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カノン  作者: しき
第8話
196/206

聖蝶 40


 ランザが目を瞑り集中する。


ランザ「ふぅ・・・。 全開で行く・・・!」


 ランザの全身がさらに輝く。七色に黄金が加わったような。

 目を開けたと同時、ランザの姿がその場から消える。


 消えたと同時に風音の目の前に現れ、その時にはすでに後ろ蹴りの型が完成しており、風音の胴に向かって放たれていた。

 それを見て確信する。


風音(よし。分かった。この人に距離は関係無い。 目の前に居ると思って戦わないと駄目だな)


 それを半身ずらして避ける。

 その後怒涛の追撃が放たれる。あらゆる角度から拳が、脚が。

 いつ腕や脚を引いているんだと思うくらい、強烈な拳や蹴りが同時に何度も襲い掛かってくる。

 ゼロアと組手した時もこういう経験はある。あいつの場合は単純に動きが速すぎるからだ。

 でもランザの場合は速いからではない。行動に継ぎ目が全く無い。まるで攻撃する瞬間だけを切り取って繋げているかのように、動作の一部が短縮されている。


 ランザの全身を覆う美しい光の軌跡が、幾本も風音に向かって伸びては消える。

 それを一つ一つ丁寧にさばきつつ。

 試しに風音から攻撃を出してみると、捌くでもなく避けるでもなくそのまま真っ直ぐに拳を打ち付けて来る。それは予想出来ていたので、互いの拳が砕ける前に高速で腕を引く。

 見たまんまの力押しタイプのようだ。


 光の軌跡が部屋中を舞う。

 風音の反撃を受けないようにする為か攪乱かくらんさせる為か、あらゆる場所に移動しては攻撃の型を完成させた状態で風音に攻撃を仕掛けてくる。

 まるで部屋全体に光る絵の具で流線を無数に描いたかのように、部屋の中が美しく彩られていく。

 あらゆる場所に軌跡を残しながら、その軌跡の束が全て風音の方に向かっていく。


風音(うん・・・そっか)


 七色に光り輝くその攻撃の全てをさばき、躱しながら思う。

 この手に残る衝撃。単純に筋力のせいで力が強いのもあるが、この狭い空間において瞬間移動でもしているのかと思うようなその速度が威力を何倍にも上げている?

 彼女の攻撃は移動という概念を感じさせないが、光の軌道やこの攻撃の威力を見るに、移動をしたという事実は存在しているようだ。いったいどういう仕組みでこんな事が出来ているのか。

 そのうえその速度で移動しながら、こちらの攻撃にはしっかり反応する。


 この光の技の正体は分からないが、やはり自分が行う行動をいくつか肩代わりしてくれているのだろうか。

 肩代わりと表現しているが、要はやろうとしている行動を一つ消し飛ばして結果だけを享受きょうじゅできる。

 移動と攻撃を同時に行って見せたり。

 他にも何度もすぐ近くに来るから分かったのが、この人が呼吸をしていない事。 無呼吸でこんなに激しく動いて酸欠にならない訳が無い。仮に移動がオートだとしても、連続で攻撃はしている訳だから。

 呼吸も肩代わり――この謎の光が本体の代わりに呼吸をしているのかもしれない。

 おかげで呼吸の乱れというのが一切無い。無呼吸で動き続ける奴と同じような隙間の無い動きを、スタミナが続く限り延々と出来る。

 ・・・と言うか仮に移動も光が勝手にやってくれているという予想が当たっているなら、この人のスタミナが尽きる事なんてあるのか?


 あの謎の光がやっている事を肩代わりと表現しているが、本体とは別で動作を補助するエンジンを積んでいるような状態だろうか。


 そしてここまでの情報から、出来ない事も想定できる。

 おそらく何かに影響を与える行動の短縮は出来ない。

 つまり光に攻撃を肩代わりさせる事で、攻撃動作そのものを短縮するだとか。

 攻撃の始まりから終わりまでの全てを短縮。その結果だけを自分のものとする。

 そんな事ができるなら、近付かれた直後に不可避の攻撃を喰らう事になる。

 近付かれた直後にはもう、攻撃行動は消し飛ばされ終わっているのだから。そして風音が攻撃を喰らったという事実だけは残る。

 それが出来るなら、もうとっくにやっているはずだ。


 あくまで短縮や肩代わりができるのは、自分に影響する事だけ。

 相手の能力とその活用法を考えながら、思わずつぶやいてしまう。


風音「あぁ・・・あなた。僕より強かったんだ・・・」


 自信に満ちていただけの事はある。

 仮に千丸がこの人と戦ってたとしても、変身した千丸程度では勝てないな、これは。

 いくら最強のゼロアに変身しても、技術に差がある。地力が違う。単純な膂力りょりょくが桁外れている。

 力があっても使い方が分からなければ、その威力は全然引き出せない。千丸がゼロアになって全力でぶん殴ったところで、明らかにゼロアより腕力が弱いランザの半分の火力も出ないだろう。

