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カノン  作者: しき
第8話
190/206

聖蝶 34


 チャリチャリと手に持った鍵を鳴らしながら、軽い足取りで鼻歌など歌いつつ風音の部屋まで向かうマテノ。

 そして風音達を収監する部屋の前に到着し、鍵を開けながら。


マテノ「お~~い風音~~? なんかあんたたち釈放だってさ~~☆」


 明るい声で風音を呼ぶ看守のマテノ。


 トラスと会話をしていた風音が、透明の強化アクリル板越しにマテノの方を見る。


風音「・・・もう釈放? 理由は?」


マテノ「なんか誤認逮捕だったんだってさ☆」


風音「誤認逮捕? だったら釈放の前に、言う事があるんじゃないの?」


 あ~うんうん、という感じで頷いて、マテノが笑顔で言う。


マテノ「ベラベラ喋ってないで、早く帰れよ」


風音「よっしゃ喧嘩じゃ」


 ポキポキと指を鳴らす風音。


マテノ「ぉん? せっかく出られるってのに、ここで寝かしつけてほしいの?」


 ちょいちょいと指を動かして、かかって来いという仕草をするマテノ。


トラス「音羽さん落ち着いて下さい。 マテノ、挑発してないで状況の説明を」


マテノ「はい。ランザ近衛兵長から連絡がありました。 出先にて琴千丸と遭遇したようです。それによりここに居るトラスさんが音羽風音の部下の琴千丸ではなく、本物のトラスさんである事が分かったそうです」


トラス(出先からランザが? ・・・ランザもフォトマットに向かったのか?)


風音「僕は最初っからそう主張してましたけどね。 っていうか調書読んだ? 最初に言ってたよね? 何の薬なのかも証明できない薬で喋らされてる人の発言で、僕を誘拐犯にしていいの? って」


マテノ「はいはい。 ランザ兵長から事情は聴いてるよ。 あんたら共謀して近衛兵を騙したんだって?」


風音「人聞きの悪い事を。 寝てる間に勝手に自白薬を盛られてるんじゃないかって気付いたトラスさんが、僕の毒で薬を無効化させただけだよ。 どんな理由であれ、本人の許可も無く勝手に薬を盛る方が犯罪でしょ? それを防ごうとするのはトラスさんの自由だし、僕はそれに協力してあげただけ。 それを騙したなんて・・・ねぇ? 治安組織側が寝ぼけながら答えたトラスさんの言葉を、勝手に信じただけでしょ?」


 軽く笑いながら言うと。


マテノ「あんたらでそうなるように仕向けておいて、えらい言いようだね」


 マテノも笑いながら返す。


風音「そりゃまぁあれだけ丁寧にヒントをあげたのに、ジルがなんにも気付かないんだから。 あの最初の尋問の時にさ。普段これだけ付き合いがある人が、あんな屁理屈ばっかり言ってたら何か変だと思いなさいよ。普通なんか裏があると思うでしょって」


 裏があると思ったところで出来る事なんて逮捕するくらいだと分かってたから、風音もずっと適当こいてたんだけども。


マテノ「いや変だと思ってたに決まってるでしょ。 ただジルさんには時間稼ぎに見えちゃってたみたいよ。そうやってのらりくらりとやり過ごして、明日の朝に何らかの方法でトラスさんと琴千丸を入れ替えて証拠を消し去る方法があるんじゃないかって」


風音「あぁ・・・そっち? 本当に誘拐してから、あとで誰にも気付かせずに入れ替えるのか。 その線も・・・ユニィとセイニーとブラウニーとかに頼んで連携すればできない事も無いか? 絶対そのやり方の方がリスクでかいけどな。 ジルは無茶ばっかりやってた頃の僕の性格を知ってるから、敢えてリスクの大きい選択肢を取ると思ったのかな・・・。 ・・・まぁともかく、そんでようやくここにきて真実が明るみになったと思ったら、いまだに謝罪も無いしさぁ」


