聖蝶 37
トラス「・・・は?」
素っ頓狂な声を上げるトラスと。
風音「え!? 小型核!? 大丈夫なのそれ!?」
とんでもない威力の爆弾の登場に、かなり焦る風音。
鞍馬「零武が気付いてくれたのですが、残念ながら気付くのが遅かったため解除には至りませんでした。 起動後およそ十秒で爆発する設定だったようです」
風音「でも今こうやって喋ってるって事は、爆発を免れる事はできたって事じゃないの?」
鞍馬「いいえ。 艦長は以前、主が妙な自爆装置を開発したのを覚えてらっしゃいますか?」
風音「超高火力の爆発を任意の敵だけにぶつける自爆でしょ? 事前に自分と敵の周りに対爆耐熱に特化したバリアを張って、その中で爆発する。 そうすると周囲に被害を一切出すことなく、街ひとつ破壊出来る威力の爆発を叩き込む事が出来るっていう。 実際はバリア展開の時間が想定より短すぎて、使うと街ひとつ破壊しちゃうところだったから、二度と使おうとしない様にって言っておいたやつね」
トラス「普段何やってるんですかあなた達・・・」
テロリストよりも厄介な事をしているんじゃないだろうか。こんな状況じゃなければ、詳細に問い質している所だ。
トラスの感想などは無視して続ける。
鞍馬「運良くその改良版を私たちが搭載していまして。 例の小型核が爆発する直前に、バリア機能で覆う事ができました。 今は零武が近くで様子を見てくれています。 しかし予想よりも遥かに威力が高く、あのバリアでは時間稼ぎしか出来ない事が判明しました。 バリアはもう四層中の二層目まで破壊されており、予想ではあと五分程度しか持ちません。 このままでは核爆発の熱波と残滓を帰路の中継ポイント付近に持ち帰る事になります。 ですので我々は自らのデータ全てと千丸さんを小型船に移し地球へと送り、可能な限り人類が存在する星から離れた場所に移動する事にしました」
風音「よく発見から猶予十秒でバリアが間にあったね・・・」
トラス「ほんとにね・・・」
鞍馬「我々は瞬発力には自信がありますから。負傷状態から自己修復で回復しつつあった零武が、船の外側に仕掛けられた爆弾を内側から遠隔で爆弾周囲を囲むようにバリア展開をしました」
風音「あ、爆弾って船の外に付けられてたの? 本当によく間に合ったねそれで・・・」
というか零武も負傷していたのか。鞍馬の腰の故障とは違い、自己修復が間に合う程度の負傷だったのが救いか。
ランザが言っていた全員負傷しているというのは、やはりこちらの人員も全員という意味だったか。
鞍馬「十秒も猶予がありましたので。 もし仮にその爆弾が発動後約十秒で爆発ではなく、発動直後に爆発だとしても、自分に対するバリアは間に合っていましたよ。 検知直後はいつ爆発するのか分からなかったので、バリアを展開しながら爆発を抑え込みましたし。 もしすぐに爆発していれば三人はフォトマット地上に落下し、核汚染から逃れる為にバリアが切れるまでのあいだにその場から全力で離れ・・・というような展開になっていたでしょうね。 その場合連絡手段は絶たれていたと思います」
トラス「超有能・・・」
核爆発に反応して防御するとか、淡々と凄い事を言う鞍馬に感心するトラス。
風音「うん、そういう所はやっぱりアンドロイドって凄いね。 人間とは反応速度が桁違いって言うか。 あとアンドロイドって記憶の方はコピーできるとしても、人格データの方はコピー禁止だったっけ? 人格を移行済みって事は、今そこに居る鞍馬と零武は本人っぽい反応をしているAI状態って事?」
鞍馬「ええ、その通りです。 高度AIに存在する自我、いわゆる感情や思想などは移行済みです。 ここに居るのはあなた方からの質問に対し鞍馬が持つデータを検索して答える、ロボットのような物と考えてください」
風音「えーー・・・。 だとしても鞍馬たちの体が犠牲になるって事には変わりないわけでしょ? 出来ればやめてほしいけど・・・。もう一つ小型船は無いの?」
アリエイラさんはあれで結構な金持ちだから、小型船をいくつも積む事くらいできそうだけど。
