見る前に、なんとか核を仕掛けられないかと願いながらフォトマットへ向かった。

 それに報告も無しに飛び出したニュクス達の目的は分からないが、問答無用でトラスを排除する可能性もある。

 それをどうにか阻止する為に、なんとか間に合えと思いながら急いで宇宙船を飛ばした。


ランザ「過去さえ見られなければ、トラスにこのまま仕事を続けてもらうよう交渉できる自信はあった。 シエロが星の解析実験を続けているという真実を方便でごまかし、あとはトラスの正義感に訴えかければどうとでもなる。 そしてフォトマットの件は、脱走したトラスを裏切り者だと判断したニュクスたちが自己判断でやった事にする。 事前にシエロから聞いていた取り決めと照らし合わせ自分たちの判断でやった事であり、実際にシエロから直接殺害命令が出ている訳ではないという事にすればよかった」


 ニュクスが頷く。


ニュクス「俺達としても別にそれで構わんがな・・・別にトラスをどうしても殺したいという訳ではなかったからな。あくまで謀反の可能性を感じた場合、現場判断でトラスを処分しろという命令を守っただけだ。 現場判断とシエロ本部の判断に相違があったとされても、俺達が罰を受ける事は無い。 本部がこの件でトラスを処分しないというなら、いったん全部白紙に戻す。 それで良いんじゃないのか? 何か問題でもあったのか?」


ランザ「ふぅ・・・。 さっき言っただろう? 鞍馬さんがフォトマットでの記憶を地球に飛ばしたと。 帰還した鞍馬さんの口から、フォトマットで起きた過去が語られた」


ニュクス「・・・なに? なぜ過去を語る事が出来る? 本物のトラスは地球に・・・」


ランザ「お前たちが会った偽物の能力だ。トラスに変身した琴千丸が、トラスの能力を使えたらしい。 あれはただの囮ではなかった。トラスの代わりに過去を調べる為に送り込まれていたようだ」


ニュクス「琴千丸は変身した者の能力を使えないと聞いていたが? ・・・それこそ全部、鞍馬が口から出まかせを並べただけじゃないのか?」


ランザ「それは両方とも確認したよ。まず琴千丸の変身能力の情報が誤っていた事に関しては、複数のシャロンの職員がその現場を見た事があり、その情報がシャロンに伝わったからのようだ。 琴千丸が自分と仲間の命が掛かった場面で、変身した者の能力を使えない姿を見せたようだな。 命が掛かった場面ですら能力を使わない、そのせいでシャロン職員が勘違いをした。 実際は使わなかったのではなく、使い方が分からなかっただけだそうだ」


ニュクス「分からなかっただと・・・? そんなふざけた理由で、俺達は偽の情報を掴まされたのか? 確かその書類を作成したのは、地球支部のジルじゃなかったか? あいつはそんなに無能なのか?」


ランザ「ぁあ? 今何と言った?」


 ニュクスが失言に気付く。

 そういえばジルはランザの元直属の上司だ。

 恩義なども多々あるのだろう。


ニュクス「いや・・・。 そうか、まだジルは・・・」


ランザ「ジルさん、だ」


ニュクス「ジルさんはまだ地球に行って日も浅い。自分の目だけで全てを確認できるほど、カノンの情報に詳しい訳が無い。 ランザの言ったように、職員たちが勘違いをしたのか。あの書類は作成がジルさんというだけで、その内容は職員達の報告をまとめたものだという事か」


ランザ「そのようだな。少しは考えて発言しろ。 そして鞍馬さんが嘘を言っている可能性の方だ。お前たちはすぐにトラスたちを追った。確かに時間的に過去を知る事ができなかった可能性もある。だから鞍馬さんがこちらの反応を見る為に、トラスから聞いた情報をもとに適当な事を言った。 まぁ無い話ではない。ハッタリも使い方次第で大きな武器に変化する。 こちらの反応次第では、交渉の材料に使えるようになるかもしれないしな。 ・・・が。今回ディオスクライに貸しを作ったからな、少し無理を言って例の件を調べさせてもらった。 あの時シエロからの命令で、トラスの父を殺害するためにフォトマットに向かった人員について。 当時掃除屋に殺されたと聞いていたが、ニュクス達だったそうだな。 過去を語る鞍馬さんの口から、トラスの父を殺害したお前たちの名前が出たよ。 私ですら知らなかった、お前たちしか知らない情報を鞍馬さんが嘘で語れる訳が無い」