マテノ「あ、謝罪が欲しかったの? はい、ゴメちゃい☆」


 ペロッと舌を出しながら謝るマテノ。


風音「お前今ので謝罪は私がしておきましたとか、口が裂けても言うなよ。 ちなみにトラスさんはこのあとどうなるのかな? 近衛兵達の反応とか、今のところどうなの?」


マテノ「さぁ・・・? だって私この件が始まってから今まで、ずっと近衛兵に会ってないのよ。 さっきランザさんと電話で会話しただけ。 ・・・まぁ話もいいけどまずはとにかく出て。あんたらをここに留めておく理由がもう無いからね」


 出る事を急かされ、二人とも大人しく外に出る。

 牢から出て看守室に向かう途中、マテノに問う。


トラス「ランザは私たちのこと以外に何か言ってなかった? 今までランザ達は何をしていたのか、とか」


マテノ「特に聞いておりません。もうすぐ帰ってくるそうですので、ランザ兵長本人に確認してみてはいかがでしょうか?」


 トラスが首をひねる。

 普通今の状況を伝えるくらいしそうだが?

 ランザがマテノのどちらかが何かを隠そうとしている?


トラス「そう? 嘘は良くないよ? マテノが連絡を受けた時の状況を、今から直接見に行く事だって出来るからね?」


マテノ「嘘はありません。 ランザ兵長が最低限の事しか伝えなかったのには、何か事情があるのではないでしょうか? 出所手続きが終わり次第、過去を見に行って確認してみますか? おそばで待機しておきますが」


