聖蝶 41
ランザ「トラス、そこに直れ」
いつもなら剣で指すが、剣が無くなったので剣の鞘でトラスを指す。
トラス「なんで私まで怒られようとしてるの? 音羽さん何かしました?」
風音「さっき会話に持ち込む流れができてさ。 そこで時間稼ぎがてら、長時間かけて挑発してみた」
顔をしかめるトラス。
トラス「なぜロングラン挑発なんてしたんですか・・・普通に会話しましょうよ・・・」
風音「いや、冷静に考えてみるとね。 ランザさんの立場で見ると、僕と戦う必要なんて全く無くて。 それこそ窓から飛び出してトラスさんの所へ向かうって選択肢もあったんだよ。 それやられると困るから、冷静さを取り戻させちゃダメだなと思って。時間稼ぎもかねて話を長引かせつつ挑発して、僕と戦いたくなる様に状況を持って行こうと。 たくさん喋った方が時間も稼げるし、怒らせる事も出来るしで。ベストな選択かなって思ってて」
トラス「ランザを怒らせる事の何がベストか」
こそこそ喋っている二人に、ランザが憤怒の表情のまま告げる。
ランザ「黙れトラス。 言っておくぞ。お前たちが何をしたかったのか。 納得できる理由が無いようならば、このまま音羽風音とは決着をつける。 お前は三週間、女抜きだ!」
トラス「さ、三週間・・・だって・・・」
震えた声で反応するトラス。
風音「トラスさん。女抜きって何?」
トラス「お金の力による女遊びを禁止されるという事です」
怯えながら言う。
風音「・・・それは罰になってるの?」
トラス「私にとってはおぞましいほどの罰ですよ・・・」
ごくりと息を呑み、頬を脂汗が伝う。
風音「そっか・・・」
まぁどうでもいいけど。
風音「じゃあ乗組員の鞍馬たちが関係する話なんで、僕から説明しますけど・・・。ちょっとだけ待ってね」
カノンに携帯で連絡を入れる。
ここで時間を稼いでいる間に、どうやら千丸はもう回収されたようだ。
だったら仮にランザが敵だとしてももう、千丸達が襲われる心配は無いから説明してしまってもいいか。
風音「ごめんお待たせ。 実は鞍馬たちの宇宙船に小型の核爆弾が仕込まれてて――」
ランザ「核だと?」
驚くと同時にランザの光が治まる。
そのまま風音がここまでの成り行きを説明する。
所々驚きながら、ランザが説明を受ける。
風音「―――という訳で、僕たちはまずミスルさんとランザさんのどちらが核を仕込んだ人なのかを、見極めてからでないと何も出来ないな。ってなって。 だってランザさんからの提案でしょ? トラスさんと一緒にフォトマットへ行こうっていう提案。 半分の確率で核爆弾を仕込んだ可能性がある人と、相手からの誘いで一緒に宇宙船に乗れるわけないでしょ」
一通り話を聞いて、剣(の鞘)を収めるランザ。
トラス「・・・納得してくれた?」
ランザ「ふぅ・・・一応な。核兵器の核汚染まで利用して、トラスに調べさせたくない事があるとはな。 ただ少し腹が立ったから、一週間の女抜きだ」
トラス「なんで!? めちゃくちゃ正当な理由だったでしょうに!」
ランザ「結局私を信用してなかったからじゃないか。 最初から私の言葉を信じていれば、調べなくともミスルが犯人だったと分かるだろうに」
風音「いや・・・」
こっちの身にもなってくれよ。
あんたがミスルさんって人より信用に足る根拠がどこにあるんだよ。
・・・ってトラスも言いたいだろうけど、言ったら罰が延長しそうなので言えないでいるようだ。
風音「まぁいっか。 言いたい事は全部言ったし。 で? どうするのトラスさん。 ランザさんと一緒にフォトマットに行く?」
トラス「・・・そうですね。 どうしましょうね」
悩むトラス。
多分ランザは敵ではないと思う。が。
トラス「音羽さんは地球待機ですよね?」
風音「そうだね」
トラス「ですよね、どうしよ・・・」
ランザ「なぜだ? 確かに私とミスルのどちらか一方だけが犯人なのであれば、それはミスルだったのだろう。 でもお前たちの事だ、ミスルと私が共犯だった可能性も考えているんじゃないのか? そんな中で、なぜ警護の貴様が付いて来ない?」
そう。
これまで口には出さなかったが、その可能性も一応考えていた。
トラスが過去を調べる事ができるのなんて、この件の関係者は全員知っている。
だったら過去を見られた時に疑いを全てミスルに向けるように行動させ、ランザはあくまで本当の事を言っているだけ。という状況を作っておく。
それだけで信用が得られるなら、簡単な事だ。
風音「共犯・・・の可能性は確かに十分あるね。僕がそれを疑ってるのは事実だよ。 でもそこを判断するのはトラスさんかなって思ってて。 そう思うなら一緒に行かなきゃいいし、信用できるなら行けばいいし。 こっちにはこっちの都合があるからさ」
あえて口にしなかったのは、あらゆる可能性を考えだしたらキリがないからだ。
