表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
カノン  作者: しき
第8話
201/206

聖蝶 45


 正午。治安組織シャロンの長官室。

 風音がレイとジルの二人に今回の経緯を詳しく説明して。


風音「──という訳で、レイさんの殺害は取り消されましたよ」


レイ「本当か? 正直まだ不安なんだが」


 ついさっきまで自分の親組織からの殺害対象だったのだ。

 そりゃ風音からの説明だけでは、そう簡単に不安はぬぐえない。


 その様子を見て、ジルが横から口を出す。


ジル「聖蝶軍がその名に誓うと言ったのでしょう? じゃあ心配はいりません。 殺害は取り消されたと見ていいでしょう。 それよりレイ長官。さすがに今回は無茶をしすぎです。自分からシエロの機密事項を調べるなんて、自殺行為でしょうに」


 かなり棘のある口調で言うジル。


ジル「正直私がリドルと同じ立場なら同じ事を言いますよ。 本来ならあなたも関係者も全員処罰対象です。 今回生き残れたのは、運が良かったにすぎませんよ」


 規律の鬼と呼ばれたジルだ。今回の話を聞けば、当然こういう答えになるだろう。


風音「そんな事を言う割には、今回の件はちゃんと約束通りレイさんを警護してたんだよね。もし掃除屋がレイさんを殺しに来ても、撃退するつもりだったんじゃ?」


ジル「まぁ・・・。我々は地球を護るという任に就いている訳ですからね。リドルとは立場が違う。 今回の件を放置すれば地球の危機になるというのであれば、徹底的に調べるのが我々の仕事です。 その行為がシエロの規律に違反しレイ長官が命を狙われるというならば、こちらの規律に則って長官を護り抜くのが私の仕事です」


風音「同じ組織内でも、任務が違えば対立する事もあるんだね」


ジル「ええ。そんな事はよくありますよ。 だから言ってるんですよ。相手が悪いと。掃除屋を全て敵に回して私一人で護り切れる訳が無いでしょうに。私の睡眠中はどうするんですか。 調べるなと言ってるのではありません。もっとやりようがあったでしょう、と言ってます。例えば確実に安全を確保してからやるとか。時間をかけて地球に害をなすという証拠を積み上げて、こちらの法でメジーノたちを地球から追い出すとか。 ・・・何の対策もできてない内から、シエロに喧嘩売ってどうするんですか。と言ってるんです」


 くどくどとレイに説教をするジル。


レイ「すまんな・・・。どうしても知りたくてな。自分の職や立場が、胸を張れるものなのかどうかを」


ジル「誇りがそんなに大事ですか? 自分の命よりも?」


レイ「命が一番大事に決まってるだろ。他にも家族や部下や市民、誇りより大事なものなんて腐るほどある。 むしろ誇りなんて大事なもののリストの下から三番目くらいだ」


ジル「だったらそんなものの為に命を懸けないでくださいよ」


レイ「何を言ってるんだ、大事なものなんて全部命を懸ける価値があるだろう」


ジル「・・・そうですか。 ではこれ以上は何も言わないでおきましょう」


 怒る気も失せたような諦めた表情で、ジルが黙る。


レイ「しかし・・・残念だったね風音君は」


風音「なにが?」


レイ「結局タダ働きになったんじゃないのか?」


風音「あぁ・・・。一応チーズケーキ代はおごってもらったから、完全にタダ働きでもなかったけど。 と言うかトラスさんから報酬が出ないのは最初から分かってたしね。 今回は自分の知りたい事の為に協力したみたいな所があったし、別に気にしてないかな。 地球の解析が無くなった事が報酬ってところでしょ」


 タダ働きのたびに、この部屋で荒れていた者の発言とは思えない。


レイ「いやそうではなく。 過去を見てもらえる予定だったんだろう? しかしもうトラス君は中央に向かう船に乗っている頃だろう。 これで結局風音君の過去は分からず仕舞いだ」


 児童大量殺人事件の真相は、闇の中となってしまったか。


風音「トラスさんもそんな事言ってたけど・・・もうその件は裁判で僕は無罪で犯人死亡で確定したしねぇ。もうそれでいいんじゃない? あと見ようと思えば見る事ができるって、千丸が言ってたし」


レイ「ん? どうやって? 確か千丸君は同じ人物には変身できなかったんじゃ?」


 過去を見るトラスには、すでに千丸は一度変身している。

 もう千丸の力で過去を見る事はできないはず・・・。


レイ「まさかそれもフェイクだったのか? 実は同じ人物にも変身できるとかか?」


風音「いや? って言うかフェイクって人聞き悪いな。千丸が変身した人の能力を使えないってのは、そっちが勝手に勘違いしてただけでしょ」


ジル「返す言葉も無いですね。あのカノン乗組員の特徴を詳しく書いた書類を作成したのは、私だったのに。 まさか複数の職員による目撃報告に誤りがあったとは・・・」


 悔しそうにしているジル。


風音「やっぱりジルが書いてたんだあれ。やたらルミナとレスタとサルトさんをベタ褒めしてたから、そうじゃないかと思ってたわ。 しかもそれほどまでに褒める理由が書いてないから、読んだ人達は意味が分からなかっただろうね」


