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カノン  作者: しき
第2話
12/155

厄災の渦5


九重「どういう事だ?」


 尋ねる九重に手の平を向け、


風音「ちょっと待って、今思い出すから」


 今日この星に来てから今までの事を思い返す。

 さっきからずっと疑問だった自分の中からあふれ出す力の原因。

 無意識に毒で周囲のエネルギーを取り込んでいるのかと思って心配していたが、違う。


 自分の中に入って来たウイルスを毒で自動的に排除し、そこで取り込んだエネルギーが力になって表れていたのだ。

 三人を治療した時。あの時は必死だったからあまり深く考えなかったが、今にして思えば一人回復させるごとに力の調節が難しくなっていった気がする。ブラウニーの時など少し間違えれば死んでしまうかもと思ったほどだ。


 彼女らの体内の大量のウイルスが毒で風音の力に変換されていたと思われる。


 風音本人も自分の技の性能を勘違いしていた。

 毒で腐らせた物体の質量に応じて大きな力に変換出来ると思っていたが、小さくても高エネルギーの物体なら少量でも大きな力に変換出来るらしい。

 過去毒でウイルスを倒したくらいの事で、それが大きな力に変わった事など無かったので今の今まで気付かなかった。


 継ぐ者のウイルスのサイズはミクロの世界のそれだが、その一匹一匹の持つ力の大きさは他の動物と比べても何ら遜色そんしょく無いのだろう。

 そんなものが毒で何十万と駆除され力に変わる。道理どうりで有り得ないほど力があふれるはずだ。


 いつだ?


 風音が自問する。

 最初に違和感があったのは?

 バイクに乗っている時はまだ力が足りなかった。振り落とされそうになった時バイクの一部を毒で力に変えたのを覚えている。

 あの時点では風音もブラウニーも感染していなかったのだろう。


 そしてホテルで今別室に居る野盗達と戦闘になった時はどうだったか。

 確かブラウニーを助ける為に相手を一人気絶させようとした時、予想外に簡単に顎の骨が砕けたのを思い出す。

 ・・・あの時点で風音が感染し、無意識に継ぐ者を毒で駆除していたとしたら筋は通る。


 という事は感染していたのはこのホテルにいた野盗達?

 風音の感染に関してはその可能性が高そうだが、何か今までの話と合わない気もする。


 ・・・・・・・・・


 そう、九重はいつ感染したのだろうか?

 九重やブラウニーは今日半日かけて自分の担当区域をまんべんなく走っていた筈。そして仕事終わりに出会い、直後に別れた。

 この時点でどちらかが感染していれば、風音もホテルに出発するまでに感染していないとおかしい。

 少なくともあの段階で、どちらの地域にもウイルスは居なかったんじゃないだろうか。

 とすると、九重が感染したのはこのホテルに来てから?

 そこがおかしい気がする。

 だとしたら、それより前に九重と戦った野盗達はいつ感染したのだろうか?


風音(ん~~? ちょっと辻褄つじつまが合わない・・・?)


 風音とブラウニーはホテルの連中から、九重は担当地域の野盗からそれぞれ感染したということになるのだろうか?

 ここまでの流れから、その可能性が高いように感じる。


 結論として、結構離れた場所にいたはずの犯罪者達がブラウニーや九重と出会うまでに何故か別々で感染していた? という疑惑が生まれる。


 大雑把にだが整理出来た。

 一旦ここまでの結果を九重に・・・


 その前に、今結構長時間にわたって考え事をしていたと思うのだが。


風音「えっ? いつになったら神楽さんは、僕のほっぺたをつねるのを止めてくれるの?」


 考え始める前に頬っぺたをつねられてから、今までずっとつねられている。


神楽「反省するまでですわ」


風音「反省・・・?」


 さっき怒ってた時はブラウニーと仲良くしろとか言っていたような。

 言われてみれば四人が集まってから九重とは翻訳機無しで会話したり、冗談を言っては撃たれたり、近況を一緒に考えたりと結構仲良く? やっている。


 それに比べてブラウニーはどうだ。雑談くらいしかしていない上に、神楽の作ったゴミのような料理を食わせただけだ。


風音「ごめん。これからはもっとブラウニーと仲良くしようと思う。アホの子大好き。ブラウニー最高」


 多分これが神楽の怒りをしずめる模範解答だと思う。

 それを聞いた神楽の目が大きく開く。


神楽「あの子は・・・少し・・・・危険なのかしら・・・・・・・」


 殺し屋のような、ゾッとするような視線を寝ているブラウニーに向ける。

 ブラウニーは寝ながらにして何かを感じ取ったのか、ちょっとビクッとした後プルッと震えた。

 視線を風音に戻し、渾身こんしんの力で更にひねりを加える。


風音「えっ? 違うの? いや千切れるから。ほんとに千切れるから」


 痛くはないが、洒落しゃれにならないほどひねられている。

 ため息を吐いて神楽がようやく手を離す。


神楽「とりあえず保留ですわ。その調子で女性と仲良くなって下さいませ」


 その調子で、と言われているので間違った行動はしていない筈だがそっぽを向かれる。

 ここまで黙って煙草を吸いながら見ていた九重が口を開く。


九重「痴話喧嘩は終わったか? それより時間がない。何か気付いた事があるなら早く言え」


 風音がさっきの考えを簡単に説明した。


九重「・・・毒で周囲の物を力に換える? 妙な特殊能力をいくつも持ってるんだな、お前は」


 治癒能力や毒でのウイルス撃退も内心驚いていたが、更に器用な事も出来ると聞いて素直な感想を漏らす。


風音「褒め言葉と取っとくよ・・・で、ちょっと別室の野盗達の今日の行動が知りたい。 特にブラウニーと九重さんが二人で集まって報告してたくらいの時間帯。 継ぐ者のウイルスの広がり方が、人を介さない場合どの程度の広がり方なのかは分からないけど・・・さっきの情報を見る限り、感染はおもに人を介してる事から、無人の空気中ではそんなに一気には広がらないと思うんだよ。 なのに、かなり離れた二組の犯罪者がほぼ同時刻に感染してる様にしか思えない・・・・で、一番感染した可能性が高い時間帯がその辺りだと思うんだよ」


 ただしその犯罪者二組ともがブラウニーや九重に会う直前まで、偶然二人とはかけ離れた場所を高速で動く乗り物に乗って広範囲を動いていた、とかならもうお手上げだ。

 風音の主張する説はあくまで、犯罪者の二組があまり広範囲を動いていない事が前提だ。


 情報によると、近くを通るだけで乗り物だろうが何だろうが貫通して感染するウイルスだ。

 乗り物を使って高速で走り回られたら、どこで感染したかなど見当もつかないだろう。

 それこそ九重の言う様に都市部の人達に感染してしまう前に絨毯じゅうたん爆撃を仕掛ける方が手っ取り早い。


 もし野盗達の話を聞いても継ぐ者の居場所を特定出来そうにない場合は、もう継ぐ者を見つけて討伐するのは諦める事にする。

 残りの一人の無事を確認しに行き、発症しているなら助けて一緒に連れていく。

 そして無事ならさっきの兄弟と同じように(仮に政府が爆撃を行うとしても発症していない地域は攻撃されないだろうから)その場でじっとしておくようにだけ伝えて、巻き込まれない内にさっさとこの星を去ろう。

 後はこの星の政府が何とかするだろう。

 この後の方針が大体決まったところで、早速野盗達に話を聞きに行く事にする。


 野盗達が居る部屋のドアを開けて中に入ると、野盗達が時折うめき声を上げながら苦しそうにしている。


風音「さっきと全然変わんないな」


 さっき来た時も全く同じ光景だった。


神楽「さて、どうやって話を聞こうかしら?」


 どうやって、と言っているが神楽の中ではもう方針は決まっている。神楽の衣服がひとりでにゆらゆらと動き出す。

 神楽の声を聞いた途端、男達がガタガタと震えだす。


風音(あ~~~、恐慌きょうこう状態・・・かな。 会話にならないな)


 中には恐怖のせいで、息を吸うだけで吐き出すことが出来なくなって呼吸困難になっている者もいる。


風音「悪いけど神楽さんは部屋に戻っててもらえる? ちょっと会話が無理そう」


 神楽がショックを受け、風音の方を振り向く。


神楽「えっ、そんなっ!! どこまでも一緒だとおっしゃったじゃありませんか!?」


風音(言ったっけ・・・?)