鞍馬「ありませんでしたね。 主がいかに資産家といっても、所有物の全てに無駄にお金をかけているわけではなく、目的に応じた造りにしていますから。 この船は造りが民間船ですからね。脱出用の小型船なんて、普通は積んでいません。 むしろ一人乗り用でも小型船が一つあっただけで主に感謝ですよ。 おかげで早めに千丸さんを帰還させる事ができました」
小型船があったおかげで、一度着陸してフォトマットに避難するという行動をとらなくて済んだ。
だが考え方によっては小型船が無かった方が、風音にとっては有り難かったケースも考えられる。
なぜなら自分たちの人格データと千丸を助けるという、いわゆる人命救助による緊急避難の名目でフォトマットに再着陸する事が出来るから。
そして避難後宇宙船をオートパイロットで爆弾ごと宇宙に飛ばせば良い。
ただしその場合先程鞍馬が言っていたように、連絡手段は途絶える。
フォトマットは自分から外と関わる事を極力断っている星だ。 その影響でおそらく地球への通信手段が無くなるので、風音達が異変に気付いて迎えを寄越すまでフォトマットに取り残される事になる。
・・・がその代わり、鞍馬たちの体は無事で済んでいただろう。風音としてはその方が良かった。
それが出来なかったのは、小型船が存在したからだ。
一旦上空に上がり宇宙まで出られる状態にあって、自分たちが発動済みの小型核を持っている事と、鞍馬たちの人格データと千丸が無事に脱出できる手段がある事。これらの条件が揃っていた場合緊急避難が適用されないので、その状態でフォトマットの地上に再度戻る事は法的に許されない。
自分たちの命を失う心配が無いのに、発動した核を地上に持ち込もうとすると解釈されてしまうから。
だから鞍馬たちはそのまま宇宙に出る方向で舵を切った。
可能な限り早く千丸を地球に帰還させ風音とトラスの役に立ちたい鞍馬と零武が、小型船が存在した事に感謝しているのは本心だ。
が、風音にとっては歯痒いところだ。
しかしそんな風音に対し、鞍馬が安心させるように優しく言う。
鞍馬「それと一つ艦長は勘違いをされています」
風音「と言うと?」
鞍馬「我々は体の破損の危険を伴う異星へと出かける際は、スペアの方の体で出向きます。 つまり今地球でメンテしている体こそ、オリジナルの我々の体です。 ですので犠牲というほどのものではありません。しいて言うならば損失は、換装を施した私と零武の武装だけでしょうか」
風音「ああ・・・そうなんだ。いやそれでも嫌だけどね、スペアの体でも鞍馬たちが犠牲になるのは。 だってほら、以前零武が頭部の装甲を丸々新しいパーツに交換した時に、「以前せっかく撫でてもらった頭を廃棄したから、また新たに撫でなおしてくれないと割に合わない」とか言いに来た事あったでしょ。 鞍馬たちも体を失うと、なんだかんだ喪失感みたいなのがあるんでしょ?」
撫でてもらった記憶は残っていても、実際に撫でてもらった場所がなくなったら意味無いって言われて。
なんかその主張もよく分からないし、勝手に頭を取り換えといてこっちに言われても・・・ってのもあったんだけど。 特に断るほどの事でもないし、言われるがままにしばらく撫でてあげた記憶がある。
鞍馬がそれを聞いて「いや・・・それは単に零武が撫でてほしくて、頭の換装を理由に撫でてもらいに行っただけじゃないですかね。 それにオリジナルならともかく、スペアの損失に喪失感は無いですよ」 と言いかけたが。
鞍馬が一瞬止まる。
鞍馬「・・・ん? あら・・・? もしかすると記憶違いかもしれません。私はこの体がオリジナルだったような・・・」
頭をおさえて、どうだったかな・・・という感じで考えている。
風音「え? そうなの?」
急に何を言い出すのだ。そんな部分が記憶違いなんて、あるわけないと思うんだけれども。
しかも「私は」てさ。 一緒に出掛けたのに零武はスペアで鞍馬だけオリジナルなんて、ありえない気がする。
鞍馬「記憶が定かではありませんが、もしこの体がオリジナルであれば零武と同じように、私の体が今まで体験してきた行為が全て無くなってしまう事になります」
風音「つまり零武の時みたいに、もう一回撫でてくれ・・・みたいな話?」
以前から(この前仕事した動画撮影の時くらいから)鞍馬の様子がちょっとおかしいので、嘘ついてるんじゃないかと思い始める風音。
これは単に、仕える主人に撫でてほしいだけじゃないのか?