 鼻で笑うニュクス。


ニュクス「推測で適当な嘘を並べる事は可能だろう。今回俺とハセイがフォトマットにトラスを始末しに行った。その時の言動などから俺達がトラスの父の殺害に関わっていると予想し、過去を見たという嘘をついて俺達の名前を出した。 出来ない事ではないと思うがな?」


ランザ「ふぅ・・・。察しが悪いのか、しらばっくれているのか・・・まぁどっちでもいいか。 私が調べた結果、トラスの父の殺害に関わったのはニュクス、ハセイ、ヒナバの三名だ。 鞍馬さんが仮に適当な事を言うにしても、ニュクスとハセイしか知らないはずだ。 だが彼女が語った過去の再現に中に、ヒナバの名前が出た。 それでも嘘だと?」 


ニュクス「・・・・・・」


 珍しく動揺を見せるニュクス。


ランザ「・・・今のメジーノは三代目だが。 一年ほど前か。二代目の護衛から私が加わった。二代目が処分されたのは完全に自業自得だったが・・・問題は一代目だ。 お前達近衛兵と一代目との間で不和でもあったのか? その理由は分からないが、お前たちは一代目を真剣に護ろうとしなかった。そしてあっさりと一代目が犯罪者に殺され・・・聖蝶である私に声がかかった。 これがお前たちにとって、予想外の足枷となった」


 ランザが机の上にあったパソコンの画面をニュクスに向ける。


ランザ「お前たちは私が来た事で、規律を破れば即処分される立場になった。 殺しを繰り返すと、お前の様に殺しに対して全く抵抗が無くなる者が出てくる。 ハセイの様に殺すことに快感を覚えるようになる者もな。 お前たちは掃除屋として働く中で自分にとって都合の悪い者を、まるでほこりを払うように排除してきたんじゃないか? メジーノの一代目も、あれは本当に偶然犯罪者に殺されたのか? お前たちがそう仕向けた可能性は? 二代目にしてもそうだ。処分されたのは一見自業自得ではあるが、そうなるようにお前たちが仕向けたんじゃないか? その他にもお前たちは、いくつも規律を破ってきた自覚があるんじゃないか?」


 ニュクスの反応を見ながら尋ねるランザ。

 特にニュクスから返答も無いので続ける。


ランザ「焦っただろうな。気まぐれにどんな過去を調べられ、それが私の耳に入り殺されるのか。しかしトラスは組織にとっても大事な存在で、厳重に監視下に置かれている。お前たちはさっさと始末してしまいたかっただろうが、簡単に手にかけるわけにはいかない。 お前たちは必死にトラスの行動を監視した。 そしてそんな中でトラスが父の事を調べようとして、脱走しようとしている計画を立てている事を知った。 お前たちにとっては、この上なく好都合だっただろうな。これを理由に反逆と見做みなし、始末してしまえる」


 だがその計画を知ったというだけで、トラスを始末する事はできなかった。

 なぜならまだ計画段階つまり緊急性が無い為、この段階で始末するならシエロとランザへの事前報告が必須だからだ。

 シエロへの報告はまだいい。ニュクス達と考えの近い上層部も多いから。

 ただランザに報告をするのは分の悪い賭けだ。 報告を受けたランザが、どういう行動を取るかが分からない。ランザはトラスの味方だから。

 しかしトラスが脱走を実際に行ってしまえば、それは緊急性が高いとして上司への報告無く始末する事が出来る。


 ふぅ・・・。と息をついて、地球での出来事を思い出す。


ランザ「お前たちは何としても、トラスに計画を実行させたかった。しかしそれでいてフォトマットで過去を見られてからトラスに逃走されるのだけは、絶対に阻止しなければならなかった。ハセイがあの時無関係な民を三人殺害し、ニュクスが邪魔な上司を二名殺害した証拠が表に出てしまうからな。 そう考えると、一つ疑問が氷解したよ。 地球でロロンが琴千丸を拷問したのは、あれも私が原因だったんだな」