 記憶にないが。


風音「見ての通り、神楽さんが怖くて会話が出来ないっぽいし」


 風音が野盗達を見ながら言うと、神楽も野盗達の方を見て笑顔で言う。


神楽「あなた達? ・・・少しお願いがあるの」


 そう言って一歩近づくと、野盗達の間に緊張が走る。男達の体が大きく震えだす。


神楽「・・・笑いなさい?」


 男達に特に変化は無く。


九重 (・・・・・・・・・・・・)


 シュボッ と、九重が煙草に火を点ける小さな音だけが部屋に響いた。


 神楽の表情から笑顔が消え、代わりに眼光が鋭くなる。


神楽「・・・聞こえないのかしら? あなた達が笑ってくれないと、私は今からあなた達に何をするか分かりませんわ。 ただはっきり言える事は、先程の様な子供の遊び程度の拷問ごうもんで済ますつもりは無いという事。 本物を体験していただく事になります。だから・・・ね? ・・・・・ほら、早く。心から楽しそうに」


 そして神楽の表情に笑顔が戻る。


神楽「笑いなさい?」


 そう言うと、野盗達が一人、また一人と狂ったように泣きながら声を上げて笑い出す。


 これで大丈夫。 と言わんばかりのドヤ顔で神楽が風音の方を見る。


風音「はい残念神楽さん退場~~~」


 神楽の袖を引っ張って自分の方に引き寄せ、そのままドアを開けて外に追い出す。


神楽「えっ!? ちょっと・・・は、話が違いますわ! か、風音様!?」


 ドアを閉めて、改めて野盗達の方に向き直る。


風音「・・・もう笑わなくてもいいよ。僕も神楽さんと一緒でね。さっきあんた達がした事を許すつもりは無い」


 再び拷問が始まるのかと、野盗達が怯えながら後退りをする。


風音「でも、あんた達さえ良ければ取引しよう。僕がする質問に出来るだけ正確に答えてもらえるかな? そうすればもう絶対神楽さんに手を出さないように言うし、当然僕も手を出さない。それとさっき説明した継ぐ者に関してだけど、場合によっては僕らが退治して治せるかもしれない」


 喋り終わる前に、さっき厨房で椅子に座っていた男が泣きながら頭を下げてくる。


 「た、頼むっ! あの、・・・あの怪物を俺達の前に連れて来ないでくれ・・・。何でもするっ、何でもするからっ!」


 その必死さに風音がちょっとたじろいでしまう。

 どうも風音の言葉の前半しか耳に入っていないようだ。致死率百パーセントのウイルスよりも恐れているという事なのか。


風音「じゃあ聞くよ。僕と会う直前くらいの時間、どこに居た? もしこの場所にずっと居たとしたら、僕達が来る前に誰かと出会ってない?」


 男の目線に合わせて風音が体勢を低くして尋ねた。男がしばらく考えて答える。


 「最初にも言ったが、俺達はこのホテルを隅から隅まで慎重に調べていた。だからその時間はこのホテルから一切移動していない・・・・・。出会ったのはこの場所に俺達に会いに来た、今は他所の地域に居る仲間だけだ」


 他所よその地域に居る仲間。

 なかば予想していた言葉が出る。

 すかさず風音が地図を取り出して聞く。


風音「その仲間ってのはあんた達に会うまでどこに居たか、それとその後どの辺に移動したか分かる?」


 地図を男の前に出すが、地図を見ようとしない。

 どうやら神楽に目をやられたようだ。眼球が潰されているようには見えないのでかすかに見えてはいるのだろうが。

 少なくとも神楽の姿を目で追って怯えていた事から、こちらのシルエットくらいは見えているのだろう。


 風音が男の顔をつかむ。

 男が「ひっ・・・!」と悲鳴を上げたが、男の顔周辺が青白く輝き首から上の怪我が治っていく。

 顔面の怪我が完璧には治らないが、目ははっきり見えるようになったようで風音の顔をまじまじと見てくる。


 「さっきも思ったが、あんた一体何モンなんだ?」


風音「それはいいから地図見て。どの辺りか分かる? 今この辺りなんだけど」


 風音が地図のホテルがある位置を指で丸く囲む。


九重「その前にちょっといいか? 細かい事が気になる性質たちでな。そのまま合流せず別れたって事だよな? 他所の地域にいた仲間と会っていた理由は?」


 「ならず者でも規模が大きくなると組織化してくる。今回は大きな仕事だからボスもこの星に来ていて、地域を決めて人数を割り振った。 早い話、会いに来たのはボスの側近達だ。ボスの居る地域でボスの仕事の手伝いをした後、各地に散らばり稼ぎの一部を回収しに行く。そういう役目の奴等だ」


 その言葉に九重が疑問を抱く。


九重「裏側の連中ってのは地球とはちょっと違うのか・・・? 滅ぶと言われている星にボスが来るか? 地球では上に立って偉そうな振る舞いをしてる奴ほどビビリが多いんだがな」


 嘘を吐いていないか確認するように問うが、男の方がむしろ理解出来ないような表情をしている。


 「そこで自分が動かないような奴に誰が付いていくんだ? 次に力を持った奴にボスの座を奪われるだけだろ?」


 九重にとっては意外な答えに、一瞬間を空けてから。


九重「まぁ・・・そういうもんかもな。 で、俺が居た地域・・・と言っても分からんか。地図のこの辺りだが、お前のボスがいるのはこの辺りか?」


 地図上の自分が担当していた地域を指で差す。


 「・・・いや、ここは俺達よりもっと下の連中が担当していた筈だ。この辺りは街ではあるが大きな建物が少ない。実入りが少なそうなところは下っ端が回される」


九重「そうか」


 継ぐ者の正確な出現時間が分からないので一応確認しておいた。

 もしかするとブラウニーと九重が合流ポイントに向かって別れるまでに、二組の犯罪者達どちらかの付近に出現した可能性もある。

 その場合九重の地域付近に居た奴がこのホテルに来て、どちらかがどちらかを感染させたという事も有り得る。

 しかしその可能性が今潰されたので、やはり全く別の地域から感染者が来て二組にウイルスをうつしていった可能性が高そうだ。

 その側近とやらが本当に自分の地域から各地に散らばり、回収だけしておとなしくボスの元に帰っていればだが。

 その過程でイレギュラーな行動をとっていたら予想は困難になる。


九重「じゃあこの辺りか」


 リリィが担当する地域を指で丸く囲む。


 「そう。そこだ。ボスはその辺りを根城にしている。正確に言うならこの建物だ」


 男が地図上の大きな建物を指で差す。


風音「じゃあこの付近でほぼほぼ間違いないかな?」


 九重を見上げて聞く。


九重「まだだ。ボスが割り振った地域は全部でいくつだ?」


 「四つだ」


 九重が男の前の床に地図を置く。


九重「大雑把でいい。全部指で囲んでみてくれ」


 男が指で四つの地域を囲んだ。全てリリィとブラウニー、九重の範囲とかぶる。


九重「・・・じゃあ音羽の言う通りだ。一番可能性が高いのがリリィの地域だな。 そのウイルスの出現方法が不明って事だから、細かく言えばまだパンテン兄弟以外の全ての担当地域に可能性はあるが、リリィの地域を調べに行って空振りだったら星から離脱するんだろ? じゃあもう細かい事はいい。とっととこの場所を調べに行こう」