 ・・・まぁそうだろうなと思う。過去を見に行く事が出来る者の前で嘘は吐かないか。


トラス「そう。 いやいいよ、手続き後は持ち場に戻ってもらって」


マテノ「了解」


 ここまでのやり取りを聞いていた風音が。


風音「でもせっかく電話が掛かってきたんだから、詳しく聞き出せっちゅう話ですよね」


 トラスに向かってマテノ批判をすると。


マテノ「なに? あごでも外されたいの?」


風音「なんでこの人僕にはこんなに当たりが強いの」


マテノ「当たり前でしょ。 私にとってトラスさんは上司。あんたはただの連れ」


風音「連れって上司より大事なんじゃないの・・・? あと誤認逮捕した事を忘れてない? 今この場であなたと私は被害者と加害者の関係ですよ?」


 自分とマテノを交互に指でさしながら言う。


マテノ「逮捕したの私じゃないもの。 ってかその被害者ムーブきっついわ。悲劇のヒロイン気取りかっての。自分てめえで仕組んだ当たり屋のくせに、態度でけぇんだよ」


風音「よし。今回の誤認逮捕の件を誰に報復しようかと思ってたけど、キミに決めた」


 再び指をバキバキと鳴らす風音。


マテノ「おう、来い来い。 優しく撫でてやるよ」


 クイクイと手を動かして、挑発するマテノ。


トラス「まぁまぁ音羽さん。 あとで飴あげますから、落ち着きましょう。 マテノ、無用な挑発はやめなさい」


 トラスが困った顔で、不穏なやり取りを止める。


マテノ「失礼致しました」


風音「なんかこう・・・上司のトラスさんが僕に対して腰が低いのに、その下の奴が僕に暴言吐いてくるっていう構図が納得いかないんだけど」


マテノ「それは私も激しく同意するわ。そこは統一すべきだよね。 トラスさん、風音には今後上からでいいですよ」


風音「いやあんたが態度を低くすれば・・・」


トラス「よし行くぞ、風音。もたもたすんな」


風音「う~わ。こいつ順応じゅんのう早すぎない?」


 とまぁこんな通路を歩いている間の時間潰しの、全員が適当に喋っているどうでもいい掛け合いなどは、目的地に着くなりぶつ切りにして。

 看守室に着いたので、没収されていた荷物を受け取る。


風音「あれ? 携帯はどこ? ちょっとカノンのみんなに連絡しておきたいんだけど」


マテノ「あぁごめん。さっきまで仕事で調べてたから、こっちに別で置いてあるわ。 ・・・ほい」


 携帯を渡す。


風音「どうも」


マテノ「例のあんたの母親が威嚇してる写真は消しておいてあげたから」


風音「なに勝手な事してんの!?」


 治安組織の人間が人の携帯を没収しておいて勝手に写真を消すなんて、あってはならんだろう。


マテノ「だって呪われてたじゃんあの写真。むしろ褒めてよ。あの写真を見ながらゴミ箱ボタン押せる奴なんて、多分私くらいじゃない?」


風音「人の親の写真を呪いとか言うな。 ・・・いやでも良かった~。大事な写真は念のためにパソコンにコピーしといたんだよ。 遠隔転送も出来るんだよ、早速復元しとこ」


 ポチポチと携帯をいじる風音。


マテノ「あんたパソコンまで呪われてんの? そこまで面倒見れないわ」


風音「だから呪いとか言うな。僕にとっては優しい表情をした母さんの写真なんだよ」


 この会話を聞いていたトラスが、マテノの上司として顔を歪める。


トラス「・・・マテノ? 呪われてようが何だろうが。それがどんな写真であれ、勝手に人の携帯の写真を消すのは犯罪だよ?」


 注意をするトラスに。


マテノ「はい、申し訳もございません。 風音、例の写真をトラスさんに」


風音「はい」


 写真を表示して、トラスに見せた。

 そこには風音の母親が笑顔で写っている。


トラス「・・・なっ!!?」


 その場から飛び退き、風音が持つ携帯に銃を向けた。

 全身に脂汗をかきながら、慎重に狙いを定める。


トラス「なんと・・・おぞましい・・・。 音羽さん。手を怪我したくなければ、その携帯を床に置いて下さい。 その携帯はおそらく最上級の呪いによって蝕まれています。もう助かりません。ここで処分します」


マテノ「甘いですよトラスさん。 なぜ早く風音の手ごと撃たないのですか。その判断の遅さが呪いを周囲に撒き散らす結果になるかもしれませんよ? これで手遅れになれば、私たちの責任問題ですよ?」


トラス「分かっています・・・。音羽さんが恩人でなければ既に撃っています」


 冷や汗を流しながら言うトラス。


風音「お前ら・・・人の親の写真に言いたい放題言いやがって・・・」


 トラスが震える手で銃を構えながら優しく言う。


トラス「ね? あとで飴あげますから、早くその無生物分類2型災害級禁忌指定呪具を床に」


 優しく言っているが、目は真剣だ。

 ちなみに「無生物分類2型災害級」とは、生物ではなく物質でありながらブラックリストに載っている災害級の厄災をもたらす物質の事。分類1型との違いは、1型は固形ではなく気体のような形の無い物質という点。呪いの写真などは2型、意思を持つ毒ガスなどは分類1型に属する。

 そして「禁忌指定呪具」とは今トラスが適当に考えた、手遅れなレベルで呪われてそうな物質を呼称する時のやつ。


マテノ「ほらさっさとその、なんたら2型かんたらを床に置きな。飴やるから」


風音「なんでさっきから僕が飴で言う事聞くと思われてんの!?」


 このままだと本気で撃たれそうなので、さっさと写真を画面から消す。

 携帯からプレッシャーが消えたのか、トラスがホッとして銃を下ろす。


 風音が早速メールで事情を知っているカノンのみんなに色々と伝える。

 早く安心させてあげないと。

 心配させ過ぎても良くないので全員に伝えたわけではないが、ユニルや警備担当やサルトさんや事務のワグナさん。そういった人たちには、治安組織に連れて行かれる事を伝えてある。

 風音が深夜に治安組織に連れて行かれて、さぞ心配してるだろうから。

 みんな憔悴しょうすいして寝れて無いんじゃないか?

 ・・・・・・。

 誰からも返事が来ないわ。メールが読まれても無いわ。

 ぐっすりいっとるな。

 ・・・・・・・・・いやいやいや。

 知り合いが捕まって、なんで寝れるんだよ。こっちは起きてると思ってメールの最後に、「もう寝てね。おやすみなさい」って書いて送っちゃったぞ。

 取り消されへんのかこれ。


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