聖蝶 46
自分が所属する隊の、ほぼみんなから嫌われていた?
そう聞いて思わず笑ってしまったが、なんとかこらえて理由を尋ねる。
風音「いや・・・。笑っちゃいけないな・・・。その・・・なんでなの?」
プルプル震えながら尋ねる風音。
ジル「規律に厳し過ぎるとかいう理由だったみたいですね」
プルプル感が増す風音。
風音「もぅ・・・。 もぉ・・・・なんでそんな・・・。 予想通りの事しちゃうん・・・」
笑いをこらえながら納得する。
ジル「忘れもしませんよ、私の聖蝶での最後の作戦となったランクール崖殲滅作戦。 少数精鋭が必要な戦場という事で、聖蝶軍ではなく聖蝶のみが全員が駆り出された紛争地域の最前線。 事前に相談をする余裕もなく、現場で高速で移動しながら二手に分かれるという状況になった時。 全員がその場の判断で思った方へと向かった結果、私とその他全員の二手に別れましたからね」
風音「ふっ・・・! くっ・・・!!」
あかん。笑ってしまう。その状況を想像してしまう。
風音「そ・・・それはその・・・ジルが行った方に付いて行こうとする人が居なかったって事?」
ふーーふーー、と息を整えながら尋ねる。
ジル「当時もランザが副長だったのですけどね。その作戦に限らず、二手に分かれる時は副長と隊長は別行動するというのは決まり事だったので、隊長だった私が向かった方向とは違う方にランザが飛んだんですよ。 そしたら全員ランザに付いて行ったんです。 音速以上の速度で飛ぶ戦闘機での移動でしたからね。敵から捕捉されるのも時間の問題で、すぐに戦闘機は捨てないといけない状態だったというのもあって。 戦場に降り立った頃には、もう隊員との合流は不可能となってました」
風音「・・・ふっ! ジ・・・。 ジル・・・。 隊長だったん・・だね・・・」
言葉が詰まるくらい笑ってしまう風音。
戦場で二手に分かれる作戦で、誰も付いて来ない隊長ってやばいだろう。
戦力を二分しないと、二手に分かれた意味無いもんね。
誰も付いて行かないってのは、全員で隊長を見殺しにしたと言ってもいい。生きてたからこうやって笑ってられるけど、冷静に考えると全然笑い事じゃないよなとも思う。
ジル「でも個人的には、あの時が過去一番奮い立ちましたけどね。 戦場を二つに分っていた敵側の総戦力の半分を、私一人で潰すとなった時。 やはり私も人間なんですね。戦場では心を無にして冷静に行動しようと思ってましたが、その時私の心にあったのは「このまま一人で潰して、あいつらがいかに不要なのかを証明しよう」でしたからね」
風音が大きく頷きながら言う。
風音「いや分かる分かる。 お前たちが私を見捨てたんじゃなく、私がお前たちを見捨てる事にする。ってなるよね」
ジル「分かってくれますか」
風音「分かるよ。僕もそうなるもん多分」
がっちりと握手する二人。
レイ「君たちいっつも全然意見が合わないのに、こんな所で一致するんだね」
風音「いやこれはジルが正しいって」
ジル「ですよね? それで私一人で彼らより早く片方を潰して、終わってから副長以外の隊員全員に「お前らは必要無かった。いつ辞めてもいいぞ」って言ったんです。 そしたら副長以外の隊員全員から本部に辞任要求の電子嘆願書を出されて。その件があった次の日に、異例の即日除隊でしたよ。まだ私その戦場の医療班の手伝いをしていた最中に突然ですからね?」
風音「ふっっ・・・!!」
なんでこの人、今日はこんなに笑わそうとしてくるんだ。
いや本人はいたって真面目に語ってるんだろうけど。
プルプルしながら言う風音。
風音「いやジルは悪くない・・・。怪我人を治療してあげている所を解雇されて、キョトンとするジルを想像して笑っちゃったけど本当に悪くないよ。 絶対付いて来なかった奴らの方が悪い」
でも仕事をやり遂げたのに辞任要求の嘆願書って、どんだけ嫌われてたんだ。
ジルは先ほどからもそうだが、笑われている事はあまり気にしていない様子で続ける。