風音「パンテン兄弟?」


 少し引っかかったので聞き返す。初めて聞く名だ。


九重「さっき最初に電話に出た奴だ」


風音「どんな人? スカウト出来そう?」


 更なる増員を期待する。


九重「ん、まぁ関わるな。娘の情操じょうそう教育に悪い」


 教えてくれなかった。


風音「聞きたい事はそれだけかな。約束は守る。あんた達の体に居るウイルスが消えるかどうかは分からないけど、消えたら治安部隊が身柄を引き取りに来るよ。ま、期待しないで待ってて」


 話は聞き終わったので部屋を出て行こうとすると、男が風音にすがってくる。


 「なぁ、頼む。こいつらの目を治してくれないか?」


風音「はあ? なんでそんな事を? そんなん自業自得じゃないか。眼球が潰れてる訳じゃないんだから何日かすりゃ治るでしょ勝手に」


 「頼む。もう悪い事はしない。する気もない。股間も潰されちまったし、もう腕が一生動かないかもしれない奴だっている。だが・・・目だけは・・・・・怖いんだ。あの女とウイルスの恐怖が、視界が暗いってだけで何倍にも膨れ上がる。 俺も頭がおかしくなりそうだったんだ・・・頼む。 ・・・頼む」


風音「・・・・・・」


 額を床にこすりつけて頼む男を見て、内心うんざりする。


風音「じゃあ今から一つ質問をするよ。で、あんたが答えたその答えと同じ行動を僕は取る事にする。答えずに無言なら治療せずに出て行く」


 と前置きをしてから。


風音「あんた達が今まで襲ってきた人達の中には今のあんたと同じように、命乞いをした人達だって居たんじゃないかな? それをあんた達はどうしたか覚えてる?」


 その質問に、男が何も答えない。

 予想通りと言うか・・・しばらく待っても回答が無かったので、そのまま部屋を出て行く。




九重「お優しい事だ」


 部屋を出たところで九重が呟く。


風音「ん? 何が?」


九重「わざわざ逃げ道を作ってやった事だよ」


風音「ああ・・・正直あいつ等にはむかついてるけど、取引はしたわけだしね。 最初から手を出すつもりは無かったけど、しつこく食い下がられても鬱陶うっとうしいし・・・って感じだよ」


 風音が九重の方を見る。


風音「むしろ九重さんの方がよく我慢してたなと思うよ。今まで散々非道な事をしておいて、あんな仲間を助けたいみたいな態度をとるってさ。 仲良く犯罪してきた下衆ゲス同士の仲間意識なんて、一般人から見れば不愉快なだけだって分からないのかな? 九重さんならああいうタイプって、思わず撃ち殺したくなるんじゃないの?」


九重「・・・まあ、な。ただ、過去にもっとはらわたが煮えくり返るような司法取引を見た事がある。あれに比べたら・・・」


 そこまで言って九重が首を振る。それ以上は思い出したくもないようだ。


九重「それ以前にお前みたいなガキが感情を押し殺して、この星の為に我慢しながら取引を優先させてる横でお前・・・俺が暴れ出したら格好がつかんだろ」


 冗談っぽく言う九重に、風音が笑みを漏らす。


風音「そんなもんかなぁ? 僕はあんまり気にしないけど。やっちゃったもんは仕方ない、いっそとことんまでやろう。ってなるだけだよ」


 九重の表情も少しゆるむ。


九重「じゃ殺っときゃ良かった」


 肩をすくめて言う九重を見て、風音が吹き出して笑った。




 早速全員でリリィの地域にやってきた。この辺りは九重達が依頼されていた地域の中では一番中心都市に近いという事もあって、さらに大きな建物群が並んでいる。この星は大金持ちばっかりなのだろうかと勘ぐってしまう。

 今は辺りが暗いし人工的な明かりもほぼ無いので都会感は若干薄れているが、昼間だと凄いのだろう。

 全員でやってきたと言ってもブラウニーは寝ている。

 ここに着くまでいろいろあった。



 ほんの数十分前。


神楽「納得いきませんわ!」


 ホテルの部屋で神楽が叫ぶ。


風音「いや、よくよく考えたら僕達が二手に分かれるしかないんだって」


 怒る神楽を説得する。

 野盗達の部屋から帰ってきて事の詳細を伝え、今からリリィという人物が担当する地域に行こうかと思ったのだが、一つ重大な事に気が付いた。

 九重が闘ったチンピラから政府が話を聞き出しているとすれば、今の風音達と似たような情報を持っている筈だ。

 という事は、リリィ担当の地域は政府の方針次第でいつ政府からの爆撃が始まってもおかしくないという事だ。


風音「政府からの爆撃を何とか出来るのなんて、神楽さんの技か僕の毒くらいでしょ。継ぐ者の影響で力があり余ってるから、今の僕なら毒を高高度まで散開させる事が出来るけどさ、爆撃機も落としちゃうだろうから間違いなく乗ってる人が死ぬし。その点神楽さんは爆弾だけを上空で破壊したり別の場所にらしたり出来るでしょ?」


 これほど科学が進んだ星なら、遠隔操作の無人機が飛んでくる可能性の方が高いと思うが・・・万が一有人なら、毒での対処は人を殺してしまう事になる。


神楽「そんなの私じゃなくても出来ますわ! 九重にやらせればいいでしょう!?」


九重「無茶言うな・・・」


 宇宙人と一緒にしないでほしい。そんな事が出来る個人が地球にごろごろ居てたまるか。


神楽「嫌ですわ! 風音様と共に行きたいのです! 一人で待機なんて嫌ですわ!」


 思いっきり駄々をこねられる。さっき作ったソファの上の布団に転がって手足をバタバタさせている。


風音「おおぉ・・・ガチだよこれ・・・・・」


 風音の最初の計画はこうだった。

 まず九重とブラウニーにいつでも脱出出来るように、宇宙港で待機してもらう。

 で、風音と神楽で継ぐ者の捜索。成功すれば撃破。見つからなければ九重達と合流、即星から離脱。

 という非常に分かり易い計画だ。


 しかし野盗達の話を聞いて少し変わった。

 パンテン兄弟の地域とは違い、風音達がやってきた宇宙港付近は継ぐ者の汚染が及んでいるのかいないのかが分からない状態だ。政府の方針次第でどこから攻撃が始まるか分からない状態で、それに対して何も出来ないブラウニーと九重だけを置いておくわけにもいかない。

 ブラウニーはあの不思議な力で逃げるだけなら出来そうだが、それ以前に全然起きない。もう何回神楽に頬っぺたを張られたか。でも全く起きない。見てて可哀想になってきたので風音が止めた。


