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カノン  作者: しき
第8話
195/206

聖蝶 39


 シャロン第五会議室。

 腕時計を見る。あれから九分経ったか。聞いてた話では、そろそろ限界かな。

 ドアの前に立って、深呼吸をする風音。

 コンコンッとノックする。


ランザ「遅かったじゃないか。入ってくれ」


 中から返事がしたので、風音がドアを開いて入る。

 会議室の中にはランザしか居ない。席についてトラスを待っていたようだ。


 風音を見るランザは明らかに警戒している様子。


ランザ「トラスはどうした?」


風音「それについて事情を説明したいんですけど、聞いてもらえますか?」


ランザ「ブラックリストの貴様と会話をするつもりは無い。今すぐ出ていけ」


 ピシャリと告げるランザ。


風音「僕としては出て行ってもいいんですけども。 でもその場合、ちゃんとトラスさんが来るまで待っててくれますか? トラスさんの敵が誰か分からない現状、警護を頼まれてる僕はあなたとトラスさんを二人で会わせる訳にはいかないので」


 風音としてはランザがここで待機していてくれるなら、話し合いはトラスが来てからでいいと思っている。

 出て行けと言われるなら、出て行くだけだ。


ランザ「なぜ私がお前の言う事を聞かねばならない?」


風音「なぜ? 理由は今言いましたよ。 さっきもトラスさんが言ってたでしょ。僕の言葉はトラスさんの言葉だって。 トラスさんが自分が来るまで待機しててくれって言ってるんですよ。僕はそれを伝えに来たんですよ」


ランザ「その発言を信用するとでも? 仮に待機指示があるとしても貴様の言葉ではなく、トラスに直接聞きに行く」


 ランザが立ち上がる。


風音「事情を聞く気が無い。 トラスさんからの指示も聞かない。 ならここを通す訳にはいかないね」


ランザ「そういう事なら力尽くで通らせてもらおうか」


 腰から剣を抜くランザ。


風音「その剣。 大事な物なら仕舞った方が良いよ。毒で壊れるだけだから」


ランザ「言われなくとも貴様の能力は分かっている」


 剣を胸の前に持って行き、祈りを捧げる。


ランザ「いと堂々たる聖なる清なる神の光よ」


 剣先からランザの体へと向かって、全身が七色に光る。


風音(なるほど? 僕よりも神楽さんに近いな・・・剣を掲げるのは祈りのポーズか)


 同じカノンに住む神楽も、神?の力を借りて技を繰り出してくる。

 その神というのが、なんなのかは知らないけれども。土地神なのか精霊なのか、それとは別の何らかの力を持つ存在なのか。 あるいは自身を強化させる能力を元々持っていて、それを別の何かが力を貸してくれていると思い込んでいる、プラシーボ状態なのか。

 その正体がなんであれ、飛躍的に戦闘能力が上がるのは確かだ。

 

 構えを解くと同時に剣を振うと、光が風音の目の前まで飛んでくる。

 剣から高速で何かを飛ばしたのかと思ったが、何かではなくランザ本人が瞬時に移動してきたようだ。


風音(速っや。やっば。こっわ。 なに今の。 攻撃動作の最中に移動してきた・・・まるで移動は攻撃とは別で何かに操作されてるような・・・)


 まるで行動を一つ短縮しているかのような。


 ランザが剣で両目を正確に斬りつけて来る。


風音(警告したのにわざわざ剣でかかって来るんだ。 この神の光とやらは・・・僕の毒を無効にしたりするのかな?)


 斬りつけられる一瞬で、そんな事を考える。

 自分で言うのもなんだが、この毒を無効化する能力なんてあるのだろうか?

 あの史上最強の星の子にすら、最初は効いたのだ。あいつがその気なら余裕で克服される所ではあったけれども。でも最初は効いた。あの何でも無効にしてしまう化け物にも、無効化される事は無かった。

 じゃあもはや、物質に対しては何にでも効くんじゃないか?

 とはいえ植物には効きが悪く、生物に効かないという(毒で人を傷付けたくない風音にとっては長所ではあるものの、戦闘においては)欠点を抱えている。

 そしてその欠点をランザは情報として仕入れているはずだ。


 ではもしランザの全身を七色に輝かせている神の光とやらが、視覚的に光っているだけではなかったとしたら。

 何か発光する微生物のようなものを生み出し、剣や体の周囲にまとわりつかせているとか。そいつが移動や行動の手助けをしている?

 だとすると物質よりは毒の効きが悪くなる。

 風音の体内に入って来た毒物や害をなす寄生虫や微生物など、そういった例外を除くと風音の毒は意識して濃度をかなり上げない限り、微生物のような小さな生き物でも破壊できない。


 ランザのこの自信は、風音の毒の特性と自身の技との相性からくるものか?

 毒が効かない何かでコーティングされた剣で目を攻撃されれば、目が潰れる可能性は十分にある。


 でも斬る事を目的として剣を振ってるのだろう? だったら光り輝くほど微生物がウジャウジャいたら、斬る瞬間微生物が邪魔になったりしないか? じゃあ斬る瞬間は微生物は別の場所に散る?

