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9.病院にて

寒い季節という事は、朝日も顔をだすのが遅い。


「仕事だよ。怪しくないですよ…」


聞こえてないだろうけど、なんとなく呟いてみる。


その頃、私は歩いて25分くらいの職場で働いていた。勤務先は、病院の調理場。


病院は朝食があるので出勤時間が早い。朝の5時か5時半スタートになると必然的に近場の人間が早番の担当回数が増えるので私の出番は多かった。


人気のないトンネルを抜けると交番が右手にあり、そこには時間でお巡りさんがいるらしく、今まで数回不審な視線を浴びていた。


確かに寒いから深く帽子をかぶり、4時台に歩く姿は変かもしれない。


まだ直接声をかけられた事はないけれど、いつかあの明かりの部屋から出てくるのではと、別に悪い事をしていないのに少しビクビクしていた。


そして、1番の試練が始まる。

少ない街灯の道を抜け病院にたどり着き、鍵をドアの穴に差し込む。


調理場は地下にあり、ドアを開けても暗闇だけ。


私は耳につけているイヤホンをそのままに音に合わせ歌いながら、先に職員さんが食べる食堂の電気をつけていく。


耳からは大音量の音が恐らく漏れているだろうが、聞いている人なんていないので気にしない。


そうして地下が明かりで満たされ、休憩室にたどり着き、やっと少し安心するのだ。


「今日も何もなかった~。よかった」


イヤホンを外し、道の途中の自販機で買ったコーヒーをすする。そして一息ついたら、トイレに行き手を洗い着替えて、調理場へ。


いつもの手順をこなしているうちに、始発に乗って到着したメンバーも加わる。


慌ただしく過ぎていく、いつもの流れ。

…のはずだった。


「すみません」


あれ?

聞いた事がない声だな。


「すみません」

「はい!」


2台ある食事を入れて運ぶ電動の大きな配膳車のチェックをていた私は、やはり呼ばれていたのかと慌てて、ガラスの扉で繋がっている食堂に行った。


「あれ? いない」


確かに男の人の声だったし、配膳車が視界をさえぎっていたとはいえ、私がいた場所と食堂の距離は10歩くらいで、至近距離なのに。

帰ったにしても後ろ姿は見えるはず。


てっきり夜勤のお医者さんかと思ったんだけど。


私は、聞こえた方向から真逆にいる男性調理師さん二人に声をかけた。


「あの、今呼びました?」

「「呼んでない」」


そうなんだよね。

二人は、ベテランだし、私より年上で、普段「すみません」なんて私に声かけしない。


「あのー、今誰かに、男の人の声で食堂から呼ばれたんですけど」

「朝食にはまだ早すぎだし、この時間誰もこないよ」

「…ですよね」


そう。

こんな朝早くなんて誰も来たことがない。

でも、確かに、至近距離で食堂側から呼ばれた。


「でたんじゃないの~?」

「やめてくださいよ!」


その時は仕事中で忙しさもあり、そこで話は終わったが、休憩時間に先輩方が。


「あそこ、食堂の左側に部屋が変にあるだろ?」

「知ってます。変わってますよね」


何故かドアノブが不自然な場所にあるのは気がついていたし、施設側の管理栄養士が出入りしているので何かの資料があるのだろうと思う。


「あそこ、昔、霊安室だったらしいよ」

「えっ…」


古い建物なのであながち嘘ではないような気がした。


その数日後、休みが一緒になった母とリビングでその事を話せば。


「いやー中はわからないけど、行くまでの一本道と脇にある、上に行く場所最悪だよね」


勤務場所までの道は、通りから途中一本中に入るのだが、細い川が流れていて、そこは昼間でもとても暗い。母が言った「上に行くとこ」とは、木々で覆われた細い登り道がずっと続いており、多分何かの跡地だったのか、観光場所である。


私は、行ったことはないのでわからないが。


「あそこの病院場所も暗いけど。私、上がる、あそこは入れないわ~」


軽い口調の母だが、この拒否。

これは、よっぽどなレベルだ。


その言葉を聞いてから、出勤時の私の聴いているボリュームは更に大きくなり、辞めるまで早番は違う意味でとても苦行になったの言うまでもない。



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