 という訳で、もう全員でリリィの地域に行く事にした。ブラウニーは九重が運転するバイクの後ろに縛り付けて乗せていく。

 そしてまずリリィの状態を確認。高確率で感染していると予想されるので救助が必要になるだろう。

 その後時間があれば継ぐ者の捜索。もし政府の爆撃が始まったらすぐに地域から離脱。というものだ。

 問題はその爆撃開始だ。そんなものを見てからではもう遅い。事前に対策しておかないといけないのだが、後はさっきの風音の発言通り。

 死者を出さずに事前に爆撃を対処出来るのなど神楽だけだ。

 だから神楽は爆撃機対策に集中しないといけないため、継ぐ者の捜索には参加できない。


風音「継ぐ者の捜索は僕しか出来ないんだから、爆弾の方は神楽さんに任せたいんだけど」


 情報では継ぐ者本体がウイルスを生み出すと書いてあったので、本体付近にはウイルスが蔓延まんえんしている筈。

 風音が自分の体の周りに毒を放出しながら近付くだけで、風音の体に尋常ではない力が溢れるはずだ。それを頼りに捜索するつもりなので、捜索に風音は外せない。


風音「何とかお願いできないかな?」


神楽「・・・・・・」


 無言の拒否。

 うつ伏せで布団に顔をうずめて、防御態勢に入ってしまった。

 交渉する気などございませんわ状態だ。


 見かねた九重が神楽に近付き耳元でささやく。


九重「さっき聞いたんだけどな。お前さっき音羽に野盗の部屋から追い出された時、抵抗せずにおとなしく部屋に戻っただろ? あの時音羽が『素直に言う事を聞いてくれる神楽さんは可愛いなぁ』とか言ってたぞ」


 神楽が ガバッ! と顔を上げる。


神楽「・・・・・!?」


 まじで? という表情。


九重(・・・あっさり喰い付いたな・・・・・・)


 先程の会話で神楽が家庭を持ちたいタイプの女性だという事は分かった。

 おそらく風音に好意を抱いている事も。


九重「あと、神楽さんは将来子供とか欲しいのかなぁ、とか言ってたな」


神楽「!!!?」


 馬鹿な!? という表情。

 どこでそんなに好感度が上がったというのだ。さっきまではブラウニー如きに負けかけていたのに。決して負けたとは思っていないけれども。



 そして今に至る。


神楽「ふ・・・ふふ・・うふ・・・・・」


 神楽が両手を広げて精神を集中? している。

 己を神のしろとして神を降ろす儀式。


 神楽の言う神がどういうものかは風音も知らない。

 それが本当の神なのか、守護霊のようなものなのか、はたまた大自然の力を借りているのかは定かではない。

 だが何かあるいは何者かが、確かに神楽に力を与えてくれているのは分かる。


 九重が集中している神楽の耳元で囁く。


九重「今からお前の分身みたいなものを空に飛ばすんだってな。もしかしたら将来、空に飛ばした分身の数だけ子供を授かったりしてな」


 ぶわっと神楽の髪が逆立つ。


神楽「この身に、神の、ご加護を。 そして、その大いなる、力の、顕現けんげんを」


 神楽の全身が一瞬まぶしく輝いた。


 次の瞬間、何百という無数の神楽と同じ形をした白い塊が、神楽の体から次々に放出されては空へ飛んで行く。


九重(嘘だろ・・・)


 背筋が凍る。

 さっき風音に聞いた話だと、この一つ一つが神楽と同じ性能らしい。唯一違うのは分身を生まないだけ。あとは全て同じだそうだ。

 むしろ戦死という概念がいねんが無いので、本体よりも果敢かかんに突撃する傾向にあり、空中を自在に飛び回るという利点を持つ。

 分身の方が本体より弱いなどという事はないと神楽は言うが、それはあくまで身体性能や技の話。やはり状況によっての機微きびというものは本体が圧倒的に勝るので、なんだかんだ実践では本体の方が分身より一枚上手だ。


 ある程度の科学技術力の星なら、軍隊とでも一人で戦える神楽があれだけの数に増える。


風音「僕も初めて見た時びっくりしたよ、あれ。あの技だよ、神楽さんが国家に匹敵する戦力って評されてる理由」


 驚いている九重の横から風音が声を掛ける。

 あの数の神楽が暴れれば、そりゃ国の一つや二つ簡単に滅ぶ。


九重「ああ、これは俺一人じゃどうにもならん訳だ・・・」


 と言っても油断は出来ない。この星の科学力は「ある程度」どころではない。しかも極力相手を殺してはいけないという縛りまである。

 爆撃が始まったらしばらく持ちこたえてもらって、すぐに離脱しなければ。


風音(よし、急ぐか。・・・・・ん?)


 よく見ると神楽の両腕には小さな分身が二人抱かれている。一人は子供の頃の神楽そっくりの三歳児くらいの女の子。もう一人は風音をそのまま小さくしたような、これも三歳児くらいの男の子。


神楽「料子りょうこ風輝ふうき、ママが守ってあげますからね」


 胸に抱いた子供達に、女神の様に慈愛じあいに満ちた表情で語りかけている。


風音(えっ・・・? あれ何やってるんだろう?)


 分身が形を変えるのは初めて見た。てっきり自分と同じ形の物しか生み出せないと思っていたが、ある程度形は変えられるようだ。

 しかし何故この状況で子供を? あの子供も神楽と同じ戦力なのだろうか? と疑問に思う。

 風音はこの行動を理解出来ていないが、どうやら九重の言葉を真に受けすぎて母性に目覚めているようだ。


九重(あ~~・・・ちょっとあおり過ぎたか。 神とかいうのが去ったら元に戻るんだろうな? 普段からあんな事しだすとヤバい奴だぞ・・・・・)


 自分のせいなので少し焦る。覚醒かくせい状態による精神高揚こうようの産物であってほしい。


 ただ、今は放っておこう。子供を守る母ほど強い精神力を持った者は存在しない。

 一見両手がふさがった不利な状態、悪ふざけにすら見えるあの姿が、ある意味で最終形態なのかもしれない。


風音「あれ何やってるんだろうね?」


九重「さあな、放っとけ。こっちは早くリリィを探しに行こう。まずは本命の定点からだ」


 定点というのは依頼を受けた九重達が泊まる為に用意してもらったホテルの事だ。各地域に一ヶ所ずつ用意されてある。

 継ぐ者が意志を持って自分にとって都合の良い場所に現れるなら、ほぼ間違いなく人が存在する場所の近くに現れる。


 一番可能性が高そうなのは野盗のボスたちの根城だと思う。常に何人か人が居るだろうから、リリィ一人が住むホテルより感染の拡大が狙い易い。

 しかし、まずはリリィの救助を優先してホテルの方から向かう。

 ブラウニーを乗せたバイクは神楽の近くに置いていく。場合によっては散開しなければいけないので神楽に運転してもらって安全地帯まで運んでもらう。


 九重の言葉に従って、風音が神楽の観察をやめる。


風音「そだね、行こうか」


 地図を開いて定点の位置を見ながら走り出す。


風音「ああ、そうだ。僕が毒をきながら走ってる間は、あんまり近くに寄らない方がいいよ。素材によるけどベルトとか服とか粉々になるかもしれないから。 普段は人の周囲には触れないように毒を撒くんだけど、今は出来るだけ毒を展開させたいし」


