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カノン  作者: しき
第8話
189/206

聖蝶 33


 風音達を誤認逮捕した件は、治安組織を騙した風音達にも責任があるという見解を聞いて。


鞍馬「その見解でも構いませんが、容疑はちゃんと取り消してくださいね? 誘拐なんて最初から無かったのですから。 それに艦長がトラス氏の体に毒を仕込んだのも、自分の敵かもしれない者に自白させられる可能性を潰す為に、トラス氏自身が望んだ事だと考えられます。 別に罪ではないでしょう?」


 そう釘は刺しておく。

 風音もそうなるように仕向けた側なんだから、別に誤認逮捕を責めようとは思ってないだろう。でもその代わり容疑は取り消してくれよと思っているだろう。

 治安組織の事だから誤認逮捕を認めたくないが為に、誘拐容疑を誘拐未遂容疑に切り替えてでも自らの主張を通しそうだ。

 そうなったらこっちも、徹底的にやり合いますよって話で。なにせその誘拐される側のトラスが風音の味方なんだから、裁判なんかに持ち込むのはやめといた方が良いでしょって。

 お互い無かった事にしよう。で、示談で終わらせれば丸く済む話だ。


ランザ「ふぅ・・・」


 こう聞くと、本格的にトラスはロロンたちを疑っていたという事になる。

 この件の落としどころがどうなるかは現状分からないが、少なくとも今のチームでやっていく事は不可能だろう。

 ランザが困ったように頭を抱えながらつぶやく。


ランザ「・・・続きを。 その後どうなった?」


鞍馬「その囮作戦が成功したのでしょうね、妨害は来ました。 それが彼らです。しかし彼らが来た当初は私たちから見れば、妨害だと決めつける事はできないですよね?」


ランザ「当然そうだな。脱走したトラスの行方を調べ、連れ戻しに来ただけの可能性もあるな。というか実際私もトラスの行方を調べていたしな」


 話が長くなるし面倒なので言わなかったが実際は鞍馬たちは、明らかに誰かに雇われた現地民に襲われている。

 その事から鞍馬にとっては、次に目の前に現れる者は妨害者である可能性が高いと思っていた。

 それに加えてトラスが元々近衛兵を疑っていたという情報も相まって、近衛兵を見たその瞬間から妨害に来たという可能性の方が遥かに高いと感じていた。


 そんな鞍馬が割愛した部分の情報を知らないランザにとっては、二人はトラスを連れ戻しに来た可能性の方が高いように映るか。


鞍馬「あなたは自力で調べてここに来たと?」


 鞍馬から見ればこの人も囮作戦に引っかかってこの星に来た敵だという可能性もあるが、その疑惑は口に出さないでおく。


ランザ「いや。 自力で調べて、ではないな」


 ここに来る直前までランザ自身地球での偽(だと思われていた)トラスの尋問の結果を受け、本物がどこに消えたのかを調べていた。


 その一連の流れを鞍馬に説明する。

 まずはニュクスから、ホテル内でのトラスの様子がおかしいと連絡が入った。

 それをロロンとニュクスが自白剤を使った尋問をしに行き。

 その結果トラスが偽物と入れ替わっている事が判明したので、すぐにそれをシエロに報告する事にした。

 どんな時でも現場判断ですぐには動かず、何があったのかをシエロに報告し指示を受ける。現場に居る者としてはすぐにでもトラスを探し始めたかったが、面倒でもその報告義務を怠る訳にはいかない。

 それをハセイとニュクスに手伝わせ、そのあと指示通り手分けをしてトラスの行方を調べる事になった。


 あとこれはいちいち鞍馬に説明はしないが、ホテルに帰ろうとしたハセイを止めて手伝わせたという流れもあった。

 トラス失踪という大きな事件が起こっているのに、ホテルに帰って寝ようとする。これ自体は周囲から見れば信じられないかもしれないが、ハセイとロロンがこういった行動を取る事は近衛兵たちにとっては特に疑問ではない。


 というのもロロンはこういう時絶対に言う事を聞かない。休みたい時に休む奴だから。ランザも初めからロロンには期待していない。

 そしてハセイの方はちゃんと理由がある。

 彼は表向きはメジーノのマネージャーをしているので、朝も早く仕事量がとにかく多い。毎日メジーノの仕事を秒単位で割り振るマネージメントの仕事をこなしているため「余計な仕事が入ると寝る時間が無くなる」が口癖になっているくらいだ。

 あまり無理をさせるわけにはいかず、基本的に休息時間は休息を優先するようになっているからだ。

 だからニュクスが「俺達がやっておくから、今日はもう上がれ」というような事を、トラス尋問の直後に待機していたハセイに電話で言って帰そうとした。

 ・・・が、さすがにトラス失踪は格が違う出来事だろう。いくら休息優先と言っても、優先順位というものがある。

 ハセイがトラスを探すのは休息後にして、一旦ホテルに帰る・・・のは別に止めない。でも報告義務は手伝って、本部の指示くらいは聞いてから休め。と言ってハセイに手伝わせた。

 ・・・が。まぁこの辺りの内情は鞍馬に説明しなくてもいいので、省略して。


 その後ニュクス達の不審な動きに気付いた。

 何故か急に兵長であるランザへの報告も無しに、宇宙へと飛び出したニュクスとハセイ。今この状況でトラスを探すこと以上に優先する事なんて無いはず。

 もしかしてニュクス達が先にトラスの行方に気付いたのか?

 それが理由で休息すらそっちのけで急いで宇宙に飛び出した・・・までは分からなくもない。

 だがなぜ報告が無い?