 それでもなお治安組織のエリートであるニュクスたち程度なら倒せてしまうのが、ゼロアの肉体の凄いところなんだろうけども。


 光の塊となったランザの猛攻が二分ほど続いたか。

 不意に光が風音から離れて止まる。ランザが止まったせいか、部屋中の光の軌跡が少しずつ薄れて消えていく。

 少し距離を取って、ランザが風音をまじまじと見る。


ランザ「なぜ・・・千にも及ぶ私の攻撃が通らない?」


 千にも及ぶ攻撃を放っておいて、全く呼吸も乱さずに尋ねてくる。


風音「え・・・? そりゃあ・・・全部さばいたからじゃない? でも一発ごとの威力が凄いね。捌いた腕が結構痛いよ」


 自分の腕を見ながら言う風音。まだ回復が必要なレベルではないけども。


ランザ「私の攻撃を全て捌ける者など見た事が無くてな。 我が聖蝶軍のリドル隊長ですら、いくつかは喰らうんだけどな。 なぜ私の動きを追える? どんなトリックを使った? もしかしてそれが、貴様の中に居ると聞いている魔神の力か?」


 トラスが来るまで時間を稼ぎたい風音にとっては、喋ってくれる時間が長いのは好都合だ。

 せっかくなので出来るだけ無駄話でもして、時間稼ぎができればいいな。

 なんかちゃんと質問に答えるような本質を突きつつ、回りくどい話でもしようかなと思いながら。


風音「トリック・・・は使ってないよ。 あと僕の中に居るのはただの怪物であって、魔神は居ないけども。 うん・・・そうだね。じゃあ僕なりにちゃんとその質問に答えるつもりだけど、僕の話を真面目に聞きたくなくなったら、いつでも攻撃を再開してくれてもいいよ」


 そう言って防御の構えを解く。


風音「僕最近ね。ゲームを始めてさ。 そこで凄く疑問に思う事があるんだよ」


ランザ「身体の回復を図るために、くだらない時間稼ぎでもするつもりか?」


 ランザのいつもの癖をものまねするように、風音がふぅ・・・と息をついて言う。


風音「いやだからそう思うなら、殴りかかってくればいいでしょ。その時点で話をやめるし、僕がそれでもいいって言ってるんだから。 ・・・で、続きなんだけど。 ゲームでは敵を倒すとね、経験値ってのが入るんだよ。弱い敵からは少しだけ。強い敵からはたくさん。それを貯める事でレベルアップすると強くなる。 不思議なのはね? どれだけ強くなっても、弱い敵からも経験値が入るんだよ。 おかしいと思わない?」


 首をひねって言う。


ランザ「・・・・・・」


 やはり風音の予想通り、いつ攻撃してもいいと言っても攻撃はしてこないか。

 この人の律儀な性格から、自分から聞いた質問なのだから答えを言うまでは聞こうとするだろうなという予想。

 そして完全に防御を解いた相手への攻撃は躊躇するだろう、という予想は当たったか。


 とはいえ一応警戒したまま話を続ける。


風音「だってさ。弱い敵を倒し続けて、何の経験になるんだよ。 足し算の問題を幾千万回解けば、大学の数学で満点取れる? そんな訳ないでしょ。 経験値ってのは、新しい事を吸収した時に得られるものなんだよ」


ランザ「・・・・・・」


風音「同じくゲームではね。明らかに自分より強い敵を、裏技的なやり方で倒す事が出来る時があるんだけど。 そうすると自分より強い敵を倒したって事で、物凄い量の経験値が稼げるんだよ。 あれも疑問でね。強い敵を暗殺に近い形で、例えば毒殺したとしてさ。それでなんで自分の経験値がアホほど上がるんだろうね? だってそれでいいなら、敵が集まってる所に大量破壊兵器で攻撃するだけで、簡単にレベルアップできるもんね? ボタン一つポンと押すだけで、レベルが100上がりました~。力が158上がりました、防御力が202上がりました、技術が192上がりました、運が128――ってね? おかしくない?」


 また首をかしげながら言ってから。首を振る。


風音「現実はゲームじゃない。そんな事で強くはならない。経験値ってのはね。その戦いで何を学び何を得たか、なんだよ。 そんな事はね、子供の頃から分かってた。 分かってたのに僕はほんの一ヶ月前まで、それをおろそかにしてた。 自分より格下の人としか闘って来なかった。 自分より格上の人は周囲にたくさんいるんだよ。ゼロアやフィリコ、本気の神楽さんやユニィや母さん。 でもその人達とは闘わなかった。理由はそれぞれだけどね。 その人とやれば殺し合いになっちゃったり、互いに好感度があり過ぎて闘うなんて発想になれなかったり。敵にしか本気を出せなかったり、本気を出されると物理攻撃が通じなくて相手にならなかったり・・・僕より桁外れに強いのをいいことに、戦闘中にセクハラしてきたり」