そんな事を言い出したら、治安組織全員がトラスの敵の可能性だってあるんだから。
全ての可能性に対して警戒するというのであれば、もう意味の無い真相を探るような行動は何もせずに、全員信用しません!って言って逃げりゃいいだけの話だ。トラスがそう言うなら、それをサポートしてあげるだけだ。
それでも真相を探って、誰が敵で誰が味方かを見極めようとギリギリまで頑張って来たのだ。
なら最終的にどう判断するかは、トラス本人が決めるしかない。
ランザ「その都合というのは、貴様がさっき宇宙港に行く事を拒否した事に関係があるのか?」
話を聞いていて、少し不自然だと思っていた点を指摘する。
先程のトラスとの電話で、時間がもったいないからなんていう部外者が気にする事ではないような理由で、わざわざトラスとランザの電話での会話に割り込んでまで宇宙港に行く事をやめた。
風音「・・・鋭いね」
特に隠さずに言う。多分隠しても疑われるだけだろうし。
ランザ「もしかしてレイ長官が始末される件か?」
ズバリ言い当てられる。
風音「・・・正解。なんで分かったの?」
ランザ「半分は予想。残りの半分は勘だ。 さっき貴様はトラスと私の会話に割り込んでまで、宇宙港に行く事を拒否した。 そして今警護が必要だと思われる場面で、別行動にしてまでここに残りたい。 もしかして貴様はこの場所に何か重要な用でもあるのか? ここまでが知り得た情報からくる予想だ。 そして仮にこの場所に何か用があるとするなら何か? ・・・そう言えば。このシャロンのレイ長官がシエロへの背信を理由に、始末されるという情報があったな。・・・じゃあそれか? この部分が勘だ。特に貴様と結びつける根拠は無い。今日この場において特に大きなニュースと言えば、これくらいしか無かったら言ってみた」
風音「そのくらいしか大きなニュースが無かったから、か」
誰だこの人に脳筋とか言ったの。
結構頭の回転が速いじゃないか。
風音「でもなんでランザさんがそれを知ってるの? 身内の始末がある時は確か、掃除屋とかいう連中にしか知らされないんじゃいの?」
トラス「いや本当に・・・なんでランザが」
ランザ「お前たちも私の所属くらいは知ってるだろう? 聖蝶だぞ? シエロに関する重要な情報で知らない事など無い。 シエロ本部から直々に、掃除屋に始末を伝えたのだったか。 今のところ追加の情報が無いという事は、現地に居るニュクスとハセイ・・・そしておそらく状況から見るにフォトマットで二人と共闘していたミスルも掃除屋だろうから、その三人に始末をさせようとしているというところだろうな」
風音「ふぅん?」
重要な情報は全て知っている?
じゃあこの人は地球の解析の目的も、おそらく知っているのかな? と思う。
でも話を聞く限り、シエロ組織内の掃除屋が誰なのかは知らないみたいだ。いつも行動を共にしているニュクスとハセイが掃除屋なのには気付いているようだが、ミスルに関しては予想で喋っている。
組織内でも正体を隠して行動している者達の情報までは入ってきていないという事だ。
身内を始末する連中の正体を知らないのはある種当然かもしれない、知られていると警戒されて掃除屋が動きにくくなるから。
じゃあ・・・この人は何を知っていて何を知らない立場の人なんだろう。そもそもなんだ聖蝶軍って。初めて聞いたわ。こっちが当然知ってるような口調で言われてもさ。
風音「まず・・・アンフォーリナとは?」
ランザ「貴様、常識が無いのか」
トラス「シエロのエリートを集めた正規軍『聖蝶軍』の頂点に立つ集団ですよ。・・・って、なんで知らないんですか」
信じられない様子で聞いてくるトラス。
風音「あの~お言葉ですけど。・・・よく「常識だろ」とか「なんで知らないの」って言う人いるじゃない? あれってさ、じゃあ誰か一回でも僕にその話をした事あるの? って逆に聞きたいんだけど。 ここまでの生涯で誰も僕の前で言わなかった情報を、僕が知るわけないじゃない」
トラス「インプットの手段は誰かから聞くだけじゃないでしょ。 興味を持って自分で調べましょうよ。知識や常識っていうのは、そうやって培われていくものなんですよ」
一見正しそうな事を言っているが、風音としては納得いかない意見だ。
風音(なんで暇さえあれば命を狙ってくる組織に興味持たないといけないんだよ。 今回の件みたいなシエロの暗躍とか裏の活動とかなら興味あるけど、シエロの表の活動なんか世界一どうでもいいよ)
それは思うだけにしておいて、言わないけどさ。
要するに聖蝶軍って、エリートだよって事か。
はいはい。
凄い凄い。
と思いながらランザに向かって続ける。
風音「なんにせよレイさんが掃除屋に狙われてるのが納得いかなくてね」
ランザ「なぜレイが殺害対象になったかは聞いているのか?」
風音「機密事項に触れたからでしょ?」