 ジルは未知の言語に対応した翻訳機を開発した三人を尊敬しているが、三人はその事実を隠している。

 そこに配慮して、その事は書類に書かなかった。にもかかわらず書類では三人をベタ褒めしているので、読んだ人のほぼ全員が「どういう理由で、あのジルがこんなにも人を褒める・・・」と思っていた。

 毎度の事ながら、分かり易い奴だ。


レイ「じゃあどうやって過去を見るんだ?」


 疑問を向けるレイの隣で。


ジル「父親、でしょ?」


 ジルは気付いているようだ。


風音「そう。 千丸がフォトマットでトラスさんのお父さんを見てきたから。 その人に変身する事はできるでしょ」


 千丸は直接その人物を見なくても、写真や映像からでも変身できる。

 過去の世界で見た現在は実在しない虚像であろうが、トラスの父の姿をその目で見たのなら変身可能だ。


レイ「あぁ! なるほど!」


 やっと気付いたようだ。


レイ「じゃあ近い内に確認しに行ってみたらどうだ?」


風音「そだね。 あとあの能力って半径自分の身長以内に居る人は、何人でも過去に連れて行けるみたいだよ。 気になるならレイさんも見に行きます?」


レイ「いいのか?」


風音「いいのかも何も。 治安組織関係者が居ないと、僕の無罪を証明できないでしょ。 僕だけが見てきて僕が伝える情報を、治安組織シエロの誰が信じるんだよ。 誰を連れて行ってもいいんだけど、レイさんが適任かなと思って」


 おおむね風音の言うとおりだが、少し気になる所があるジル。


ジル「いや・・・。そういう理屈であれば、レイ長官を連れて行っても意味が無いかもしれません。 なぜなら今回の件で本部からは、レイ長官と風音さんは繋がりが深いと見なされていると思います。長官は今回組織よりも風音さんの言葉を信じて、機密事項を調べたんでしょ? この二人で主張したとしても、口裏を合わせているだけだと思われかねません」


レイ「そうか? そこまで信用を失うかな? それに実際風音君の言ってた事の方が合ってたんだから、なぜ風音君の方を信じたとか言われる筋合いは無いと思うが」


ジル「それは結果論ですよ。 それでもし風音さんの言う事が間違ってたら? 勝手に本部の機密事項を調べた上に、それがブラックリストに掲載されている者から聞いた情報を信じたからだなんて。 あらゆる治安組織関係各所からシャロンがぶっ叩かれますよ」


 また厳しい口調になるジル。


レイ「その件はもう何も言わないって言ってたのに、また怒られている・・・」


ジル「今のは長官が黙って認めればいい所を、反論して蒸し返したからですよ」


 再び言い合いを始めた二人の間に入るように、風音が割り込む。


風音「まぁま、落ち着いて。 でもその理論でいくと、ジルや天狐さんだって無理じゃない? 地球勤務してる人達は、裏で通じてるとか言い掛かりをつけられて基本信じてもらえなそう」


ジル「・・・それはその通りだと思います。 ですので・・・例えばランザと連絡先を交換したりしていないですか?」


 証言をするのが聖蝶なら信じてもらえそうだが。


風音「してるわけないね。あの人特に僕の味方ってわけでもなかったし」


 なんなら敵だと思われている。


ジル「じゃあ詰みましたね」


風音「詰むの早いなおい」


ジル「私からランザに連絡するのも、命令したみたいになりますしね・・・」


風音「命令? もしかして元々ランザさんを知ってるの?」


 なんだか言い方が知り合いに連絡を入れるような言い方だったのが気になった。この件で初めて関わったわけではないのか。

 ランザは明らかにジルより年下だから、本部勤務の時に後輩かなんかだったのだろうか。


ジル「もちろん。 ランザは困るとすぐ泣きそうな顔になるでしょ」


風音「そこまで詳しいって事は、知り合いなのか。 でも泣き顔より、よく低血圧っぽい感じで頭を押さえながら「ふぅ・・・」って言う人ってイメージだけど」


ジル「ん? そんな事言います? それは見た事が無いですけども」


風音「え? あ・・・言われてみれば初めてこの部屋で会った時は、言ってなかったかも。あと戦闘中とか気合が入ってる時も言わなかった気がするな。 やっぱりジルの前では誰しも緊張するのかな。気合入れないとシバかれそうだもんね」


ジル「そんな人をパワハラ上司みたいに・・・」


風音「みたいにもなにも・・・お前自覚無いんか・・・」


 ん・・・?