九重「そうか。そういうのはもっと早く言え」


 服などは植物による素材が混じっていた為無事だったが、弾丸型のイヤリングがいつの間にか崩壊している。風音から距離を取って、放出されている紫色の瘴気に触れない様に走る。

 九重が自分の服やズボンを触る。


九重「服は無事か。さっきお前の毒の性質を聞いたが、植物以外は壊れるんじゃないのか? 俺の服が部分的に崩れていかない理由は?」


 確か植物には風音自身が毒を拳で叩き込んだりしてねじ込まないと、腐らせる事が出来ないとか言っていた。

 九重の服もズボンも植物のみを加工して作られたものではない。なら普通に考えるなら、植物以外の部分が崩壊しそうなものだ。


風音「壊そうとする物質に少しでも植物が混じってたら自動的に触れずに遠ざかるようになってる。でないと僕の服がボロボロになるから。 おかげで九重さんが撃ってくるゴム弾は、僕に被弾するまで毒を弾くんだよ・・・これを機に天然由来のゴム弾使うのやめない?」


 軽口を叩きながら試しに九重の上着に向かって、紫色の瘴気の塊を投げつける。

 投げつけられた塊は上着に当たった様に見えたものの、何も壊さず跳ね返るように散った。


風音「けど服は大丈夫でも、アクセサリーとか服の装飾品とか・・・全く植物を利用してない付属品って多いから。そういうのは至近距離で毒に触れると、一瞬で崩れる事があるよ。あんまり近づかない方が無難かな」


 ・・・などと雑談に近い会話をしていると、ふと前方が気になる。


風音「なんだろう、この感じ」


 真っ暗な街並みを進んでいくにつれ、何か嫌な感じが押し寄せる。

 継ぐ者とはまた違う、気持ちが悪くなるような感覚。


九重「・・・おそらく死臭だ。まだほんのかすかだが無意識に嗅覚で感じたんだろう」


 九重はそう言うが風音はにおいと言うより、空気のよどみみたいなものを肌で感じたのだが。

 まぁだからと言って別に反論するような事でもない。違和感の根拠が淀みか臭いかなんてどうでもいい。


 死臭と聞いて前を走る風音が速度を上げる。

 この地域は野盗共のボスがいた地域だ。まさかリリィという人物はもう殺されているのだろうか。


風音(いや、逆か。おそらく・・・)


 と考えながら交差点を曲がると、やはりと言うべきか思った通りの光景がそこにはあった。


 切り刻まれた男の体が十数体分。

 広い交差点のあちこちに人の体の一部がバラバラに転がっている。

 そして辺りの地面は真っ黒に染まっている。暗くなければ真っ赤に見えるのだろうか。


風音(うっ・・・・・・)


 風音が思わず放出している毒と足を止める。

 惨殺された死体を大量に見る機会など今までなかったので、思わず目を細めてしまう。

 そんな現場に九重は躊躇なく近付き死体を調べ始める。


風音「よくやれるねそんなの・・・」


 スプラッター映画も顔負けの凄惨せいさんな現場に、近付くのも躊躇ためらう。


九重「検死は専門じゃないが、現場は慣れてるからな。全員刃物で殺されてるな。やったのはおそらくリリィだ。それと、こいつらまだ死んでそんなに経ってない。バラされてるせいで死体は冷え切ってるが衣服に付いた血は乾ききってない」


 ついさっきまでリリィが刃物を扱っていたという事だ。まだ発症していないか、もし発症していてもまだそんなに時間は経っていないか。


九重「それより、こんなに殺しちまうなんてな・・・」


 風音が無言でうなずく。


風音(本当に女性一人でやったのか・・・?)


 殺し方の残忍さに目をおおいたくなる。


九重「報告書の作成が面倒臭そうだな・・・。書かないと報酬が減らされるだろうし」


風音「あ、そっちの心配? 人が死んでる事に対してなんか無いの?」


 風音の考えとは方向性の違う事を言った九重に、少し呆れながら尋ねる。


九重「哀れだとは思う。 死んだこいつらも、あんなに若い女なのにこういう生き方を選んだリリィも。それだけだな」


 無表情で煙草の煙を吐き出す。いつの間に煙草を吸っていたのだろうか、と妙な所に風音が感心する。


風音「九重さんの事だから「別に・・・こんな奴等が死んでも特に感想は無いな・・・・・」とか言うと思ってたけど、そうでもないんだね」


九重「・・・俺をどういう人間だと思っているのか知らないが、こんな死に方をしてる奴等を見て何も感じない奴はただの異常者だ。 そろそろ行くぞ」


 煙草を携帯灰皿に突っ込み、ホテルの方に向かって走り出す。

 その後を付いていくように風音が毒を再び放ちながら走る。

 風音が少し毒を弱めて九重と並走しながら聞く。


風音「それよりさっきの九重さんの真似どうだった? 似てた?」


九重「あ? あぁ・・・どうだろうな。 骨伝導だか何だかで自分の声ってのは少し自分が思っているのと違うらしいからな。誰か別の奴に聞かせて評価して貰ったらどうだ?」


風音「あ、はい。真面目な回答どうも。いちいち考え方が堅い人だね」


 やれやれ、と首を振る。そんな風音を見て静かに言う。


九重「・・・無理するな。お前の歳であんな凄惨なものを見たらショックは大きかっただろ」


風音「えっ?」


 思わず息をのむ。


九重「無理して明るく振る舞うな。子供の内は悲しいものを見たら泣け。許せないものを見たら怒れ。本音を隠すな。でないと、いずれ空虚な大人になる」


風音「・・・・・・うん」


 思わずそう返事をした。

 飛び散った内臓。あたり一面の血。死人の絶望した表情。あらゆる悲惨な光景が暗がりの中ではっきりと見えた。山育ちで目が良い事をこれだけ呪った事は無い。


 ただ――――

 自分は本音を隠そうとしたのかな? と自問する。


 自分でも自分の感情が分からなかった、というのが正直な本音だ。

 何の感情も沸かなかったんじゃないだろうか。ただただショックで、思考が停止して胸が空っぽになった感じがして・・・ただそれだけ。

 言葉も出てこなかった。

 どういう感情だったのか自分でも分からない。


 ・・・とは思うものの。

 冗談っぽい事を言って普段の自分の様に振る舞おうとしたのは・・・やはり九重の指摘通り無理をしていたのかもしれない。

 そうなのだろうな。


 風音が笑顔を消す。


風音「でも・・・だからって、いつまでもへこんでても仕方ないしね。やる事やんなきゃ」


 いつになく真顔でそう言って、再び体の周りに毒を放出して九重の前を走る。


九重「最近のガキはしっかりしてんな・・・」


 九重なりに気を遣っているらしい。


風音(・・・・・・・・・・)