ランザ「その通りだ。 機密事項に勝手に触れようとすれば始末されるのは当然だ。 仕方ないが諦めるしかないだろうな」
風音「レイさんがそれを調べた原因は、僕にあるんだよ。 僕がレイさんに解析研究の話をした。 知らなかったレイさんにとっては、ショックだっただろうね。 自分が所属する組織が、数々の星を奴隷化させて研究と称して人の命を実験に使って弄んでいた事にさ。 だからそれを信じたくなくて、調べたんだと思うよ」
ランザ「・・・ふう。 だからと言って掟を破っていい事にはならないからねぇ」
ため息を吐くランザ。
ランザ(なぜ音羽風音が解析の詳細を知っている? いや、それより困ったね・・・。ここで堂々とこの話をするって事は、当然トラスから・・・)
トラス「今の話を聞いて全く驚かないって事は、ランザは知ってたの? シエロが私の力を使って地球の過去を調べる理由を」
ランザ(まぁそうなるね・・・。 この状況で隠すのは無理があるし、仕方ないか・・・はぁ)
悩ましい表情で、今度は心の中でため息を吐くランザ。
ランザ「もちろん。 地球の解析を終え、場合によって地球全土を指揮下に置くためだ」
淡々と言うランザ。
トラス「お前! 知りながら協力してたのか!?」
鋭い目つきでランザを睨む。
ランザ「解析は地球で最後にするという約束でな。 星を解析し、その星を指揮下に置く。 まるで星単位の奴隷を作るような行為であり、それ自体は褒められた行為ではないが、ちゃんと意義はあった。 宇宙を飛び回る怪物。星の子を討伐する為だ」
風音(まぁシエロとしてはそれが目的だったんだろうな。 わざわざ僕に神をぶつけてきたわけだし。でも神本人は、僕の中に居る星の子の存在すら知らなかったみたいだけど)
星を解析し自由に操る事で、好きに事象を書き換える。
その力は仮初めの神様を作り出すまでに至っていた。
そんな神の力でもって、星の子を討伐出来ないかという研究。実際にニーギという星でシエロは、星の子の力を宿した風音を神の力で殺そうとした。
トラス「星の子・・・。それが理由・・・?」
風音「人類じゃもう歯が立たないから、人造の神様に頼るってのは分からなくはないけど・・・。 でももう星の子は居ないよ? なんでその解析を続けてるの?」
そう問われ、首を横に振って否定するランザ。
ランザ「星の解析研究は討伐前の話だ。 解析研究は星の子討伐後凍結された。 だが地球だけは話が別だ。分かるだろう? ここにはその星の子の力を宿したお前が居る」
だから最後に地球だけは解析し指揮下に置いておく事で、もし風音が暴走しても討伐できる構えを作っておく?
ランザ達はそれを了承したわけか。まぁ立場上それは仕方ないか。
考える風音を横目に、トラスが尋ねる。
トラス「凍結? でも私は星の子討伐後も、いくつかの星の過去を調べに行ったけどな? ランザも居たよね?」
ランザに疑惑の目を向けるトラス。
風音「・・・・・・」
ランザの方をジッと見る風音。
ランザ「記録を調べれば分かるが星の過去を調べる作業自体は、解析研究関係無く何十年も前から行っていた。 なぜその星で生物が生まれ、どのように栄えたか。それは言うなれば生物学や人類学の研究だ。宇宙開発において最も大事な未知の惑星に挑む際の参考資料となる為、その分野の研究は治安組織だけではなく、あらゆる分野で最前線で研究されている。 それが今も続いている事に何の疑問がある? トラスは胸を張るといい。特にトラスの力がその分野の研究を、大幅に前進させ発展させているようだ」
トラスがチラッと風音を見る。
風音「嘘は・・・言ってないと思う」
トラス「そう・・・か」
・・・言葉通り風音の目には、嘘は言っていない様に見える。
そして少し落ち込んでいる様子のトラスの方に目をやる。
知らない内に自分がそんな事に加担していた事に加え、周囲の人は知っていたのに自分だけに伝えられていなかった事に苛立ちもあるのだろう。
風音「大丈夫トラスさん? まぁ・・・。シエロのやっている事を肯定するつもりは無いけどさ。 トラスさんは気にしなくていいよ。 あの怪物には何百億以上の人が殺されてきたんだ。手段を選んでられる状況でもなかっただろうしね」
トラス「・・・ええ。そうなんでしょうけれども」
風音「それにランザさんたちが黙ってた理由もなんとなく分かるでしょ? そりゃ少しは打算もあったと思うよ? 言ったら協力してくれない可能性があるから、黙っとこう。とかさ。 でもそれ以上に、言っちゃうとトラスさんに全部背負わせる事になるからだと思う。 周囲の人が罪の部分を背負ってくれてたんだよ。 ・・・まぁ・・・多分ね」
ランザ「・・・・・・」
トラス「・・・ええ。・・・いや、私は大丈夫です。 気を遣ってもらってありがとうございます」
自分の中で何かを決意したのか、顔を上げるトラス。