 そして風音が地面を指でさす。


風音「でも最近になってね、今この地下に居る人と出会ったんだよ。 久しぶりに本物の天才を見たよ。マテノさんって言ってね。その人は戦い方が喧嘩スタイルでありながら、ほんと強くてね。明らかに戦闘中でのあらゆる機微を捕らえる才能が僕より下回ってるのに、瞬発的な対応力だけで乗り越えて来る。 正に喧嘩上等スタイルでさ。そんな人とゲーム内で・・・と言っても現実と同じ感じで、結構組手をするんだけど。 互いに強さが拮抗しててね。やってて楽しいし、同時に凄く怖い。 今のところ僕の方が勝率は高いけど、それでもあっさり一本取られちゃう事もあってさ。 そうして一ヶ月くらい経って、最近ふと気付いたんだよ。 ゲーム的に言うなら、僕らは大幅にレベルアップしてるなって」


 久しぶりだった。自分が明らかに強くなったと感じるあの感覚。

 日々の鍛錬で日毎ひごと徐々に強くなっていくのではなく、飛躍的に強くなる。

 組手をするごと、まだまだ自分には足りない部分が多い事に気付く。

 そして日を重ねるごと、自分に足りなかったものが経験として吸収されていく。


ランザ「・・・・・・」


 ランザが何となく目だけで下を見る。マテノ・・・さっき電話で会話した看守だ。

 この風音と比肩する人物。こんな辺境の地にそんな奴が居るのかと思うと同時に、そんな奴がなぜ現場に出ずに看守をやっているんだとも思う。

 ランザはその辺の事情を知らないようだ。


 ここまで結構喋ったけど、さすがにこの辺が限界か。

 そろそろ適当に話を着地させる風音。


風音「だからさっきのランザさんからの「なぜ私の攻撃が通じないのか?」って質問に答えるとするなら、「僕に挑むのが一ヶ月遅かったから」だよ。 やってみて分かった。ランザさんはね、お世辞じゃなく本当に僕より強かった(・・・)。 一か月前の僕なら、まず勝てなかった。 屋外なら毒で力に変えられる物が沢山あるから、それなりに僕も勝つ自信はあっただろうけどさ。そっちだって能力を使ってるんだから、僕が毒を使って無尽蔵に力を増やす事を卑怯とは言わせないしね。 ・・・でもこの場所この条件なら絶対負けてた。 治安組織の壁を毒で壊せば犯罪者になるし、その辺の机や椅子をあとで弁償するのを覚悟で毒で力に変えても、せいぜいランザさんの猛攻を凌ぐので精一杯だったと思う。 いずれジリ貧でやられてただろうね。いいとこ敗走・・・かな」


 長い話を聞かされ、ふぅ・・・と息をついて。


ランザ「それが結論か? 長々と話したが、要はお前が私より強いからだ、と?」


 風音が笑顔で頷いて、ハッキリと答える。


風音「失礼ですけどあなた、僕やマテノさんの域に到達してないよ。もうあなたから経験値は得られない」


 ランザが呆れたような表情を作る。


ランザ「ふぅ・・・だったらそのマテノとやらと二人掛かりでかかってくればいい。まとめて黙らせてやろう」


 ランザの体がひときわ大きな輝きを放つ。


 ココンッと早いテンポでドアがノックされる。

 誰も返事をしなかったが、勝手にドアが開いてトラスが飛び込んできた。


トラス「分かりましたよ音羽さん! 核を積み込んでいたのはミスルさんの方でした!! って、ランザぶち切れてるーー!!」


 あの常にだるそうな低血圧の権化ごんげのようなランザが、見るからに全身みなぎっている。


 入ってきたトラスを見て、ホッとする風音。


風音「ちょっと遅いよぉトラスさん。 いやでも助かったよ。もうちょっとでランザさんとガチバトルするところでした。やばいやばい、かなり強いよこの人」


トラス「敵じゃなかったのになんで!? 話し合いで時間稼ぎをするっていう予定だったのでは!?」


風音「話聞いてくれないんだもん。 ギリギリまで時間稼ぎはしたよ? まずトラスさんが言った通り、ランザさんは大体待ち時間十分くらいしか辛抱きかないから、ランザさんが会議室に入ってから数えて九分経つまで粘ってから会議室に入る。 あと戦闘になってもできるだけ会話をして粘る。戦闘になっても互いの負傷は回避する方向でやる」


 指を折りながら数えて、説明する。風音は全部言われた通りにやった。


トラス「それでこれ? 私でも見た事が無いくらい光ってるよ?」


 光り輝くランザを見ながら言う。


風音「元気な蛍でもこんなに光らないのにね」


 ここまで光らんでもいいのに。


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