 ・・・でも。

 九重の方を振り向き、自分の中の沈滞ちんたいした空気を振り払うように叫ぶ。


風音「でしょ? 娘さんに紹介してみるのはどうですか、お義父さん?」


 銃声。

 背後から風音の肩に実弾が撃ち込まれる。肩に触れる前に毒で霧散むさんしたが。


風音「マジで実弾撃ったで・・・」


 軽く戦慄せんりつする。


九重「ちっ、本当に効かないな」


風音「舌打ちしたで・・・・・」


 でもやっぱり、前を向いて進むにはこういう風に冗談言って気をまぎらわせている方が、自分には合っているな。とも思う。

 風音がこの世で一番尊敬する人物、母親の藤御ふじみ優希ゆうきはどんな時でも笑顔で冗談を言っていて優しくて。

 ・・・それでいて誰よりも頼りになった。

 自分もそうありたい。


 馬鹿に付き合ってくれた九重に心の中で感謝し、前を向く。

 もう目的のホテルが目の前に迫っている。


 ホテルが近付くにつれ更に嫌な感じが増す。ホテルの中にはさっき以上の惨殺死体があるかもしれない。

 ホテルの目の前に到着し、上を見上げる。

 見た感じどの部屋も明かりは点いていないが、ロビーの明かりは点いている。

 ブラウニーは何も考えていなかったから電気を点けていたが、リリィはどうなのだろう? むしろ誘っているのだろうか。


 風音が口元を引き締め、ホテルのドアに手を掛ける。

 一体リリィとはどんな人物なのだろうか。

 もし発症していなければ突然襲われる可能性もある。


 警戒しながら一気にドアを開けると、一瞬何事も無いと錯覚さっかくしてしまうほどに綺麗なロビー。


 しかしその奥の、大きな階段の付近が。

 思わず目を覆いたくなるほどの・・・想像以上の血、血、血、血。


 ロビーは普通の綺麗なホテルに見えるだけに、余計に際立つ。

 先程とは違い、徹底的にバラバラに切り刻まれている。

 もうそこいらじゅうに肉片と血と、そして油だろうか? 黄色い塊が細かく多数こびりついている。

 階段までは数十メートルは離れているが、目の良い風音には細かい肉片まではっきりと見える。床だけでなく、壁にも天井にも手すりにも備品にも。


風音「うっ・・・」


 これはもう・・・趣味の領域だ。正当防衛で反撃したらこうなりました、には見えない。

 さっきの交差点での光景。あれが逆に予防になった。

 いきなり最初にこの光景から見ていたら、この場で吐いていたかもしれない。


 九重が後から入ってきてホテル内を見渡す。

 風音が横目で九重を見ると、風音とは違いこんな状況でも一見無表情に見える。先程の本人いわく、何も感じていない訳ではないらしいが。


 思わず口元を手で押さえた風音が目の端に違和感。

 さっきまで握っていた入り口の金属製のドアの取っ手が、強引に千切られている。


風音(何だ・・・・・・?)


 リリィが襲ってきたのかと思い、瞬時に戦闘態勢に入る。

 しかし周囲には九重以外誰も居ない。

 ・・・・・・・・・


風音「そうか、ここか!」


 力が勝手に溢れ出すこの感じ。

 ドアを開けた時、まるで抵抗なくドアの取っ手を引き千切ってしまったようだ。


風音「九重さん、根城ねじろに行く必要はなくなったかも。この辺ウイルスが蔓延してる」


九重「そうなのか? そりゃ幸運だな。そっちに関しては根城が本命だと思ってたが、救助と駆除が一気に出来るかもな。ウイルスを探すのはお前に任せる。俺はリリィを探す」


 言い終わると同時に、一階の客室に繋がるであろう通路に向かって走り出す。風音がその後ろ姿に向かって叫ぶ。


風音「もしかしたら相手が興奮状態かもしれないから気を付けて! 仕事仲間とか関係なく襲ってくるかもしれないから!」


 言われなくても分かっているだろうが、それでも叫ぶ。こんな凄惨な状況を作り出した人間に会いに行くのだ。仲間だと思って油断して近付いてはいけない。

 九重がチラッと風音の方に振り返り、また通路の方に向き直って走る。


風音(よっし。切り替えていこう)


 気合を入れ直す。自分の周囲に毒の展開し、範囲を広げていく。

 建物は毒で壊さないように注意する。これは建物の内部で毒を使う時は建物を崩壊させない為にいつもやっている事だが、今は力が入り過ぎてその制御すら難しい。

 目を閉じて集中する。

 入り口のドア付近で既にあれだけの力を得たという事は、この場全体にウイルスが蔓延しているのだろう。毒の範囲を広げるごとに、大量の力が体に蓄えられていくのが分かる。


 そして継ぐ者が常に自身の周囲にウイルスを発生させているなら、どこかにより多くのウイルスを検知できる場所があるだろう。

 ゆっくりとホテル全体に毒の範囲を広げていく・・・。


 ・・・・・・・・・・・・・


風音(・・・・・・ん?)


 居ない。

 というか、毒で退治するウイルスの数が減っていく。

 たっぷり十分くらいは探索してみたが、継ぐ者の周囲で生み出され続けている筈の新たなウイルスが出てこない。


 風音が携帯端末を取りだす。

 ウイルス、死体、増加、周囲、時間、拡散。

 適当に思いつくキーワードをいくつか打ち込む。

 検索結果を見ていると、九重が帰ってきた。


九重「リリィが居ないな。どこ行ったんだあいつは?」


 風音に結果を報告する。入れ違いになっていないかも尋ねてきたが、風音が首を横に振る。

 そして風音の方も残念な結果を報告する。


風音「僕の方もハズレだった。早とちりだったのかな? 今調べたけど、死体から周囲に飛び出して感染するタイプのウイルスも居るらしい。多分この辺に蔓延してたウイルスは、あの階段の死体から出て来たものだったのかも」


 継ぐ者がそういった行動をとるのかどうかは調べても出てこなかった。でもおそらく状況から見てそうなのだろう。

 死体から出て来たのでなければ、人を介して感染する筈のウイルスが無人のホテルの空気中にたくさん舞っていた理由が説明出来ない。

 もちろん近くにウイルスを生み出す継ぐ者本体が居る場合は例外だが。

 なんとなく天井を見上げながら尋ねる。


風音「一応確認しとくけど、上には誰も居なかった? リリィさんもでかいウイルスも?」


九重「ああ」


風音「地下は無い?」


九重「仕様を見る限りはな。所有者が個人的に作った地下施設を公表していない可能性は無くもないが…この現場を見る限りリリィがそんな所にこそこそ隠れる様な性格とは思えんし、ウイルスの方が地下に居ないのはお前の毒で分かるんじゃないのか?」


 地下に居るなら床から発生するのが分かるだろう、という事だ。


風音「うん。 じゃあやっぱりどっちもハズレなのかな?」


 リリィの方はともかく、ウイルスの方は直感的に居る様な気がしたのだが。

 その直感の根拠は何だったのだろう?


 直感と勘は違う。勘とはただの当てずっぽうの事だが、直感とは周囲の情報を無意識に脳が処理して、結果導き出される答えを「閃き」としてまとめ上げる力。いわゆる第六感というやつだ。

 勘なら捨て置けばいいが、直感には根拠がある筈だ。


 確か千切られたドアの取っ手を見た時に「ここに居る」と瞬時に思った。

 毒をまとった手で触れた訳でもないのに、金属で出来た取っ手を粘土のように簡単に引き千切ってしまっていた。風音本人すら気付かない内に。


 この事から大量のウイルスを毒で駆除し、無意識に力に変えていたのは明白だ。

 そして取っ手を破壊したのはドアを開けた時。

 その時はまだ風音はホテル内部に入っていなかった。

 という事は、ウイルスはドアの外に既に存在した?


 死体から出たという仮定が正しいのなら、ホテル内部にしか存在しないはずのウイルスを、ドアを開ける前に力に変えていたのはおかしい。という事が自分の中で引っ掛かった・・・のだろうか?


 だが、情報では継ぐ者はどんな物でも貫通するウイルスだ。まるで障害物をすり抜けるように移動し人に感染する。

 だったら何も不思議ではない?