ジル「解雇じゃなく除隊ですけどね。 現在の聖蝶軍はあの時とメンバーは変わっていないと聞いています。私が欠けた分の補充も無かったんじゃなかったかな? つまり嘆願書を出した奴の一人が、当時三番手だった現隊長のリドルですからね? ・・・嘆かわしい。 聞いてても分かるでしょうが、あんなの私とランザを除く全員の作戦ミスですからね? 自分達で作戦をミスっておいて、ちょっと私から言葉で小突かれたくらいで、除隊させろとか喚く奴が現隊長・・・。そんな集団が正規軍の長・・・」
世も末だ・・・と言う表情を隠さないジル。
風音「あ~~~・・・。電話対応を聞いてたけど、あの人実は規律に厳しい人を嫌いそうだもんね」
主張だけを聞いていれば規律に厳しいような事を言っていたが。
宣誓を省こうとしてランザに叱られていたり、その際に普段仕事で雑な対応をしている事を暴露されていた。
ジル「そう。あいつは昔から適当な奴でしたからね。戦闘能力のみを評価されて、私が抜けた後に隊長になったのでしょうが。 総合的に考えれば隊長に相応しいのはランザだと思いますけどね。そこまで戦闘能力に大きく差があるとは思えませんし、指揮能力は比べ物にならないほどランザの方が上ですし」
風音「いや今にして思えば、ランザさんってジルに似てたわ。 ジルが教育したの?」
融通が利かない所とか、規律がどうのこうの言ってた所とか、態度が偉そうな所とか。
ジル「ええ。唯一まともに話を聞いてくれる人材でした。私が聖蝶軍に居た最後の方では、聖蝶って私とランザだけで事足りるのではないかと思ってたくらいです。それほど私にとっては組織の範たる聖蝶軍に見合わない奴らばかりでしたから、現隊長リドルも含めてね。 ・・・と言いたい所でしたが、話を聞く限り隊長となった事でリドルも、少しは責任感みたいなものが芽生えているみたいです。そこは評価してあげましょう」
やはり立場は人を変えるな、と。
感慨深そうに、うんうんと頷くジル。
風音「なるほどねぇ・・・」
そう聞くと、リドル達よりもランザの方がヤバい人かもしれないな。と思う。
ジルも色々とこじれた部分があるからな。
それと同じって事は言っちゃなんだが、どこか壊れているからな。
風音「ちょっと思ったんだけど、ジルは実力的にその二人より上だったから隊長だったの?」
ランザもかなり強かったと思うけども。戦った感じ、ジルより強いんじゃないのかあれは。
ジル「いえ総合力で上だったから隊長に任命されただけですよ。単純な戦闘能力なんて、ランザやリドルの方が少し上じゃないですか? ただ二人とも天狐タイプと言うか・・・少しお頭が弱めですから、頭を使えば簡単に勝てる気はしますね」
風音が笑いながら言う。
風音「天狐さん聞いたら怒りそう。 でも言いたい事は分かる。戦ってみて実力はジルより上かなって思ったけど、じゃあ実際に戦わせてジルが負けてる姿が想像できないね。リドルさんもあんな感じなんだ」
ジル「そうですね。 あと私は乱戦の方が得意ですから。戦場で二人が敵なら、二人ともまとめて倒せると思いますよ」
実力が上回る二人をまとめて倒すなんて矛盾しているようにも思える発言だが、強がって言っている訳ではないのが分かる。
風音「あぁ、いるねぇたまに。個人戦より乱戦の方が得意な人。あれはどの能力に秀でてるのかな?」
そろそろ話を戻す為に、レイが割り込む。
レイ「大局観だろ。 さて聖蝶軍の話はその辺にして。 結局メジーノ君のグループは解散になり、地球の調査は見送りになるようだね」
風音「だろうね。 トラスさん抜きで続けられる訳が無いし。 あと今更なんだけどさ。あのメジーノさんって誰だったの? 途中から凄い蚊帳の外だったと思うんだけど」
あのグループの中で、唯一全く存在感が無かった気がする。
レイ「メジーノ君は知っての通り、本物であるトラス君を隠す為の身代わりだ。全員がそれを知ってるこの場だからこんなにあっさり言ってるが、基本これトップシークレットだからな。 あの子は本当にただの職員の一人で、何かあった時は待機が命じられる。今回はおそらくトラス君失踪の報せを近衛兵の誰かから受けたと同時に、ホテルの自室待機を命じられていたんじゃないかな。 今頃はランザ君から待機解除と、グループの解散を伝えられているのだろうな。 ・・・あのメジーノ君は三代目だったかな?」
この騒動の間ずっと強制自室待機だったのなら、存在感が無くて当然か。
それより、三代目?