 その真意を問い質す為に追いかけてきた形だ。という流れだったと鞍馬に伝える。


鞍馬「なるほど。そもそもトラス氏がこの星に来ているかどうかも知らなかったのですね。あくまで仲間を追いかけてきただけだと」


 そのランザの説明をそのまま信じるかどうかはともかく、話を続ける。


 彼らは囮作戦に引っかかったのか、あるいはトラスを連れ戻しに来たのか。そんな中で、彼ら自身の言動から確信を得る事が出来たのだ。


鞍馬「ただあのハセイという方が、過去を見たのか? と私たちに尋ねてから襲ってきました。何か過去を見られると都合の悪い事でもあるようですね。 この事からニュクス氏とハセイ氏とミスル氏。この三名は何かを知っているはずです」


ランザ「ミスル隊長も? あの二人とどういう繋がりがあるんだ?」


 メジーノ近衛兵の二人は、本部所属のエリート。ミスルはシャロン所属の職員。

 同じ治安組織所属とはいえ、所属部署が星単位で違う。普段関りなど無いはずだ。


鞍馬「・・・それは我々よりもあなたの方が詳しいと思いますが。 我々に治安組織内部の相関図が分かるはずも無いですし」


 ランザが倒れている仲間たちをぐるっと眺めてから、少し考えて。


ランザ「ふぅ・・・なんにせよ、トラス本人をこの星に連れて来て過去を見てもらうのが一番良いか。それを私が一緒に見て、全ての判断を下す。が一番早そうだな」


鞍馬「なるほど・・・」


 この人が敵なら、こんな提案はしないか? と鞍馬が思う。

 完全に信用するわけではないが、この立場でこの実力の人が敵ならば、トラスをこの星に連れて来るなんて提案をしなくていい気がする。

 地球で話を聞くと言って会い、始末できそうなものだ。


鞍馬「それが可能なのであれば、そうして頂きたいです」


 それでもなお、すでに千丸と過去を見てきた事は隠しておく。

 帰ってから過去を見て知った内容をトラスに伝え、その上でランザと一緒に自分で見に行くかの判断は本人に任せる。

 と言うかそれ以前に、それが出来るのかどうかが問題だと感じる鞍馬。

 確かトラスの能力は同じ場所には二度使えないという弱点があるはずだ。あくまで今回過去を見たのはトラスではなく千丸だが、それを理由にもう一度調べる事なんて出来るのだろうか?


鞍馬(・・・もう一度調べる事が可能かどうかは私が考えても仕方ありませんね)


 状況説明が終わり千丸の方を見ると、いつの間にか千丸は眠ったまま変身が解けている。

 ゼロアに変身し続けている事は、精神に負担が大きい。脅威がなくなったと体が判断して自動的に変身を解いたのだろう。

 千丸は今回女性版千丸→トラス→ゼロアという順に変身したわけだが、変身前の姿が女性版の千丸だったためか変身が解けた今は女性状態で寝ている。


ランザ「では一旦帰ろうか。 私があの倒れている治安組織所属の三人を連れて帰る。あなたは残りの二人を頼めるか?」


鞍馬「そうしたい所ではあるのですが。 腰部分のアクチュエータが損傷していまして。下半身が動かない状態なんです。可能であれば二人を私の宇宙船に運んで、私を操縦席まで連れて行ってもらえないでしょうか? その後は私だけで地球までは帰れますので。地球に着けば迎えを呼びます」


ランザ「ふぅ・・・」


 目を細めて頭を押さえ。

 ため息とも低血圧の症状ともとれるような、独特の息づかいをしながらランザが鞍馬の腰に手を当てる。

 そしてやる気のなかった表情から一転、スッと別人のように変わり。


ランザ「聖なる御業をここに示せ。浄化の光を」


 鞍馬の腰が七色の光に包まれる。


鞍馬(この人まさか、回復まで? 艦長と似通った部分がある・・・?)


 ランザに見入ってしまう。

 全身筋肉質ではあるものの、幼さの残る学生のような顔立ち。これまでそんな風に見えていた彼女が、今は凄く大人っぽく見える。

 慈愛に満ちた表情の女性が、光り輝く手をかざす光景。

 ゾクッとするほど美しいその姿に、息を呑む鞍馬。


 その神々しい光が止んで。

 幼さが戻ったいつもの表情で、軽く微笑みながら語りかけてくる。


ランザ「どうだ? 足は動くか?」


 鞍馬が足を動かそうとすると、ほんっと一ミリも動かない。


鞍馬「動きませんね」


ランザ「・・・・・・」


 赤ちゃんが泣く直前の様に目に少し涙をためて、眉をハの字にして下唇を前に出し、悩ましげな顔を一瞬だけ作るランザ。

 同時にものすごく小さな声量で「・・・ふん」と、これもまた赤ちゃんが泣く直前の時に出す涙声をあげる。


 そして何事も無かったかのように、いつもの威厳のある顔に戻って。


ランザ「ふぅ・・・ひとつ聞いても?」


鞍馬「いくつでもどうぞ」


ランザ「あくちゅえたってなにかな? あなたの星における腰骨の名称の事ではないのか?」


鞍馬「・・・骨の名称ではありません。エネルギーを動作へと変換するデバイスです」


ランザ「機械のこと?」


鞍馬「ざっくり言えばそうです」


 頭を抱えて目をつぶるランザ。


ランザ「ふぅ・・・馬鹿なのかあなたは。機械だと分かっているなら何故止めない? 神なる浄化の光であくちゅえたが治るわけがないだろう」


鞍馬「勝手にやっておいて人のせい・・・。こ・・・これが脳筋たる所以ゆえん・・・。零武の論説は間違っていなかったのですね」


 ここまで時間をかけてようやく、会話が通じるタイプの脳筋だと思い始めていたのに。振り出しに戻された気分だ。


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