 建物の壁を貫通して外に出ていただけか?

 その可能性もある。もしそうならこの場所はハズレだというだけの事。

 直感も無根拠ではなかったと、自分を納得させる事も出来る。


 しかし・・・階段の凄惨な現場に目をやる。

 細切れになった人間の破片が散乱している。何度見ても慣れない。吐き気がこみ上げてくる。


風音「ちょっと派手な事していいかな?」


 それを九重に聞くのも変だが、一応尋ねる。


九重「何かあるのか?」


風音「分からないけど、気になるから」


九重「・・・・・・」


 曖昧あいまいな風音の返事に、首を傾げながら煙草に火を点けた。

 一通り今、自分なりに考えていた事を説明してから続ける。


風音「・・・って事でハズレの可能性も高いんだけど、でも気になるって言うか。 そもそもウイルスって空気中ではそんなに増殖出来ないんじゃないかな? だから生物を利用する訳だし。数十メートルも離れた入り口に届くほど死体からウイルスが飛散するって事は、半径それだけの空間にまんべんなく大量のウイルスが放出されたって事になるんだけど・・・あの死体がある場所・・・・確かに酷い状態だけど、交差点の時と違って死体の山がある訳じゃないんだよ。 ・・・あの階段付近で細切れにされたのは多分一人・・・じゃないかな?」


 細かく刻まれた肉片は多数見たが、交差点の時とは違って沢山の死体を見た訳ではない。

 そこが気になる。

 もしこの付近に継ぐ者が居ないなら、たった一人の死体から広いロビー一杯にウイルスが飛び出し、更に入り口のドアや壁を貫通して外に出て来た事になる。


 風音はホテルの外で力加減を少し間違えただけで金属をじ切るほどの力を得た。

 それ程の力を得ようと思えば、一体半径何百メートルの無機物を毒で力に変換させないといけないのだろうか。自分の技だが、それほど広範囲で使用した事が無いので風音自身見当もつかない。

 ホテルの外に居たウイルスの数は相当なものだったんじゃないだろうか。

 そんなに増えるものか?

 空気中で大量に増加出来る機能があるなら、最初っから本体の出現場所の吟味ぎんみとか必要無いだろ。と思う。


九重「・・・・・・。 で、どうしたいんだ?」


 煙を吐き出しながら問う。


風音「取り敢えずホテル全部ぶっ壊して・・・」


九重「スケールでかいな・・・」


 風音が喋っている途中で思わず反応する。


九重「上は俺が見た感じ何もなかったんだから、ホテル全部壊す意味はないだろ?」


風音「継ぐ者本体が二メートルくらいの大きさなんだったら、部屋と部屋の間の隙間に潜んでるかもしれないし」


九重「いや無理だろ。ホテルだから防音材が詰まってるだろうし、隙間は二メートルも無い。もしこの建物付近に居るなら多分地下だ」


風音「地下?」


 思わず床を見た。ロビー全体の白いカーペットのような素材になっている床が目に入る。

 ふと顔を上げて九重の方を見る。


風音「その根拠は?」


九重「勘だ」


風音「勘?」


九重「勘」


 風音が哀れむような眼で九重を見る。


風音「根拠の無い勘なんて何の・・・」


 九重が煙草の煙を風音の顔に向かって吐き出す。


風音「・・・うわっ、何するんだよ」


 パタパタと煙を手で拡散する。


九重「うるさい。いちいち理屈っぽいんだよお前は。いいから調べろ」


 そう言われて、風音が渋々床に手を置く。

 毒の範囲を調節して、ロビーの床をゆっくりと腐らせていく。床の素材が天然由来の物らしく、朽ちらせるのに少し時間が掛かる。

 程なくして。

 音も無く風音達の足元が崩れる。足元がゆっくりと沈む感覚。


風音「あ、この感じは・・・まずいかも・・・・・」


 咄嗟とっさに九重の方に跳んで、肩と膝の裏側に手を差し出して抱える。


九重「っ! おいっ、離せ! 男に抱きつかれる趣味は無い!」


 結果お姫様抱っこ状態になっている九重が風音の腕の中で暴れるが、その抗議に風音が答える間もなく床が崩壊し、落下が始まる。


風音「落ちるからじっとしてて!」


 なんとかそれだけ叫んで、後は流れに身を任せる。落下するだけの時間は体感的には長く感じたが、実際には落下が始まってから時間にしてほんの数秒で着地した。

 風音が九重を解放する。


九重「これくらいの高さなら自分で着地出来る」


 解放するなり早速愚痴られる。高さにして三メートルくらい落ちてきたようだ。


風音「仕方ないでしょ。あの時点では落ちるのは分かったけど高さまで分からなかったんだから」


 適当に抗議を聞き流して周囲をぐるりと見回す。

 コンクリートのような素材で出来た壁が四方に見えるだけの立方体の空間。ドアなどは見当たらない。


九重「やっぱり地下があったのか」


 九重も周囲を見ながらそう呟く。

 風音が落ちてきた上の方を見る。


風音「床の素材の下に数十センチの土と・・・コンクリートみたいな素材の地下天井・・・が崩れたのかな」


 地下が見つかったのは結果的に幸運だったのかもしれないが、やはり力が溢れすぎて操作が難しい。

 本来なら床だけを腐らせて、その下に何か地下の存在を予想させるような建材などが見つかるかなと思っていたのだが、それどころかその下にあった土の層を貫通して更に地下の天井まで壊してしまった。


風音「しかし何だろうね、ここ。土の層の下にあるっておかしくない?」


九重「さあな。建築は専門外だ。 独自の耐震設備か建築過程での高さ合わせの為か、あるいはお前が壊しちまった天井に何らかの設備があったのなら貯水庫かもな。 少なくともここは地下ではあっても地下室ではないな。 このホテルを建築するにあたって人が何らかの理由で意図的に作った空間だが、人が部屋として利用する為に作られた空間じゃない」


 そう言いながら、ゴンゴンと周囲の壁を叩いて歩く。


風音「・・・うん。悔しいけど九重さんの勘が当たりだよ。この場所の近くに居る」


 風音が手の平を見ながら断言する。多分この近くに居る、という様な曖昧な言い方すらしない。


九重「根拠は?」


風音「自分の中に恐いくらい力を感じる。この空間にも大量のウイルスが居た。しかも上以上に濃く」


 理屈で考えていた自分が、たかが勘に負けてしまって悔しそうな表情を作る。

 それを見て九重がニヤリと嗤う。


九重「じゃあ勝負といこうか。今俺が背にしてる壁、この壁の向こうは空間にはなっていない。 おそらく地層だろうな。 逆に残りの三つは壁の向こうが空間になっている。 どういう施設なのかは分からないが、この場所と同じような空間があるんだろうな。どの方向に継ぐ者が居ると思う?」