まぁべつにそれならそれで嘘に乗ってあげて、撫でるくらいはしてあげるけどさ。
鞍馬「撫でる? いえいえ。 ついこのあいだ治安組織の動画撮影で、私と互いに交代で赤ちゃんプレイをしたのを覚えてらっしゃいますか? あれは私にとっては良い思い出です。 あの記録が体から消えるなんて許せません。ですので艦長。地球の体に私の記憶が戻り次第、私の体にあの時と同じ行為を刻んで・・・」
風音「いや鞍馬、間違いなくその体はスペアだわ。 って言うか、あれは二度とやんない」
うん、乗れる嘘と乗れん嘘があるわ。
鞍馬「・・・ちっ・・・」
風音「オートパイロット状態のアンドロイドが舌打ちしたで・・・」
風音の周囲では妖精やアンドロイドなどの、舌打ちからほど遠いような存在の奴ほど、よく舌打ちする。
風音「じゃあもうあと一~二分足らずで今更計画の変更はできそうにないから、スペアの消失は泣く事にして。 問題はその爆弾がいつ仕掛けられたのかって事だね。 零武のセンサーに引っかかったって事だよね?」
鞍馬「そうです」
風音「じゃあ行きは無かったわけだ。 フォトマットに到着して以降に仕掛けられた?」
鞍馬「確証はありませんが、ほぼ間違いなく。 停止状態から活動状態へと移行したと考えるなら、行きの時点で既に存在した可能性は・・・無くはないですが」
完全停止状態では零武のセンサーには反応しない。裏側(別の宇宙)の軍が使っているような、刃物や銃のような原始的な武器も含め武器や兵器を全て関知する事が出来る機器ならば、爆発物が停止状態でも発見できただろうが。
爆弾のタイマーが作動し始めてから零武が感知したと考えるなら、爆発物そのものはいつから存在していてもおかしくはない。
風音「でも完全に停止してる状態から、起動するなんて可能かな? 起動する為のタイマーなんかが付いてたとしたら、零武はそれを感知できるでしょ?」
鞍馬「ええ。タイマーや遠隔で操作できる設計の物なら、零武が感知可能です。 ですので事前に仕掛けられていた場合、フォトマットにて停止状態から起動させる条件を手動で設定した人物が居ます。 いくつか方法はありますが、今回の場合船のエンジンをかけると同時に起動するように設定したと思われます。 ・・・とまぁここまで解説しましたが。ほぼその可能性は無いと思われます。我々が主の私用船でフォトマットに向かうなど、事前に分かるはずがありませんし。我々ですら直前に・・・いえ、船を用意した艦長すら出発直前にカノンのクルー達に頼んだのでしょう? そして主が私用船を貸し出すと手を挙げた。 この状況で出発前に仕掛けられる訳が無いと思います」
風音「普通に考えれば仕掛けられたのは、フォトマットに着いて以降だろうね。 で、鞍馬。 現場に居た者として、仕掛ける事ができたのは誰だと思う?」
鞍馬「到着して以降、ずっと宇宙船は零武が警戒していました。 ですので可能性があるとすれば、戦闘が始まって以降になります。 戦闘中はそんな所に気を回していられないですから。 であれば可能性があるのは二人。ミスル氏かランザ氏です。 その二人だけが、戦闘が始まって以降我々の視界に居なかった人物です。現場に居た我々の心証としては、ミスル氏の可能性が高そうに思えますが・・・。 ただランザ氏は我々が全滅しかけた頃に現れました。 理由はニュクス氏たちが不審な動きをしていたのを知って追って来たという事だったので、遅れて現れた理由としても筋が通ってますが・・・。 一番核兵器を仕込む時間的な猶予があったのは事実ですね」
風音とトラスが同時に顔を歪める。
風音「誰だよミスルって・・・。 いや・・・ちょっと待ってそれより・・・」
風音にとっては新キャラ登場だ。だがそれより気になる人物の名前。
トラス「二択でランザの可能性があるのか・・・」
今から二人で会う人物の名前が出てしまった。
鞍馬「もう時間のようですね。あと二十秒あまりと言ったところでしょうか。 最後にトラスさん。時間が無かったので喋れませんでしたが、あなたの過去を見る事は出来ました。詳細は地球にて私どもから聞いて下さいね。 ・・・では、スペアとはいえ艦長に私の体が破壊される姿を見せたくはありません。 爆発よりも少し先に、失礼させて頂きますね」
風音「助ける事ができなくてごめんね、鞍馬」
鞍馬「何をおっしゃいます。 ・・・あ、でももし申し訳ないという感情があるのであれば、地球にてオリジナルの体でもう一度赤ちゃんプ・・・」
風音が通信を切る。
風音「くそ・・・鞍馬・・・零武・・・」
悔しそうにつぶやく風音。
トラス「くそ・・・って。 こっちから通信ブツ切りにしませんでしたか今?」
感傷に浸る風音に、いらん茶々を入れるトラス。
風音「本当はギリギリまで通信したかったけどね。あと数秒だって言ってたし、本人が消えていく姿を見せたくないって言ってたからさ。 あそこであまり会話を引き延ばしちゃ可哀想でしょ」
トラス「言ってましたけども。それとは別の意図を感じまして。 ・・・ともかく、どうしましょうね?」
風音「鞍馬に話を聞きたくても鞍馬たちのデータは、いったんカノンに回収してからになるから結構時間がかかりそう。 できればランザさんに会う前に千丸と話したいところだけど、千丸に話を聞きに行くって選択肢が正しいのかどうか・・・」
先ほども言っていたように、今留守にするとレイ長官がランザに襲われる可能性があって危ない。その件だけでも正直、今出かけるのはやめておいた方が良いように思う。
加えてランザが爆発物を仕掛けた容疑者なら、やはりトラスの敵の可能性があるわけだ。虎視眈々とトラスの命を狙っていると考えていい。