首をひねりながら尋ねる風音。
風音「三代目? そんなに入れ替わるもんなの?」
代わりに詳しいジルが答える。
ジル「ええ。三代目ですね。 ただトラスの身代わりに出向くだけで多額の報酬が出るとはいえ、顔を一代目のメジーノと合わせる為に整形までしますからね。あと声帯の手術。 加えて監視付き。外出不可。知り合いを作るのも不可、旧知の知り合いとも家族とも連絡不可。体型の維持。受動的なコンテンツ以外のネットの使用不可。毎日二時間のレッスン、その内容はメディアに露出する際の決まり事の徹底訓練など。その他細かい決まり事。 そして最後に――場合によっては仕事中に命の危機が訪れる。その条件で三年契約。最後までやり通した者は今の所いませんね」
風音「整形までして命の危機があって、三年で契約終わりなんだ。それはやりたくないね」
給料が割に合わない気がする。
・・・という事を言いたいのだろうと察したジルが、その件について話す。
ジル「その代わり一般上位職員の十倍の給料ですからね。期間中は衣食住全部組織が持ったうえで約四十年分以上の給料が稼げますし、契約が終われば可能な限り元の顔に戻します。 ただし組織で既に活躍している者からは採用できませんから、自ずと本部勤務エリートの新人から選ばれる。メジーノを新たに用意する際に手練れを用意できないのは、この辺が理由ですね」
風音「上位職員の給料換算で十倍貰えるのか・・・新人なら破格だね。じゃあ三年くらいなら我慢できそうなのに。なんで最後までやり遂げた人がいないの?」
レイ「一代目は犯罪者に襲われて死亡。 その件があって護衛の強化を理由に、ランザ君が聖蝶軍の重要な仕事が無い時は近衛兵に参加する事になった。そして二代目は逃亡しようとして近衛兵に殺害された。 これは契約がそうなってたから仕方がないな」
風音「逃亡・・・。 何があったのかな」
レイ「契約中に勝手に親族に連絡を取ったようでな。 それがバレて契約通り、二十年間の幽閉になるところだったんだよ。 それを嫌がってバレた日の深夜に逃亡しようとした所を、契約通り排除された」
そんな話に、何か思う所がある表情をする風音。
風音「幽閉が決まってから、逃亡なんて出来ると思う?」
仮に出先のホテルなんかで契約違反が発覚し幽閉が決まり、夜遅いから一泊してから移送する。なんて話になったら普通は縛っておくとか、どこかに閉じ込めておくとか。
何かしら逃走防止の措置を取ると思うけど。
でもその二代目の時点で、あの真面目なランザさんが居た。
という事は違反者を始末したくて、上層部に逃げたと報告して殺害した。なんてルールを破る様な事は無いだろう。
つまり風音が何を言いたいのかというと・・・。
ジル「わざと逃げられる環境を作り逃亡ができるように思わせ、引っ掛かった所を殺害したとでも? 多分そうでしょうが、滅多な事は言わないでください」
風音「多分そうなんかい」
二十年閉じ込めるより、わざと逃げる為の穴を用意して逃げた所を始末する事にしたのか。
いかにもニュクスさんとかハセイさんがやりそうな事だ。
ここで何かに気付いた様子で、レイがパソコンの画面に見入る。
レイ「・・・ん? ランザ君からメールだ。 ・・・・・・・・・。へぇ、それは意外だな」
レイがメールを読み終わって、二人の方を向く。
レイ「今ランザ君からメールがあってね。メジーノ君のグループでの仕事を再開できる事になったようだよ」
・・・・・・。
しばらく理解に時間を要する風音。
風音「は? どうやって? トラスさん居ないのに?」
レイ「まずトラス君が掃除屋から狙われていない事を、ランザ君が本部に確認したらしい。 そして今後は仮にトラス君に組織が何かをしようとしてもランザ君が護るから、トラス君にしか捕まえられない犯罪者の確保に精を出してほしい。星の調査はやらなくていい。みたいな感じでランザ君自ら説得したらしい。その説得に応じる形で、仕事を続ける事にしたようだよ。 本人が同意したという動画での証拠もあるようで、シエロ本部内で公開されている」
信じられない様子で、首を振る風音。
風音「いや・・・。 そんなはずないでしょ。あれだけシエロの事を嫌ってたのに」
レイ「しかし本人が喋っている動画には編集の形跡も無ければ、何者かに操られているような不自然な形跡も無かったようだ。間違いなく本人が喋っているという事らしい。 ・・・千丸君の様に完璧に本人と同じ容姿に変身できる人材がどこかに居て、機械でも分からないくらい完璧に演技ができるならトラス君本人ではない可能性も出てくるが、その線は薄いと思う」
風音「わざわざ偽物を用意して、そんな動画を作る意味も無さそうだもんねぇ」
動画公開なら、嘘ではないとほぼ断言していい。
なぜならその動画を本部職員の誰かが不審に思って解析する可能性があるから。そこで嘘が発覚すれば大問題だ。
そういう事情もあって公開動画で嘘は流せない。それだけに、風音にとっては信じられない展開だ。
ジル「シエロが嫌いでも、犯罪を撲滅したいという思いがある職員は多いですよ。私もそうですし」
風音「その意見も分かるけど、嫌い方がそういう次元じゃない気がしたけどな・・・。ちなみに今トラスさん達ってまだ地球に居る?」
レイ「いいや。一旦本拠地に戻ったようだな。 彼らもいつも別の星に出向いてばかりじゃない。 ちゃんとベースは存在し、仕事が一段落した際はそこに戻る」
風音「じゃあ直接会って話は聞けないか・・・」
でも聞いた感じ、条件そのものは悪くはない。
シエロのトップに意見が出来る人が、組織から護るというなら怖いものはない。
星の調査をやらなくていいなら、自分の仕事に疑問を持つ事も無い。
何より自分しか捕まえられない犯罪者を捕まえる事が出来る。自分しか助けてあげられない被害者を救ってあげる事が出来る。
・・・それを天秤にかけた結果か。
なんにせよトラス本人が選んだなら、風音がどうこう言う問題でもないか。