 説明しながら三方の壁を指して風音に問う。

 風音が考え込む。

 意表を突いてその三つではなく地層の方に居るとかなら面白いが。

 継ぐ者本体は非常にもろいと書いてあったので、空間の無い地面の中に突如現れたりはしないだろう。

 なら三択だ。

 少し悩んでから答えを出す。


風音「うー・・・ん、と。多分そっち」


 風音から見て右側の壁を指さした。


九重「理由は?」


風音「僕が最初に大量のウイルスを駆除したのはホテルの入り口前だったから。そっちの方角が場所的に入口の真下に当たるし」


 入口方向、斜め上の天井を指で差しながら説明する。


九重「そうか。じゃあ俺はお前の後ろの壁の向こうにしようかな」


風音「理由は?」


九重「勘」


 その返答と同時に、風音が後ろの壁を裏拳で破壊する。毒で腐らせてもよかったが、力があり余っているのでこの辺で少し開放しておく。

 そして風音が後ろを振り返ると。


九重「俺の勝ちだな」


 またいつの間にか吸っていた煙草の煙を吐き出しながら言った。


 壁を壊した先には同じような空間があり、天井には何らかのくだが数本見える。やはり何かしらの意味がある空間だったようだ。

 ホテルのロビーの光が届きにくい角度なのでかなり薄暗いが、それでもその存在はハッキリと見える。


 風音の眼前には大きなクリスタルの様な物から、太い針金みたいなものが足のように八本生えた感じの物体がある。

 よく見ると動こうとしているのか足は少し動いているのだが、細すぎて足として機能していないのかその場から全く動けないでいる。


風音(これが・・・・・)


 間違いなく継ぐ者本体だ。情報通りの見た目をしている。

 再び悔しそうな、それでいて本命である継ぐ者が見つかった事による安堵や喜び、それらが混じった複雑な表情をした風音が、継ぐ者に近付きながら愚痴る。


風音「お前、こういう場合は普通入り口の下に居るだろ? セオリーとかルールとかさ? そういうの無視するのよくないよ? この場合、勘ごときに敗北したのは僕だけじゃないんだよ? お前も負けたんだよ? わかる?」


 語りかけながら毒の範囲を空間中に広げる。

 継ぐ者は身の危険を感じているのか、今までにないほどの大量のウイルスを発生させているようだが、出て来たそばから毒で破壊される。

 その数が尋常ではないので、風音の内に恐ろしいほどの力が蓄積されていく。


風音「こいつ・・・本体だけは遥かに生物に近いな・・・」


 改めて近くでじっくりと眺める。

 本来ならとっくに継ぐ者本体も毒で破壊されている筈なのだが、本体だけは壊れない。


 ウイルスとは元々生物と物質の中間くらいの存在だ。

 風音の毒は普段生物には効果が薄いので、体に入った菌を駆除する時は少し毒の濃度を濃くしないと駆除できない。それに対し、ウイルスは簡単に駆除できる。風音の中でもウイルスは生物というより物質に近いのだろう。

 しかし、継ぐ者本体だけは別物らしい。他のウイルスや菌に効く程度の濃度では駆除出来ない。


風音「まぁ、それならそれでぶん殴ったったら終わりだろ」


 いつ政府の攻撃が始まってもおかしくないので、急いで終わらせないといけない。今の所神楽から連絡はないのでまだ少し余裕はありそうだが、急ぐに越したことは無い。

 継ぐ者の前で風音が腕を振りかぶる。


  『少し   待て』


 辺りに声が響く。

 九重の声ではなかった気がしたが、他に誰も居ないので九重の方を振り返る。


九重「いや、俺じゃない。おそらく・・・そいつだ」


 九重が口元で煙草を指で挟んだまま、顎を継ぐ者の方に向かって少し動す。

 風音が継ぐ者の方を見て驚く。


風音「えっ? あんた喋れんの!?」


 充分奇怪な生物? なので姿を見た時もちょっと驚いたが、先に情報として知っていたのであまり驚きは表に出さなかった。

 しかし喋るという情報は無かったので、ビックリして思わず声を上げてしまう。


風音(そうか! 翻訳機のおかげか! 精神感応で言葉じゃなく思った事を相手に伝え・・・いや、ちょっと待てよ? 確か発した言葉を媒体ばいたいにして聞き取るのが翻訳機だ、とかノウンさんが言ってたっけ。 じゃあなんでコイツは言葉を発してないのに、翻訳機を通してこっちに伝える事が出来る? 音は出てるけどHzヘルツが違うのかな?)


 次々溢れる疑問の答えを探る間もなく、また声が聞こえる。


継ぐ者『少し  待て   』


風音「それはさっき聞いた。こっちも時間が無いから、残念だけどそれは聞けない」


 こっちからも語り掛ける。


継ぐ者『貴様の周囲の情報は  入ってこなかった  貴様が情報を破壊した  我の情報網を  乱した』


 よく分からない事を喋り出す。


継ぐ者『だが  他の情報ならば  我は  宇宙に存在する  情報の伝播 を  全て  知る』


 風音が九重の方を見て小声で会話する。


風音(どうするコレ? 聞く?)


九重(ああ。まだ神楽の方から連絡が無いから、時間に若干じゃっかんの余裕はある。俺は興味がある)


風音(正直僕も最後まで聞いてみたい)


 風音が再び継ぐ者の方を向く。


継ぐ者『この星は  滅ぶ  この星の人類は  この星の放棄を    選択 した』


風音「ちょっと待った。どういう事? あんたを倒せば滅びは収まるだろ。この星の人はそれを必死で頑張ってたはずだけど?」


継ぐ者『我は  偶然にも 最も欲していた者を発見し  そして  同時に 選択を  誤った 』


風音「会話が出来ないのか? 一方通行? あともうちょっと早く喋れない?」


 言いたい事だけ言う継ぐ者にイラッと来る。


継ぐ者『ここには  我が 最も求めた 人類が居た   もうすぐ  初めて 我を  独力で  乗り越える個体  ここに居た  雄の様な  雌』


九重「メス・・・リリィの事か? あいつアレを克服出来るのか・・・・・・」


 頭痛や全身の痛み、だるさと高熱。

 九重にして上半身を起き上がらせる事すら苦労したあの病気を、あんな若い女が乗り越えるのかと思うとゾッとする。

 というか、もうすぐ乗り越えるという言葉から、リリィが現在も発症しているという事に驚く。

 先程九重が単独で行動した時に階段付近にあった死体も調べたが、まだ殺されてそれほど長時間は経っていなかった。交差点にあった死体の山もそうだ。

 だとしたら、リリィは継ぐ者に感染し発症した状態であれだけの事をやってのけたのか。

 いや、むしろそんな状態だったからこそ気が立っていたのか。

 ・・・いずれにせよ化け物だ。

 九重は今日、今までの人生で見た中で一番強い女を見た。現在外で待機している神楽の事だ。

 もしかするとリリィはその神楽すら超えるかもしれない。


九重(厄介だな・・・宇宙人ってやつは・・・)


 今日何度目かになる感想を抱く。


継ぐ者『だが  如何いかな 人類でも  アレには  遠く及ばない   ようやく見つけた  我の因子が この星と共に   消える』


風音(こいつは何が言いたいんだ?)


 さっぱり理解出来ない。

 何故かこの星の滅びの元凶である継ぐ者が、まるで自分も被害者であるかのような立ち位置でこの星が滅ぶと思っているようだ。

 この星の滅びの原因は継ぐ者ではなく、他にあるという事だろうか?


風音「なあ、あんた最初に待てって言ったよな? だったらこっちに語り掛けたって事で間違いない? じゃあ聞くけど、何でこの星が滅ぶと思う?」


 駄目元だめもとで尋ねる。


継ぐ者『アレが  来る   全てより以前に   存在した  半 神  』


風音「会話出来るのか? アレって何? 詳しく」


継ぐ者『原初の  神 の 残骸ざんがい    神の  子孫に 成れなかった  者だ     星の子    この星の 権力を持つ者達は  今 少し 前に  その 存在の 接近に   気付いた  そして 星を  放棄した』


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