 街でトート・セイニーと琴・千丸の二人に会った時。

 自白薬を作り出せるのに、ロロンはそれを使わずに千丸を拷問しようとした。隠している事を吐かせたいなら、さっさと自白薬を使えばいいのに。

 あの時ランザは疑問に思っていた。

 なぜ自白薬をさっさと使わない? そこに何か意味があるのか? と。

 あの時ロロンは、千丸に真実を言わせたくなかったのだろう。

 結果的に千丸はトラスの計画を何も聞かされていなかったが、そんな事はロロンがあの時点で知る訳が無い。

 もし千丸がトラスが立てた計画を聞いていれば、自白薬で全部喋ってしまう。そうすればトラスの計画を白紙にしてしまう事になる・・・だけじゃない。

 厄介なのはそれをランザに聞かれると、一旦事情を聞くためにトラスを保護する可能性があるという事だ。

 そうして事情を聞いたランザが、トラスと一緒にフォトマットで過去を見に行こうとか言い出しかねない。(この時トラスはランザの事も強く疑っていたので、その提案を受けるかどうかは五分だろうが)そんな事になってしまっては、ここまでトラスを泳がせたのが水の泡だ。


 だから周囲の誰かが止めるまで、拷問で時間稼ぎをしていたのだろう。

 そうだ。今にして思えば、千丸とセイニーを街で見かけて声を掛けたのも自分ランザだ。

 ニュクス達は千丸達がそこに居る事を知りながら、本来は無視するつもりだったのだろう。だがランザが声を掛けてしまったから、それらしく振る舞うしか無かった。


ランザ「フォトマットの件も、組織の為なんかじゃない。お前たちが過去を調べられたくなかっただけだ。 さてそこでだ。これが過去フォトマットで罪の無い三人の一般人を殺した男の最期の姿だ」


 ランザがパソコンのマウスを操作すると、先ほどニュクスに向けられた画面に映像が流れる。

 場所はこの部屋。ランザとハセイの立ち位置は、今のランザとニュクスと同じ。

 今の状況と一つ違うのは、ランザの隣にトラスが立っている事。

 ハセイとランザの会話が途切れるなり、ハセイはナイフを取り出そうとしたが。

 ランザからハセイの両肘両膝に、閃光が走る。結果右腕と左脚がちぎれ飛び、左腕と右脚は皮一枚で繋がっているような状態になる。

 成す術なくその場に崩れるハセイ。

 そんな状況にありながら、近付くランザに笑いながら挑発をしている。

 もう覚悟を決めたようだ。命乞いなどはせずに、そのまま散ろうという姿勢だ。


 ランザが吹き飛んだ右腕と左脚をハセイの元に持って行くと、勝手に治療されてくっついた。

 治療直後に顔面を蹴り倒す。そのまま倒れたハセイの太ももをゆっくりと踏み潰し、三十秒ほどかけて踏み千切った。

 そしてまたくっつける。


 一時停止をするランザ。


ランザ「約一時間半後。 ようやく過去の事を謝罪したよ。そこで止めを刺してあげた」


 机の下から包みを取り出して、ニュクスに投げる。

 受け取ったニュクスが包みを開くと、傷ひとつ無いハセイの頭部が。

 それを床に落とし、吐き捨てるように言う。


ニュクス「規律を破れば殺されるだと? 核を使ったお前も同罪だろうが」


ランザ「ミスルが使ったような普通の核ならね。 言っただろう、私が使った物は汚染を残さないと。核反応はあるが、浄化システムが同時に作動するタイプだそうだ。 聖蝶に限り、使用許可は下りている。 ・・・トラス、おいで」


 そう言うと、隣の部屋からトラスが入ってくる。


ニュクス「なぜおまえがここに居る? 中央へと逃げる算段だったのではないのか?」


 過去何度となくトラスの口から自白させている。

 脱走後は中央に話を付けて、そこで匿ってもらう予定だった事は知っている。


トラス「ランザと契約したんだよ。ランザの目的に協力する代わりに、父の仇を討つ。 ただしニュクス達が父を殺したのは、あくまで組織的に見ると正しい行動でもある。仇討ちを理由に手を出すのは、むしろこちらが悪になる。 だから別の理由で討つ事にしたよ。 ハセイは一般人を殺した。ニュクスは上司を殺した。その証拠が揃っているから、それを理由に処罰する。 ヒナバだけは実直に掃除屋としての仕事しかしていなかったから、手は出せない。今回掃除屋として協力をしていたミスルもね。 彼らに恨みが全く無いと言えば嘘になるけど・・・彼らの事はもう忘れる事にする」


ニュクス「親の仇の俺達さえ殺れれば、あとは従うだと? 自分では何も成せない、いかにも弱者の行動だなトラス」


 腰の銃に手をやるニュクス。


トラス「弱者だからね。 それにランザの野望が興味深かったからだよ」


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