 さっきもちょっと気になったけど、リドルとかランザとか・・・。


風音「ランザ? 確か治安組織って上下関係に厳しくて、上司には絶対にさん付けとかいう決まりじゃなかったっけ? ジルが聖蝶の人を呼び捨てしていいの?」


 なんかそんな話を、お米を買いに行った時に聞いた気がする。


ジル「その通りですけど、私は聖蝶のОBですからね。彼らは後輩であり、元部下でもありますから。おっしゃる通り現在の地位としてはリドル達の方が上なので、会合などの正式な場で会った時はそれなりの態度にしますがね。 普段は後輩の向こうが敬語で接してきますよ」


風音「え!? そうなの!?」


 驚く風音。ジルが元聖蝶で、あんな偉そうな人たちが敬語だと・・・。


レイ「ああ、風音君は知らなかったか」


風音「初耳だけども。聖蝶軍って存在自体、トラスさん達から聞いて初めて知ったよ」


ジル「あ、そうだったんですね」


レイ「・・・まぁ話題に出した事も無かったもんな。地球には関係無い存在だしな」


風音「そう! それ! その通り!」


 いきなり叫ぶ風音。


レイ「な・・・何かね急に」


 ちょっとビックリしているレイと、首を傾げているジル。


風音「いや今の二人の反応に感動したよ。 だってランザさんは僕が聖蝶軍を知らないって言った時に、貴様常識が無いのか。とか言ってくるし。 トラスさんはそのくらいは自分で調べて、元から知っておいてくださいとか言ってくるし」


レイ「ランザ君達は地球の感覚をまだ掴み損ねているんじゃないかな? 地球でしばらく過ごせば、宇宙の常識と現地の常識の差を理解できるだろう」


 なんて大人な反応。


ジル「と言うか地球じゃなくとも、別に聖蝶軍なんて知らなくてもいいですよ」


 そしてこの冷めた意見。


風音「なにこの温度差」


 同じ治安組織でこんなに反応が真逆なのか。


 でも言われてみれば、ジルって最近地球に配属になったばっかりの職員だ。

 もう結構な付き合いになるような気がしてたが、まだ一年も経ってない。

 そんな彼が地球に来る前に何をしてたかなんて、聞いた事も無い。去年まで聖蝶に入ってたとしてもおかしくはないか。

 でもそうだとすると、ランザから聞いた話と少し辻褄が合わない事はある。わざわざ指摘するほどの事でもないので言わないが。


風音「でも意外だよ。ジルが聖蝶・・・」


 なんか話だけ聞いてたら、真面目そうなイメージがあるけど。

 こんなのの集まりなのか・・・。


ジル「いやだって・・・聖蝶軍とは本部の選りすぐりのエリートが集まる正規軍であり、聖蝶とはその聖蝶軍の長である。って聞きませんでした?」


風音「聞いたけど」


ジル「私が風音さんと初めて出会った時からずっと、私は本部でもトップレベルの地位に居たエリートだって言ってませんでしたっけ?」


風音「言ってたけど。って言うか初めて会った時だけじゃなくて、何回か聞いたわそれは」


 確かにそれはずっと言ってた。こいつすぐ自慢するし。

 ただし本人は自慢のつもりは無いと主張しており、そう言っておけば自分がどういう人物なのかがすぐに伝わるから言っているだけらしい。


ジル「じゃあおのずと私は、シエロで最も位の高い地位に入ってるって事でしょうが」


 入ってるって事でしょうがって言われても。成績が良かったからって、入ってるとは限らんでしょ。

 本部のトップ層の職員には、戦闘に直接出向かない幹部連中とかも居るだろうしさ。

 聖蝶は十数人しかいないって言ってたし、そういうのって自分の意志で入るもんじゃないのか?

 戦闘全般での成績の良い奴から順番に、勝手に入れられるもんなの?


 そう思いながら尋ねる。


風音「なんで今まで言わなかったの?」


ジル「風音さんの方から私の過去なんて、聞いてきた事が無いからですよ。 それに私にとってはいわゆる黒歴史ですからね。わざわざ自分から元聖蝶ですとは言わないですね」


 黒歴史・・・?


風音「エリートの中でも上の上の、更に上のエリート集団でしょ? なんでそこに居た事が黒歴史になるの? いわゆる「最大のほまれ」ってやつじゃないの?」


 普通自慢するだろそれは。

 でも言わないって事は、もしかすると何か特殊な事情でもあるのかもしれない。たしか地球でも似た話を聞いた事がある。

 ある男性が世界でもトップレベルのエリートが集まる大学に入学したら、その大学では当たり前のように人種差別が行われていた。

 彼はその大学を卒業したものの、その大学を出たという事が人生の汚点だと語ったそうだが。


 そういう事情があるのかもしれないな、と思って問う。


風音「・・・何か重い事情でもあったとか?」


ジル「いえ。 私が隊員のほぼ全員から嫌われて孤立していたからですね」


風音「ぶふっ・・・!!」


 思わず吹き出してしまう風音。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