 目に触れた瞬間微生物が散って剣身が剝き出しになれば、毒で瞬時に破壊出来る可能性もある。その場合大量の微生物が目の中に残るのだろうけど。


 風音が斬りつけられる瞬間に、ここまで細かくいろいろ考えたわけではないものの。

 おおむねこのような事を考え、毒が効かない可能性が頭をよぎる。

 紫色の瘴気を放つ毒を体の周囲に展開しながら、剣を目の前ギリギリでかわす。

 一瞬ランザが驚いたような表情を見せる。まさか躱されるとは思っていなかったのか。


 この人の攻撃は速いのは速いが、踏み込みや移動という概念が無いだけ。あくまで剣を振るという攻撃動作は存在する。

 かざねの射程外で攻撃動作を開始し、攻撃する頃にはいつの間にか目の前に移動している。


 なら遠くで剣を振ろうとした動作を見て、至近距離に来てから見て躱せばいいだけ。・・・簡単には出来ない事だが、風音の動体視力と反射神経なら可能だ。

 なぜならこの手の攻撃は慣れているから。

 幼馴染の煉也も刀の使い手だが、彼の斬撃は射程が伸びる。ランザが居た五メートルほど離れた位置からでも、余裕で届く。

 風音からすれば、それを躱すのと何ら変わらない。同距離から刀の斬撃そのものが自分に届いているか、本人が斬りつけに来ているかだけの違いだ。

 そして刀を振る速度のみを見るなら、居合の使い手である煉也の斬撃の方が遥かに速い。ランザが剣を振り終わる頃には、二の太刀を放ち終わっているのが煉也の技術だ。

 ・・・驚いてまでくれたところ申し訳ないが、これなら普通に躱せる。


 風音の目の前で、白い灰のような物が散った。毒で何かを破壊した時に出る粉だ。

 気付けばランザが最初立っていた位置辺りまで退いている。

 反撃封じの為か。

 しかし不思議だ。ランザのあの攻撃後の体勢から、素早く移動なんて出来ないはずだろうに。

 やはり攻撃の動作とは別で、移動が行われている様に見える。


 ランザは斬りつけた剣先を見ている。

 どうやら風音の毒でボロボロになって剣先から五センチほど無くなってしまったようだ。


風音(普通に毒が効いたな・・・)


 予想が外れた。微生物とかじゃなかったのか。

 じゃあ何の自信があって、あんな堂々と剣を振って来たのか。毒の情報を知ってるはずだし、なんなら警告してあげたのに。

 何か考えがあっての事か?

 と思ってランザを見る。


ランザ「・・・・・・」


 赤ちゃんが泣く直前の様に目をウルウルさせながら、眉をハの字にして下唇をちょっと突き出して剣を見ている。


風音(分かり易くヘコんでる・・・普段冷たい態度の割に、けっこう表情豊かだなこの人。泣きそうになったり驚いたり)


 そう思ったその刹那。

 風音の顔面に向かって剣がぶん投げられる。


風音「!!?」


 いったいどんな投げ方をすればこうなるのか。

 扇風機の羽の様な回転の仕方で、超高速でグルグルと回りながら飛んでくる。

 普通に投げてもこうはならんだろ、という回転の仕方。

 風音がそれを自分の体の周囲に展開した毒で破壊すると。


風音(!? なるほど・・・面白い!)


 この人ただの脳筋じゃない。

 最初に剣で斬りつけてきたのは、毒の性能を見る為だったのか。

 とするなら、凹んでいるように見せたのも演技だったという事か。


 風音の毒は崩壊させた物質を灰状の粉に変える。

 それを利用されたようだ。普通は粉はすぐに真下に落ちるはずなのだが。

 高速回転して顔面に向かってくる剣を崩壊させた事で、回転の勢いのせいで灰が円を描くように舞う。風音の目の前が回転する灰で真っ白になった。

 全く前方が見えない訳ではないが、かなり多くの死角を生んでいる。


風音(敵をあなどり過ぎたか・・・。これは一本取られたね・・・)


 毒の性能を利用されるのは初めての経験だ。一度見ただけで灰状の粉になる事を見極め剣が毒で崩壊する事を利用し、回転力で目潰しを狙うとは。

 すぐにその場から風音が離れる。この相手に一瞬でも視界が損なわれるのは危険だ。

 これでこの勝負、先制で一本取られたようなものだ。

 なぜなら風音はランザをこの部屋から出さない様に、ドアの前を陣取っていた。

 それをまんまと移動させられたからだ。


 しかしそんな勝ちだ負けだと考えている場合じゃない。

 この体勢を崩した瞬間を狙って、追撃が来る。


 ランザの方を警戒すると、ランザはさっきの立ち位置のままでいる。

 その表情を見ると、いじけたように下唇を出したまま下を見て凹んでいる。


風音(え・・・? 嘘だろ・・・。 今の・・・ムカついて投げただけだったのか・・・?)


 いつもの表情に戻ったランザが、風音の方を見る。


ランザ「・・・お遊びはここまでだ。これは強がりで言ってる訳じゃない」


 余計な事を言わなければ、強がりだとバレないのに。自分が扱う神の力とやらなら風音の毒くらい克服できると思っていたようだが、思ったようにいかなかったようだ。

 

風音「いや・・・多分あなた強いし機転が利くし才能もあるよ。 ・・・活かせてないだけで」


 もうすでに予想もしない事をされて、かなり焦ったからな。


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